肩腱板損傷・断裂と肩関節周囲炎(五十肩・凍結肩)|スポーツ整形外科|整形外科
肩腱板損傷・断裂と肩関節周囲炎(五十肩・凍結肩)
中壮年以降の肩関節の痛みや機能障害をきたすものとしては代表的なものとして肩関節周囲炎と肩腱板断裂があります。それぞれ痛みや引き起こす機能障害が違うため、本項では患者さんの多い肩腱板損傷と肩関節周囲炎について解説します。
肩関節周囲炎(五十肩)は誘因なく疼痛が発症し、その後に肩関節の動きが制限されます。どの方向にも自分で動かすことが難しくなり、人にあげてもらってもある程度以上は動かせないことが多いです。
一方肩腱板断裂では外傷によって起こる場合と、加齢により腱の変性が進み軽微な力で断裂する場合があります。症状としては典型的なものとしては肩を上げる途中での痛みを訴えることが多く、自分では挙上できないが人にあげてもらうと挙上できるという人が多いです。
肩関節周囲炎(五十肩)
五十肩という言葉の起源は江戸時代に「凡、人五十歳ばかりのとき、手腕、骨節の痛むことあり、ほど過ぎれば薬せずして癒ゆるものなり、俗にこれを五十腕とも五十肩ともいう」(但言集覧)と五十肩という言葉が使われています
五十肩は正式な病名ではないですが、「さしたる誘引がなく肩痛および肩関節可動域制限を来したもののうち、腱板断裂や石灰性腱炎以外のもの」とされ、狭い意味では五十肩を凍結肩(frozen shoulder)として本項では扱います。
五十肩(凍結肩)は外傷などの誘因がなく、肩の痛みが発生しその後に肩の動きが制限されます。X線像では異常がないことが多く、MRIでも腱板などの損傷がありません。一般的に炎症期,拘縮期,回復期という経過をたどります。炎症期は肩の痛み(安静時痛や夜間の痛みを伴うことが多い)と肩の動きの制限がある初期の病態で、この時期は局所の安静や消炎鎮痛処置(内服や外用薬、関節内注射など)を行います。拘縮期には痛みは軽減してきますが、肩の動きの制限が強くなります。回復期には肩の動きが改善していきますが、それまでに発症から2年ぐらいかかることもあります。
中には治療をしても肩の動きが改善しない患者さんがいるため、その場合には関節授動術(麻酔をかけて関節包を切開する手術)をすることもあります。当院では日帰りでできる非観血的関節受動術(サイレントマニピュレーション)も行っています。
凍結肩に対するサイレントマニピュレーション
凍結肩(癒着性関節包炎)は関節包が肥厚・癒着することで、高度な可動域制限をきたす障害です。保存治療での完全な可動域の回復は39%にしかみられず、発症後7年経過しても50%の人には痛みや可動域制限が残るとも言われています。3か月の適切な保存治療で改善しない患者さんに対して、外来診療で日帰りで施行できるサイレントマニピュレーションを行っています。年齢や病態、骨脆弱性(骨がもろい)など、サイレントマニピュレーションが行えない場合や、サイレントマニピュレーションを行っても改善しない場合には入院して全身麻酔下での手術(関節鏡で関節包を切離する手術)も行っております。
サイレントマニピュレーションの実際
- 外来でエコーを用いて頸部の神経にブロック注射を行います
- 麻酔の効果がでてくる15~30分後に非観血的関節授動術を行います。
- 半日程度は麻酔が効いて腕が動かせないので三角巾をつけて帰宅となります。
- 翌日から積極的にリハビリテーションを行います。
サイレントマニピュレーション後のリハビリが重要であり3か月程度は通院してリハビリテーションを行っていただきます。
サイレントマニピュレーションの適応になる患者さん
- 40歳~70歳ぐらいの方
- 3か月以上の保存治療で改善しない凍結肩の方
- 骨粗しょう症があっても軽度(骨折を起こすことがあるため)
- 糖尿病であれば治療しコントロールできている方
- 麻酔薬のアレルギーのない方
- 肩関節骨折の既往がない方
- 呼吸器の疾患がない方(麻酔により横隔神経麻痺になることがあるため)などですが、最終的には外来で相談の上で検討します。
肩腱板断裂
肩腱板とは、棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋からなり、肩関節を動かすために大きな役割を担っています。腱板断裂には外傷性と変性(加齢による)によるものがあります。しかし腱板断裂は必ずしも症状がでるわけではなく、何らかの誘因や腱板断裂の状態によって症候性になることがあります。症候性の腱板断裂の症状としては、断裂した腱板が引っかかる(インピンジメント)による痛みや、特に挙上の途中で痛くなる有痛孤徴候、断裂することによる関節周囲の炎症による痛みがあります。また、腱板機能が低下することにより肩関節の筋力低下や挙上障害などがあります。
治療としては初期の段階では炎症による痛みを改善するために局所の安静や消炎鎮痛処置(内服や外用薬、関節内注射など)を行います。炎症がおさまってきたら、肩関節のストレッチや筋力強化などの理学療法を行います。適切に治療が行われても症状が改善しない場合には手術療法を選択します。断裂した腱板を再度本来の付着部に縫い付ける腱板修復術を行います。
鏡視下腱板縫合術
腱板断裂の患者さんで修復が困難であったり、損傷して時間がたってしまっているなど腱板断裂性関節症まで進行した患者さんに対しては、リバース型人工肩関節置換術を行うこともあります。(人工肩関節についての項参照)