虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)|治療方法|循環器内科

1.狭心症とは

狭心症とは、動脈硬化などで心臓の血管(冠動脈)が狭くなり、心臓の筋肉に十分な酸素や栄養がいきわたらなくなる病気です。

①心臓の血管(冠動脈)

冠動脈は、心臓の筋肉(心筋)に酸素と栄養を送る血管で、大動脈の根元から分岐し、心臓の筋肉の外側を走行します。冠動脈は、右冠動脈と左冠動脈があり、左冠動脈は2本(左前下行枝と左回旋枝)に枝分かれします。

冠動脈が細くなると、心筋に供給される血液が不足します。冠動脈が閉塞すると、心筋に血流が届かず、心筋が壊死(細胞や組織が死んでしまう状態)します。

心臓の血管心臓の血管
(画像提供:トーアエイヨー株式会社)

②狭心症の症状

冠動脈に狭窄があると、運動や力仕事など心臓がより多くの血液を必要としている時に、十分な血液が届かなくなり、胸の痛みが出現します。

症状としては以下の3つの特徴があります。

  1. 胸の真ん中や左側の締め付けられる様な痛み、圧迫感
  2. 運動や精神的ストレスで症状が悪化
  3. 安静による5分以内の症状緩和

(日本循環器学会ガイドラインより改変)

痛みは、肩、左腕、のど、歯に広がることがあります。高齢の方や、糖尿病のある方は、典型的な症状が乏しいこともあります。

③狭心症の種類

労作性狭心症(ろうさせいきょうしんしょう)

運動したり、重いものを持ったときなど、身体的なストレスが加わったときに起こる狭心症です。動脈硬化などによって冠動脈が狭くなっているとき、運動時に増加した需要に見合う血流が心筋に十分に供給されません。心筋に血流が足りなくなり、胸痛発作が起きます。動脈硬化によって労作性狭心症を発症します。

冠攣縮性狭心症(かんれんしゅくせいきょうしんしょう)

冠動脈がけいれん性に収縮(攣縮)したために起こる狭心症です。攣縮は運動とは無関係に起るために、安静時に症状がでることが多いです。寒いとき、季節の変わり目、夜間や朝方、ストレスを感じたときに症状が出やすいと言われています。発作が起こっているときに検査しない限り異常が診断できないために、発作が起ったときの心電図や心エコー、もしくは24時間ホルター心電図、カテーテル検査(アセチルコリン負荷試験)などが必要となってきます。

2.心筋梗塞とは

冠動脈に生じたプラーク(血管の内壁に悪玉コレステロールや様々な細胞が蓄積したもの )が破裂し、その部分に血栓が形成されると、冠動脈が閉塞してしまいます。突然、心臓を栄養する血液が途絶することにより、心臓の筋肉が壊死してしまった状態を心筋梗塞と言います。

以前は、狭心症から心筋梗塞へ段階的に進行していくと考えられていました。しかし、現在では、軽度の動脈硬化から突然心筋梗塞を発症することもあると分かっています。

プラーク

プラークプラーク
(画像提供:トーアエイヨー株式会社)

血管の内壁に悪玉コレステロールや様々な細胞が蓄積すると、血管が狭くなり血流が低下します。

狭心症と心筋梗塞

狭心症と心筋梗塞狭心症と心筋梗塞
(画像提供:トーアエイヨー株式会社)

3.労作性狭心症・心筋梗塞を起こしやすい方

動脈硬化を促進する因子として、高血圧、脂質異常症、糖尿病、慢性腎不全、喫煙、肥満などが知られています。これらの危険因子を抱えていると、狭心症や心筋梗塞を起こしやすいと言われています。

冠動脈疾患

4.狭心症・心筋梗塞の検査

①心臓超音波検査

心臓超音波検査では、心臓の形、大きさ、弁の機能などを評価します。虚血(狭心症・心筋梗塞)がある方は、心臓の壁の動きに異常がみられることがあります。

心臓超音波検査心臓超音波検査

②運動負荷心電図(トレッドミル検査、マスター負荷心電図)

狭心症では、症状が無い時の心電図に異常が出ないことがあります。運動を行い心臓に負荷をかけた時の、心電図変化をみることで、狭心症らしいかを判定します。また、運動耐容能(どこまで運動できるか)も評価します。

電動式のベルトコンベアー(ランニングマシーン)の上で歩行やジョギングを行う「トレッドミル検査」と、階段昇降で負荷をかける「マスター負荷心電図」の2種類があります。

心臓超音波検査

③冠動脈CT

造影剤を注射し、心電図と同期させながらCTを撮像することで、冠動脈の走行・狭窄度、石灰化の有無などを評価することができる検査です。冠動脈CTの強みは、高い陰性適中率(どれだけ病気でないことを正しく判定出来るか)です。つまり、冠動脈CTで異常を認めなければ、冠動脈疾患(労作性狭心症)が無いと判断できます。ただし、不整脈の方、脈が速い方、冠動脈の石灰化が強い方は評価が難しいことがあります。

心臓カテーテル検査と比べて体への負担が少なく、外来で行うことが出来ます。

リードレスペースメーカーリードレスペースメーカー
(画像提供:トーアエイヨー株式会社)

④心臓核医学検査(心筋シンチグラム)

静脈に微量の放射性医薬品(放射性物質で標識した薬剤)を注射し、放出される放射線を撮影して、心筋の血流やエネルギー代謝などを評価する検査です。

心筋への血液供給が充分であるかを判断するためには、負荷をかける必要があり、「運動」または「薬剤」で負荷をかけます。運動の場合はトレッドミル検査(上記)を行います。どちらが良いかは患者さんの状態により医師が判断しますが、検査当日に患者さんの状態に応じて変更することもあります(例;腰痛のため運動できない場合、薬剤負荷への変更など)。

心臓核医学検査(心筋シンチグラム)心臓核医学検査(心筋シンチグラム)
(画像提供:トーアエイヨー株式会社)

⑤心臓カテーテル検査

カテーテルという柔らかくて細い管を、局所麻酔下で手首、肘、足の付け根の血管を通して心臓(冠動脈の入口部)まで挿入します。造影剤を流し、X線撮影を行うことにより、冠動脈の状態(狭窄や閉塞)を調べます。加えて、冠動脈の狭窄が機能的な虚血(血流低下)の原因になっているかどうかを調べるために、FFRという検査を追加することがあります。また、冠攣縮性狭心症の診断のための、アセチルコリンという薬剤を冠動脈に注入して冠動脈の痙攣を誘発する検査や、心臓(左心室)内にカテーテルを挿入し、造影剤を流しX線撮影を行うことにより、心臓の収縮や形態を調べる検査も行うことがあります。

また、右心室カテーテルを挿入することで、心臓の内圧測定や心拍出量を求めることで、心臓の機能的な異常が無いかを精密に調べることができます。

カテーテル検査の検査時間は30分から1時間程度です。検査後、手首や肘からカテーテルを挿入した場合は、安静は不要です。足の付け根からカテーテルを挿入した場合は、検査後約4時間の安静が必要となります。標準的な入院期間は、カテーテル検査のみの方は、2泊3日です。

冠動脈造影検査の画像

冠動脈造影検査の画像冠動脈造影検査の画像
(画像提供:トーアエイヨー株式会社)

当院のカテーテル室

当院のカテーテル室当院のカテーテル室

実際の検査・治療の様子

実際の検査・治療の様子実際の検査・治療の様子

モニターの透視画像を見ながら検査・治療を行います。カテーテル室では、医師、看護師、臨床工学技士、放射線技師が協力して検査・治療を行います。

カテーテルの流れ

カテーテル検査・手術を受けられる方へ

カテーテル室入室後の流れ

5.治療

①薬物治療

抗血小板薬、硝酸薬、ベータ遮断薬、カルシウム拮抗薬、アンギオテンシン変換酵素阻害薬、利尿薬などが用いられます。患者様の症状によっては、診断が確定する前(検査中)から内服を開始することもあります。また、カテーテル治療を行った後も、しっかりとした内服治療を行うことが重要です。

②心臓カテーテル治療

手首、肘、足の付け根の血管から局所麻酔下でカテーテルを挿入し、冠動脈病変の治療を行います。 カテーテルを冠動脈の入口部まで進め、カテーテルの先よりガイドワイヤー(細く柔らかい針金)を冠動脈内の狭窄部・閉塞部に通過させます。ガイドワイヤーに様々な血管内治療用デバイスを乗せて、冠動脈内の治療を行います。

冠動脈内の狭窄または閉塞部は、バルーンでの拡張(風船治療)や血管内ステント(金属上の金網)を植え込むことによって、狭窄を解除して冠動脈内の血流を改善させます。ステントの表面に動脈硬化の再発予防薬を塗布してある、薬剤溶出性ステントを使用します。薬剤溶出性ステントは良好な治療成績を得ていますが、ステント留置後に比較的長期に抗血小板薬を内服する必要があります。

標準的な手術時間は1-2時間ですが、手術の内容次第で長くなることもあります。検査後、手首や肘からカテーテルを挿入した場合は、安静は不要です。足の付け根からカテーテルを挿入した場合は、検査後約6時間の安静が必要となります。標準的な入院期間は、3泊4日です。

バルーン治療

バルーン治療(画像提供:トーアエイヨー株式会社)

ステント治療

ステント治療(画像提供:トーアエイヨー株式会社)

ステント内再狭窄(ステント内部が時間の経過とともに狭窄すること)に対しては、バルーンの表面に動脈硬化の再発予防薬を塗布してある、薬剤溶出性バルーンを使用することもあります。

ロータブレーター

  • ロータブレーターロータブレーター
  • 一部の狭窄病変は、動脈硬化が進行し石灰化により非常に固くなっていることがあります。そのような病変は通常の風船治療やステント治療では不十分な場合があり、硬い石灰化部分を削るロータブレーターが必要となります。

    ロータブレーターは、バー(burr)と呼ばれるドリルの先端にミクロダイヤモンドが埋め込まれています。このburrを1分間に14~19万回転で高速回転させることによって、冠動脈内の硬い動脈硬化病変を削ります。

動画提供:ボストン・サイエンティフィック ジャパン株式会社

ダイヤモンドバック

ロータブレーターと同様、動脈硬化が進行した石灰化病変で使用します。先端にダイヤモンドでコーティングされたクラウンと呼ばれる部分があり、遠心力で軌道回転させることで、石灰化病変を大きく削ることができます。病変に応じてロータブレーターとの使い分けを行っています。

ダイヤモンドバック(画像提供:トーアエイヨー株式会社)

動画提供:メディキット株式会社

心臓バイパス手術

冠動脈に複数の狭窄がある場合、カテーテル治療が困難な場合などに心臓バイパス手術という外科手術を行うことがあります。

狭くなった冠動脈に、自分の動脈や静脈を使用して迂回路を作り、狭窄部位よりも末梢の血流を改善させる手術になります。当院では、低侵襲の手術方法も積極的に行っております。詳しくは心臓外科のページをご参照ください。

心臓バイパス手術(画像提供:トーアエイヨー株式会社)

6.当院のカテーテル治療の特色

~より侵襲の少ない治療を目指して(遠位橈骨動脈からのカテーテル治療)~

  • 橈骨動脈および遠位橈骨動脈からの穿刺
  • カテーテル検査・治療は、手首、肘、足の付け根の血管から行います。当初は足の付け根の動脈である大腿動脈から治療されていましたが、時代の経過に伴って治療の道具が進歩しカテーテルの細径化に成功し、橈骨動脈という手首にある動脈からの検査が可能となりました。

  • 当院における穿刺部位の内訳当院における穿刺部位の内訳
  • 当院では、より細いカテーテルを用いることが患者さんの負担を減らすことにつながるという信念のもと、2012年の開院当初より緊急医療においても橈骨動脈からの検査・治療を第一選択としてきました。2017年11月からは親指の付け根にある遠位橈骨動脈という更に細い動脈からの検査・治療を行っています(写真1)。 当院において遠位橈骨動脈からの検査・治療が行われるようになってからの穿刺部位の内訳は以下のようになっています。橈骨動脈および遠位橈骨動脈からの穿刺が90%を超えており、この数字は患者様にとってより侵襲の少ない医療を提供している現れだと思っています。