ペースメーカー|治療方法|循環器内科
心臓ペースメーカー治療について
ペースメーカー治療は、心拍が遅くなるタイプの不整脈に対する唯一の確立した治療法です。まずは、心拍の成り立ちと心拍の遅くなるタイプの不整脈について説明します。
-
心臓は右心房の洞結節という場所で発生する電気信号が心臓全体に伝わることにより、自律的な収縮を繰り返し全身の血液を循環させています(図1)。電気信号は、心臓の筋肉を収縮させるための合図です。心臓が血液を循環させるポンプ活動の主力は心室です。
心収縮(心拍)は通常1秒に1回(毎分60回)の速さで繰り返し、自律神経の調節により速くなったり遅くなったりします。洞結節で発生した電気活動は心房と心室の接合部にある房室結節・ヒス束を通って心室に伝わります。
心収縮により心室内の血液が動脈に送り出されると全身の動脈が振動します。この動脈の振動を触れた際の拍動を脈といい、1分間に拍動する回数を脈拍(数)といいます(通常、脈拍は心拍数に一致します)。脈拍が異常に遅くなったり、脈拍の間隔が異常に長くなったりする状態を徐脈といいます。
一般に脈拍が毎分50未満となった場合を徐脈といいます。徐脈の原因としては、1)洞結節から電気信号が発生しにくくなる、2)電気信号が心房から心室に伝わりにくくなる、の2つの場合が考えられます。前者を洞不全といい、後者を房室ブロックといいます。これらを徐脈性不整脈といいます。
-
徐脈の症状としては、易疲労感、息切れ、めまい、失神などがあります。症状の原因が徐脈によるものかどうかを診断することは必ずしも容易ではありません。一般に、症状が出ることを想定して長時間の心電図を記録し(24時間心電図波形を連続記録するホルター心電図など)、記録中に出た症状に一致して洞不全や房室ブロックの心電図所見が確認されれば、その患者さんの訴える症状は徐脈によるものだろうと診断します。
図2は、ときどきふらっと気が遠くなるような症状がみられ、先日は自宅でふらっとした後に気を失って倒れてしまった、との訴えで受診された患者さんのホルター心電図記録です。ふらっとするような症状が出た時刻に一致して洞不全により心臓が7秒間止まっている様子が記録されました。徐脈により日常生活に支障を来すような症状がある場合や、徐脈により心不全を来たした場合、失神が起きた場合などにペースメーカー治療は有効です。
ペースメーカー治療
対象となる患者さん
- 心拍数が少ない不整脈(洞不全もしくは房室ブロック)のために、体の不調(労作時息切れ、めまい感、失神など)が出現している場合が対象です。
- ペースメーカーが必要になる方の多くは高齢者です。ですので、ペースメーカー手術は、高齢の方にも安全に行うことができます。年齢だけが理由で、ペースメーカー手術が困難と判断されるケースは非常にまれです。
ペースメーカーについて
- ペースメーカーは、本体(電池)とリード(電線)で構成されています。患者さんの病気により、リードは1本もしくは2本となります。
- 電池は8-10年程度で消耗するため、時期がきたら本体交換を行います。
- 電池の寿命は、ペースメーカー外来で最低一年に1回チェックします。
ペースメーカー植え込みの手順
- 前胸部を5㎝ほど切開して、脂肪層と筋肉層の間にペースメーカー本体が収納できるスペース(ポケット)を作成します。
- リード(電線)の一端をポケット内から体内の太い血管(鎖骨下静脈)に挿入します。
- 血管に挿入されたリードの一端を、心臓内まで進めます。2本のリードのうち1本は右心室、もう1本は右心房に固定します。
- 心臓に固定していないリードの一端は本体に取り付けます。
- 本体をポケットに挿入して、脂肪層と皮膚を縫合して植え込み術は終了となります。
手術時間は2時間程度です。全身麻酔ではなく、声をかければ応答できる程度の鎮静で手術を行います。心臓そのものを切ったり縫ったりすることはありません。
手術中や手術後に合併症が発生するケースがありますが、致死的事故は0.1%以下です。ほとんどの場合、追加の処置や入院期間の延長で対応可能です。
手術時の合併症は約2%に生じ、ポケット腫脹(血腫)、リード位置移動、気胸、感染などがあります。手術数年後の慢性期に、ポケット感染、ポケット部皮膚圧迫壊死、リード断線など生じることがあります。
ペースメーカー入院の流れ
1日目 | 外来受診時に状態が不安定なケースでは、当日に緊急入院となります。緊急性が高くないケースでは入院日を決定し予定入院となります。 |
---|---|
2日目 | ペースメーカー植え込み術を施行します。 |
3日目 | ご本人の様子と採血・レントゲン・心電図のチェックを行い、合併症が発生していないかどうか確認を行います。 |
4-5日目 | 順調であれば退院となります。 |
7-9日目 | 外来にて創部のチェック(抜鉤)を行います。 |
新しいペースメーカー(リードレスペースメーカー)
- リードレスペースメーカーは、2017年より日本で使用できるようになった比較的新しいタイプのペースメーカーです。リード(電線)がなく本体を心臓内に留置します。
- 本体の大きさは、経口服用するカプセル剤とほぼ同じ大きさであり、とても小さいものとなります。
- 従来型のペースメーカーと同様に、声をかければ応答できる程度の鎮静で手術を行います。
- リードレスペースメーカーは、専用の植え込みシステムを足の付け根の血管(大腿静脈)から挿入し、右心室に植え込みます。本体を右心室に植え込んだ後には、本体を植え込みシステムから切り離します。植え込みシステムを体外に抜去して終了となります。リードレスペースメーカーの植え込み術では皮膚の切開・縫合を行いません。
- 従来型のペースメーカーで手術の数年~10数年後に生じることがある、ポケット部の感染や皮膚圧迫壊死、リード断線が発生しないことが最大のメリットとなります。術時間(1~1.5時間)も短く、患者さんの負担が少ないこともメリットですが、一度、植え込んだ本体を回収することが困難であり、電池消耗のために本体を交換することができないことが最大のデメリットとなります。
- 房室ブロック(徐脈性心房細動)の患者さんが対象ですが、場合によっては洞不全症候群の患者さんも対象となります。
- 手術時の合併症は約3%で、発生が多いものは、植え込みシステム挿入部血管損傷・出血、心臓穿孔、ペースメーカー本体移動があります。
両心室ペースメーカー(心臓再同期療法)(CRT)の対象となる患者さん
対象となる患者さん
脚ブロックを有する心不全の患者さんが対象になる治療法です。
脚ブロックとは
心房から心室へと電気信号が伝わる道として、右脚と左脚があります。そのどちらかの道が、何らかの原因により障害を受けた状態が脚ブロックです。原因としては、心筋症や心筋梗塞、特発性(原因不明)などが挙げられます。心臓は4つの部屋に分かれていますが、大動脈に血液を送り出す部屋が左心室です。右脚は左心室の内側の筋肉(心筋)、左脚は左心室の外側の心筋への電気信号の通り道です。健常な状態の場合、右脚と左脚を電気信号が同時に伝わり、左心室の内側と外側の心筋が同時に収縮します。しかし、脚ブロックの場合は、左心室の内側と外側の心筋の収縮するタイミングにずれが生じます。その結果、左心室が拍出する血液量が減少し、血液の循環が悪化します。
両心室ペースメーカーとは
両心室ペースメーカーでは右心室の内側と左心室の外側にそれぞれリードを固定し、右心室の内側と左心室の外側とに同時にペースメーカーから電気刺激を送る治療です。脚ブロックにより左心室の内側と外側の収縮のタイミングがずれている患者さんでは、両心室ペースメーカーにより収縮タイミングのずれが補正され、左心室の収縮が効率的になり、左心室が拍出する血液量が増加し、心不全が改善します。手術を受けた患者さんの約70%に、治療効果をみとめます。
両心室ペースメーカーの植え込み手順
-
通常のペースメーカー植え込みと基本的に同様ですが、リードが1本多く(左心室の外側)なる点のみが異なります。右心室にリード固定した後に続いて、左心室の外側にリードを固定します。
手術時間は2.5~3時間。手術時の合併症は約2%に生じ、ポケット腫脹(血腫)、リード位置移動、気胸、感染などがあります。手術数年後の慢性期に、ポケット感染、ポケット部皮膚圧迫壊死、リード断線など生じることがあります。
植込み型除細動器(ICD)
対象となる患者さん
突然死をきたしうる頻脈性不整脈(心室細動、心室頻拍)を有する患者さん、もしくは頻脈性不整脈による突然死の危険性が高い患者さんが対象です。
心筋梗塞や心筋症により高度に心室の収縮力が低下している患者さんでは、心室細動や心室頻拍が生じやすく、突然死の危険性が高いことから、ICD治療が勧められることがあります。
突然死をきたしうる頻脈性不整脈とは
心室細動や心室頻拍という不整脈では、心拍数が異常に上昇することにより、心臓は収縮する時間も拡張する時間も短くなるため、血液を吸い込む量も、送り出す量も減少します。その結果、血液の循環が悪化し、最終的には死に至ることがあります。
心室細動や心室頻拍は、頻拍が開始してから数分で死亡に至るため(突然死)、発症したら直ちに頻拍を止めなければなりません。このような頻拍に対して最も効果的な治療が、電気ショック(除細動)になります。街中で見かけるAEDは電気ショックを行うための機器で、街中で心室頻拍や心室細動により失神し、突然死しそうな人を救命するためのものです。
植え込み型除細動器(ICD)について
-
- 心室頻拍もしくは心室細動による突然死予防の治療機器になります。
- ICDが常に心電図を記録し、心室頻拍や心室細動が出現した場合には、機械が自動的に診断し治療を開始します。
- 従来型のペースメーカーと同じ前胸部の皮下に本体が植え込まれます。リードを右心室に留置し、リードと本体との間で心臓を挟みこんで電気ショックがかかるようになっています。
- 電気ショック機能だけでなく、ペースメーカー機能も付いています。
植え込み型除細動器の植え込み手順
- 通常のペースメーカー植え込みと基本的に同様ですが、本体のサイズがペースメーカーと比較すると大きくなります。
- 手術時間は2時間程度。手術時の合併症は約2%に生じ、ポケット腫脹(血腫)、リード位置移動、気胸、感染などがあります。手術数年後の慢性期に、ポケット感染、ポケット部皮膚圧迫壊死、リード断線など生じることがあります。
皮下植込み型除細動器(S-ICD)
2016年より使用されるようになった新しいタイプの植え込み型除細動器です。
従来型の植込み型除細動器は、リードが心臓内に生涯留置されることとなります。長期にわたってリードが使用し続けられると、リードが断線して使用できなくなってしまう場合があります。しかしながら、新しいリードを追加するにも、血管内に十分な隙間がないために、新しいリードを追加することができないケースも多々あります。その場合、長期にわたり留置されたリードを体外に抜去することが必要となりますが、長期間留置されたリードは血管に癒着してしまい、リードを体外に抜去することは簡単なことではありません。
そのような問題点を解決するために開発されたのが、皮下植込み型除細動器(S-ICD)となります。本体だけでなくリードも皮下に植え込まれるため、必要であれば容易に抜去できることがメリットです。
長期間にわたる除細動器留置となる若年の患者さんなどでは恩恵が大きい医療機器ですが、皮下植込み型除細動器よりも従来型の植込み型除細動器の方が適している病気もありますので、患者さん毎にどちらの機器が望ましいのか担当医から説明させていただきます。
手術は全身麻酔で行われます。手術時間は約2時間です。手術時の合併症は1~2%で、出血、感染などです。
ペースメーカー・ICD・CRT患者さんのMRI検査
ペースメーカーは金属製であるため、ペースメーカーを植え込んだ患者さんは磁気を使用するMRI検査を受けられませんでした。しかし、2012年10月からMRI対応型のペースメーカーが使用できるようになり、このMRI対応型のペースメーカーが植え込まれた患者さんは条件付き(ペースメーカーの状態の確認や設定の変更が必要となります)でMRI検査を受けられます。MRI対応型ペースメーカーを植え込んだ患者さんに対するMRI検査は、施設基準を満たし認定を受けた病院でのみ施行可能となります。また、MRI検査を行う際には、ペースメーカー手帳とMRI対応のペースメーカーであることを証明するカードの提示が必須となります。
遠隔モニタリング
遠隔モニタリングシステムとは、患者さんのお宅に専用の中継機器を設置し、ペースメーカー・ICD・CRTの情報(電池残量・作動環境・不整脈の発生状況など)が中継機器を介して、自動的にご自宅から病院へ送信されます。患者さんが気付かないうちに突然に危険な不整脈が出現したり、ペースメーカーのリードが断線したりした場合に、迅速に医師が知ることができます。直ちに検査や入院した方が良い場合には、病院より電話でご連絡します。当院ではこの遠隔モニタリングを積極的に導入し診療に役立てています(図8)。