広報紙 vol.86しんゆりニュースレター

2025/8/1掲載

血液内科特集

血液内科特集|広報紙

大学病院レベルを超える“血液疾患治療”を、地域で!

  • 新百合ヶ丘総合病院
    血液内科 部長
    たうち てつぞう
    田内 哲三 医師
  • 【プロフィール】
    1986年東京医科大学医学部医学科卒業。東京医科大学内科学第一講座入局。92年米国インディアナ大学へ留学。95年東京医科大学助手として内科学第一講座勤務。2001年東京医科大学講師として内科学第一講座勤務。08年東京医科大学准教授として血液内科学分野勤務。19年4月より現職。
    日本血液学会専門医及び指導医(第121487号)/日本内科学会指導医/日本内科学会認定医(第3080号)/日本血液学会評議員/厚生労働省臨床研修指導医/医学博士
  • 当科のモットーは、「医は仁術なり」です。患者さんとそのご家族の皆様が満足する医療環境をつくり、病気を的確に治す。病に苦しむ人やそのご家族が、元の生活に戻ることを目指す医療を提供することです。「高い知識」と「高い技術」を自己研鑽することによって、患者さんやご家族の期待に応えることが、私たちの責務と思っております。

    血液内科で扱う疾患の大多数は、いわゆる難病や造血器腫瘍であり、その診断・治療には専門的な知識と経験が必要とされます。当科は、日本血液学会血液専門医常勤3名、非常勤2名が在籍する日本血液学会認定血液研修施設であり、毎日の血液専門外来では常時30~50名の外来患者さんの診察を行っており、大学病院レベルを超える“血液疾患治療”を、地域で提供できると自負しております。

    当科では、これまで治療が難しいとされてきた急性骨髄性白血病(AML)の高齢者や、体力的に強力な抗がん剤が適応とならない患者さんに対し、ベネトクラクス+アザシチジン療法に独自の改良を加えることで、95%という非常に高い完全寛解率を達成することに成功しました。

  • さらに、全生存期間(Overall Survival)も、これまでの国内外の臨床試験データを上回る結果を示しております。この治療成績の詳細は、第87回日本血液学会学術集会(JSH2025)にて正式に発表されます。他院からのご紹介やセカンドオピニオンも随時受付中です。緊急の場合は、予約なしでも血液内科での診察が可能ですので、お気軽にご相談ください。

    当科では、令和4年4月より日赤医療センター骨髄腫アミロイドーシスセンター顧問の鈴木憲史医師による骨髄腫専門外来を行っております。鈴木憲史医師は国内随一の骨髄腫治療エキスパートであり、最先端の治療を受けることが可能です。新しい治療法として、従来の65歳以下の自家骨髄移植可能な患者さんに対しても、分子標的薬及び免疫調整薬を組み合わせることにより、薬物療法のみで完治を目指す取り組みを実施しております。当科では国内随一の骨髄腫治療エキスパートの診療が、事前予約なしでも受診可能な体制をとっております。

【目次】

急性骨髄性白血病の治療

高齢者でも、外来で白血病治療を

急性骨髄性白血病(AML)は、「血液のがん」の一種です。骨髄で異常な血液細胞(白血病細胞)が増え、正常な血液を作る力が失われていく、命にかかわる重い病気です。近年、若年者では抗がん剤と造血幹細胞移植の進歩により、多くの患者さんが長期寛解を得られるようになってきました。

  • 高齢者AMLの治療アルゴリズム
    【引用】造血器腫瘍診療ガイドライン
  • しかし一方で、65歳以上の高齢者は、心臓・肺・腎臓などに持病を抱えていたり、体力の低下がみられることも多く、従来のような「強い抗がん剤治療」が難しいのが現実です。当院では、2021年に国内で承認された新しい治療法「ベネトクラクス+アザシチジン療法」を、いち早く導入。体への負担が少ないにもかかわらず、極めて高い効果を発揮するこの治療法は、これまで治療を諦めていた高齢の患者さんにも、新たな希望をもたらしています。

当院での工夫と成果

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    1. 独自の工夫を加えた治療法により、非常に高い寛解率(完全寛解95%)を達成
    2. 多くの方が長期生存を実現
    3. 治療初期に効果が現れやすく、1~2サイクルで外来治療に移行可能
    4. 通院中心の治療のため、住み慣れた自宅で療養しながら白血病と向き合える
      →ご本人・ご家族のQOL(生活の質)の大幅な改善につながっています

遺伝子変異を見つけ、治療を最適化

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  • 当科では、白血病のタイプに応じて治療を最適化するため、IDH1変異の検査を院内で実施可能です。最近、米国で先行使用されていたアザシチジン+IDH1阻害剤(イボシデニブ)の併用療法も、ようやく国内で実施可能となり、当院でも導入を開始しました。

このような遺伝子に基づいた個別化治療も積極的に展開しており、さらなる治療成績の向上を目指しています。

多発性骨髄腫の治療

“治らない病気”から、“治癒を目指せる時代”へ

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  • 多発性骨髄腫(Multiple Myeloma)は、形質細胞という免疫をつかさどる血液細胞ががん化して増殖する病気です。患者さんは高齢者に多く、女性よりも男性に多い傾向があります。血液細胞を作り出す工場のような役割をしているのが「骨髄」ですが、骨髄で形質細胞ばかりを作るので、他の細胞(赤血球、血小板、形質細胞以外の白血球)が作られなくなり、様々な症状(貧血、倦怠感、息切れ、紫の痣、浮腫み等)が起こってきます。

また、増えすぎた免疫グロブリンは、一種類のみなのでMonoclonal protein(M蛋白)と呼ばれます。M蛋白が血液の中に増えすぎると、血液がドロドロの状態になったり、腎臓に沈着して「骨髄腫腎」と呼ばれる腎障害を起こしたりします。骨髄の中で固まり(腫瘍)を作ってくると、溶骨性変化といって、骨が弱くなり、ささいな力で折れやすくなります。

かつては「治癒が望めない病」といわれていた多発性骨髄腫ですが、新薬の登場と治療戦略の進歩により、今では「完全寛解(sCR)」や「薬剤中止=治癒を目指せる状態」を目指す時代に入りました。当院では、病気の進行や患者さんの体調に応じて最適な療法を個別に設計し、多剤併用療法を行っています。

寛解導入療法:最先端の4剤併用

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  • 患者さんの病状に応じて、以下いずれかの組み合わせで治療を開始します。

    1. ダラツムマブ + ボルテゾミブ + レナリドミド + デキサメタゾン
    2. イサツキシマブ + ボルテゾミブ + レナリドミド + デキサメタゾン

さらに、腎機能や他の臓器障害に応じて薬剤を入れ替えながら、無理なく最大の効果が得られる治療設計を心がけています。

治療開始から1~2年で完全寛解に至らなかった場合でも、二重特異性抗体を用いた治療(バイスペシフィック抗体療法)を導入し、病勢を安定化。最終的には、治療開始から5年以内の薬剤中止(治癒)を目指します。当院では、造血幹細胞移植は難治例に限定して実施しており、治療による負担やリスクを最小限に抑える方針です。

患者さんに「選べる治療」と「納得」を

多発性骨髄腫の治療は長期戦となることが多いため、患者さんが「納得して治療を受けること」「選択肢を持てること」が極めて重要です。当院では、治療薬の選択、治療のゴール設定、副作用への対策などについて丁寧に説明を行い、最先端の知見をもとに、患者さんと共に“その方だけの治療”を組み立てることを大切にしています。

《多発性骨髄腫専門外来》

毎週木曜午前 担当:鈴木憲史 医師

日赤医療センター 骨髄腫アミロイドーシスセンター顧問の鈴木憲史医師による「多発性骨髄腫専門外来」を、事前予約不要で受診可能です。

<特徴>
・骨髄腫の全国的エキスパートによる診療
・治療開始時から最新薬剤を用いた完全寛解の追求
・セカンドオピニオンにも積極対応

血液内科医師紹介

血液内科ページへ

①専門分野/得意な領域 ②卒業大学 ③専門医・指導医・資格等
  1. 田内 哲三 (血液内科部長)
    ①造血器腫瘍、慢性骨髄性白血病 ②東京医科大学医学部 ③日本血液学会専門医及び指導医(第121487号)/日本内科学会指導医/日本内科学会認定医(第3080号)/日本血液学会評議員/厚生労働省臨床研修指導医/医学博士
  2. 久保田 靖子 (血液内科医長)
    ①造血器悪性腫瘍の診断・治療 ②鹿児島大学医学部 ③日本内科学会総合内科専門医・指導医/日本血液学会専門医・指導医/日本神経学会専門医/日本がん治療認定医機構がん治療認定医/公益財団法人日本骨髄バンク調整医師/日本サイコオンコロジー学会認定コミュニケーション技術ファシリテーター/インフェクションコントロールドクター/医学博士
  3. 中里 哲郎 (血液内科科長)
    ①造血器腫瘍 ②東京慈恵会医科大学医学部 ③日本内科学会総合内科認定医/日本血液学会専門医・指導医/医学博士
  4. 鈴木 憲史 (血液内科非常勤医師)
    ①血液腫瘍、貧血、出血傾向の治療、造血幹細胞移植 ②新潟大学医学部 ③日本内科学会総合内科専門医・指導医/日本血液学会専門医・指導医・功労会員/米国血液学会会員/日本骨髄腫学会功労会員/日本アミロイドーシス学会功労会員/厚生労働省難病研究班アミロイドーシス班員/日本免疫治療学研究会名誉会員/日赤看護大学外部評価委員会委員長/日赤看護大学大学院非常勤講師/SCARDA(AMED)研究員/医学博士
  5. 片桐 誠一朗 (血液内科非常勤医師)
    ①血液内科一般 ②東京医科大学医学部 ③日本内科学会認定内科医・総合内科専門医・指導医/JMECCインストラクター/日本造血・免疫細胞療法学会認定医/日本血液学会専門医・指導医/医学博士