慢性骨髄性白血病|血液内科

慢性骨髄性白血病とは

慢性骨髄性白血病(CML)は1つの多能性造血幹細胞の形質転換によって発生する腫瘍性疾患です。異常クローンにPhiladelphia (Ph)染色体を認めることが特徴であり、この染色体異常によって形成されるBCR-ABLチロシンキナーゼが慢性骨髄性白血病(CML)の病因であることが証明されています。

慢性期CMLでは末梢血では骨髄球から分葉核好中球を中心とする白血球増加がみられ、芽球は白血球の2%未満です。好酸球や好塩基球の増加も見られ、骨髄系細胞の異形成は見られません。単球の増加する症例は3%未満ですが、p185BCR-ABLタイプの亜型を発現する症例では単球増加がみられ、しばしば慢性骨髄単球性白血病との鑑別が必要となります。血小板数は100万を越す症例も見られます。多くの症例では軽度の貧血が見られます。

慢性骨髄性白血病の診断と検査

診断には90-95%の慢性骨髄性白血病(CML)症例で特徴的なPh染色体をG-バンド法にて確認することが重要です。例外型転座(9q34および22q11を含む第3あるいは第4の染色体部位を巻き込んだ転座)の症例も含めて9q34のABL遺伝子が22q11のBCR遺伝子と融合することが基本的な異常です。ルーチンの染色体検査では検出されないcrypticな9q34と22q11の転座も知られています。この様式は好中球BCR-ABL FISH法解析やPCR法によるBCR-ABL mRNA分子生物学的解析で検出されます。

的確な診断と適切で柔軟な治療戦略の対応

慢性骨髄性白血病治療の一般方針

A. 慢性期

1. ABL TKIs療法

初発慢性骨髄性白血病症例(CML)に対するこれまでの標準治療法はグリベックでしたが、第二世代ABLチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)であるタシグナ、スプリセルがそれぞれの第3相臨床試験においてグリベックより高い効果を示し、現時点ではグリベック、タシグナ、スプリセルの3薬剤がNCCNの治療ガイドライン Version 2, 2012にて第一選択薬として推奨されています。

的確な診断と適切で柔軟な治療戦略の対応

タシグナはBCR-ABLチロシンキナーゼとの結合様式を適正化することによって親和性が向上し、グリベックと比較して30倍以上のキナーゼ抑制効果を有します。血中半減期は15時間であり、400 mg b.i.d.にてトラフ値は1800 nMにまで達する。初発CML症例に対するタシグナの効果はENESTnd試験にて発表されました。タシグナ 300mg b.i.d.にて12ヵ月後の分子学的大寛解(MMR)達成率は44%であり、血液毒性、非血液毒性ともにグリベック群よりも軽微でした。

一方、スプリセルはSrcキナーゼ阻害剤として開発された分子標的薬です。キナーゼ阻害効果はグリベックと比較すると、スプリセルはBCR-ABL 325倍、c-kit 8倍、PDGFR 50倍、Srcファミリーキナーゼでは1000倍以上強力です。血中半減期は5.5時間ですが、第二世代ABLキナーゼの特徴である強力なABL阻害効果により、短時間の暴露で効果を発揮します。初発CML症例におけるスプリセルの治療成績はタシグナとほぼ同等と考えられるため、基礎疾患の有無、リスク分類によってABL TKIsの使い分けが必要です。

初発慢性骨髄性白血病症例に対するABL TKIsの使い分けに関しては、各薬剤の非血液毒性プロファイルにより薬剤選択を判断すべきです。慢性閉塞性肺疾患、高血圧、慢性感染症を有する症例ではタシグナ、グリベックを選択し、糖尿病、膵炎の既往がある症例ではスプリセル、グリベックを選択することが推奨されます。また、リスク分類(Sokal, Hasford score)にて中間/高リスク群ではタシグナ、スプリセルを選択すべきです。

ABL TKIの投与後CML細胞を速やかにかつ持続的に減少させることが治療目標です。ABL TKI開始後、CMLの残存細胞が減少していくと、血液学的完全寛解(CHR)、細胞遺伝学的完全寛解(CCyR)、分子学的大寛解(MMR)、分子学的完全寛解(CMR)が得られていきます。未治療症例に対してグリベック開始後の各時期の治療到達目標がEuropean Leukemia Net (ELN)から発表されており、治療開始後12ヵ月時点でのCCyR、18ヵ月時点でのMMR達成が目標とされています。タシグナ、スプリセルで治療を開始した場合は、早期の分子寛解が得られるため、2013年のELNによる治療到達目標はOptimal Responseが6か月でCCyR、12ヵ月でMMRへと前倒しされます。

臨床試験の結果からも、タシグナまたは、スプリセルで治療を開始した場合、薬剤が副作用等で服用できない場合を除くと、ELN基準の治療失敗例は認められません。現在のCMLの治療目標は分子学的完全寛解(CMR)であり、グリベックで治療を開始した場合には2009年のELN基準で治療失敗になる症例が25%認められるため、世界的な潮流からはタシグナまたはスプリセルにて治療を開始することを推奨します。

a. 初発例

Rx処方例 下記のいずれかを用いる。

  1. タシグナカプセル (150 mg) 4カプセル 分2 朝夕食2時間後
  2. スプリセル錠 (50 mg) 2錠 分1 朝食後
  3. グリベック錠 (100 mg) 4錠 分1 朝食後

タシグナまたはスプリセルにて治療を開始する場合、タシグナでは 400 mg/日、スプリセルでは50 mg/日を最初の2週間投与し、胸水貯留、肝機能障害、ビリルビン上昇、QTc時間延長等の非血液毒性が認められなかった場合には、通常用量にDose Upすることによって薬剤中断症例を減少させることが可能です。

b. グリベック抵抗性 ‧ 不耐容例

Rx処方例 下記のいずれかを用いる。

  1. タシグナカプセル (150 mg) 4カプセル 分2 朝夕食2時間後
  2. スプリセル錠 (50 mg) 2錠 分1 朝食後
  3. アイクルシグ (15mg) 2錠 分1 朝食後

2. インターフェロン療法

ABL TKIs 5年以上服用している症例でBCR-ABL mRNA検出できなくなった症例(分子学的完全寛解:CMR)で妊娠を希望されている症例や長期毒性が認められる症例は、ABL TKIsよりインターフェロンに切り替えることによっても分子寛解の維持が可能です。

Rx処方例 下記のいずれかを用いる。

  1. スミフェロン注 300万単位 週3回皮下注
  2. イントロンA注 300万単位 週3回皮下注

3. 同種造血幹細胞移植 (all—SCT)

慢性期CML症例は第二世代ABL TKIs (タシグナ、スプリセル)の初診からの使用により治療失敗例は極めて少なくなっています。極稀にT315Iの点突然変異を有する症例では造血幹細胞移植を検討します。

明日への指針

分子学的完全寛解(CMR)に到達した症例で日常臨床の範囲内でABL TKIsを中止する例が見うけられますが、ABL TKIsの中止に関しては必ず厳重なモニタリングを行う大規模臨床試験に登録した上で行うようにすることが必要であり、日常診療内でのABL TKI中止は避けるべきです。