悪性リンパ腫|血液内科

悪性リンパ腫とは

リンパ組織(病原体をやっつける免疫機能を担当する組織:リンパ節、脾臓、胸腺、骨髄、胃腸など)から発生する悪性腫瘍(がん)です。リンパ組織は全身に存在するため、からだのどこからでも発生する可能性があります。

非ホジキンリンパ腫とホジキンリンパ腫に分かれますが、日本では非ホジキンリンパ腫が90%と多くを占めています。非ホジキンリンパ腫は、①リンパ芽球性リンパ腫、②バーキットリンパ腫、③びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、④未分化大細胞リンパ腫、などに分けられます。

血液がんにおけるリンパ系腫瘍

症状について

リンパ節の腫れが最も多い症状です。リンパ節の腫れが原因で、周りの臓器が圧迫されるために、腹痛や呼吸困難が起こることもあります。腸に発生するものでは、腸重積(繰り返す腹痛、嘔吐、血便)で発症することがあります。

診断

悪性リンパ腫の診断には、腫れているリンパ節や腫瘤を一部あるいは全部を外科的に取り出して、その組織を顕微鏡でみることが不可欠です(病理診断といいます)。一般的に局所麻酔を使って外来で対応できます。外から触れない場所の場合は、胃カメラ、大腸鏡、CTや超音波(エコー)を使い、針を刺して組織をとる場合もあります。検査によっては入院が必要になる場合があります。また、骨髄検査、髄液検査という検査も必要です。

これは骨の中の骨髄という血液を作っている場所や、脳を取りまいている髄液という液体にリンパ腫の細胞がいるかをみる検査で、通常外来で施行します。診断が確定すると、次は病気の広がり(病期)を診断するために、PET/CTという検査を使って、病変がどの位広がっているかを調べます。治療方針を決める上で重要な情報になります。

治療

治療の中心は抗がん剤による化学療法です。この病気は全身の病気であり、たとえ1カ所の小さな腫瘤であっても、既に全身に散らばっている可能性が高いからです。小児のリンパ腫では、病型や病期を考慮した治療法が確立されてきており、現在では70%以上の例で治癒が見込めるようになっています。

ホジキンリンパ腫

  • ホジキンリンパ腫

  • 20歳前後の若年者と60歳前後の高齢者に起こりやすいリンパ腫で、日本では悪性リンパ腫の5-10%を占めます。治療法にはアドリアシン、ブレオ、エクザール、ダカルバシンという抗がん剤を用いたABVD療法という化学療法を行います。限局期ではABVD療法を2-4コース行った後に局所放射線治療を行います。進行期ではABVD療法を6-8コース行います。また、治療後に再発してしまった場合には自家末梢血幹細胞移植併用大量化学療法を行ったり、ホジキンリンパ腫など一部の悪性リンパ腫に発現しているCD30抗原に対する抗体に細胞分裂を阻害する抗がん剤を結合させた新薬(ブレンツキシマブ ベドチン)や免疫チェックポイント阻害薬(ニボルマブ)などによる治療も積極的に行っています。

濾胞性リンパ腫

  • 濾胞性リンパ腫

  • 低悪性度リンパ腫で最も頻度が高く、最近日本で増加しているB細胞リンパ腫です。無治療で経過を観察したり、病気が限局している場合には、リツキシマブ(B細胞リンパ腫に発現しているCD20抗原に対する抗体)の単独療法や放射線治療を行いますが、進行期では、ベンダムスチンという抗がん剤とリツキシマブを併用したBR療法やリツキシマブとエンドキサン、アドリアシン、オンコビンという抗がん剤、プレドニゾロンというステロイドホルモンを併用したR-CHOP療法などが治療の選択となります。BR療法やR-CHOP療法終了で良好な効果が得られれば、その後は、半年おきにリツキシマブを用いた維持療法を4コース施行しています。再発時には、BR療法の再投与を行っています。また、治療抵抗性となった場合には、同種造血幹細胞移植も積極的に行っています。

MALTリンパ腫

  • MALTリンパ腫

  • 粘膜や腺組織に発生する低悪性度のB細胞リンパ腫で、胃やその他の消化管、肺、甲状腺、唾液腺、涙腺などに多く認められます。特に胃のMALTリンパ腫に関しては半数以上の方でピロリ菌が原因とされており、ピロリ菌の除菌のみで良くなることがあります。唾液腺や甲状腺に発生するものは、シェーグレン症候群や橋本病といった自己免疫性疾患による慢性炎症が発生の機序であると考えられています。進行はきわめて緩徐で、無治療で経過をみることもあります。治療は、状況に応じて放射線療法、リツキシマブ単独療法やBR療法、R-CHOP療法などを行います。

びまん性大細胞型B細胞リンパ腫

  • びまん性大細胞型B細胞リンパ腫

  • 非ホジキンリンパ腫で最も多く30-40%を占める中悪性度リンパ腫です。高齢者に多いですが、どの年代の方にも認められます。診断時よりリンパ節をはじめ、全身の様々な臓器に病変を持つことも少なくありません。限局期では、R-CHOP療法3-4コースの後に病変部位に放射線療法を併用します。進行期では、R-CHOP療法を6-8コース行います。これらの治療で限局期の70-90%、進行期では50-70%の割合で治癒が期待できます。再発した場合は、年齢、体の状態に応じて、化学療法や自家末梢血幹細胞移植併用大量化学療法などを行います。

マントル細胞リンパ腫

マントル細胞リンパ腫はB細胞リンパ腫で、リンパ節だけでなく脾臓や消化管などの臓器にも腫瘤を作る悪性リンパ腫です。進行は比較的緩徐です。病気の進行のスピード、年齢などによって、他のB細胞リンパ腫で用いられるBR療法やR-CHOP療法、治療強度を上げたR-hyper CVAD/MA交代療法(リツキシマブ、エンドキサン、アドリアシン、デキサメタゾン、メソトレキセート、キロサイド)、R-CHOP/R-HDAC交代療法(リツキシマブ、エンドキサン、アドリアシン、オンコビン、プレドニゾロン、高用量キロサイド)、そして自家末梢血造血幹細胞移植を併用して大量化学療法などの治療を選択します。

バーキットリンパ腫

  • バーキットリンパ腫

  • 高悪性度のB細胞リンパ腫で、小児と30-50代の若年者に多く認められますが、悪性リンパ腫全体の1%程度と比較的まれなリンパ腫です。腹部に腫瘤を形成する場合や、末梢血中に腫瘍細胞を認め、白血病のようになることもあり、ほぼ全例が進行期で診断されます。化学療法としては高強度の治療が行われることが多く、当院では治療に耐えられる方であればR-hyper CVAD/MA交代療法を行っています。

末梢性T細胞リンパ腫

悪性リンパ腫全体の5%程度を占めるリンパ腫で、発熱などのB症状を伴い、全身のリンパ節腫脹、多臓器に浸潤していることもあります。一般的にはCHOP療法などの化学療法が行われています。再発することも多く、その場合には、同種造血幹細胞移植などを行うこともあります。HDAC阻害薬(イストダックス)やPNP阻害薬(ムンデシン)、葉酸代謝拮抗薬(ジフォルタ)が新規治療薬として登場し、効果が期待されています。

血管免疫芽球性T細胞リンパ腫

血管免疫芽球性T細胞リンパ腫は、一般的には進行の速いリンパ腫に分類されますが、中には緩慢な経過をたどる症例もあることが知られており、経過、症状は個々の患者さんにより様々です。治療としては、CHOP療法やステロイド単剤、シクロスポリン単剤の有効性が報告されています。症状、経過が多彩なため、個々の状態により選択される治療が異なることがあり、診断後すぐに治療を開始せずにしばらく無治療で経過をみることもあります。一方、再発が多く、治療を繰り返すことで免疫力が低下し、通常の状態では感染しないような弱い病原体の感染症の合併が多くみられ、治療成績を低下させる一因となっています。

成人T細胞白血病/リンパ腫

成人T細胞白血病/リンパ腫はヒトT細胞リンパ球向性ウイルスI型(HTLV-1)が原因で発症し、日本など一部の地域に認められるT細胞腫瘍です。血中に異常リンパ球が認められる白血病のような病型であるくすぶり型、慢性型、急性型と異常リンパ球がリンパ腫のように腫瘍を作るリンパ腫型があります。成人T細胞白血病/リンパ腫は治癒が困難であり、無症状のくすぶり型と一部の慢性型では経過観察を行いますが、その他の慢性型、急性型、リンパ腫型に関して多剤併用化学療法を行い、状況によっては同種造血幹細胞移植を行います。また、最近では成人T細胞白血病/リンパ腫の90%の方で腫瘍細胞に認められるCCR4に対する抗体であるモガムリズマブを用いた治療が可能となり、その治療効果が期待されています。