脳神経救急・外傷センター

脳神経救急・外傷センターとは

脳神経救急・外傷センターとは、脳神経系の救急・外傷疾患を診断・治療するセンターです。

脳神経救急・外傷センターとは

脳卒中・腫瘍・てんかん・動脈硬化・加齢・交通事故や転倒/転落の外傷等が原因で引き起こされる、意識障害、片麻痺、言語障害、しびれ、めまい、視力視野障害、頭痛、けいれん、顔面の痛み、外傷などを、「救急科」「脳卒中センター」「外傷・再建センター」「脊椎脊髄センター」 「脳血管内治療センター」「麻酔科・集中治療科」の医師と共同して診療します。

症状の軽重は問いません、どのような患者さんに対しても、顕微鏡や内視鏡を中心に外科的治療を全力で行います。

対象疾患

  1. 頭部外傷(軽症・中等症頭部外傷)
  2. 頭部外傷(重症頭部外傷)
  3. 脳血管障害(脳卒中)
  4. 脳腫瘍
  5. てんかん
  6. その他の脳神経外科疾患

頭部外傷(軽症・中等症頭部外傷)

頭部外傷は、軽症中等症例が多く、脳の損傷や後遺症を起こすことなく経過します。しかし、軽症中等症頭部外傷は侮れません。キーワードは2つ、「Talk & deteriorate(トーク アンド デターリオレイト)」と「脳震盪後症候群」です。

① 「Talk & deteriorate」とは

外傷直後は意識もはっきりしてお話しできていたのに、暫くして意識が悪くなる患者さんがいます。外傷で生じた頭蓋内(頭の中)出血が徐々に増大することによって、このような経過をたどります。多くの患者さんが抗血栓治療薬と呼ばれる「血をサラサラにする」お薬を飲まれており、迅速な対応をしなければ重篤な後遺症を残したり、命を落とすことになります。

Talk & deteriorate

高齢者の20人に1人が抗凝固薬(ワーファリンや直接経口抗凝固薬)、10人に1人が抗血小板薬(アスピリンなど)を飲んでいます。これらの患者さんは、頭を打った後に「talk & deteriorate」を起こす可能性があり、適切な画像検査と診療が必要です。

抗血栓治療薬内服以外にも高エネルギー外傷や健忘症などの重篤化しやすい危険因子があり、これらを認める患者さんは当院で作成したプロトコールに則り、入院管理を行っています。

下の写真は抗凝固薬内服中の50歳代の女性です。交通事故受傷後1時間で来院されました。軽度の意識障害で、CTでは明らかな出血性病変は認めませんでした。しかし、抗凝固薬の内服をされていたため、1時間後にCTを再検査したところ出血の拡大を認めました。意識レベルの低下もあり、直ちに後頭蓋窩の減圧開頭を行いました。その後の集中治療も実り、独歩退院、復職しました。

頭部外傷

抗血栓治療薬(抗凝固薬や抗血小板薬)を内服している患者さんは、頭部打撲後は十分な注意が必要です。特に、受傷時の記憶がない、受傷後に意識を失った、多段に渡る階段からの転落、交通事故などは、意識があっても頭蓋内に出血を来している可能性があり、専門医への受診が必要です。

また1ヶ月ほどの経過で、徐々に頭蓋内に血がたまってくる「慢性硬膜下血腫」を来す可能性もあります。

頭部打撲に関連してご心配あれば、何時でも受診あるいはご相談ください。

Think Fast campaign

  • 抗血栓治療薬内服者の頭部外傷の危険性の理解、医療関係者への啓発活動を実施しています。ホームページもご参照ください。
    https://thinkfast.jp/index.html

② 脳震盪後に起こるいろいろな症状

頭蓋内に出血や脳挫傷など外傷性変化がなく、頭蓋骨の骨折もない場合でも、一時的な意識障害や健忘(頭を打った前後の記憶がない)を呈することがあります。これらは脳震盪により、一時的に脳が混乱した状態と言えます。通常は、後遺症なく(外傷前後の記憶がなくなった場合、その記憶が戻らないことは多いです)治癒します。しかしながら、その後に頭痛、不安やイライラなど精神科、心療内科症状により、長期にわたり苦しめられる患者さんがいます。

たかが打撲と侮らず、気になる症状があればご相談ください。

頭部外傷(重症頭部外傷)

重症頭部外傷は、来院時の意識障害がより強い(Glasgow coma scale: GCS 8未満)患者であり、繊細な管理が要求され、また外科治療の対象となるものも多くあります。当院では、重症頭部外傷ガイドライン第4版に則り、「治療(手術など)」「モニタリング(頭蓋内圧ICPや脳灌流圧CCP)」「閾値(血圧、ICP、CCP)」の統合的治療管理を行います。必要とならば手術は躊躇しませんが、患者さんの状態をしっかり見極め、適切なタイミングで手術を行います。そのためにより侵襲的の少ない減圧(穿頭手術)とモニタリング(脳圧測定)を先行させます。これは、多くの重症頭部外傷患者さんは血液凝固(血が固まる)線溶(血が解ける)系に異常をきたしており、手術によりさらなる大出血を来す可能性があるからです。適切な輸血治療で患者さんの凝固線溶系を整え、脳圧管理や血液検査繰り返し行い、必要なタイミングで手術を行っています。 もちろん手術のみならず、栄養、感染、痙攣予防など全身管理も厳密に行い、最大限の脳機能予後の改善を目標とします。

頭部外傷(重症頭部外傷)

今後、より先進的な脳機能モニタリングも導入を予定しています。

頭部外傷(重症頭部外傷)

脳血管障害

脳血管障害はしばしば外科治療が必要となります。脳卒中センターで診断された出血性脳卒中や、てんかんや神経症状(運動麻痺や失語)などで見つかった脳血管病変が治療の対象となります。例えば、破裂してくも膜下出血を起こした脳動脈瘤や、てんかんを引き起こした脳動静脈奇形などです。

脳血管内治療センターと協力し、より安全確実な方法を選択し、また互いに協力をして治療をしています。年齢、安全性、予後、再発など様々な因子を検討し、より良い治療を選択します。

脳血管病変は、時に病変部と正常血管との関係が分かりづらいことがありますが、我々の施設では3D fusion imageを駆使して、より正確な病態把握を行っています。

症例1)脳血管内治療(コイル塞栓術)で治療困難な動脈瘤のクリッピング術

  • 脳血管内治療(コイル塞栓術)で治療困難な動脈瘤のクリッピング術

  • 大型の動脈瘤や動脈瘤から正常血管が分岐しているものなどでは、血管内治療での動脈瘤治療が困難です。 このような場合、開頭手術を行い血管を形成しながら動脈瘤をクリップで遮断し、再破裂を予防します。

症例2)脳動静脈奇形の手術

  • 脳動静脈奇形の手術

  • 脳動静脈奇形の多くは、出血やてんかん発作で見つかります。治療が必要な血管奇形は、血管撮影検査(カテーテル検査)やMRI検査を行い、これらの画像から3D fusion imageを作成し、血管構築を十分に把握した後に手術を行います。また血管内治療センターと協力して血管内治療も併せて行うこともあります。

術中は必要に応じてナビゲーションやエコーを用い、リアルタイムで病変を確認しながら治療を行います。また神経モニタリングを駆使して術中合併症を最小限にする努力をしています。

頭部外傷(重症頭部外傷)

上の症例のような大型の動脈瘤では、母血管の閉塞が必要になります。神経モニタリングで脳の機能を見ながら手術をすることで、安全な動脈瘤の血流遮断が可能になります。血管のバイパスが必要になる場合もあり、必要に応じてlow flow、high flow bypassで対応します。

脳出血の手術では、内視鏡を用いた血腫除去を行います。開頭手術よりも脳の露出が小さく、侵襲少なく血を取り除くことが可能です。

頭部外傷(重症頭部外傷)

術後も、特に重症例においては、脳圧や温度のモニタリングを行い、患者治療予後向上を目指しています。今後、より先進的な脳機能モニタリングが出来るように準備を進めています。

脳腫瘍

脳腫瘍は、様々な形で発症します。通常は神経症状が緩徐進行するものですが、急激に症状が進行して致死的になったり、重度の後遺症を残したりすることがあります。

これには腫瘍内出血、てんかん発作、水頭症などが関与し、緊急の処置が必要になる場合も多くあります。徐々に増大する腫瘍では、言語障害や運動麻痺が明らかでない場合は認知症と誤診されることもあります。巨大な腫瘍では、早朝の頭痛や嘔吐を来すことがあります。

下の症例は、「言っていることが時々おかしく元気がない」と夫が認知症を疑い来院した60歳代の女性です。7cm程の大きな腫瘍があり、腫瘍を全摘出することで、認知症は消失して退院されました。

脳腫瘍

また別の患者さんは、繰り返す嘔吐と意識混濁で搬送されました。小脳に腫瘍を認め、これにより水頭症と呼ばれる二次的な病態を引き起こしていたため意識障害を来していました。手術を行い症状は緩和されました。

脳腫瘍

このように「巨大な脳腫瘍」「水頭症」などにより頭蓋内圧が更新している患者さんは、「頭痛」「目の症状(目がぼやける、物が2つに見えるなど)」「嘔気・嘔吐」がみられ、これらは危険なサインです。

頭蓋内圧のコントロールと共に、病変の詳しい検査を行い、可及的速やかに治療を行います。手術は主に顕微鏡を用いて行いますが、時に内視鏡も使用します。患者さんの負担がより軽減されるよう、また整容面の最大限の配慮を行い、手術を行います。

緊急を要する脳腫瘍の一つに神経下垂体部腫瘍があります。特に下垂体と呼ばれる全身のホルモンを調整する部分にできる腫瘍では、時に下垂体卒中と呼ばれる病態を引き起こします。脳卒中と同様、下垂体腫瘍(下垂体腺腫)内に出血や梗塞が起こり、これが正常な下垂体にも影響を及ぼし、全身ホルモン機能不全を来す場合があります。これは時に非常に危険な状態を引き起こします。下垂体卒中が起こると(強い)頭痛に加え、急激な視野障害が起こりやすく、またホルモン機能不全により全身倦怠感(だるさ)を訴えます。この3つの症状がみられる場合は、早急に受診、画像検査、血液検査の必要があります。

脳腫瘍

時間を問わず、気になる症状があれば受診してください。また、時間を問わず紹介、搬送の受入を行います。気軽にご相談ください。

その他の脳神経外科疾患

神経血管圧迫症候群

ある日、激烈な顔面痛のため、ご飯も食べられない、水も飲めない、会話も苦痛、そんな症状が起こることがあります。この中には、顔面の知覚をつかさどる三叉神経という脳神経に血管が接触して疼痛を引き起こしている場合があり、「典型的三叉神経痛」と呼ばれます。海外のプロトコールを参照に、疼痛の超急性期から適切な疼痛管理を行い、患者さんの背景や病態、薬の効き方や副作用など様々な因子を吟味して適切な管理を継続します。手術により完治する可能性が高い患者さんも多く、その場合は手術をお勧めしています。

下の患者さんは、顔面の激しい疼痛発作を繰り返すため、来院されました。MRIで動脈が神経を強く圧迫していること確認し、手術を希望されました。

手術により、顔面痛は完全に消失し、お薬も飲まなくてよくなりました。

その他の脳神経外科疾患

同じような疾患にへ「片側顔面痙攣」という病気があります。血管が顔面神経と接触、神経を刺激して顔が無意識にぴくぴく動く病気です。「典型的三叉神経痛」同様、病態や患者さんの希望などに合わせて手術を行っています。

病態によっては、安全に手術をする(目的を達成する)ために、傷が大きくなることもあります。私たちは骨を覆う筋肉を可能な限り再建することで、術後数年経っても傷がほとんど目立ちません。いかなる時も整容を常に意識を手術をしています。

その他の脳神経外科疾患

その他、脳および神経に関わる疾患に対し、他センターあるいは他科の医師と共に、全力で診断、治療に取り組んでいます。ご気軽にご相談ください。