肩の機能障害|対象疾患・症状|整形外科

肩関節のしくみ

肩関節は、上腕骨と肩甲骨で構成される関節であり、丸い上腕骨頭とお皿のような肩甲骨の関節窩により構成されています。 イメージとしてけん玉のように上腕骨の丸い骨頭(ボール)が、関節窩と呼ばれる肩甲骨のくぼみ(ソケット)に乗っかっているような感じです。(ゴルフボールとティーにたとえられることもあります)
その周囲の筋肉や腱が関節を支えることにより、不安定な肩関節というボールとソケットの構造は安定性を保っています。

肩関節のしくみ

肩の痛みについて

肩関節の痛みの原因は、なんらかの原因により関節に炎症がおこる関節炎によるか、肩関節の構造の損傷によるものが多いです。ではなぜその痛みの原因となる炎症や構造の損傷が起こるのか、またどんな治療法があるのか、原因別に解説します。

五十肩(≒肩関節周囲炎)について

50歳代を中心とした中年以降に、加齢に伴い肩関節周囲組織の変性を基盤に、肩関節の周囲に組織に炎症が起きることで、明らかな原因なしに発症し、肩関節の痛みと運動制限をきたす疾患群と定義されています。

五十肩の病期は症状の推移から三期に分けられ、

◎急性期(発症から約2週間程度の痛みの強い時期)痛みが強くなるとともに動く範囲も狭くなり、徐々に肩の可動域が制限されます。
◎慢性期(3か月~1年)には徐々に痛みが改善しますが、まだ可動域制限は残存し日常生活動作に支障をきたします。
◎回復期には可動域制限がまだ残るものの、痛みが少ないために大きな機能障害の自覚はなくなり徐々に可動域が自然回復します。

回復経過には個人差がありますが1年前後の方が多いです。

五十肩の特徴としては強い鈍痛と肩を動かした時の痛み、可動域(肩の動き)の制限です。ほとんどの患者さんは鎮痛剤や注射、リハビリテーションで自然に軽快します。ただまれに可動域制限が強く残る患者さんには手術による治療が必要な場合があります。

腱板断裂・腱板損傷について

腱板とは、腕を上げる運動や、腕を内外に回す運動をする時に重要な役割を果たす4つの筋で構成されます。(棘上筋、棘下筋、小円筋および肩甲下筋) 一般的にはあきらかな外傷がなかったり、非常な軽微な外傷で起こることが多く、腱板(特に棘上筋)が骨と骨(肩峰と上腕骨頭)にはさまれているという解剖学的構造と、腱板実質の加齢性変化にともなって断裂することが多く、中年以降に多い病気といえます。
症状としては、肩の可動時痛、特に肩を挙げるときにある角度で強い痛みを感じるのが特徴で、夜間痛が強い人も多いです。

五十肩と違うところ

肩の動きは制限があまりない 肩を挙げるときに力が入らない、ジョリっと音がする 他人に挙げてもらうと肩が挙がるが、自分ではできない 肩を挙げた姿勢を維持できない などがあげられますが病期などによって個人差はあります。

腱板断裂の診断

診察、レントゲン、必要あればMRIなどの諸検査により診断します。

  • 腱板断裂(レントゲン)

  • 腱板断裂(MRI)

保存療法(鎮痛剤や注射、リハビリテーション)で肩の痛みや運動障害が治らないときは、断裂形態や患者さんの年齢、活動性などを考慮して場合によっては手術治療を選択します。

腱板断裂の治療

手術は、断裂した腱板を上腕骨の本来腱板が付着していた位置に縫合して修復します。関節鏡視下手術と直視下手術があります。関節鏡視下手術はカメラを使用しより低侵襲に手術を行うことが可能です。

しかし、断裂形態や手術方法によっては直視下手術を選択する場合もあります。当院では基本的に関節鏡視下手術による縫合を行っています。 断裂サイズや手術方法によってある程度差はありますが、通常約4~6週間の装具もしくは三角巾での固定と3~6ヵ月のリハビリテーションが必要です。

  • 腱板断裂(関節鏡写真)

  • 縫合した腱板(関節鏡写真)

  • 腱板断裂イメージ図

  • 縫合イメージ図

変形性肩関節症

変形性肩関節症とは

肩関節の表面はクッションの働きをする軟骨で覆われていますが、骨折による変形や腱板断裂、脱臼などにより関節軟骨や周囲の組織が損傷すると、軟骨は再生されないため徐々に変形性肩関節症が進行していき、引き起こされます。それにより徐々に疼痛や可動域制限が起こっていきます。

肩関節は、膝関節や股関節のような常に体重がかかる関節ではないため、変形性肩関節症を発症する割合は高くはありません。 症状は比較的ゆっくりと進行していきます。初期には肩の痛みや可動域が制限されます。中期から末期になると関節が腫れたり、強い痛みがあったり、動かすとゴリゴリといった礫音を感じる人もいます。

変形性肩関節症の治療

治療は基本的には保存治療(手術しない方法)が原則で、鎮痛剤や注射、リハビリテーションなどが中心です。保存的療法が無効で、痛みや運動障害のために日常生活動作にかなりの支障がある場合、滑膜切除術や人工骨頭置換術や人工関節置換術などが検討されます。

石灰沈着性腱板炎

石灰沈着性腱板炎とは

  • 石灰沈着性腱板炎

  • 腱板内に沈着したリン酸カルシウム結晶が沈着することによって急性の炎症が生じる事で起こる激烈な肩の疼痛・運動制限です。夜間に突然発症することが多い疾患です。

石灰沈着性腱板炎の治療

治療としては、急性期は安静、消炎鎮痛剤、ステロイドの石灰沈着部への注入などがあります。ほとんどの場合は保存治療で軽快しますが、沈着した石灰により症状が持続したり、再発を繰り返したりする場合は手術で摘出する場合もあります。

反復性肩関節脱臼

反復性肩関節脱臼とは

肩は人体の関節の中でもっとも脱臼しやすい関節のひとつです。 外傷やスポーツなど、比較的強い外力などで脱臼し、その後、軽微な外力でも脱臼が起こりやすくなっている状態です。この状態を 反復性肩関節脱臼と呼びます。

一度脱臼すると、その後は脱臼しやすくなる理由は肩関節の解剖学的な特徴によるものがあります。肩甲骨は丸い上腕骨頭と小さなお皿のような肩甲骨の関節窩により構成されており、それを周囲の組織が支持しています。さらに関節唇とその支持組織が肩甲骨から剥がれてしまい、その部分が治癒しにくいため、脱臼しやすくなります。

  • 前方脱臼(レントゲン)

  • Bankart病変(MRI)

反復性肩関節脱臼の治療

脱臼した場合はまずは整復すればある程度は使えるようになりますが、その後も上記のように軽微な外力などで脱臼してしまい日常生活が制限されるようならば手術が必要です。 手術ははがれた軟部組織を元の位置に縫いつける方法や、骨や腱で補強する方法などがあります。治療はまず初回脱臼の場合は固定と安静で経過観察します。 手術では関節鏡を用いて関節唇とその支持組織を関節窩に縫いつける処置をします。これにより骨頭が脱臼するのを防ぐことができます。ただ検査結果やスポーツ内容によっては骨や腱で補強する手術方法のほうがよい場合もあります。

  • 手術前(関節鏡写真)

  • 手術後(関節鏡写真)