掲載日:2024年6月26日
中性脂肪が低い場合
健康診断などで中性脂肪が異常低値と判定され、病院を受診したものの「特に問題ないでしょう」と言われ、拍子抜けした経験のある方が結構いらっしゃるかもしれません。食べ過ぎ、運動不足からくる肥満とともに糖尿病・脂肪肝等を患う方々の中には、空腹時の採血の中性脂肪が異常高値(150mg/d以上)の事例は多数存在します。
食後の中性脂肪はさらに高値となり血液が脂肪過多でドロドロ状態となり動脈硬化にも影響するため、中性脂肪合成を抑える治療薬もあります。これに対して中性脂肪が元々低い場合に体内で何が起きているのかはあまり知られておらず、注意を払う医師も少ないのが現状です。しかし近年この中性脂肪が下がっていることが、現代人の日常生活パフォーマンスを低下させる意外な不健康状態とつながっていることが知られつつあるのです。
実は中性脂肪が低い方々の中には、日ごろから頻繁に『低血糖状態』にさらされているケースが少なくないのです。中性脂肪と糖の関係はどうなっているのでしょうか。
簡単に説明すると、まず糖をたくさん食べると余った糖がインスリンホルモンの働きで中性脂肪に変換されます。血液中に中性脂肪が増加し内臓にもたくさん蓄積され、いつか訪れるかもしれないエネルギー危機の備えとなりますが、過剰はよくありません。逆に糖がしばしば足りない状態(低血糖)に陥る人は備えの中性脂肪が次第に減っていってしまう状態、とシンプルに考えていただいて差し支えないでしょう。
低血糖症状を示す人は、空腹時の採血で中性脂肪値が70~80mg/dlを切っている方々の中で見られ始め、50mg/dlを下回るレベルだと明らかに増えてきます。ではその低血糖症状とはどのようなものなのでしょうか?
低血糖症状とは
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血糖すなわち血液中のブドウ糖は人間にとって最も手っ取り早いエネルギー源ですので、その濃度(血糖値)が下がり過ぎてしまうと、脳を始めとした様々な細胞においてエネルギー欠乏状態が生じます。空腹時の血糖値はエネルギー獲得しやすいように通常80~100mg/dl程度の範囲内に調整されていますが、何らかの理由でこれを下回り70㎎/dlを切ってくると、まず脳がガス欠を起こし頭の回転が鈍ったり、眠くなったり、疲労を感じやる気が失せてきたりします。
これはある意味生命活動の危機ですので、身体は直ちに修正しようと反応し、お腹の副腎という臓器からアドレナリンを緊急分泌させ血糖値を上昇させます。アドレナリンは交感神経を刺激する「緊張・興奮」系ホルモンですから、今度は急に変な汗が出てきたり、手が震えたり、不安感やイライラ、動悸、腸の運動低下からお腹が痛くなる人も出てきます。またエネルギー不足を補うために体タンパクを分解してエネルギーに変換せざるを得ない(異化亢進)状態となり、筋肉が落ちる、鍛えても全く筋肉が付かない、といったお悩みにつながる場合もあります。
長時間モノを食べなくなる夜間・就寝中にも低血糖は生じやすく、やはり不適切なアドレナリン分泌による交感神経刺激から寝汗や怖い夢、歯ぎしりや食いしばり、中途覚醒や不眠に悩まされる方も多く、寝違えが多い、朝なかなか起きられない、起きられても腸が動いていないから食欲が湧かず便秘にもなりがち、唾液や胃酸分泌不足から消化不良や口臭に悩まされるといった展開まで様々あります。こういった多彩な症状に対して、「自律神経失調症」「慢性疲労症候群」や「うつ病」の診断でくくられているケースもしばしばあるようです。
こういった低血糖傾向を血液検査で見分けるもう一つの指標は、糖尿病の月間評価によく用いられるHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)値です。人間ドックにもよく含まれている項目ですが、この値が5%未満の方は少し疑ってかかるべきかもしれません。より的確に低血糖の出現を評価するためには、やはり糖尿病患者さんの管理に用いられる「フリースタイルリブレ」という機器を身体に装着することで、リアルタイムでの血糖値トレンド(推移)を確認することができます。(後編へ続く)