掲載日:2024年9月6日
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中性脂肪が低い場合【前編】に引き続き、今回は【後編】をお届けします。
ではなぜそんな大切な血糖値を保てなくなる人がいるのでしょうか?それは現代のストレス社会と関係しています。仕事や人間関係を含めた社会的ストレスだけではありません。アトピーや喘息などの慢性炎症性疾患や、知らぬ間に体内へ蓄積する有害化学物質や環境要因も人間にとって慢性ストレスとなります。実はこれら様々なストレス要因に対し人間は前述の臓器・副腎で闘っています。
副腎は毎日、朝から昼にかけてコルチゾールという副腎皮質ホルモンを分泌し、身体の傷みや炎症を癒し、血圧を上昇させエネルギーたる血糖値も上昇させるよう働き、日々の臨戦態勢を整えます。ですから人間は本来コルチゾールの高まる日中活発に活動し、分泌の弱まる夜間には休息する動物なのですが、現代人はその原則を変えてしまい昼夜の区別なく活動するようになりました。さらにカフェインをたやすく摂取し副腎に鞭打ってアドレナリンを強制分泌させてまで頑張るようになってしまいました。これが大人だけでなく受験勉強に取り組む子供たちにも及んでいるのです。副腎は本来のリズムを失い酷使されるようになった結果、その反応性は鈍りコルチゾールの分泌が弱まり、血糖値が容易に地盤沈下する人が増えてきたのです。
アメリカの医師、ジェームズ・L・ウィルソンはこれらの現象を「副腎疲労」と呼びましたが、近年「HPA軸機能障害」という医学的により的確な名称が定着しつつあります。これは脳の視床下部(Hypothalamus)から脳下垂体(Pituitary)さらには副腎(Adrenal grand)への指令で作動するシステムを頭文字で順に並べてHPA軸と呼び、この一連のシステム機能が弱体化してしまうことを示しています。
克服方法としては、やはり根本に横たわるストレス要因を明らかにして可能なものは除いていくことが求められます。まじめで頑張り屋な方ほどストレスを貯めていますので、積極的に休むことも大事だと説得します。人間関係で躓いている方には、信頼できる第三者に相談してでも早めに問題を解消するよう促します。物事の受け止め方を改めないといけない方もいるでしょう。
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また栄養素による改善も大きなカギを握ります。まず低血糖の予防策としては、日中の食事がしっかり摂れてない方に対しては、3食しっかり食べることを勧めます。朝食を摂るのが苦手な方も多いですが、血糖値の上がる果物だけでもよいから食べてみるところから始めます。糖はグリコーゲンとして体内にある程度までは蓄えられますので、日中しっかり食べて必要に応じて補食もしておけば夜間低血糖の自動修正に備えることができます。それでも夜間低血糖症状に悩まされる方は、寝る前にハチミツをティースプーン1杯ほど舐めてもらうことで長時間の持続修正が可能です。
またビタミンB群を積極的に摂取すれば、糖が足りなくても脂質からのエネルギー獲得がスムーズになり、またタンパク質から糖を作り出す「糖新生」という自動補正システムも作動しやすくなります。
脳下垂体や副腎は人体の中で最もビタミンCを要求する臓器といわれ、ビタミンCを日々しっかり補給することも有効な対策となります。現代人に共通して不足しがちなマグネシウムや月経世代の女性に不足しがちな鉄・亜鉛といったミネラルも適切に補正しないと、一生懸命食べたところでエネルギー不足のジレンマからなかなか抜け出せません。
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近年、健康管理の方法として糖質制限や16時間ファスティング(絶食)などが一定の人気を博しています。しかしそれらに対する評価はやや混とんとしているようです。なぜなら糖質制限が肥満解消に大いに役立つ人もいれば、上述のような低血糖体質の人が無理して取り組むと低血糖の嵐に見舞われ、かえって体調を崩す人も出てきてしまうからです。
資本主義経済の我が国においては、多くの人が必ずしも自分の生きたいように生きているとは言い切れず、収益や責務のために昼夜となく「働かされている」側面もあります。こういった利益優先の社会風潮に加えて、近年の過剰な痩せ願望から来る栄養軽視など、人間の本来あるべき姿からかけ離れてしまった習慣を見つめなおさない限り、低血糖体質から来る不定愁訴に悩まされる「なんか調子悪い人々」は今後も増え続けてしまうのかもしれません。
The role of the hypothalamic-pituitary-adrenal axis in neuroendocrine responses to stress.
Dialogues Clin Neurosci 2006;8(4):383-95.
『分子栄養学実践講座テキスト』小池雅美、宮澤賢史ほか
『医師が教える疲れが抜けない人の食事法』本間良子・本間龍介(祥伝社)
『疲れが取れない原因は副腎が9割』御川安仁(フォレスト出版)
『なぜ、人は病気になるのか?』寺田武史(クロスメディア・パブリッシング)
『口臭を気にする女、気にしない男』櫻井直樹(英智舎)