掲載日:2024年2月27日
はじめに
ある日突然、急激なお腹の痛みが出現する病気のひとつに急性膵炎があります。その患者数は増加傾向にあり、全国調査では年間78450人(2016年)と推計されており、決して珍しい病気ではありません。
ちょっと胃が痛いくらいだけだと思っていたら、我慢できないほどに痛みが強くなって救急病院を受診される方もいるほど、強い腹痛が出ることもあります。
膵炎とは
膵炎とは、その名の通り膵臓に炎症が起きた状態で、その臨床経過によって、急性と慢性に分けられています。急性膵炎は、膵臓で産生される膵液に含まれている消化酵素によって膵臓自身が消化され、膵臓やその周辺にまで非常に強い炎症をきたす病気です。ガイドラインに定められた以下のような基準に基づいて、急性膵炎と診断されます。
急性膵炎の診断基準
- 上腹部に急性腹痛発作と圧痛がある
- 血中または尿中の膵酵素の上昇がある
- 超音波、CTまたはMRIで膵臓に急性膵炎に伴う異常所見がある
上記3項目中2項目以上を満たし、他の膵疾患および急性腹症を除外したものを急性膵炎と診断する。ただし、慢性膵炎の急性増悪は急性膵炎に含める。
急性膵炎の原因
図1のように、男性はアルコール性、女性は胆石によるものが多いと報告されています。脂質異常が原因であることは全体の2.3%程度と比較的稀ですが、血清中性脂肪(トリグリセリド:TG)値が1,000mg/dLを超える重症の高TG血症では膵炎の発症率は15~20%に及ぶことが報告されています。
また妊娠や薬剤(ステロイド、利尿薬、β遮断薬等)投与をきっかけに脂質異常症が続発することもあります。そのほか、原因不明(特発性)や自己免疫性膵炎などの慢性膵炎が急激に増悪し膵炎をきたすこともあります。
急性膵炎の症状
診断基準にもあることからわかるように、9割以上で腹痛を伴います(図2)。膵臓はみぞおちから左季肋部(きろくぶ)にかけて左側後方に向けて位置する細長い臓器なので、左上腹部から背部に向けて痛むこともあります。
診断、重症度、治療
冒頭に示した診断基準に基づいて急性膵炎と診断すると同時に、血液検査やCTなどの画像診断の結果を踏まえて重症度の判定を行います。
急性膵炎では入院加療が必要になり、多くは点滴加療により元の状態に改善しますが、一部の患者さんでは命に関わる可能性もある重症急性膵炎に進展したり、感染性膵壊死などの待機的に追加治療を要する合併症をきたすこともあるので注意が必要です。
胆石が総胆管に脱落し、十二指腸の乳頭部近くで膵液の流出を障害すると急性膵炎を引き起こします。(胆石性膵炎)自然に排石する場合もありますが、完全にはまりこんでしまう(嵌頓(かんとん))が疑われる場合には、緊急で膵液の流出障害を改善する内視鏡治療が必要になることがあります。
アミラーゼ高値 = 急性膵炎ではない
健康診断などでアミラーゼ高値を指摘されて、受診される方がいます。急性膵炎の診断基準には膵酵素上昇が挙げられていますが、アミラーゼ上昇が必ずしも膵炎を意味するわけではありません。
アミラーゼは膵臓で産生される酵素の1つですが、膵臓以外にも唾液腺からも分泌されます。これらは検査で区別することができますが、健康診断などではその合計を測定されていることがほとんどです。体質的に正常より高値の方もいらっしゃいます。アミラーゼ高値だけでは急性膵炎であることは多くはありませんが、慢性膵炎や膵臓がんなどが見つかるきっかけになることもありますので、受診するようにしましょう。
まとめ
急性膵炎は症状も強く受診されることが多いですが、放置すると重篤になることがある怖い病気のひとつです。致命率は近年著明に改善していますが、重症膵炎ではいまだに死亡例が存在していることが大きな課題です。
膵炎の程度や原因によって症状も異なり、腹痛をきたすたくさんの病気がある中で、ご本人では区別が難しいことが多いと思います。膵炎の原因に挙げたようなアルコール多飲の経過、胆石や高中性脂肪が指摘されている方は膵炎のリスクも高いので、急激な腹痛がある場合には必ず受診しましょう。
・急性膵炎診療ガイドライン第5版 2021
・急性膵炎全国調査 2016