ドクターコラム

こどもの頭痛

小児科 部長 下郷 幸子

掲載日:2023年7月19日

外来診療をしていると、「こんなに小さな子でも頭痛があるんですか?」と保護者の方に尋ねられることがありますが、頭痛に苦しむお子さんの数は意外に多いものです。

  • 子どもの頭痛
  • こどもは痛みの特徴を上手に伝えることができないことも多く、正しい診断や十分な治療を受けられていないことも多いと考えられています。頭痛のために学校に行けない、遊びに行けない、など日常生活に支障をきたしている場合も少なくありません。

治療すべき重大な原因を見逃さないためにも、また日常生活の質を低下させないためにも、正しい診断と治療が大切です。また、予防薬や一部の治療法(片頭痛専用の薬など)は年齢や体質を十分に考慮して、慎重に使うべきものです。痛み止めを飲まずに我慢をしていたり、逆に痛み止めを飲みすぎて薬物乱用頭痛(*)に陥っていたりすることもあります。

頭痛でお困りでしたら、ぜひ一度、小児科・発達神経学センターにご相談ください。

(*)【薬物乱用頭痛】痛み止めを飲みすぎることで余計に頭痛が引き起こされる状態です。一般的な痛み止めでは、1ヶ月に15日以上使用することで起こるとされています。

頭痛の種類と原因

頭痛には、原因となる他の疾患がない頭痛(一次性頭痛、いわゆる「頭痛持ち」)と、なんらかの病気の症状として起こる頭痛(二次性頭痛)があります。

こどもの場合、風邪の症状の一部として頭を痛がる、といった二次性頭痛の頻度が高いといわれています。発熱そのものも原因となりますし、副鼻腔炎、近視、虫歯などによっても頭痛が起きることが知られています。また、読書やゲームによる眼精疲労や肩こりが原因となる頭痛もあります。

こどもでは稀ですが、詳しい検査や早期治療を必要とする危険な頭痛もあります。たとえば、高血圧によって頭痛が起こることがあります。この場合は、高血圧を見逃さないことに加えて、高血圧の原因を突き止める必要もあります。発熱に伴う激しい頭痛で、特に嘔吐を伴う場合には、髄膜炎や脳炎を疑う必要があります。朝になると悪化する頭痛や吐き気・嘔吐を伴う頭痛が続いている場合、特に手足の麻痺などの症状が出てきた場合には脳腫瘍など外科の治療を要する重い病気かもしれません。いずれにしても、突然起こって持続する頭痛、これまでに経験したことのないような頭痛、どんどん悪化していく頭痛は、原因を問わず危険な兆候です。

原因となる病気がない頭痛、つまり一次性頭痛のうち、代表的なものは片頭痛と緊張型頭痛です。片頭痛は大人の病気と思われがちですが、日本の小学生の3.5%、中学生の5.0%、高校生になると15.6%に認められたというデータもあります。特に、ご家族に「頭痛持ち」の方がいる場合には体質を受け継いでいる可能性があります。

こどもの片頭痛

「片頭痛」という言葉から、頭の片側が痛くなると思っておられる方も多いと思います。確かに大人では「片方のこめかみの辺りのズキズキする(拍動性の)痛み」が典型的ですが、こどもの場合は両側、特におでこのあたりが痛くなることが多く、必ずしも拍動性とは限りません。頭痛が始まる前に、目がチカチカしたり視界の一部が見えにくくなったりする「前兆」を認める場合もありますが、大人に比べると、その頻度は低いようです。

痛みは徐々に強くなっていきます。また、歩いたり、頭を振ったりすると痛みが強くなります。そのため、横になって安静にしている方が楽、と感じることが多いようです。頭痛とともに吐き気を感じたり、光や音を不快に感じたりするため、暗い部屋で布団をかぶって耐える、という話をよく聞きます。頭痛は数時間から長いと数日続き、徐々に軽快します。

片頭痛は疲れ、ストレス、睡眠不足などで引き起こされることが多いです。一方で、行事や試験など緊張を伴うイベントが終わってほっとした時に始まる場合もあります。また、天候が下り坂だったり台風 が近づいている時など、天候の変化で引き起こされやすいことも知られています。さらに、香水の香り、特定の食べ物、軽く頭をぶつけるなどの外力がきっかけになることがあります。避けることができるものも含まれているので、もし、気づいたこと、なんとなく気になることがあれば、遠慮なく医師に相談してみましょう。

治療は、他の頭痛と同様に、まずは痛み止め(イブプロフェンやアセトアミノフェン)を試します。また、頭痛の回数が多く、不登校など日常生活に悪影響を及ぼしている場合には予防薬を普段から内服することもあります。これらの薬が効かない場合は、年齢によっては片頭痛専用の薬(トリプタン製剤など)を使うこともあります。

治療の目標は、頭痛が起きても寝込まずに、日常生活、学校生活を送れることです。片頭痛の体質を根本的に治す方法は残念ながら今のところは存在しませんが、自分の体質、頭痛の特徴を理解して、頭痛と上手に付き合う方法を身につけることで、生活の質を向上させることができます。