機能的疾患|対象疾患|脳神経外科

機能的疾患とは

機能的疾患の主な症状

特発性三叉神経痛、片側顔面けいれん、舌咽神経痛、本態性振戦など

会話や食事の際に堪え難い激痛を生じる三叉神経痛や舌咽神経痛、また顔の半分が自分の意志とは無関係にピクピクと動く顔面けいれんはそのほとんどが脳幹(大脳と脊髄を結ぶ非常に重要な部分)周辺での各神経への血管による圧迫が原因とされています。 放っておいても決して命にはかかわらないものの、患者さんにとってはどれも堪え難い苦痛であります。 当院では内服治療でコントロールできない患者さんに根治術である手術(微小血管減圧術)を行っております。 全身麻酔の手術で 手術時間は2-3時間、入院期間は10日間前後になります。

一般的に三叉神経痛や顔面痙攣における「手術による症状消失、または改善がみられる割合」は80~90%といわれておりますので残念ながら全員に完治をもたらすわけではありません。

本態性振戦(ほんたいせいしんせん)という疾患に対する最新の治療法で「経頭蓋集束超音波治療」というものがあります。 これは MRIのみを用いて行う治療です。 髪の毛は全て剃る必要がありますが、皮膚の切開や頭蓋骨に穴を開けたりする手術ではありません。 患者さんはMRIの機械の中に数時間寝ていただくだけです。
なおこの治療は2019年6月に保険適応となりました。
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三叉神経痛(さんさしんけいつう)

三叉神経痛とは顔に痛みが生じる病気です。 顔の痛みを症状の一つとして生じる疾患はいくつかありますが、ここでは特発性三叉神経痛について記載致します。 三叉神経とは顔面の感覚(熱い、冷たい、痛い、触れている感覚等)を脳へ伝える脳神経の一つです。 額から眼の周り、頬、あご等顔全体の感覚、そして歯の痛みや口の中の感覚も脳へ伝えています。 頬に少し触れた際、食事をしているとき、または会話の途中等に突然顔面に激痛が生じることが典型的な三叉神経痛の症状です。 痛みは非常に強く、「電気が走るような」とか「稲妻が顔を突き抜ける感じ」または「頭から釘をさされたような」等と表現されることもあるくらい激しい痛みであります。 突然痛みがきますが痛みの持続時間としては数秒のものが多く、続いたとしても数十秒です。 これは頭蓋内の血管や脳腫瘍等が三叉神経を圧迫し、それが原因で三叉神経から脳へ伝わる信号に変化が生じることがそのメカニズムと考えられています。

顔面の痛みでも数分以上続くようであれば三叉神経痛である可能性は低いと考えられます。 ただし痛みがあまりにも強い場合ため、実際に痛みがひいていても「痛い感じがするという錯覚」に陥り数分間も痛みが持続しているような気になる方もいらっしゃいます。 また痛みは突然やってきますし激痛ですので痛みを生じるのが怖くて食事すること自体が恐怖になり、体重がみるみるうちに減っていく方もいらっしゃいます。

三叉神経痛の主な原因

三叉神経痛の主な原因は「頭蓋内血管による三叉神経の圧迫」によるものです。 圧迫部位は頭の中心にある脳幹(多くの脳神経が出入りし、大脳や小脳と脊髄を結ぶ生命維持にとって大切な部分)から三叉神経が分岐した直後の 三叉神経根出口領域(root exit zone; REZ)と呼ばれる部分です。

この部分に圧迫血管の拍動が伝わり三叉神経が「異常興奮」することで、顔面やあごからの感覚の情報が誤って「強い痛みとして情報」となり脳へ伝わることで激痛が生じます。

他の原因としては脳幹周囲にできた脳腫瘍や脳動静脈奇形等による三叉神経への圧迫によって生じることもあります。

三叉神経痛の診断

脳神経外科、神経内科の専門医でなくとも痛みの性状やどのような時に痛みが生じるか、またその経過等を詳しく問診することである程度の見当がつきます。 残念ながら三叉神経痛という確定診断がつくまでにいくつもの病院をまわった挙げ句、虫歯でもない歯を抜かれた(もちろんそれで痛みがなくなるわけではないです)という患者さんは少なくないです。
そういった意味ではきちんとした診断が必要になります。

三叉神経痛には症状として特徴的な点がいくつかあり、専門医であればほぼ診察のみで診断がつきます。 しかし三叉神経痛が治療可能である疾患であることすら御存知ない方も実は多くいらっしゃってそのほとんどはまず歯科医を受診されます。 10年以上も三叉神経痛で苦しんでおられた患者さんもいらっしゃいました。 診断には診察に加え頭部MRI(強力な磁石でできた筒に中に入ります。 磁気を用いて頭蓋内の断層写真が撮影できます。放射線被爆は一切ありません)で三叉神経周囲に並走している、またはループを形成している血管を確認することが必須です(稀ですが脳腫瘍による圧迫がみつかることもあります)。

これらが三叉神経の根元やその周囲を圧迫しているようであれば症状と合わせほぼ診断確定となりますがそれでもまだ100%確定とはいえません。 これら血管はその直径が1mm前後の細いものであり、また画像上神経と血管が並走しているからといって必ず圧迫があるとは言えません。 実際に神経への圧迫があるかどうかは手術で直接確認するまでは証明することはできません。 圧迫している血管(責任血管といいます)は動脈ばかりではなく静脈のこともあります。 実際には手術中に顕微鏡で確認しても神経を圧迫する血管が全くみつからないこともあります。 その場合は三叉神経周囲のくも膜(脳表面を覆ったり脳の隙間にある薄い膜)の癒着が原因であったり、くも膜によって三叉神経がねじるようになっていることもあります。 そのくも膜を切ることで三叉神経にゆとりをもたせることでき、結果痛みが消失した事例もあります。

三叉神経痛の治療

  • 三叉神経痛の治療のイラスト

  • <左三叉神経痛に対する微小血管減圧術>
    脳べらで小脳を軽く抑えると脳幹から三叉神経が出て行く部分(起始部)が見えます。
    三叉神経の根元を圧迫していた血管(赤点線)を動かして、テフロンテープで壁に固定したところです(矢印)。
    これで三叉神経への圧迫は解除されました。術後、三叉神経痛はみられなくなりました。

三叉神経痛の症例

  • 三叉神経痛01三叉神経の内側に血管があたっています(黄色の円印)。
    これが三叉神経痛の原因です。

  • 三叉神経痛02三叉神経から離れるように血管を側方に動かします。

  • 三叉神経痛03動かした血管が元の位置に戻らないようにテフロンのテープを巻き付け固定します。

  • 三叉神経痛04これで三叉神経への圧迫はなくなりました。

三叉神経痛に対しての治療としては内服治療、神経ブロック、放射線治療、手術療法等があります。三叉神経痛がみられたから即手術というわけではありません。 治療内容をどうやって選ぶかについては診断を確定したうえで患者さんの訴え、症状の程度、発症からの期間、健康状態、年齢等を総合的に考慮して決定します。 三叉神経痛に対する治療選択の明確な基準はありませんが一般的にはまず薬物療法を行い、それでも痛みのコントロールができない場合、または最初は痛みが抑えられていたものが徐々に症状の進行が見られ内服薬の量が増えてきた場合、または内服薬でアレルギー症状等がみられた手術といった流れになることが多いようです。 もちろん激痛に耐えられなくて最初から手術療法を希望される患者さんもいらっしゃいます。

発症から間もない、もしくは症状が軽度であればまず頭部MRIにて他の疾患がないことを確認したうえで症状に応じて薬剤投与を開始し慎重に経過観察を行います。 内服投与後すぐに効果がみられる方もいらっしゃいます。カルバマゼピン(商品名:テグレトール)、プレガバリン(商品名:リリカカプセル)等を用います。ほとんどの方で痛みを緩和させることができますが、根本的治療ではないため100%痛みをコントロールできるわけではありません。 服用しだしてすぐに痛みが消えたとしてもその後徐々に痛みが増していき、それに伴い服用する薬の量も増えていくことがあります。 その場合内服薬の副作用としてめまい、ふらつき、眠気、薬疹、アレルギー等がみられだしそのために内服を中止せざるを得ない状況になる患者さんもいらっしゃいます。

薬が飲めないようになると激痛を我慢するか次の治療を考えなければなりません。 ペインクリニックで神経ブロック療法を行っておられることが多いですが熟練した専門医による施行が必要となります。 他に治療中の疾患をお持ちであったりするために手術が受けられない患者さんに対しては放射線治療を選択される方もいらっしゃいます。 私たちの施設では薬物療法でコントロールできない患者さん、もしくは手術療法を希望される患者さんに手術(微小血管減圧術)を行っております。

三叉神経痛の原因の90%以上は脳幹近くでの三叉神経への血管の圧迫ですので、その血管を顕微鏡下に数ミリ移動することで圧迫を取り除いてあげることが根本的治療になります。 手術は全身麻酔で行います。三叉神経痛と同側の耳の後ろ(髪の生え際より内側)に4-5cmの皮膚切開をおきます。 その下の頭蓋骨に直径3cmほどの穴をあけ顕微鏡を用いて三叉神経を圧迫している部分の観察を行います。 圧迫血管が確認されたらそれを慎重に三叉神経から離すように移動し、頭蓋骨内部の壁にテフロンテープ(人工血管に用いられる合成繊維)とフィブリン糊(生体から抽出されたのり製剤)で固定します。

ほとんどの方が「術直後から痛みが消失」しますが数週間から数ヶ月を経て「改善」にとどまる方もいらっしゃいます。 一般的には手術の有効率(手術によって痛みの完全消失もしくはある程度の改善が認められる割合)は80~90%といわれています。 手術は最も有効な治療法ではありますが全ての患者さんで完治を達成できるわけではありません。 手術合併症で最も多いものは同側の顔面のしびれ、聴力低下、複視(ものが二重に見える)、髄液漏等になります(合併症の発生率:3-5%)。 中には再手術を受けられる方もいらっしゃいますが再手術では合併症の率はさらに高くなります。

参考HP:「脳神経外科疾患情報ページ 三叉神経痛とは」 日本脳神経外科学会

顔面痙攣(がんめんけいれん)

顔面痙攣(正確には片側顔面痙攣といいます)とは顔の半分が自分の意志とは関係なくピクピクとけいれんする疾患です。 これは顔面神経の不随意な興奮によってその支配筋(眼輪筋、口輪筋、頬筋等)が発作性、反復性に収縮することによって生じます。 中年の女性に多く、片側の眼の周囲(特に下眼瞼部筋)から始まり、徐々に口元へと広がっていきます。精神的緊張、ストレス、疲労、顔面筋の運動などで誘発されることが多いようです。 はじめは眼の周りのピクつきだけであったものが、数ヶ月から数年の経過で症状が進行していき、頬から口元へと痙攣の範囲も徐々に広がっていくことが多いです。 症状の進んだ患者さんでは顔だけでなくあごの下の筋肉(広頚筋)までも痙攣してきます。 また痙攣の起きる頻度も徐々に高くなり四六時中痙攣している患者さんもいらっしゃいます。 顔面痙攣が長期間にわたる患者さんでは、けいれんの収まっているときに同側の顔面麻痺(鼻唇溝;ほうれい線が消え口元が垂れる)がみられることもあります。

この症状がもとで人前に出るのが億劫になったり、その結果転職せざるを得なくなったり(特に営業の方)、またマスクなしでは外出することが出来なくなったという方もいらっしゃいます。

顔面痙攣の主な原因

顔面痙攣の主な原因は「頭蓋内血管による顔面神経の圧迫」によるものです。 圧迫部位は頭の中心にある脳幹(多くの脳神経が出入りし、大脳や小脳と脊髄を結ぶ生命維持にとって大切な部分)から顔面神経が分岐した直後の顔面神経根出口領域(root exit zone; REZ)と呼ばれる部分です。 この部分に圧迫血管の拍動が伝わり顔面神経が「異常興奮」するため、その支配筋である顔面の筋肉が本人の意思とは関係なく(不随意に)収縮を繰り返してしまいます。

他の原因としては脳幹周囲にできた脳腫瘍や脳動静脈奇形、脳動脈瘤による顔面神経の圧迫、その他耳下腺腫瘍、多発性硬化症、Chiari I型奇形等種々の病態によって生じるといわれていますが非常に稀です。 また末梢性顔面神経麻痺(ベル麻痺)後に生じることもあります。

顔面痙攣の診断

脳神経外科、神経内科の専門医による診断が必要になります。 顔面痙攣は明らかで分かりやすい症状ですがそもそも顔面痙攣が治療可能である疾患であることすら御存知ない方もいらっしゃいます。 最長で20年間顔面痙攣を(病気と知らずに)放置しておられた患者さんもいらっしゃいました。

診断には診察に加え頭部MRI(強力な磁石でできた筒に中に入ります。磁気を用いて頭蓋内の断層写真が撮影できます。放射線被爆は一切ありません)で顔面神経周囲に並走したりまたはループを形成する血管を確認することが必須です(非常に稀ですが脳腫瘍による圧迫がみつかることもあります)。

これらが顔面神経の根元やその周囲の脳幹に圧迫しているようであれば症状と合わせほぼ診断確定となりますがそれでもまだ100%確定とはいえません。 これらの神経や血管はその直径が1mm前後のものですので実際に圧迫があるかどうかは手術で直接確認できるまでは証明することはできません。

顔面痙攣の治療

  • 右顔面痙攣の治療のイラスト

  • <右顔面痙攣に対する微小血管減圧術>
    脳べらで小脳を軽く抑えると脳幹から顔面神経が出て行く部分(起始部)が見えます。
    顔面神経の根元を圧迫していた血管(赤点線)を動かして、テフロンテープで壁に固定したところです。(矢印)。 これで顔面神経への圧迫は解除されました。
    術後、顔面痙攣はみられなくなりました。

右顔面痙攣の症例

  • 右顔面痙攣の症例01顔面神経の根元に血管があたっています(黄色の円印)。

  • 右顔面痙攣の症例02血管を外側に動かしてその上にテフロンのテープを挿入します。

  • 右顔面痙攣の症例03テフロンテープを壁にのり付けして移動した血管が動かないようにします。

顔面痙攣がみられたから即手術というわけではありません。 治療をどうやって選ぶかについては診断を確定したうえで患者さんの訴え、症状の程度、発症からの期間、健康状態、年齢等を総合的に考慮して決定します。 顔面痙攣に対する治療選択の明確な基準はありませんが一般的にはまず薬物療法、ボツリヌス菌の注射、それでも症状進行が見られる場合に手術といった流れになることが多いようです。

発症から間もない、もしくは症状が軽度であればまず頭部MRIにて他の疾患がないことを確認したうえで慎重に経過観察を行います。

顔面痙攣を適応症とする内服薬はなく、一般的に内服薬の効果は乏しいことが多いですが中には効果がみられる方もいらっしゃいます。 カルバマゼピン、クロナゼパム、ガバペンといった抗痙攣薬やビタミンB12製剤を投与することが多いです。

手術は希望しないが一時的にでも痙攣を止めたいという方にはボツリヌス毒素療法という選択肢があります。 これはA型ボツリヌス毒素製剤(商品名:ボトックス)を痙攣の起きている顔面筋に数カ所に分けて注射し、顔面筋を麻痺させる(神経筋接合部に作用します)ことで効果を期待します。 有効率は92.6%といわれています。 我が国では2000年にA型ボツリヌス毒素製剤の顔面痙攣への適用が認可されました(保険適応となりました)。 治療効果は注射後2、3日で出現し、1-2週間で安定してきますが、効果持続期間は3ヶ月前後といわれています。 繰り返し注射をすることはできますが対症療法であり(症状緩和のみ)であり根治治療ではありません。

発症から数年経過しそれとともに症状が進行し目立つようになってきた場合、ボツリヌス毒素療法で満足できない場合、完全な治癒を望む場合には手術療法(微小血管減圧術)をお勧めしております。 顔面痙攣の原因の99%以上は脳幹近くでの顔面神経への血管の圧迫でありますので、その血管を顕微鏡下に数ミリ移動することで圧迫を取り除いてあげることが根本的治療になります。 手術は全身麻酔で行います。痙攣を起こしている側の耳の後ろ(髪の生え際より内側)に4-5cmの皮膚切開をおきます。 その下の頭蓋骨に直径3cmほどの穴をあけ顕微鏡を用いて顔面神経を圧迫している部分の観察を行います。 圧迫血管が確認されたらそれを慎重に顔面神経から離すように移動し、頭蓋骨内部の壁にテフロンテープ(人工血管に用いられる合成繊維)とフィブリン糊(生体から抽出されたのり製剤)で固定します。

ほとんどの方が「術直後から痙攣が消失」しますが数週間から数ヶ月を経て「改善」にとどまる方もいらっしゃいます。 一般的には手術の有効率(手術によって痙攣の完全消失もしくはある程度の改善が認められる割合)は80~90%といわれています。 手術は最も有効な治療法ではありますが全ての患者さんで完治を達成できるわけではありません。 手術合併症で最も多いものは同側の聴力低下、顔面麻痺、嚥下障害、髄液漏等になります(合併症の発生率:3~5%)。 中には再手術を受けられる方もいらっしゃいますが再手術では合併症の率はさらに高くなります。

参考文献:「標準的神経治療: 片側顔面痙攣」日本神経治療学会
参考HP:「 脳神経外科疾患情報ページ 顔面けいれんとは」日本脳神経外科学会