脳腫瘍|対象疾患|脳神経外科

脳腫瘍とは

脳腫瘍の主な症状

神経膠腫、転移性脳腫瘍、脊索腫、髄膜腫、神経鞘腫、下垂体腺腫、頭蓋咽頭腫、松果体部腫瘍、類上皮腫、海綿状血管腫、血管芽腫など

脳腫瘍とは脳組織、脳神経またはクモ膜、硬膜等の周辺組織等から発生した「できもの」のことです。 なかには体の他の部分から転移してきたもの(転移性脳腫瘍)や厳密には脳腫瘍ではない(脳と直接関係ない部分に発生し、腫瘍自体が脳に触れていないもの;眼窩内腫瘍、副鼻腔腫瘍、副咽頭腫瘍など)もひとまとめに「頭蓋内腫瘍」、「頭頸部腫瘍」というくくりで脳外科疾患として取り扱うこともあります。

脳腫瘍の症状

症状としては頭痛、複視(物がだぶって見える)、聴力低下、片麻痺(手足に力が入らない)、失語、構音障害(言葉が出にくい、しゃべりづらい)ふらつきの他、てんかん発作、痴呆症状、月経不順、不妊で見つかる方、さらには全く症状がないのに脳ドックを受けた際や転倒して頭を打った際に検査で偶然指摘される方も少なくないです。

このように脳腫瘍は様々な形で見つかることが多い疾患です。 一般的には1万人に1~3人(一年間)の割合で脳腫瘍患者さんがいるといわれております。 専門用語では症状のある場合を「症候性」、無症状でみつかったものを「無症候性」と区別しますが、近年画像診断の進歩や脳ドックの普及によって無症候性脳腫瘍の割合が増えてきております。

脳腫瘍の種類、診断

脳腫瘍はまず良性腫瘍、悪性腫瘍に大別されます。それらはさらに腫瘍を構成する細胞の種類によって分類されます(組織学的分類)。 大きく分けても数十種類、さらに細かく分けると100種類以上に分類されます。 脳腫瘍の診断には頭部CTやMRIという検査が用いられ、これらの検査でほぼ診断が可能です。 このように脳腫瘍であることの診断は比較的容易ですが、どのタイプの脳腫瘍に属するのかを診断するには手術(腫瘍摘出術もしくは生検術)で腫瘍細胞を取り出して詳しく観察しなければいけません(病理組織診断)。

この病理組織診断が最終的な確定診断となります。 脳腫瘍がどの種類に分類されるのか確定診断をつけることは非常に大事なことです。 何故ならそれぞれの組織のタイプの違いによって治療方針が異なってくるからです。 良性腫瘍であればその後の治療が必要ないことが多いですが、悪性腫瘍であれば手術後に化学療法(抗がん剤)、放射線治療等の追加治療が必要になることがほとんどです。 当院では開院からの2年半で脳腫瘍の手術件数総数が200件を超え、切除した脳腫瘍の種類も20種類以上になります。

もっとも多いものは髄膜腫と呼ばれる良性腫瘍でした。 次に神経膠腫、神経鞘腫、下垂体腺腫といった順になります。

脳腫瘍がみつかったら(治療適応とは)

検査の結果、脳腫瘍がみつかりましたと言われて不安にならない人はいないと思われます。 しかし脳腫瘍がみつかったらといってすぐに全員治療が必要となるわけではありません。 治療が必要な脳腫瘍とは基本的に「それ自体が患者さんに悪影響を及ぼしているもの」であります。 例えばMRI等の画像所見から悪性が疑われるもの、腫瘍が正常脳組織を圧迫しているもの、腫瘍に関連した症状がみられているもの等は早期に治療を要すると考えていいと思います。 他には症状はないものの重要な神経等の近くに存在しており、大きくなってからでは摘出困難なことが予想されるようなもの、近い将来症状がみられだすと予想されるようなものでは予防的に早期の手術を考慮する場合もあります。

患者さんの状態(症状、年齢、社会的背景、持病の有無、疾患に対する理解等)が手術適応を決める重要な要素ではありますが、担当医や施設によっては意見が分かれる場合もあります。 特に小さめの無症候性腫瘍の場合にはその傾向が強いといえるでしょう。

無症候性腫瘍

腫瘍に関連した症状はないものの、検査で偶然みつかった脳腫瘍を「無症候性脳腫瘍」といいます。
無症候性脳腫瘍に対する治療方針については各医師で意見がわかれることがあります。 一般的には「日本脳ドック学会」が発行している「脳ドックガイドライン」が参考になりますが、これは考え方の目安であって全ての患者さんにあてはまるというわけではありません。 したがってどれが正解というものもありません。 「早期発見、早期治療」を薦めることもあれば「症状が出るまで待つ」場合もあります。 また慎重な「経過観察」を薦め、その観察期間中に腫瘍サイズが大きくなってきた場合に手術を考えるもの、また中にははじめから放射線治療を考慮する症例もあります。

治療の選択肢

治療の選択肢には「外科的手術」、「放射線治療」、「化学療法」そして厳密に言えば治療ではありませんが「経過観察」も含まれます。どの治療を選択するかを決定するにはいろいろなことを考慮しなければなりません。

先に述べた患者さん側の要素ももちろんですが、担当医の経験や病院の設備等も手術適応を決める大事な要素として忘れてはいけません。 深くて到達困難な場所にできた脳腫瘍や、知識、経験、技術がないとできない特殊な手術などの場合、治療可能な病院は限られてきます。 またより安全性を高める為の特殊な医療機器が必要になることもあります。 もちろんどこの病院でもできる手術もあればどこで診てもらっても同じ治療方針を薦められる場合もあります。

しかし各医師や施設ごとに意見がわかれる場合には慎重に判断をしないといけません。 同じタイプの脳腫瘍をお持ちの患者さんでも一人として同じ方はいらっしゃいません。 それは一人一人治療方針が異なることを意味しています。 手術のリスク、治療しなかった場合のリスク等を十分に検討したうえ、でそれぞれの患者さんに合った治療方針を立てていかねばなりません。 当脳神経外科ではどの治療が最善なのかを患者さんと一緒に考えていきます。

外科的手術(開頭術)

新百合ケ丘総合病院脳神経外科は多くの疾患の治療にあたっておりますが、特に脳腫瘍を専門としております。 通常の開頭手術はもちろんのこと、経鼻的腫瘍摘出術(鼻の穴から行う手術で、頭皮を切開することはありません)や脳室内腫瘍、さらには頭蓋底腫瘍など難易度の高い脳腫瘍に対しても数多く手術を行っております。

脳腫瘍摘出術専用の手術器具や最先端の医療機器も大学病院レベルもしくはそれ以上のものが揃っており、非常に難易度の高い手術にも最小限のリスクで望めるよう常に体制を整えております。

また手術顕微鏡に加え「神経内視鏡」という特殊な内視鏡や術中電気生理モニタリング、ナビゲーションシステム等特別な最新手術機器を駆使し、いかなる脳腫瘍にも最小限のリスクで手術を行うことが可能となっております。 また現代の脳神経外科領域における手術アプローチのほぼ全てを行うことができます。

その中でも特に「頭蓋底腫瘍」や「トルコ鞍部腫瘍」に関しては当科の専門領域としております。 より専門性の求められる頭蓋底腫瘍については、脳神経外科の領域で最も複雑で困難な術式である「広範囲頭蓋底腫瘍切除再建術」も行っております。 この手術はどこの病院でもできるといったタイプのものではなく、全国の大学病院でも行っているところは限られます。 また当院小児科、麻酔科、内分泌内科の協力のもと、小児の脳腫瘍(特に頭蓋咽頭腫、神経膠腫など)の手術も安全に行っております。

脳腫瘍の部位、手術アプローチ

部位別ではトルコ鞍部腫瘍、脳室内腫瘍、頭蓋底腫瘍、頭蓋頸椎移行部腫瘍等ほぼ全ての頭蓋内外の腫瘍に対し対応可能です。また腫瘍の部位、大きさ、広がり具合、患者さんの症状や年齢等を考慮し最善のアプローチ(前頭部、側頭部、頭頂部、後頭部、首の後ろ、耳の後ろ、鼻腔等から腫瘍に到達する経路があります)を選択します。

手術の難易度を決める要因

手術が医療行為である以上、決して「簡単な手術」などというものは存在しません。 どの薬にも副作用があるのと同じで、どの手術にもリスクがつきまといます。しかし各手術によって「難易度」の差があるのは事実です。腫瘍とその周囲の状況は術前MRI等の検査によってある程度は把握できますが、実際に手術を行ってその部位を直視下に観察するまでは分からないことも少なくありません。 手術の難易度を決定する因子として腫瘍の大きさ、解剖学的位置(局在)はもちろんのこと、「血管に富んでいるかどうか(出血しやすい腫瘍かどうか)」、「周囲組織との癒着(剥がしやすいかどうか)」、「腫瘍の硬さ」、「神経や血管等周囲組織の巻き込み」等が重要になってきます。 例えば腫瘍が脳の浅い部分にあり、大きさが小さく、出血もしにくく、周囲の組織を巻き込むことも無く、周囲から剥がしやすく、そして腫瘍が柔らかければ手術の難易度は低くなります。逆に腫瘍が深い位置にあり、大きく、出血しやすく、周囲組織を巻き込んでおり、癒着が強く、硬ければ手術は非常に困難なものとなります。

周囲の神経、血管等重要構造物を巻き込んでいる場合には、手術による後遺症を出さない為に「腫瘍の摘出よりも神経や血管の温存を優先する」こともあれば、将来的な「再発防止目的にて腫瘍周囲の組織も含め広範囲に切除する」こともあります。

このような切除範囲や切除程度の決定については腫瘍の組織像(良性か悪性か)、広がり、年齢、症状、初発なのか再発なのか等を考慮したうえで、術中の執刀医の判断によってなされます。再発や再増大に対する手術は「初回手術」よりも手術そのものの難易度が上がり、再手術における神経温存は更に困難なものとなります。

セカンドオピニオン

他の病院で手術ができないといわれた患者さん、以前手術で切除した腫瘍が再発したが手術不可能といわれた患者さん、そして他の病院で手術が必要といわれたが本当に必要かどうか他の医師の意見を聞きたいという患者さん等に対しては「セカンドオピニオン外来」も行っております。 もちろん当院で初めて脳腫瘍と診断された場合でも他の病院、他の先生の意見が聞きたいといったお申し出があればいつでもおっしゃって頂いて結構です。

手術以外の治療

放射線治療科との密な連携により、手術後の追加治療としてだけでなく、様々な理由で手術を受けることが困難な脳腫瘍患者さん、またはじめから放射線治療を希望される患者さんに対しては「サイバーナイフ」という最先端の放射線治療を行っており良好な成績を出しております。

悪性腫瘍については特殊な化学療法が必要になる症例以外は手術、化学療法(抗がん剤)、放射線治療「サイバーナイフ・リニアック(トゥルービーム)」の集学的治療を行います。詳細は「放射線治療科」のページをご覧下さい。

髄膜腫 -ずいまくしゅ-

髄膜腫は下垂体腺腫とならび、良性脳腫瘍の代表で最もよくみられる腫瘍です。 統計学上、全脳腫瘍の20-30%を占めます。小児には稀でほとんどは成人にみられます。 中年以降の女性に多く、女性ホルモンとの関係があるとも言われています。脳ドックの普及でたまたま見つかることも増えてきました。
髄膜腫の代表的なMRI画像はこちら

髄膜腫は脳腫瘍ではありますが、脳組織そのものから発生するわけではありません。 脳組織そのものから発生する腫瘍を「脳実質性脳腫瘍」と呼ぶのに対して髄膜腫は「脳実質外性腫瘍」といいます。 頭蓋骨の中で脳は「硬膜」とよばれる白くやや厚みのある膜に包まれています。この硬膜は同時に頭蓋骨を裏打ちしており頭蓋骨にピッタリとくっついています。
脳はその硬膜の内側でさらに「クモ膜」にも包まれています。 髄膜腫はこの「クモ膜の表層細胞」から発生し、徐々に内側に向かって(時には外側にも) 成長していきます。 その結果徐々に脳を圧迫していくこととなります。 ある程度大きくなり脳や神経を圧迫しない限り症状がでることはありません。

髄膜腫は基本的に良性腫瘍ですので成長が非常にゆっくりです。 そのため腫瘍に押された部分の脳も圧迫の程度に応じて変形はしますが、少しの圧迫では症状がでることはありません。
従って、症状がみられだして見つかる場合にはある程度の大きさになっていることが多いといえます。 しかし小さい腫瘍でも周囲のむくみ(脳浮腫)を来すことで、痙攣等をおこす原因となっている場合には早期にみつかることもあります。 ほとんどが良性腫瘍ですが、数%に悪性の経過をたどるもの(悪性髄膜腫)があります。

髄膜腫の診断

他の脳腫瘍と同様に頭部MRIが最も有用です。 薬剤を使用しない「単純撮影」という撮影法だけでは髄膜腫と脳はほぼ同じような色調となりますので区別がつきにくく、小さいものであれば見逃してしまう可能性もあります。
そのため髄膜腫が疑われた場合には造影剤という薬剤を注入しながら行う「造影MRI」という撮影を行います。 造影MRIでは腫瘍だけが真っ白に染まりはっきりと映し出されます。専門医が見ればほとんどは一目で髄膜腫とわかりますが、中には他の腫瘍と区別が難しいものもあります。

先に述べましたように硬膜から発生しますので(硬膜は頭蓋骨を裏打ちしていますので)頭蓋内のどこにも発生しうるといえます。 髄膜腫は発生する場所によって症状、治療の難易度等が異なってきますので発生場所による分類がなされます。

髄膜腫の分類

1)発生場所による分類

脳腫瘍は一般的にその発生場所が決まっていたり、腫瘍の種類によって発生しやすい部位に傾向がみられたりしますが、髄膜腫は他の腫瘍と違い頭蓋内のどこにでも発生し得ます。 実際には頭蓋頸椎移行部という頭蓋骨と頚の骨のつなぎ目の部分から脊髄にかけても発生します。

代表的なものとして「円蓋部髄膜腫(えんがいぶ)」、「傍矢状洞髄膜腫(ぼうしじょうどう)」、「大脳鎌髄膜腫(だいのうかま)」、「蝶形骨縁髄膜腫(ちょうけいこつえん)」、「錐体斜台部髄膜腫(すいたいしゃだいぶ)」、「テント髄膜腫」、「小脳橋角部髄膜腫(しょうのうきょうかくぶ)」、「大孔部髄膜腫(だいこうぶ)」、「側脳室髄膜腫(そくのうしつ)」などがあります。
腫瘍の発生部位によって手術アプローチが大きく異なります。
いずれも発生した部位に応じて呼び名がつけられています。 これらの中で蝶形骨縁髄膜腫、錐体斜台部髄膜腫、テント髄膜腫、小脳橋角部髄膜腫、そして大孔部髄膜腫等は頭蓋底髄膜腫と呼ばれます。

2)組織学的分類

病理組織学的には10種類以上に分類されています。 髄膜腫の約95%は組織学的良性脳腫瘍ですが、残りの数%の中には増殖スピードが速く、摘出術後に短期間で再発するような悪性髄膜腫も含まれます。

髄膜腫による症状

腫瘍の発生部位や圧迫の程度によって見られる症状は多岐にわたります。 代表的なものでは頭痛、各脳神経症状(においがしない、視力低下、ものが二重にみえる、顔面の感覚異常、顔面痛、聴力低下、飲み込みづらい等)、運動麻痺、けいれん、記憶障害、歩行障害、言語障害、行動異常、小脳症状(めまい、ふらつき等)などです。

治療の適応

脳ドックやたまたま行った検査で髄膜腫が見つかることも少なくはないです。 たまたま見つかった、つまり症状のない髄膜腫(無症候性脳腫瘍)は基本的に経過観察を行います。 腫瘍が見つかってから3-6ヶ月おきにMRIを撮影し増大傾向にあれば治療を考慮することになります。 また症状がなくても脳への圧迫が強い場合、周辺の脳にむくみ(浮腫)がある場合には早期の治療を考えた方がいいと言えます。

日本脳ドック学会から発行されている「脳ドックガイドライン2019」では無症候性髄膜腫のうち「蝶形骨縁髄膜腫-内側型」と呼ばれるものについては例外的に無症状でも予防的な手術を勧めることになっています。 それはこの部位に生じた髄膜腫が腫瘍の成長とともにすぐ近くの「視神経」を圧迫することが多く、視力障害がみられてから手術を行っても視力回復が困難なことがあるからです。 もちろん腫瘍に関連した症状がみられている場合には治療の適応となります。

治療

髄膜腫の基本的治療は外科的腫瘍摘出術になります。 ほとんどは手術顕微鏡を用いた開頭術になりますが最近は内視鏡を用いた手術もさかんに行われるようになってきました。 また放射線治療も有効とされています。
当院脳神経外科におきましては基本的に手術による治療をお勧めしておりますが(手術第一選択)、患者さんの状態やご希望によっては放射線治療(サイバーナイフ)をはじめから行うこともあります。

手術の難易度は腫瘍の大きさ、発生部位によって大きく異なります。 また周囲の神経や血管等と巻き込んでいたり、脳表面に強くくっついている(癒着)場合には難易度が上がり、術後合併症を生じる可能性も高くなります。 したがって周囲を巻き込んでいる場合、それら重要構造物を損傷しない為に一部腫瘍を残さざるを得ないこともあります。

そのような症例では術後も慎重な経過観察が必要となりますが、再発防止のための放射線治療を追加で行うこともあります。
再発率は摘出の程度や腫瘍細胞の増殖能によって異なりますが、髄膜腫の場合、肉眼的に全摘出されていれば再発の恐れはほとんどないと言えます。
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聴神経腫瘍 -ちょうしんけいしゅよう-(聴神経鞘腫 -ちょうしんけいしょうしゅ-)

聴神経腫瘍とは

聴神経腫瘍とは、脳神経のうち第8脳神経(聴神経)から発生する良性脳腫瘍のひとつです。 更に詳しく述べますと聴神経は蝸牛神経(聴覚を司る)と前庭神経(上下2本あり平行協調および位置感覚を司る)から成りますが、そのうち前庭神経を包んでいる鞘(さや)の部分から発生することが多いです。

この鞘を構成している細胞をschwann細胞(シュワン)といいますのでこの細胞から構成される腫瘍のことをschwannoma(シュワノーマ)と呼びます。 前庭のことをvestibuleといいますので聴神経腫瘍は「vestibular schwannoma」と呼ぶのが正しいですが、慣用的に「acoustic neuroma, neurinoma」等と呼ばれることもあります。
神経鞘腫の代表的なMRI画像はこちら

中年以降の女性に多くみられ、基本的には非常にゆっくりと成長します。 しかし成長速度はそれぞれで、中には何年も大きさが変わらないものあれば、一年に数ミリずつ確実に成長するもの、また数年間おとなしくしていたものが急に大きくなりだすような場合もあります。

聴神経は顔面神経(第7脳神経)とともに脳幹から細い木の枝のように出て行きます。 そして「内耳道」と呼ばれる頭蓋骨内側にある小さなトンネルの中に一直線に入っていきます。 聴神経腫瘍はまず内耳道の中で発生、徐々に成長すると内耳道内を満たします。 さらに成長すると「小脳橋角部」という空間に張り出してきます。 それがさらに大きくなると脳幹や小脳を圧迫することになります。 腫瘍が内耳道を満たした時点で症状がでることもあれば、脳幹を圧迫するぐらいになってはじめて症状がみられることもあります。

聴神経腫瘍の症状

ほとんどの方は「聴力低下」で発症します。 高音が聞こえにくくなった、言葉が聞き取りにくくなったなどの訴えが多いです。 その他 耳鳴りやめまい、ふらつきも代表的な初期症状です。 これらの症状は腫瘍の大きさとはあまり関係ないようで、非常に小さい腫瘍でもこれらすべての症状がみられることもあります。

脳幹を圧迫するような大きな腫瘍ではさらに多彩な症状がみられます。 聴神経の上方にある三叉神経(第5脳神経)を圧迫すれば、腫瘍と同側顔面の感覚異常や痛み(いわゆる三叉神経痛と呼ばれる電撃痛)、前方の外転神経(第6脳神経)への圧迫があればものが二重にみえたり、下方にある舌咽神経、迷走神経等の下位脳神経(第9,10,11脳神経)への圧迫があれば飲み込みづらい等の症状がみられることもあります。
いずれも圧迫を受けて働きが悪くなった脳神経や脳幹の症状といえます。

また腫瘍の圧迫により髄液の経路である「第四脳室」が塞がれたり、腫瘍が産生するタンパクにより髄液の吸収が低下することで「水頭症」とよばれる状態になることもあります。 前者を「非交通性もしくは閉塞性」水頭症、後者を「交通性」水頭症と呼びます。

聴神経腫瘍の診断

他の腫瘍と同様、 頭部MRIが有用です。 特に小さい腫瘍は単純撮影で見逃される可能性がありますので造影剤を注入しながら行う 「造影MRI」が必須となります。
また聴力低下の程度を知るには「聴力検査」や「聴性脳幹反応」と呼ばれる検査が必要になります。

聴神経腫瘍の治療適応

脳ドックやたまたま行った検査で聴神経腫瘍が見つかることもありますが「髄膜腫」の場合と比較すると少ないです。 たまたま見つかった症状のない髄膜腫の場合は基本的に経過観察を行うことが多いのですが、聴神経腫瘍の場合は少し事情が異なります。 見つかったときの腫瘍の大きさや症状(特に聴力)が治療を開始するかどうかの重要な判断材料になります。

髄膜腫、聴神経腫瘍ともに良性脳腫瘍であり成長速度はゆっくりでありますが、聴神経腫瘍が大きくなるとほとんどの患者さんで聴力が落ちてきます。 また一方で腫瘍の成長の有無に関係なく、時間経過とともに聴力障害が進行するとも言われております。 そして一度低下した聴力が元に戻る可能性は非常に低いです。 これらのことを参考にまずは経過観察を行うほうがいいのか、いつ治療に入るか等をよく考えなければなりません。

聴神経腫瘍の治療法

聴神経腫瘍と診断された後は3つの選択肢があります。 「経過観察」 「外科的摘出」「放射線治療」の3つになりますが患者さんの状態、腫瘍の大きさ、症状等から総合的に考慮されます。

1. 経過観察

症状がなくたまたま見つかった、もしくは既に難聴ではあるがサイズが小さな聴神経腫瘍等に対する治療方針については医師によって大きく意見が分かれます。 なかには数年経過してもほとんど大きくならないものがあるため、まずは「経過観察」を勧めることもあります。

この場合は6ヶ月おきにMRIを撮影し、腫瘍が増大傾向にあれば治療を考慮します。 もしくは症状がさらに悪化する(日常生活に支障をきたす)まで待つこともあります。 それとは反対に早期発見、早期治療を勧める場合もあります。 症状がなくてもすでに脳幹に接しているもしくは軽度圧迫がみられるような場合には早期の治療が必要といえます。

2. 外科的摘出

治療を行う場合には 「外科的摘出」か「放射線治療」のいずれかになります。 聴力低下の程度が軽い時点で腫瘍が見つかり、なおかつ腫瘍サイズが20mm以下であれば聴力を保ったまま腫瘍を「全摘出」できる可能性が高くなります。 これを「聴力温存手術」といいます。

また全摘出することよりも聴力を温存することに重きをおく場合には、安全な範囲の摘出(亜全摘:80-90%の摘出で終えること)にとどめることもあります。 すでに難聴を来している患者さんの場合、低下した聴力を手術で元に戻すことはできませんが、聴力低下が軽度の患者さんであれば腫瘍を摘出しても手術後に聴力を保つことのできる「チャンス」が残っているのです。 このチャンスは腫瘍サイズが小さければ小さいほど多い傾向にあります。

さらに治療を考える上で忘れてはならないのが「顔面神経」の存在です。 顔面神経は脳幹から内耳道内部まで聴神経と並んで走行します。 つまりすべての症例で腫瘍と顔面神経はくっついている(癒着している)と考えなければなりません。 すでに聴力が著しく低下している(電話での会話が聞き取れない等)場合には聴神経は腫瘍とともに取り除いてしまいます。 しかし顔面神経はどのような場合においても意図的に犠牲にすることはありません。

聴神経腫瘍の手術で最も多く、そして最も避けたい術後合併症が顔面神経麻痺です。 腫瘍が大きくなればなるほど顔面神経は引き延ばされますし、腫瘍と接している部分は長くなります。 他の要因もありますが腫瘍の大きさだけで考えると腫瘍が小さい方が顔面神経の温存率は高くなります。 この顔面神経の温存率や腫瘍の摘出率等は術者依存といえます。 慣れた術者(エキスパート)ほど術後成績がいいのは当然です。
しかし腫瘍と顔面神経との癒着が強い、腫瘍が硬い、腫瘍が血管に富んで出血しやすい等の条件が重なると手術難易度は高くなり、エキスパートといえどもいい成績を出すことは難しくなってきます。 術後に顔面神経麻痺を出さないように「腫瘍を一部残す」ことも時には必要となりますが、その判断も慣れた術者でなければ難しいです。 聴神経腫瘍の手術は腫瘍をできるだけ取り除くことと同時に腫瘍にくっついた顔面神経、時には聴神経を傷つけないようにしなければならないため脳神経外科の領域でも難易度の高い手術のひとつといえます。

3. 放射線治療

ガンマナイフやサイバーナイフという定位放射線治療が用いられるようになってからは、多くの施設で聴神経腫瘍に対する放射線治療が行われており有用性も認められております。 入院期間も短く、身体的負担も軽度である一方で、治療を行ったからといって腫瘍が消えるわけではありません。 腫瘍の成長を抑えることが放射線治療の効果だからです。

また放射線治療を行うと治療後12-18ヶ月で腫瘍が一時的に大きくなることがあります。 放射線が効いていればその後元のサイズに戻りますが、中には元のサイズにもどらずそのまま大きくなっていくものもあります。 これは治療効果がないことを意味します。 したがって放射線治療が効いているかどうかの判定には少なくとも数年間「腫瘍サイズに変化がないことを確認する」必要があるため時間がかかります。 また30mmを超えるような大きな腫瘍の場合にはガンマナイフでの治療はできません。

どの治療にも利点欠点があります。 どのタイミングでどの治療を行うのが正しいという正解はなく、それは患者さんそれぞれによって異なります。 したがって患者さんが担当医と良くお話されたうえで治療法を選択することがとても重要であるといえます。
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下垂体 -かすいたい-(脳下垂体 -のうかすいたい-)腫瘍

下垂体(脳下垂体)とは

頭蓋骨の中(眉間の奥)で脳の下にぶら下がるように存在する小さな内分泌器官(7-8mm程度)で、前葉と後葉の二つの部分からなります。 頭蓋骨を構成する骨の一つ蝶形骨にあるトルコ鞍という凹みの中に収まっています。 前葉は6種類のホルモン(成長ホルモン、プロラクチン、副腎皮質刺激ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、性腺刺激ホルモン[黄体化ホルモン、卵胞刺激ホルモン])を、また後葉は抗利尿ホルモンとオキシトシンを分泌します。

下垂体前葉ホルモンは副腎皮質、甲状腺、性腺など数多くの末梢ホルモン分泌を調節しています。 このため下垂体機能が低下すると、結果的に副腎皮質ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、性ホルモン等の分泌が障害され、ホルモンの種類により多彩な症状が現れます。

下垂体腺腫とは

下垂体腺腫は脳下垂体に発生する良性腫瘍です。一般的には下垂体前葉の細胞が腫瘍化したものです。 下垂体はホルモンを産生する器官でありますが、下垂体腺腫はホルモンを産生するもの(ホルモン産生腺腫)とそうでないもの(非機能性腺腫)に分けられます。
前者は分泌するホルモンの違いによって次のように分類されます。

  1. 成長ホルモン産生腺腫:先端巨大症、巨人症
  2. プロラクチン産生腺腫:プロラクチノーマ
  3. 副腎皮質刺激ホルモン産生腺腫:Cushing病(クッシング病)
  4. 甲状腺刺激ホルモン産生腺腫
  5. 非機能性腺腫:下垂体ホルモンの過剰分泌がみられない

原発性脳腫瘍の中で3番目に多い腫瘍ですので決して稀な疾患ではありません。 一般的には青壮年期から老年期に多く発生するといわれていますが、十代、二十代の若い世代にもみられます。 タイプ別では非機能性腺腫が40%と最も多く、次いでプロラクチン産生腺腫(30%)、成長ホルモン産生腺腫 (20%)の順になります。 副腎皮質刺激ホルモン産生腺腫や甲状腺刺激ホルモン産生腺腫は非常に稀です。

下垂体腺腫の症状

同じ下垂体腺腫であっても上に挙げたタイプそれぞれに特徴的な症状があります。

1 成長ホルモン産生腺腫

先端巨大症、巨人症という病名がつくことより想像がつくかとおもわれますが成長ホルモンが過剰に分泌されることで身体的に特徴的な症状を示します。 小児期にこの疾患になると身長や手足が異常に伸び、いわゆる「巨人症」になります。 また成人になってからですと手足の先端や額、あご、鼻、舌等が肥大して「先端巨大症」といわれます。 靴や指輪のサイズが合わなくなったとか、数年前に比べて顔つきが変わったということからこの病気が見つかることがよくあります。 睡眠時無呼吸や咬合不全の原因の一つでもあります。 男性ですと性機能の低下、女性では無月経等もみられます。 組織学的には良性腫瘍でありますが、放置しておくと糖尿病、高血圧、心不全等生命を脅かすようなことになります。

2 プロラクチン産生腺腫

若い女性(20~40歳代)に多く、プロラクチンの過剰分泌により月経不順や無月経、乳汁分泌を来します。 妊娠していないのに体が妊娠しているような状態になります。 これらの症状はすぐに気付かれることが多いので他の腺腫と比較して腫瘍が小さいときに見つかる傾向があります。 女性不妊症の原因として非常に重要な疾患です。 また稀ですが男性にも発生し、性欲や性機能の低下がみられます。 その場合気付かれないことが多く、腫瘍が大きくなり視力、視野障害がみられて初めて発見されることがあります。 従って男性では中高年にみられ、腫瘍が大きいことが特徴です。

3 副腎皮質刺激ホルモン産生腺腫

別名Cushing病(クッシング病)と呼ばれ、下垂体から副腎皮質刺激ホルモンが過剰に分泌されます。 若年から中年の女性に多く、肥満(顔が満月様に丸くなり、手足に比べて胸や腹が太る、いわゆる中心性肥満という体型になります。にきびができやすく、体毛が濃くなります。前胸部や下腹部に赤紫色の引っ掻いたような線状の痕跡(皮膚線条)が、みられたり、皮膚の色素沈着や上下肢に青あざができやすくなったりします。 また女性では無月経にもなります。 小児では思春期に月経が発来しない、いわゆる原発性無月経の原因の一つでもあります。 また高血圧や糖尿病を伴うこともある等多彩な症状を示します。

4 甲状腺刺激ホルモン産生腺腫

現在までに約350例ほどの報告しかなく、最も稀なホルモン分泌性下垂体腺腫です。 前年齢層に生じ、性差はありません。 症状は甲状腺の機能亢進に基づく頭痛、急な痩せ、手の振るえ、動機、不整脈、下痢、精神症状等になります。 また大きな腺腫が多く、腫瘍が視神経を下方から圧迫して視力師や障害を伴います。 また時に成長ホルモンやプロラクチンを同時産生し先端巨大症や無月経、乳汁分泌等もみられます。

下垂体腺腫の診断

画像診断については頭部MRIが最も有用です。 特に造影剤という薬剤を用いた画像であれば数ミリ程度の非常に小さな腫瘍の検出も可能です(正常下垂体の方がよく造影され、腺腫の方は造影効果が低いためそのコントラストの差で腫瘍の位置や大きさが分かります)。 また小さい腫瘍の場合には造影剤を急速注入しながらMRIを数十秒おきに連続撮影することもあります(ダイナミックMRI)。

血液検査ではそれぞれ過剰に分泌されている下垂体ホルモンが高値を示していることに加え、各種ホルモン負荷試験を行うことで、それぞれの腺腫における各診断基準を満たすこと等が重要です。 その他ホルモン過剰分泌に関連した症状等を含めて総合的に診断することとなります。

下垂体腺腫の治療

下垂体腺腫と診断された患者さんの全員が治療を必要とするわけではありません。 たまたま見つかった「無症候性」腺腫であればまずは外来での定期的な経過観察となります。 基本的には腫瘍に関連した症状がみられている患者さんが治療対象になりますが、無症候であっても腫瘍が上方に進展し、視神経に触れている、もしくは軽度の圧迫があるような症例では手術を考慮します(脳ドックのガイドライン2019)。

下垂体腺腫の治療の原則は手術による腫瘍摘出術(経鼻的、経蝶形骨洞的腫瘍摘出術)です。 腫瘍の大きさ、広がりの程度等によっては開頭術を選択することもあります。 腫瘍が大きい場合には2回に分けて経蝶形骨洞的腫瘍摘出術を行うこともあります。 また腫瘍が上方、側方に広がっており、開頭術と経鼻的腫瘍摘出術の両方が必要になる症例もあります。

またホルモン産生腫瘍の場合には薬剤が選択されることがあります。 特にプロラクチン産生腺腫(プロラクチノーマ)においては薬剤投与が第一選択となりつつあります。 最近では非常にいい薬剤が開発され、週に一回の内服で効果のみられるものもあります。

手術と薬剤による治療の大きな違いは、手術では腫瘍を取り除くことが可能ですが、薬剤では腫瘍の増殖を抑えるというだけで、腫瘍が完全になくなってしまうというわけではないことです。 つまり薬剤を選択した場合には、手術のように体にメスを入れる必要はありませんが「長期にわたり、薬剤を使い続けなければならない」ということになります。

必ずしも手術ですべての腫瘍が摘出できるわけではありません。 下垂体腺腫の両脇には内頚動脈という非常に大事な血管があり、その周囲は海綿静脈洞という脳神経が走行している場所になります。 腫瘍がこれらの重要組織内に入り込んでいることもあります。 そのような場合には無理せず腫瘍を残してくる必要があります。 このような残存腫瘍に対しては、術後に定位放射線治療(病変部のみに限局して放射線を照射する)を行うことがあります。当院ではサイバーナイフという最新の放射線治療を行っています。

当院では内分泌代謝内科、放射線治療科の協力のもと最善の治療法を選択することができます。 いずれの治療法にも利点、欠点がありますので担当医と良く相談して決めなければなりません。
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頭蓋咽頭腫 -ずがいいんとうしゅ-

頭蓋咽頭腫とは

胎生期に頭蓋咽頭管といわれる部分の細胞が一部残ってしまったため発生する先天性腫瘍で、良性腫瘍の代表的なものです。 比較的稀な腫瘍で原発性脳腫瘍の約3%を占め小児から成人まで全年齢層にわたってみられます。 しかし約20%は15歳未満の小児に発生し、小児脳腫瘍の中では4番目に多いと言われています。

ホルモンの中枢である下垂体の上部にある 下垂体柄という部分に発生し、頭蓋底の中央にあるトルコ鞍とよばれる凹みの中、もしくはその直上にみられることが多いです。 嚢胞を形成することが多く、嚢胞の中にはモーター油に似た液体とコレステロールの結晶を含みます。 腫瘍成分には砂状や結節状の石灰沈着がみられます。

※下垂体(脳下垂体)とは

頭蓋骨の中(眉間の奥)で脳の下にぶら下がるように存在する小さな内分泌器官で、前葉と後葉の二つの部分からなります。 頭蓋骨を構成する骨の一つ蝶形骨にあるトルコ鞍という凹みの中に収まっています。 前葉は6種類のホルモン(副腎皮質ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、成長ホルモン、黄体化ホルモン、卵胞刺激ホルモン、プロラクチン)を、また後葉は抗利尿ホルモンとオキシトシンを分泌します。下垂体前葉ホルモンは副腎皮質、甲状腺、性腺など数多くの末梢ホルモン分泌を調節しています。 このため下垂体機能が低下すると、結果的に副腎皮質ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、性ホルモン等の分泌が障害され、ホルモンの種類により多彩な症状が現れます。

頭蓋咽頭腫の症状

腫瘍が大きくなると髄液の流れを悪くし、水頭症から頭痛、嘔吐など頭蓋内圧亢進症状がみられることがあります。 近傍の視神経を圧迫すると視野が欠ける(両耳側半盲)、視力低下等がみられます。 また下垂体のホルモン分泌機能が低下するため身体発育が遅れる、低身長、薄い毛髪、基礎代謝の低下など下垂体機能不全症状を来します。 また視床下部という部分にも影響が及ぶと低体温、傾眠、尿崩症、電解質異常等がみられます。 成人では視神経症状と精神症状で発症することが多いです。

頭蓋咽頭腫の診断

頭部CTではトルコ鞍上部に散在する結節状石灰化病変として、また頭部MRIでは嚢胞を伴う腫瘍性病変として描出されます。 造影剤を用いた検査では腫瘍の実質部分と嚢胞壁の部分が増強されてみえます。 また血液データにおける下垂体ホルモン値の異常や、臨床症状、年齢等から総合的に診断されます。

治療法

基本的には外科手術による摘出を行います。
手術は開頭術と経鼻的腫瘍摘出があります。 前者はさらにこめかみの方から腫瘍に到達する方法と左右の脳の間から(額の少し後ろあたりから)到達する方法が主流です。 どのアプローチで手術を行うかは腫瘍の大きさや広がり具合、また執刀医の慣れ、経験等で決定されます。

腫瘍と周囲との境界は明瞭で圧迫しながら発育してきますので全摘出ができれば完全治癒が期待できます。 しかし一般的には周囲の重要構造物(視神経、第三脳室底、視床下部、血管)への癒着や浸潤等がみられることが多く、見た目には全摘出したとしても取りきれていない細胞が残っている可能性が高いです。 そのような場合には再発する可能性が高くなります。 また、周囲重要構造物を損傷しない為に一部腫瘍を残さざるを得ないこともあります。
腫瘍の発生する部位、腫瘍の特性(周囲への浸潤、癒着)等のため、他の良性腫瘍と比較すると手術合併症も高いと言わざるを得ません。 全摘出できなかった症例には再発防止のための放射線治療が有効といわれています。 ガンマナイフやサイバーナイフといった定位放射線治療で多くの有効性が報告されています。 病理組織学的には良性であっても再発を繰り返すことが多いため、他の良性腫瘍と比較すると臨床的には良性と言い難い部分もあります(全摘出した症例でさえも再発率は30-50%といわれております)。 それゆえ、術後も外来における長期的な経過観察が必要となります。

ラトケ嚢胞 -らとけのうほう-

ラトケ嚢胞とは

ラトケ嚢胞とは下垂体の内部にできる袋状のもので、内部に粘液が入っています。子供から大人まで見つかることがありますが、何も症状がなく偶然に発見されることが多いです。ただし、袋が破裂して内容液が外に漏れ出すことがあり、その際には激しい頭痛発作を起こすことが知られています。

また長期間放っておくと、下垂体に炎症を引き起こしそのために下垂体ホルモンの障害を起こす場合があります。いったんホルモンの障害が進行すると治療しても回復せず、ホルモン補充のための治療が一生必要になります。手術を受けたほうがよい方というのは、ラトケ嚢胞が原因で視力や視野に障害が出始めている、日ごろから激しい頭痛発作があり鎮痛薬などの効果があまりない、血液検査で下垂体ホルモンの低下が始まりつつある、といった方々です。

治療は手術以外にありませんが、頭を開けることなく鼻から顕微鏡や内視鏡を使って摘出します。非常に再発が多い手術ですが、当院ではアルコール処理や脂肪を内部に詰め込むなどの工夫をして再発率を下げることに成功しました。また頭痛に関しても、厳密に点数化して術後の評価を行っています。手術治療を受けた多くの方は、手術前には生活に支障のある頭痛であったものが、90%以上で改善しています。ラトケ嚢胞があるといわれ、日ごろから激しい頭痛に悩んでいる方は、是非ご相談にいらして下さい。

頭蓋底腫瘍 -ずがいていしゅよう-

頭蓋底とは

頭蓋骨の底の部分になります。 頭蓋骨と脳の関係はよく豆腐のパックに例えられますが、豆腐(=脳)、水(=脳脊髄液)、容器(=頭蓋骨)としますと容器の底の部分が頭蓋底になります。
この部分は脳幹という生命維持に重要な部分と左右で12対の脳神経、さらにはいくつもの血管(動脈、静脈)等の重要構造物が存在します。 頭蓋底は大きく前頭蓋窩(底)、中頭蓋窩(底)、後頭蓋窩(底)と三つに区分されますが、腫瘍の存在している部位によっては「その部位に到達すること自体」が非常に難易度の高い技術を要することがあります。

なるべく正常脳を圧迫しないようにしながら、なおかつ骨の中に埋もれている神経や血管を傷つけないようにしながら頭蓋骨の底の部分の骨をドリルで慎重に削り病変部に到達します。 そこで初めて腫瘍に到達できるのですが頭蓋底腫瘍は通常周囲の神経や血管を押しのけながら、また巻き込みながら成長していきますので腫瘍に到達することだけでなく、摘出することも高い技術と豊富な経験、そして正確な判断力が必要とされます。

また骨を削った部分の補修(頭蓋底再建)も重要になります。 通常、腹部から脂肪と筋肉の膜を採取してその補修を行い(無茎皮弁)、さらに頭皮内側の膜を2枚におろしてパッチをあてる(有茎皮弁)といった作業をおこないます(広範囲頭蓋底腫瘍切除再建術)。 それゆえ手術時間も10時間を超えることが多いため、2日に分けて手術を行うこともあります。 このような特殊性や手術難易度の違い等の理由から「頭蓋底腫瘍」は一般的な脳腫瘍と区別されてとらえられます。
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電気生理モニタリング

患者さんが全身麻酔下に眠っている状態でも各脳神経や手足の動きが機能しているかをモニターするためのものです。 これによって術後の顔面麻痺や聴力低下、片麻痺等のリスクが最小限になります。

ナビゲーションシステム

術前MRI検査の画像データを手術中にディスプレイ画面で確認しながら、術者が現在どのあたりに到達しているか、病変までどのくらいの距離があるのか、隠れている部分はどの程度か、大事な血管はどこを走っているか等を手術に必要な様々なの情報をあらゆる方向からリアルタイムで知ることができます。

車のGPS機能と同じようなものを解剖が複雑で細かな脳外科手術に応用したものです。 精度はミリ単位と非常に正確なものであり、これによって手術の精度、安全性がより高まり、リスク軽減、手術時間短縮に寄与します。