ペースメーカー|治療方法|循環器内科

心臓ペースメーカー治療について

ペースメーカー治療は、心拍が遅くなるタイプの不整脈に対する唯一の確立した治療法で、症状のみならず生命予後の改善も期待できる治療です。以下、心拍の成り立ちと心拍の遅くなるタイプの不整脈についてかんたんに説明し、ペースメーカー治療について解説します。

  • 図1 心臓の電気活動と収縮図1 心臓の電気活動と収縮
  • 心臓は右心房の洞結節という場所で発生する電気活動が心臓全体に伝わることにより自律的な収縮を繰り返し全身の血液を循環させています(図1)。心臓が血液を循環させるポンプ活動の主力は心室です。心収縮(心拍)は通常1秒に1回(毎分60回)の速さで繰り返し、自律神経の調節により速くなったり遅くなったりします。洞結節で発生した電気活動は心房と心室の接合部にある房室結節・ヒス束を通って心室に伝わります。房室結節では電気の伝わる速度が遅いため、心房と心室の収縮には一定の時間差が生じます。この時間差により心室は血液が充満した後に収縮することが可能となり効率的なポンプ活動が実現します(参考:山下武志著,心筋細胞の電気生理学,メディカルサイエンスインターナショナル,東京,2002、)。

心収縮により心室内の血液が動脈に送り出されると全身の動脈が振動します。この動脈の振動を触れた際の拍動を脈といい、1分間に拍動する回数を脈拍(数)といいます(通常、脈拍は心拍数に一致します)。脈拍が異常に遅くなったり、脈拍の間隔が異常に長くなったりする状態を徐脈といいます。一般に脈拍が毎分50未満となった場合を徐脈と診断します。徐脈の原因としては、1)洞結節から電気信号が発生しにくくなる、2)電気信号が心房から心室に伝わりにくくなる、の2つの場合が考えられます。前者を洞不全といい、後者を房室ブロックといいます。これらを徐脈性不整脈といいます。なお、洞不全や房室ブロックにより数秒にわたって心臓が止まってしまった場合、そのまま心停止となってしまうことは少なく、心臓には心停止を免れどうにか自力で収縮しつづけようとする潜在能力がそなわっています(これを補充収縮といいます)。

  • 図2(洞不全による7秒の心停止)図2(洞不全による7秒の心停止)
  • 徐脈の症状としては、易疲労感、息切れ、めまい、失神などがあります。症状の原因が徐脈によるものかどうかを診断することは必ずしも容易ではありません。一般に、症状が出ることを想定して長時間の心電図を記録し(24時間心電図波形を連続記録するホルター心電図など)、記録中に出た症状に一致して洞不全や房室ブロックの心電図所見が確認されれば、その患者さんの訴える症状は徐脈によるものだろうと診断します。図2は、ときどきふらっと気が遠くなるような症状がみられ、先日は自宅でふらっとした後に気を失って倒れてしまった、との訴えで受診された患者さんのホルター心電図記録です。ふらっとするような症状が出た時刻に一致して洞不全により心臓が7秒間止まっている様子が記録されました。

徐脈により日常生活に支障を来すような症状がある場合や、徐脈により心不全を来たした場合、失神が起きた場合などにペースメーカー治療を検討します。検討するという言葉を使う理由は、徐脈が生じた原因によってはこれを是正することにより徐脈が解消されることがあるからです。例えば、薬の副作用として徐脈が起きた場合には、その薬を中止することにより徐脈が解消することがあります。このような是正しうる一時的な誘因が明らかでない場合にはペースメーカー治療が必要となります。日常生活に支障を来たす症状は患者さんにより様々で、息切れの場合もあれば失神の場合もあります。脈拍数に関する基準はありませんが、毎分40未満や3秒を超える心停止が参考とされます。

ペースメーカーとは

  • 図3(ペースメーカー本体とリード)図3(ペースメーカー本体とリード)
  • ペースメーカーは心臓の電気活動を連続的にモニターし、遅い心拍を検知すると小さな電気パルスを発出して心収縮を生み出し(これをペーシングといいます)正常な速さの心拍を維持しようとする装置です。ペースメーカーは本体部分とリード線とが接続された装置で、本体は電気パルスを発生させる電子回路と電池とがチタン製の容器に内蔵された部分で(大きさ50×45×7.5 mm、重さ25g程度)、リード線は心筋の電気活動を記録し電気パルスを心筋に伝えるシリコンでコーティングされた電線部分です(図3)。電池寿命は7~8年でしたが、最新は10年以上のものも多くなってきました。

ペースメーカー本体は鎖骨の下方に作った皮下ポケット(皮下脂肪と大胸筋との間に作ったスペースのこと)に植え込み、リード線は鎖骨のやや下方を通る静脈(鎖骨下静脈)から挿入し心腔内に進め先端位置を固定した後に留置します(図4)。リード線を留置する場所は右心房と右心室です。ペースメーカー本体は皮下ポケット内で糸固定するため移動することはありません。リード線も、心収縮とともにしなやかたわみますが、先端は心筋に固定され動きません。ペースメーカーを植え込む手術(ペースメーカー植込術)は入眠剤・鎮痛剤と局所麻酔を用いて行われます。手術に要する時間は約2時間です。ペースメーカーを植え込んだ部分を指で触るとペースメーカー本体が固く触れます(あまり触らないよう注意しましょう)。やせた患者さんではペースメーカー本体の形が皮膚の下にくっきりと浮き出て見えることもありますが心配ありません。心臓内に留置されたリード線を違和感として感じることもありません。

図4(ペースメーカー植え込み)図4(ペースメーカー植え込み)

ペースメーカーは、先に述べたとおり心拍が遅くなると電気パルスを出して心臓を収縮させ(ペーシング)正常な速さの心拍を維持する装置です。心拍数(レート)を毎分60と設定した場合、ペースメーカーは心拍の間隔を連続的に測定しており、自身の心拍(自己心拍)が毎分60の速さより遅くなった瞬間に電気パルスが出て人工的に心臓を収縮させます。洞結節から発生する電気信号が急に止まったり(洞不全)、房室結節を伝わる電気信号が急に途切れたり(房室ブロック)したときに、心拍数が急に遅くなるのを防いでくれます。一般に、洞不全では右心房のリード線から電気パルスを出して心房を人工的に収縮させ、房室ブロックでは右心室のリード線から電気パルスを出して心室を人工的に収縮させ、正常に近い心拍を作り出します(生理的ペーシング)。自身の心拍数が毎分60以上のときペースメーカーは心臓の電気活動をモニターするだけで電気パルスは出しません。全心拍のうちペーシングによる心拍が何パーセントであるかを示す数字がペーシング率です。ペーシング率は自身の心拍がどれだけペースメーカーに依存しているかを示す指標となります。

ペースメーカー治療後について

術後から翌朝まではペースメーカー植え込み部を止血目的にガーゼで圧迫(創部圧迫)し安静を保っていただきます。術翌日の状態に問題がなければ創部の圧迫を解除して動けるようになります(病棟内)。ナースステーションにある心電図モニターにより経過観察します。術後スケジュールにしたがい血液検査、心電図、レントゲンによる評価を行います。自分で脈拍数を数えられるように看護師のサポートを受けながら検脈の練習もしていただきます。また、ペースメーカーに関する理解を深めていただく(ペースメーカー治療後は自己管理も大切です)ため所定の冊子に目を通し勉強していただきます。分からないところは、医師・看護師・臨床工学士などに気軽にお聞きください。術後1週間目に抜糸および植え込んだペースメーカー最終確認を行い退院となります。

術後1ヶ月程度は心臓内に固定したリードがずれる可能性のあるため、身体に衝撃が加わる動作(ジャンプや尻もちなど)やペースメーカーを植え込んだ側の腕を大きく動かす動作(腕の挙上や肩のストレッチなど)はしないように注意します。ただ、あまり腕の動きを気にしすぎると、のちのち肩関節が固くなり腕を動かしたときに痛みを感じるようになりますので注意しましょう。術後2カ月目からはふだん通りの動作で問題ありません(主治医に確認してください)。退院後の生活の中で、でどの程度の運動まで許容されるかにつきましては、年齢や足腰の状態、心疾患の種類によって異なりますので主治医にご相談ください。

誤作動を起こす可能性のある機器について

ペースメーカーは電磁波の影響を受け誤作動する可能性がありますので、以下に示すような機器の扱いには注意が必要です(参考:山下武志解説,拍動・脈の遅い不整脈「徐脈」とは?症状や原因、治療法、危険性,NHK健康チャンネル)。

携帯電話

ペースメーカー植え込み部から15 cm以上離して使用する必要があります。ペースメーカーと反対側の手で持って使用すると安心です。

IH調理器・IH炊飯器

IH調理器・からは電磁波が出ており、IH炊飯器については保温中にも電磁波が出ますのでご注意ください(接近させなければ心配ありません)。

肩こり治療器・電気風呂・筋力増強用機器(EMS)・体脂肪計

強い電磁波が出てペースメーカーの作動に影響し、誤作動により失神などを来たすことがありますので使用できません。

ペースメーカーは金属製であるため、ペースメーカーを植え込んだ患者さんは磁気を使用するMRI検査を受けられませんでした。しかし、2012年10月からMRI対応型のペースメーカーが発売され、このMRI対応型の新型ペースメーカーを植え込んだ患者さんは条件付き(ペースメーカーの状態の確認や設定の変更が必要となります)でMRI検査を受けられるようになりました。過去に従来のペースメーカーを植え込んだ患者さんはMRI検査を受けられません。MRI対応の新型ペースメーカーに交換した場合には、リードがMRI対応型であればMRI検査を受けられるようになります。リードがMRI検査に対応したものでなければ、残念ながらMRI検査を受けることができません。MRI対応型ペースメーカーを植え込んだ患者さんに対するMRI検査は、施設基準を満たし認定を受けた病院でのみ施行可能となります。また、MRI検査を行う際には、ペースメーカー手帳とMRI対応のペースメーカーであることを証明するカードの提示が必須となります。

遠隔モニタリング

近年、遠隔モニタリングというペースメーカーのホームモニタリングシステムの利用が増えつつあります。遠隔モニタリングとは、患者さんのお宅に専用の中継機器を設置しペースメーカー情報(電池残量・作動環境・不整脈の発生状況など)を病院に送信していただき(多くは自動送信)病院側でその情報を活用するシステムです。患者さんはご自身のペースメーカー情報をご自宅から病院に提供することが可能となりますので、効率のよい診療体制といえます。コロナ禍で感染防止の観点から病院を受診することが難しくなった時期に非常に役に立ったシステムです。当院ではこの遠隔モニタリングを積極的に導入し診療に役立てています(図5)

図5(遠隔モニタリングシステム)図5(遠隔モニタリングシステム)