広報紙 vol.69しんゆりニュースレター

2024/1/4掲載

血液内科特集

血液内科特集|広報紙

選ばれる血液内科を目指して

  • 新百合ヶ丘総合病院
    血液内科 部長
    たうち てつぞう
    田内 哲三 医師
  • 【プロフィール】
    1986年東京医科大学医学部医学科卒業。東京医科大学内科第一講座入局。92年米国インディアナ大学へ留学。95年東京医科大学助手として内科学第一講座勤務。2001年東京医科大学講師として内科学第一講座勤務。08年東京医科大学准教授として血液内科学分野勤務。19年4月より現職。
    日本血液学会専門医・指導医/日本内科学会指導医/日本内科学会認定医
  • 当院の血液内科では、健康診断で指摘された白血球・赤血球・血小板数の異常値や異常細胞の出現、リンパ節の腫脹、血液凝固の異常などから血液疾患が疑われた方だけでなく、かかりつけの医療機関で血液疾患(鉄欠乏性貧血、特発性血小板減少性紫斑病などの良性疾患や、白血病、骨髄異形成症候群、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫などの造血器腫瘍)と診断された方を対象として幅広く診療を行っています。

    血液内科で扱う疾患の大多数は、いわゆる難病や造血器腫瘍であり、その診断・治療には専門的な知識と経験が必要とされます。当科は、日本血液学会認定血液専門医3名の医師が在籍する日本血液学会認定血液研修施設であり、毎日の血液専門外来では常時25~30名の患者さんの診療を行っており、十分な経験と実績のある施設です。

    かつて血液疾患は大学病院でなければ診療が難しいとされてきましたが、新規分子標的医薬品の開発により治療の場が入院より外来へと移行しており、総合病院でもその疾患を取り扱うことが可能になってきました。

  • 当科では多様化する造血器腫瘍や難治性血液疾患に柔軟に対応し、分子標的薬剤を積極的に取り入れ、正確な診断とエビデンスに基づく治療を検討し、患者さんやご家族のご希望を尊重しつつ、それぞれの患者さんに最適な治療法を選択することを心がけています。

    また、血液疾患の治療にあたっては、全身の様々な臓器に合併症を認めることが多々ありますが、各科との良好なチームワークにより質の高い診療を提供できることも当院の特徴といえます。

    さらに当科では、令和4年4月より日赤医療センター骨髄腫アミロイドーシスセンター顧問の鈴木憲史医師による骨髄腫専門外来を行っております。鈴木憲史医師は国内随一の骨髄腫治療エキスパートであり、最先端の治療を受けることが可能です。当科では国内随一の骨髄腫治療エキスパートの診療を、事前予約なしでも受診可能な体制をとっております。

【目次】

【急性骨髄性白血病の治療】

急性骨髄性白血病とは、血液のがんの一種で、血液を造る骨髄で異常な血液細胞(白血病細胞)が造られる病気です。正常な状態の骨髄では、いずれ成熟した血液細胞に成長する血液の卵の細胞(造血幹細胞)が造られています。造血幹細胞は、将来リンパ球になるリンパ球系幹細胞と、赤血球や顆粒球や血小板になる骨髄球系幹細胞になります。骨髄球系幹細胞は骨髄芽球に成長しますが、この骨髄芽球が異常な白血病細胞となり、正常な血液細胞に成長できなくなった状態が、急性骨髄性白血病です。

骨髄の中で造血幹細胞が様々な細胞に成長していくことを「分化」といいます。急性骨髄性白血病は、分化の早い段階で細胞が成長をやめてしまうことによって起こります。この成長をやめた細胞(白血病細胞または芽球と呼びます)が骨髄中で増殖し、骨髄を占拠します。その結果、正常な血液細胞が造られなくなり、出血、感染によって致命的な経過をたどります。

急性骨髄性白血病と診断が確定すれば、入院の上、早急な治療が必要となります。初めの治療は抗がん剤による化学療法です。最初の化学療法(寛解導入療法)は完全寛解(顕微鏡検査で白血病細胞が見られなくなり、血球数が正常値となる状態)を目指します。完全寛解となっても体内に白血病細胞は残存しているので地固め療法や維持療法といった化学療法を繰り返し行い、根治を目指します。途中で中止すると再発する可能性が高くなります。

ご高齢の場合は、抗がん剤の副作用が強くなるため、抗がん剤の種類やその投与量を調整しなくてはなりません。特にご高齢の方の場合は治療強度を弱め、分子標的薬であるBCL-2阻害剤を併用することにより若い方と同等の効果が得られるようになりました。化学療法により寛解とならない場合や寛解となった後に再度、白血病細胞が出現(再発)した場合、さらには発症時の諸検査にて、その後の治療効果があまり期待できないと考えられる場合には、ご家族あるいは非血縁者からの造血幹細胞移植が必要となります。

急性骨髄性白血病の治療テクノロジーが治療法を変える~分子標的薬

【多発性骨髄腫の治療】

多発性骨髄腫は血液細胞の中の「形質細胞」という細胞が悪性化してどんどん増殖していく病気です。血液細胞を造り出す工場のような役割をしているのが「骨髄」ですが、骨髄で形質細胞ばかりを造るので、他の細胞(赤血球、血小板、形質細胞以外の白血球)が造られなくなり、様々な症状(貧血、倦怠感、息切れ、紫の痣、浮腫など)が起こってきます。また、免疫グロブリン(抗体)を産生する形質細胞が腫瘍化すると単一(Monoclonal)の免疫グロブリンのみを産生するので、「M蛋白」と呼ばれます。このM蛋白が血液の中に増えすぎると、血液がドロドロの状態になったり、腎臓に沈着して「骨髄腫腎」と呼ばれる腎障害を起こしたりします。骨髄の中で固まり(腫瘍)を造ってくると、溶骨性変化といって、骨が弱くなり、ささいな力で折れやすくなります。

多発性骨髄腫多発性骨髄腫

多発性骨髄腫は治癒することが難しい疾患です。早期治療により生命予後が改善しないため、症状がない無症候性骨髄腫の場合には、定期的に経過観察をして症候性骨髄腫となった時点で治療を開始するのが一般的です。病気と共に、通常の人と変わらない生活を長く行えるようにすることが治療の目標になります。近年は新しい薬が開発されており、予後は大きく改善しています。

近年新規薬剤と呼ばれるベルケイド、カイプロリス、ニンラーロが使用できるようになり、治療が大きく変わってきました。ダラキューロ、サークリサはCD38に対する抗体製剤であり、レブラミドと作用機序が似ている飲み薬であり、これもレナデックスと併用して使用します。再発あるいは難治性の場合はこのように治療の幅が広がっており、通院のしやすさや副作用に鑑みて治療法を選択します。

さらに二重特異抗体製剤を含めた新しい薬剤の開発も進んでおり、今後も治療の選択肢が広がっていくことが期待されます。

【無菌室のご案内】

抗がん剤治療などで使用されるクリーン度の極めて高い病床を7床備えています。強力な化学療法後の一過性免疫不全状態では、患者さんはこの無菌室内でケアされます。これにより日和見感染が予防され、治療成績が飛躍的に向上しています。

  • クラス100無菌室1床クラス100無菌室1床
  • クラス10000無菌室6床クラス10000無菌室6床

血液内科 医師紹介

血液内科 医師紹介ページ

①専門分野/得意な領域 ②卒業大学 ③専門医・指導医・資格・公職等
  1. 田内 哲三(血液内科部長)
    ①造血器腫瘍、慢性骨髄性白血病 ②東京医科大学医学部 ③日本血液学会専門医・指導医/日本内科学会指導医/日本内科学会認定医
  2. 久保田 靖子(血液内科医長)
    ①造血器悪性腫瘍の診断・治療 ②鹿児島大学医学部 ③日本内科学会総合内科専門医・指導医/日本血液学会専門医・指導医/日本神経学会専門医/日本サイコオンコロジー学会認定コミュニケーション技術ファシリテーター/インフェクションコントロールドクター/医学博士
  3. 鈴木 憲史【非常勤医師】
    ①骨髄腫治療 ②新潟大学医学部 ③日本内科学会総合内科専門医・指導医/日本血液学会指導医・功労会員/米国血液学会会員/日本骨髄腫学会功労会員/日本アミロイドーシス学会理事/厚労省難病研究班アミロイドーシス班員/日本免疫治療学研究会名誉会員/日赤看護大学外部評価委員会委員長/厚労科研主任研究員/日赤看護大学大学院非常勤講師/日本赤十字医療センター骨髄腫アミロイドーシスセンター顧問