広報紙 vol.63しんゆりニュースレター

2023/6/1掲載

歯科口腔外科特集

歯科口腔外科特集|広報紙

歯科口腔外科治療を安心・安全に行うために
~当院で行っていること・患者さんに知っておいてほしいこと~

  • 新百合ヶ丘総合病院
    歯科口腔外科 医長
    ますだ ともたけ
    増田 智丈 医師
  • 【プロフィール】
    2002年広島大学歯学部卒業。2006年大阪大学大学院歯学研究科修了。2010年ドイツ・ヴュルツブルク大学顎顔面外科教室留学。2011年大阪警察病院 歯科口腔外科 医長。2016年大阪労災病院 歯科口腔外科 副部長。2019年近畿大学病院 歯科口腔外科 医学部講師。2020年4月より現職。
    日本口腔外科学会専門医・指導医/日本がん治療認定医機構がん治療認定医(歯科口腔外科)/日本口腔感染症学会インフェクションコントロールドクター/歯科医師臨床研修指導医/歯学博士
  • 口の病気といえば虫歯や歯周病などが一般的で、皆様も歯科医院で治療を受けられていると思います。しかし、それ以外にも口腔には歯肉の腫瘍や、顎骨(がっこつ)の中のふくろの病気、顔面が腫れ上がるような炎症、上下の顎骨の骨折など、実に多彩な病気があります。そのような病気を治療する診療科が「歯科口腔外科」です。

    歯科口腔外科では、主に口腔に関する外科的な治療を担当しています。外来では難抜歯や良性腫瘍の摘出を毎日行っています。口腔がんや顎骨の骨折、かみ合わせを改善するような手術は入院・全身麻酔下で行っています。昨年は約1,500例の外来手術、約300例の全身麻酔手術を行っており、神奈川県内の総合病院歯科口腔外科の中では非常に多い手術件数となっています。

    現在は常勤歯科医師3名(日本口腔外科学会指導医2名・専門医1名)と初期臨床研修歯科医師1名、そして、当科前部長の福田仁一先生、東京大学・東京医科大学からの応援歯科医師、また外来の鎮静法併用局所麻酔手術時には、鶴見大学歯科麻酔学講座より歯科麻酔専門医が応援に来ています。

  • 当科では、どの曜日に外来を受診されても、各専門分野の専門医以上の資格をもった歯科医師が診察・治療に当たる体制となっています。

    設備面でも、歯科口腔外科外来には口腔領域専用のコーンビームCTがあり、顎骨内病変の正確な診断が可能です。また、外来手術を行う部屋にはHEPAフィルターを設置しており、中央手術室と同等の環境で手術を行える環境になっています。

    口腔には、食事をおいしく咬んで食べる、楽しく会話する、美しい笑顔をつくるなど、生活に直結する大切な機能があります。口腔の病気は患者さんの日々の生活に大きな影響を与えるため、ただ病気を治すだけではなく、機能障害を少なくする治療を行うことが大切だと実感しています。患者さんの年齢や生活環境を踏まえ、どのような治療・手術が適切であるかを相談しながら決定します。手術が必要となった場合には、できるだけ患者さんの不安・恐怖を取り除くことを心がけて日々の診察を行っております。どうぞ安心して受診し、不安なことは気軽に担当医へお伝えください。

【目次】

歯科治療や麻酔が怖い方、嘔吐反射が強い方、持病をお持ちの方への精神鎮静麻酔を用いた口腔外科処置について

歯ぐきの麻酔注射が怖い人はたくさんいます。まして、歯を抜いたり骨を削ったりする口腔外科処置は聞いただけで怖くなってしまいます。また、心臓疾患や内臓疾患など様々な持病がある患者さんも多くいます。もともと血圧の高い患者さんに緊張やストレスがかかると内因性カテコラミンが分泌され、さらに血圧が高くなり、不整脈を誘発します。あるいは持病がなくても、口の中に器具が入ると気持ちが悪くて、嘔吐反射が起きてしまうような方もいます。

  • 口腔外科処置について
  • 当科ではそのような患者さんの手術を安全に行うために、精神鎮静麻酔という方法で対応しています。外来通院では、静脈内鎮静法と笑気鎮静法の2種類の精神鎮静麻酔を行っています。うとうと寝ている間に治療が終わるような感覚で治療を受けることができます。

①静脈内鎮静法とは

  • 静脈内鎮静法静脈内鎮静法下の抜歯処置
    歯科麻酔専門医による鎮静下に、看護師・歯科衛生士とともに、安全な環境で外来手術を行っています。
  • 静脈内鎮静法とは、腕の静脈血管から緊張を軽減する鎮静薬を投与します。点滴注射の針を刺す瞬間は少し感じますが、確実に効果があり、薬の調節が可能なので、痛みを取り除く薬や抗菌薬を追加することもできます。手術日の食事や車の運転制限などがありますが、全身麻酔と異なり、日帰りで行うことができます。

②笑気鎮静法とは

  • 静脈内鎮静法笑気吸入鎮静器を使用。
    リラックスし、痛みを感じにくくなった状態で、主治医と話をしながら治療が受けられます。
  • 笑気鎮静法は、鼻から低濃度の亜酸化窒素(以下笑気)と、高濃度の酸素を吸うことにより、緊張感が和らぎ、手術中もリラックスした状態になります。笑気は、体内にとどまって鎮静効果をあらわす時間が非常に短いため、手術前の食事や運転制限はありません。意識もあるので、医師とのコミュニケーションをとりながら治療を進められます。笑気鎮静は、高血圧症や心臓病の患者さんに特におすすめです。

増田医師によるコラム「「本当は抜歯が不安で怖い方」への安心・安全な方法」はこちら

抜歯などの手術を受ける時に注意が必要な内服薬

高齢化社会が進む現在では、多くの患者さんが様々な医科的疾患のため様々な薬剤を服用されています。ここでは、抜歯などの手術を行う際に注意を要する薬剤について説明します。次のような薬剤を内服・注射されている方は、必ず担当歯科医師へ伝えてください。

【抗血栓薬による薬物療法】

脳梗塞などの脳血管障害、狭心症や不整脈といった循環器疾患の患者さんは抗血栓療法を受けられていることが多いです。抜歯などの手術では、術中の止血困難や術後の出血などが問題となります。抗血栓療法は抗血小板療法、抗凝固療法、血栓溶解療法などに分類されます。

抗血栓薬による薬物療法抗血栓療法を受けている患者さんの抜歯による内出血(左)と口腔内出血(右)

●抗血小板薬

血小板凝集抑制作用により動脈血栓を抑制します。
主な薬剤:バイアスピリン・プラビックス・プレタールなど

●抗凝固薬

凝固因子活性を抑制し動静脈血栓を抑制します。
主な薬剤:ワーファリン・プラザキサ・イグザレルト・エリキュースなど
以前はワーファリンが多く使用されていましたが、近年では新しく直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)が開発され、服用されている患者さんが増加しています。

以前は抜歯などの手術を行う場合には、抗血小板薬、抗凝固薬は休薬して行うことが一般的でしたが、現在では個々の症例に応じて計画を立てます。当科での外来手術では基本的には休薬せずに行っています。自己判断で休薬される患者さんもおられますが、中止による血栓形成などのリスクがあるため自己判断での休薬はお控えください。

【骨の破壊を抑える薬】

現在、骨粗しょう症の治療には多くの種類の飲み薬や注射薬が使われています。その中で骨の破壊を抑える作用の薬は有用性が高くよく使われていますが、この薬には顎の骨に対する副作用があり、顎骨の炎症(骨髄炎)や、壊死の症状が生じる可能性があります(薬剤関連顎骨壊死)。

●ビスフォスフォネート薬

主な薬剤:ボナロン・フォサマック・ボノテオ・リカルボン・ボンビバなど

●抗RANKL抗体製剤

主な薬剤:プラリア・ランマークなど

  • 薬剤関連顎骨壊死薬剤関連顎骨壊死
  • これらの薬剤も、以前は休薬をしてから抜歯などの手術を行っていましたが、現在は基本的には継続下で手術を行っています。術前後の口腔管理(歯肉炎などの消炎治療など)が極めて重要で、当科ではしっかりと顎骨への副作用を予防した上で手術を行っています。

歯科口腔外科医師紹介

歯科口腔外科 医師紹介ページ

①専門分野/得意な領域
②卒業大学 ③専門医・指導医・資格・公職等

【常勤】

  1. 喜久田 利弘(歯科口腔外科部長)
    ①口腔外科一般 ②九州歯科大学
    ③日本口腔外科学会専門医・指導医・名誉会員/日本口腔科学会認定医・指導医・前理事・名誉会員/日本顎顔面インプラント学会指導医/日本有病者歯科医療学会専門医・指導医・常任理事・インフェクションコントロールドクター/日本口腔顎顔面外傷学会前副理事長/AOCMF JAPAN 前理事/歯科医師臨床研修指導医/福岡大学医学部名誉教授/歯学博士
  2. 増田 智丈(歯科口腔外科医長)
    ①口腔外科一般(特に口腔がん、顎顔面外傷など) ②広島大学歯学部
    ③日本口腔外科学会専門医・指導医/日本がん治療認定医機構がん治療認定医/日本口腔感染症学会インフェクションコントロールドクター/歯科医師臨床研修指導医/歯学博士
  3. 藤井 誠子(歯科口腔外科医長)
    ①口腔外科一般 ②九州歯科大学
    ③日本口腔外科学会専門医/日本口腔科学会認定医/日本がん治療認定医(歯科口腔外科)/日本有病者歯科医療学会インフェクションコントロールドクター/歯学博士

【非常勤】

  1. 福田 仁一
    ①口腔外科一般 ②九州歯科大学
    ③日本口腔外科学会専門医・指導医・監事/歯学博士