ドクターコラム

「本当は抜歯が不安で怖い方」への安心・安全な方法 ~歯科治療・麻酔が怖い方、嘔吐反射が強い方への精神鎮静麻酔を用いた口腔外科処置について~

歯科口腔外科 医長 増田 智丈

掲載日:2022年4月22日

  • マグネシウム
  • 歯ぐきの麻酔注射が怖い人はたくさんいます。まして、歯を抜いたり骨を削ったりする口腔外科処置は聞いただけで怖くなってしまいます。

    当科ではそのような恐怖や不安を解消するために、精神鎮静麻酔という方法で対応しています。外来通院では静脈内鎮静法と笑気鎮静法の2種類の精神鎮静麻酔を行っています。

寝ている間に治療が終わるような感覚で治療を受けることができます。このような麻酔は心疾患などを有する患者さんに対してもリラックスした状態が得られ、安全に手術を行うことができます。

精神鎮静麻酔とは

当科の外来処置では埋伏歯(まいふくし)の抜歯や歯の外傷、炎症の消炎手術などを行っています。それらの手術は虫歯治療や歯周病治療といったいわゆる一般歯科処置よりもやや侵襲が大きく、痛みを伴う可能性もあります。

かかりつけ歯科から当科へ紹介いただき受診された患者さんの多くは「痛いのかな?時間がかかるのかな?怖いな」という不安を強く感じています。そのような患者さんに「大丈夫ですよ。怖くない、痛みも感じない、寝ているような感覚で治療が終わってしまう方法がありますよ」とお答えできる一つの方法が精神鎮静麻酔です。

精神鎮静麻酔は全身麻酔と違って、意識はあって音も聞こえます。鎮静薬を使うことによって不安を取り除き、治療されていることがぼんやりとし、時には治療されていたことを忘れてしまうような効果をもたらします。

また最近はご高齢の患者さんの手術をすることも多くなっています。心臓疾患や内臓疾患などいろいろなご病気がある患者さんも多いです。もともと血圧の高い患者さんに緊張やストレスがかかると内因性カテコラミンが分泌され、さらに血圧が高くなってしまいます。緊張やストレスは不整脈を誘発したり、糖尿病の患者さんに過度の血糖値上昇を生じたりすることもあります。そのような患者さんの手術を精神鎮静麻酔により安心・安全に行うことができるようになります。

さらに口の中に器具が入ると気持ちが悪くて、嘔吐反射が起きてしまうような方は鎮静することにより嘔吐反射を和らげることもできます。

当科で行っている精神鎮静麻酔には①静脈内鎮静法と②笑気鎮静法の2つがあります。

① 静脈内鎮静法とは

  • 静脈内鎮静法とは
  • 静脈内鎮静法とは腕の静脈に点滴確保してその静脈血管から緊張を取り除く鎮静薬を使います。点滴注射の針を刺す瞬間は少し痛いですが、確実に効果があり、薬の調節が可能なので、痛みを取り除く薬を追加することもできます。手術日の食事制限や車の運転の制限などがありますが、日帰りで行うことができます。

写真は実際に当科で静脈内鎮静下で、埋まった親知らずの抜歯を行っている時のものです。患者さんは緑の覆布(顔の上から胸元までかぶせる清潔なシーツ)の下で鼻から酸素を吸いながら処置を受けています。

横に歯科麻酔科の先生が血圧や心電図、酸素飽和度のモニターと、処置内容を見ながら投与する薬の量の調節を行っています。看護師は患者さんの様子をみながら術者、麻酔医のサポートをしています。

患者さんは点滴確保後すぐに鎮静薬の投与を行うのでこのような光景を覚えていることはありません。いわゆる「眠っている間に手術が終わった」という感覚の患者さんが多いです。

② 笑気鎮静法とは

笑気鎮静は鼻にカニューレや小さなマスクを当て、低濃度の亜酸化窒素(以下笑気)と高濃度の酸素を吸うことにより緊張感が和らぎ手術中もリラックスした状態になります。笑気鎮静は吸入するとすぐに効き、やめるとすぐに醒めます。

手術前の食事制限やお車の運転の制限などもありません。意識はありますので、医師とのコミュニケーションをとりながら治療を進められます。特に笑気鎮静は高血圧症や心臓病の患者さんにおすすめです。

このような鎮静法を希望されるかたは受診時に担当医へお伝えください。ただし現在希望される患者さんが多く静脈内鎮静法の予約はかなり先(3か月くらい)になってしまっています。ご理解お願いします。