広報紙 vol.52しんゆりニュースレター

2022年5月1日掲載

脊椎脊髄末梢神経外科特集

背骨の病気とのベストな付き合い方を提案していきます
脊椎脊髄末梢神経外科特集|広報紙

  • 新百合ヶ丘総合病院
    脊椎脊髄末梢神経外科
    低侵襲脊髄手術センター 顧問
    たに さとし
     諭 医師
  • 【プロフィール】
    1979年東京慈恵会医科大学卒業。同年東京慈恵会医科大学脳神経外科に入局。2014~2015年アメリカLoma Linda大学脳神経外科留学。1991年東京慈恵会医科大学脳神経外科講師、2000年准教授、2008年教授、2016年東京慈恵会医科大学附属病院副院長、2020年4月より現職(東京慈恵会医科大学脳神経外科客員教授兼任)。
    日本脳神経外科学会専門医/日本脊髄外科学会指導医/脊椎脊髄外科専門医/日本臨床スポーツ医学会理事/医学博士
  • 脳がとても大切なものであることは、皆さんご理解しておられると思います。脳から手足への命令はその続きの脊髄へ伝わり、そして、手足の神経へと続いています。つまり、脳と同じくらい大切な脊髄は背骨=脊椎でガードされています。

    この背骨は身体の骨格の中心であり、まさに屋台骨であります。この重要な複合体(脊髄や神経そして脊椎)を扱うためは、背骨を扱う整形外科的要素と神経を扱う神経外科的要素を持ち合わせていなくてはなりませんので、ごく一部の医師が専門的に手術を行うべきと思います。

    新百合ヶ丘総合病院脊椎脊髄末梢神経外科は2012年の病院の設立以来、部長の水野順一先生を中心にその専門性を発揮して、年間に500例あまり手術を行い、川崎地区では有数の脊椎脊髄末梢神経の専門施設となりました。私も大学を離れたのを機会に、水野先生と一緒に仕事をするため、2020年に赴任してまいりました。

    ただ、我々は手術だけをする診療科ではなく、腰痛や肩こりに始まり手や足の先のしびれまで、お困りになっておられることは何でも相談に乗りたいと考えており、

  • 患者さんが「なぜこのような状態になっているのか明快にする」、そして「この病気がどのようになるのか将来予測をお教えする」、そして「それを少しでも改善する治療法を提案する」というステップをしっかりと踏みたいと思っています。

    とかく難解な脊椎脊髄末梢神経を、模型などを用いて分かりやすく説明し、病状をご理解いただいた患者さん自身が治療法を選択できるよう心がけており、このコンセプトは新百合ヶ丘総合病院の理念でもある「すべては患者さんのために」に通じるものと思っております。

    病状がはっきりとわかり、治療法などが決定すれば、ご紹介いただいた近隣の身近なクリニックなどで加療をしていただくのが、患者さんにとっても幸せなことであると思います。たまたまですが、自分自身は整形外科の先生方と学会を通して整形外科・脳神経外科共通の「脊椎脊髄外科専門医」の制定にも関わってきた医師であり、もちろんその専門医でもありますので、背骨の要素と神経の要素を兼ね備えて、今後も患者さんにとって都合の良い医療連携を築いていくつもりであります。

【目次】

腰部脊柱管狭窄症の新しい低侵襲手術( 腰椎制動術)の紹介
脊椎脊髄末梢神経外科部長/低侵襲脊髄手術センター上級顧問 水野 順一

高齢者の腰痛には様々な原因がありますが、なかでも腰部脊柱管狭窄症は多くの方が罹患する重要な腰の病気です。腰部脊柱管狭窄症になると腰痛はもとより、足のしびれや痛み、歩行が困難になるなど、日常生活にもたいへん不自由な症状が出てきます。

腰部脊柱管狭窄症の診断は腰椎のレントゲンやMRIでなされますが、その治療にはいろいろな方法があります。軽症の場合には、保存療法といわれる治療法がとられます。保存療法にはお薬やリハビリテーションなどが含まれ、時間をかけて症状を少しずつ和らげていくことを目的に行います。この方法で症状が改善・安定し、生活も元に戻ればそれでいいのですが、ひどい腰痛や歩行障害などで苦しんでいる方には手術も考えられます。

手術というと、以前はかなり大規模なものであり、長期間の入院が必要となることも多かったようです。最近では手術用顕微鏡や内視鏡が発展し、身体にやさしい低侵襲手術が可能となってきました。当院でも開院と同時に低侵襲脊髄手術センターが開設され、低侵襲脊髄手術で多くの患者さんを治療しています。高齢の方の中には、腰の手術のイメージは「よく失敗する危険な手術」「大変な手術のわりに治らない」などというように、あまり好ましく思われていない方が多くおられます。また高齢になると脳梗塞、心臓病、がんなどの合併症を抱えておられる方も稀でなく、大きな手術は危険を伴うこともあります。このような理由で病院での治療をあきらめ、接骨院やペインクリニックなどでの治療ですませてしまうことも多いと考えています。

腰椎制動術という低侵襲手術が数年前にアメリカから紹介され、昨年から日本製のインプラントができて、腰部脊柱管狭窄症の手術治療として新しい1頁が開きました。約2㎝のSWIFT(棘突起間スペーサー)を入れることで、腰椎の過伸展を防ぎ、腰痛を改善できる可能性のある新しい方法です。実際には麻酔(全身麻酔または局所麻酔)を使用した1時間ほどの手術で、2泊3日程度の入院で手術が可能となりました。もちろん輸血はせず、もともとの背骨はまったく採ることがない低侵襲手術です。最終的には、背中(腰のあたり)に3~4㎝の皮膚切開の跡が残るだけです。もちろん100%の治療や手術はありませんが、腰部脊柱管狭窄症に対する新しい低侵襲手術として紹介いたしました。

腰椎制動術の一例

  • 腰椎制動術の一例
  • 手術後の腰椎単純写真で、左が正面像、右が側面像。
    腰椎の3~4と4~5間にSWIFTが挿入され、腰痛や下肢痛を起こしている腰椎の過剰な動きを制限できています。

骨粗鬆症性圧迫骨折
脊椎脊髄末梢神経外科 医長 野手 康宏

  • 骨粗鬆症性圧迫骨折の椎体形成術骨粗鬆症性圧迫骨折の椎体形成術
  • 近年、高齢化に伴い骨粗鬆症患者さんが増加しており、骨粗鬆症性圧迫骨折(osteoporotic vertebral fracture:OVF)をきたすことも少なくありません。圧迫骨折になると腰痛や背部痛が強く体動困難となり、日常生活動作(activities of daily living:ADL)を低下させ廃用症候群をきたします。

そこで早期のADL向上を目指すべく、外科的に治療する方法があります。セメントを用いた椎体形成術です。当科が用いる方法はBalloon kyphoplasty(BKP)が主となっており、大半が急性期OVFに対して施行しています。全身麻酔で行いますが、手術時間は30分程度で、創部は1cm以内であることから身体への侵襲が少なく、翌日よりコルセット装着の上離床も可能ですから、廃用も最低限に抑えることができます。

通常術後1週間以内に自宅退院となり、その後は外来で骨粗鬆症の治療を行いますが、二次骨折は最初のOVFから1~3年の間起こるとされており、二次予防が重要となっております。現時点で二次予防に有効とされる薬剤は皮下注射であり、患者さんの背景に合わせた薬物選択を行います。また、薬物投与のために頻回に病院受診が必要な患者さんにはかかりつけの病院にお願いすることもありますが、当科では画像検査や採血による骨マーカーのフォローアップをさせていただきます。

頸椎人工椎間板置換術
脊椎脊髄末梢神経外科 医長 土井 一真

  • 人工椎間板人工椎間板
  • 頸椎椎間板ヘルニアや頚椎症性脊髄症・神経根症に対する手術治療として、日本では前方除圧固定術が主に行われています。首の前方を切開し、骨棘を取り除いたり、椎間板腔を広げたりして、脊髄や神経根への圧迫を除去した後に、椎体間にケージと呼ばれるチタン製の人工物を入れます。神経への圧迫を取り除き、かつ、障害されている椎間の可動性を制限することで神経症状の改善が期待できます。

しかしながら、固定した隣接椎間での障害が発生することがあり、この点を改善する方法としてアメリカなどでは人工椎間板置換術が施行されてきました。この方法では、可動性を残すことができるため、上下椎間板への負担を軽減することができ、隣接椎間障害が発生する確率を下げる可能性があるといわれています。

  • 人工椎間板置換術人工椎間板置換術
  • 日本においても2018年から人工椎間板が使用できるようになりました。現在、国内ではPrestige LP®、Mobi-C®の2製品が使用可能ですが、当院では主にPrestige LPを用いて手術を行っており、これまでインプラント関連のトラブルや再手術例はありません。しかしながら、まだ国内での長期成績が明らかではないため、仮に同じ病態や疾患であったとしても、患者さんによっては人工椎間板置換術の適応とならないこともございます。詳細はそれぞれの外来担当医にご相談ください。

脊椎脊髄末梢神経外科を受診の際は、必ずご予約をお取りの上、ご来院ください。
予約電話番号:0800-800-6456(9:00~17:00)※月~土(日・祝日除く)
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脊椎脊髄末梢神経外科医師紹介

(2022年4月現在)

  • 水野 順一(みずの じゅんいち)(脊椎脊髄末梢神経外科部長、低侵襲脊髄手術センター上級顧問)

    日本脳神経外科学会専門医/日本脊髄外科学会理事・認定医・指導医/第29回日本脊髄外科学会会長/日本脊髄外科学会脊髄内視鏡下手術技術認定医/日本低侵襲・内視鏡脊髄神経外科学会初代理事長/ウダヤナ大学脳神経外科教授

  • 谷 諭(たに さとし)脊椎脊髄末梢神経外科、低侵襲脊髄手術センター顧問

    日本脊髄外科学会指導医/日本脳神経外科学会専門医/脊椎脊髄外科専門医/日本臨床スポーツ医学会理事/医学博士

  • 尾原 裕康(おはら ゆうこう)(脊椎脊髄末梢神経外科、低侵襲脊髄手術センターセンター長)

    日本脳神経外科学会専門医・指導医/脊椎脊髄外科専門医/日本脊髄外科学会認定医・指導医/日本神経内視鏡学会技術認定医/日本脊髄外科学会脊髄内視鏡下手術技術認定医/Balloon Kyphoplasty faculty認定医/医学博士

  • 木村 孝興(きむら たかおき)(脊椎脊髄末梢神経外科副部長、小児頭蓋脊髄センター副センター長)

    日本脳神経外科学会専門医・指導医/日本小児神経外科学会認定医/日本神経内視鏡学会技術認定医/日本脊髄外科学会認定医/医学博士

  • 菊地 奈穂子(きくち なほこ)(産脊椎脊髄末梢神経外科 医長)

    日本脳神経外科学会専門医・指導医/日本脊髄外科学会認定医/脊椎脊髄外科専門医/日本脊髄外科学会脊髄内視鏡下手術技術認定医/医学博士

  • 野手 康宏(ので やすひろ)(脊椎脊髄末梢神経外科 医長)

    日本脳神経外科学会専門医

  • 土井 一真(どい かずま)(脊椎脊髄末梢神経外科 医長)

    日本脳神経外科学会専門医/Balloon Kyphoplasty faculty 認定医

地域がん診療連携拠点病院に指定されました

  • 地域がん診療連携拠点病院
  • これまで当院は「神奈川県がん診療連携指定病院」として、がん診療並びにがん患者さん・ご家族へのサポートに注力してまいりましたが、この度、令和4年4月1日より「地域がん診療連携拠点病院」に指定されました。

    「地域がん診療連携拠点病院」とは、全国どこでも「質の高いがん医療」を提供することを目指して、平成19年4月に施行されたがん対策基本法に基づいて、都道府県による推薦をもとに、厚生労働大臣が指定した病院のことです。

    今後も地域の皆様のために、質の高い専門的ながん医療の提供、がん診療の地域連携協力体制の構築、がん患者さん・ご家族に対する相談支援及び情報提供などを行ってまいります。