閉塞性動脈硬化症|主な治療法|血管外科

閉塞性動脈硬化症について

動脈硬化とは

人口の高齢化や食生活の欧米化により動脈硬化を有する患者さんが増加しています。動脈硬化とは、血管の壁にプラーク(よごれ)が沈着することで血管が細くなり、最終的には詰まってしまう状態です(図1)。こうなると、血流が低下しますので、様々な臓器が酸素不足(虚血)となります。部位により症状は異なり、頭であれば脳梗塞、心臓であれば心筋梗塞となります。そして、下肢では閉塞性動脈硬化症となります。最も大事なのは、動脈硬化を来たす要因(リスク)を減らすことです。

図1) 動脈硬化が進行する流れ図1) 動脈硬化が進行する流れ

動脈硬化のリスク因子:喫煙、コレステロール(LDL)の上昇、糖尿病、高血圧

これらのリスクを改善することが、動脈硬化を予防・改善することにおいて最も重要となり、下肢の症状が出現している方は、なお厳しく管理をすることが奨められております。また、運動療法も非常に効果的です。筋肉痛が出現するまで歩行することによって、狭くなった血管を迂回する新たな血管(側副賂)の増生が強化され、歩ける距離が伸びてくることが期待できます。

しかしながらこのような薬物療法や運動療法を施しても症状の改善が得られなかった場合、足への血流を増やすため、血行再建術が必要となります。

閉塞性動脈硬化の症状

下肢閉塞性動脈硬化症の症状

症状によって4つの段階に分けられます。

  1. 第一期 無症状
  2. 第二期 間欠性跛行・・・歩行時の痛み
  3. 第三期 安静時痛・・・じっとしていても痛む
  4. 第四期 壊疽・・・潰瘍の出現

【検査】
専門外来にて足の脈拍の確認、生理検査(ABI検査、経皮酸素分圧)、エコー検査、造影CT検査があります。病気の程度と総合的に判断し治療を行なっていきます。

第一期 無症状

検査で閉塞性動脈硬化症が疑われますが、特に症状のない状態です。生活習慣病に対する治療を行いながら、血の流れを良くする薬を飲んで様子を見ます。

第二期 間欠性跛行・・・歩行時の痛み

間欠性跛行とは、一定の距離を歩くと、太ももやふくらはぎの疲労感や筋肉痛が出現します。立ち止まってしばらく休むことでこれらの症状は消失し、再び歩けるようになる症状です。

しかし、脊柱管狭窄症による神経障害でも似た症状が出現するため、鑑別が必要となることが多くあります。

治療法は、薬と運動療法による内科的治療が一般的ですが、症状の程度や患者さんの活動状態に応じて、血行再建術を行います。

① 歩行したら痛い:閉塞性動脈硬化症
歩行したら痛い:閉塞性動脈硬化症歩行したら痛い:閉塞性動脈硬化症
② 歩行最初から痛い、前屈みで改善:脊柱管狭窄症
歩行最初から痛い、前屈みで改善:脊柱管狭窄症歩行最初から痛い、前屈みで改善:脊柱管狭窄症

第三期 安静時痛

さらに血流障害が進行すると、歩かなくても足先が痛む「安静時痛」が生じます。じっとしていても足が痛く、夜も眠れない状態です。

この段階では内科的治療の効果は期待できず、積極的に血行再建術を行います。

第四期 壊疽

足の傷に傷ができても治らず、びらんとなります。また、紫色や黒色になることがあり、「潰瘍」や「壊死」と呼ばれる状態に至ります。健常人であれば、足に小さな傷ができても、血行が良いため自然と良くなりますが、重症化した閉塞性動脈硬化の患者さんの場合、血流が乏しいため、足の傷が治癒せず、これが徐々に拡大し、びらんや潰瘍となり、さらには壊死に進行します(図2)。細菌感染症を伴うことも少なくありません。
この段階は積極的に血行再建術を行います。血流が改善しても、治癒が難しい足壊疽については切断も検討しなければなりません。

  • 図2) 第四期の患者さんの足、左足の親指が壊死している。図2) 第四期の患者さんの足、左足の親指が壊死している。
  • 第三、四期にまで進行した場合、「重症虚血肢」と呼び、これは下肢閉塞性動脈硬化症の最重症型にあたります。足が壊死してしまうと、多くの場合、下肢切断は避けられませんが、血行再建術(血流を改善させる手術)を受けることで、切断範囲を最小限に留めることができます。

閉塞性動脈硬化症の治療・・・保存的治療、血管内治療、外科的治療

閉塞性動脈硬化症の治療の基本は、生活習慣病の是正です。食生活を含めたライフスタイルの見直しや、喫煙者であれば禁煙が重要になります。また、高血圧、高脂血症、糖尿病などの生活習慣病に対する治療も欠かせません。さらに、前述のように運動療法も非常に大切です。

しかしながら、これらの保存的治療にて改善が得られない場合、血行再建術が検討されます。血行再建術は血管内治療(カテーテル治療)と外科的治療(バイパス手術)の2つに大別されます。

また、両者を複合して行うハイブリット手術も存在します。以下にその例を示します。

血管内治療(カテーテル治療)

血管内治療は、局所麻酔の下、主に足の付け根の動脈からカテーテルを入れて治療します。細くなった血管にワイヤーを通して、それをレールに風船(バルーン)入れて、血管を広げたり、ステントを置くことで血流を良くします。血管内治療は細くなった血管に有効ですが、例え閉塞した血管であっても血管内治療を行うこともあります。侵襲が少なく、数日の入院で治療が行えます。

間欠性跛行に対する腸骨動脈の血管内治療間欠性跛行に対する腸骨動脈の血管内治療
間欠性跛行に対する大腿の血管内治療間欠性跛行に対する大腿の血管内治療

外科的治療(バイパス手術)

バイパス手術は、全身麻酔の下、自家静脈(患者さん自身の静脈)もしくは人工血管を使って、詰まった血管の前後を橋渡して、足先までの血流を確保する方法です。
完全に閉塞した血管や、長い距離で狭窄や閉塞している血管は、血管内治療が難しく、このような血管にバイパス手術は有効です。
血管内治療に比べて、全身麻酔で、複数箇所の皮膚切開が必要ですので、身体の負担は大きくなりますが、その分、足先への血流は大きく改善しますので、重症下肢虚血の患者さんにも有効な術式です。

外科的治療(バイパス手術) 外科的治療(バイパス手術)

ハイブリッド手術

血管内治療は、詰まる前の狭くなった血管に有効です。また、例え詰まった血管であっても、長さが短ければ血管内治療で対応できます。しかし、閉塞した血管が長い場合には、血管内治療よりもバイパス手術の方が有効とされており、両者は一長一短があり、どちらが優れているとは一概に言うことが出来ません。
血管内治療は局所麻酔で施行するため侵襲が少なく、入院期間も短いですが、全ての病気に適している訳ではありません。

一方、バイパス手術は全身麻酔を必要とし、入院期間も血管内治療に比べて長くなりますが、血流の改善は大いに期待できます。

近年は血管内治療を行うことが多くなっていますが、血管外科医は、血管内治療と外科的治療の両者を行うことが可能であり、かつ、両者を組み合わせたハイブリッド手術を行い、それぞれの患者さんに合わせた最も良い治療ができると自負しております。

最後に

下肢閉塞性動脈硬化症は、専門外来を受診することで適正な診断に至り、適切な治療を受けることで、より長く元気な足を維持していくことができます。また、動脈硬化を有する患者さんは、下肢の血管に留まらず、体中の主要な血管にも動脈硬化を来たしていると考えられます。早期に治療を開始することにより、動脈硬化の進行を食い止め、動脈硬化に由来する他の病気の発症を予防していくことにもつながります。特に動脈硬化のリスクを複数有する患者さんは注意が必要ですので、我々の専門外来でご相談下さい。
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