薬剤科コラム

抗がん剤やその副作用について

薬剤科 髙木 恵里

2024/10/24掲載

  • 抗がん剤治療イメージ
  • みなさんは、抗がん剤と聞いてどんなものをイメージしますか?例えば、抗がん剤の副作用についてはどんなものを思い浮かべるでしょうか?

    吐き気がひどく思うように食事が摂れなくなってしまったり、髪の毛がごっそり抜けてしまったりと、副作用のせいで日常生活が送れなくなってしまうイメージを持っている方もいらっしゃるかもしれません。

昨今、日本人の2人に1人ががんになると言われており、がんが原因で死亡する人は3人に1人との報告もあります。

がんの治療は抗がん剤だけではなく、手術や放射線治療などもあり、がんと診断された全ての人が必ずしも抗がん剤治療を受けるわけではありません。

ご自身や身近な人ががんと診断された時、いつか使うことになるかもしれない抗がん剤そのものやその副作用について、できるだけ正しい知識を得ておくことは必要ではないかと考えています。

そこで、今回は抗がん剤の種類や使い方、副作用などについて少し紹介していきたいと思います。

抗がん剤の種類は大きく分けて、殺細胞性抗がん剤内分泌療法薬分子標的薬免疫チェックポイント阻害剤の4つに大別されます。

【殺細胞性抗がん剤】

1990年代から現在まで広く使われてきた抗がん剤で、種類も多く、様々ながんに対して使える薬が多いのも特徴です。異常なスピードで増殖するがん細胞をターゲットとし、細胞分裂を止めるよう働きかけることで効果を示します。しかし、がん細胞だけでなく正常な細胞にもダメージがあるため、様々な副作用が起こるリスクを持っています。

抗がん剤の副作用でよく言われている悪心・嘔吐、便秘や下痢、倦怠感、脱毛、骨髄抑制なども、正常な細胞への悪影響が原因となって出現するものです。

【内分泌(ホルモン)療法薬】

殺細胞性抗がん剤と同様、比較的古くからある薬が多く、特定のホルモンの影響を受けて増殖する性質のがん(乳がんや前立腺がん、子宮体がんなど)に対して使用する薬です。

比較的副作用は軽いと言われていますが、ホルモン特有の副作用が出てくることがあります。

【分子標的薬】

2000年代になると分子標的薬が登場します。体の中の特定の標的分子に対し特異的に作用するため、その標的分子が多く存在している人に使える薬です。標的分子が多く存在する臓器に副作用が出やすいのが特徴です。

例えば、標的分子が皮膚に多く存在する分子であれば、皮膚障害が出やすくなります。

【免疫チェックポイント阻害剤】

2014年になって、免疫チェックポイント阻害剤が登場しました。私たち人間にもともと備わっている、免疫細胞ががん細胞を攻撃する力を利用して作られた薬です。新しく登場した薬ではありますが、現在様々な種類のがんに使用され、大活躍しています。

従来の抗がん剤とは作用の仕方が全く異なり、免疫関連の副作用に注意が必要とされています。免疫関連の副作用と聞くとイメージするのが難しいかもしれませんが、今まで正常に働いていた免疫の機能が異常を起こすことで、自身の体を攻撃してしまい、体の機能に影響が出てきてしまう可能性があるということです。

例えば、1型糖尿病や重症筋無力症、大腸炎などですが、免疫チェックポイント阻害剤の副作用は他にも全身に渡って様々な副作用が起こるリスクがあると言われています。しかし、実際にはこれらの副作用が起こる人はそれほど多くありません。大きな副作用を経験せずに治療を継続されている方も多くいらっしゃいます。

この薬の副作用の特徴としてもう1つ注意しなければならないのが、いつ副作用が起こるか分からないということです。先ほど出てきた殺細胞性抗がん剤の副作用は、出現する時期がだいたい決まっています。それと比べて、この免疫チェックポイント阻害剤の副作用は、治療が終わった後でも出現する可能性があるともいわれているため、注意が必要です。

大きく分けてこの4つに大別される抗がん剤ですが、これらの抗がん剤の投与方法は内服、注射、カテーテルと呼ばれる管を血管内に通し、がんの近くに抗がん剤を注入する方法などがあります。

がんの種類によって選択される薬やその投与量なども異なります。また、がんの種類によって、同じ抗がん剤を使用しても効果が違ってくることもありますし、効果の出方に個人差もあります。

異なった種類の薬を組み合わせることで、より治療効果を高めることが可能になったりしますが、このことを多剤併用療法と呼んでいます。数種類の抗がん剤を組み合わせることで、副作用のリスクが上がることも念頭に置く必要がありますが、事前に対策できる副作用もあるため、過度な心配はいりません。

では、特に殺細胞性抗がん剤で良く起こると言われている副作用について、紹介していきます。

殺細胞性抗がん剤で良く起こると言われている副作用

《悪心・嘔吐》

抗がん剤の種類によって、悪心・嘔吐の起こりやすさは異なります。これに個人差が加えられ、症状として現れてきます。長くても1週間程度でピークが過ぎることがほとんどですが、まず大事なのは、できるだけ悪心・嘔吐の症状が起こらないように対策を取ることです。吐き気が起こりやすい抗がん剤を使用する場合は、抗がん剤投与前に点滴や内服で吐き気止めを投与していきます。この事前の準備で、多くの悪心・嘔吐の症状は抑えられますが、それでも症状が出現する場合は、更に対策を取ることもできます。我慢せずに医療者に相談することが大切です。

《脱毛》

抗がん剤の種類によって脱毛しやすい薬、しにくい薬があり、脱毛の仕方にも個人差があります。だいたい1週間から3週間後に症状が出てくると言われており、まつ毛やまゆ毛なども抜けてくることもあります。

脱毛がみられた際は、頭皮への紫外線を避けたり、髪の毛を洗う際も頭皮への刺激をさけたりするようにしたいです。

見た目の変化は心にも大きく影響しますが、治療が終了してから3カ月から6カ月後に徐々に発毛してくると言われていますので、“治療が終わればまた生えてくる”と気持ちを切り替えて生活できるといいのではないかと思います。

脱毛が起こっている期間は、ウィッグ(かつら)や帽子、バンダナ、お化粧などを上手に取り入れて対策していくと日常生活も送りやすくなるのではないかと考えます。

《骨髄抑制》

がんの薬物治療では、体の抵抗力が弱くなったり、めまいやふらつきなどの貧血症状や出血が止まりづらくなったりする副作用が出現してくることがあります。

これらの症状は、骨髄抑制と言われていて、私たちの血液の中に存在する白血球や赤血球、血小板などの細胞の数が、治療の影響で減ってしまうことで起こります。

吐き気や脱毛の症状と異なり、自分では分かりにくい副作用ですが、治療を継続するかどうかの判断に大きく関わるものであり、重症になると命に関わることもあります。そのため必ず定期的な血液検査が行われます。

抗がん剤の影響で白血球や赤血球、血小板などが減ってしまっても、しばらくすると回復してくると言われていますが、例えば白血球が減ってしまった際は、抵抗力が下がってしまい感染しやすい状態となってしまいますので、手洗い・うがいなどで感染症対策が必要になります。

《末梢神経障害》

ある特定の抗がん剤において、末梢神経障害が起こりやすいと言われているものがあります。この副作用は治療を重ねるごとに症状が強く出てくることが多く、ひどくなると日常生活に影響が出やすく、回復にも時間がかかる場合があります。

そのため、症状が出現した際には我慢せずに相談し、医療者が症状の強さを把握することが大切になってきます。治療の効果に影響がでるのではないかとの不安から我慢する方がいらっしゃいますが、症状が重くなると、薬を減量したり中止したりしても回復が不十分になってしまい、その後の生活に支障が出てくることもあり得ます。

残念ながら、抗がん剤による末梢神経障害を防ぐ有効な方法は確立されていないのが現状です。薬をお休みしたり減量したりすることが対処法となります。

まとめ

紹介したもの以外にも、アレルギーや口内炎、便秘や下痢、皮膚症状、出血や高血圧など、様々な副作用がありますが、悪心・嘔吐のようにできるだけ出現しないよう対策できるものもあれば、末梢神経障害のように、事前に出現を防ぐことができないものもあります。

それぞれ副作用の特徴を捉えたうえで、副作用を上手にコントロールしながら、安全に抗がん剤治療を受けられる環境を整えることが大切です。