ドクターコラム

甲状腺の働きと疾患

糖尿病・内分泌代謝内科 部長  佐倉 宏

掲載日:2025年7月5日

最近著名人の甲状腺疾患が報道され、よく質問されるようになりました。甲状腺はどこにあり、どのような働きをしているのでしょうか?また、どのような疾患があるのでしょうか?

  • 肥満のイメージ
  • 甲状腺は、首の前方、喉仏(のどぼとけ)のすぐ下にある臓器で蝶が羽を広げたような形をしています。大きさは4〜5cm程度、重さは15〜20g程度で、気管を抱き込むように張り付いています。正常な状態では柔らかく触ってもわかりませんが、病気になると全体が腫れて外から見てもわかるようになり、一部に硬いしこりを触れることもあります。

  • 甲状腺のイメージ
  • 甲状腺からは甲状腺ホルモンが産生・分泌されており、以下のような働きがあります。

    1. 脳に作用して、その働きを活性化する。
    2. 心臓や胃腸のはたらきを活性化する。
    3. 新陳代謝で得られたエネルギーで体温を調節する。
    4. 全身の細胞の代謝を促進し、エネルギーを作る。

甲状腺の主な疾患は、甲状腺ホルモンの異常(過剰、不足)、甲状腺ホルモンをつくる細胞の破壊(甲状腺炎)、甲状腺腫瘍です。

甲状腺炎のイメージ

甲状腺ホルモンが過剰な疾患の代表がバセドウ病(甲状腺機能亢進症)です。動悸、息切れ、体重減少、イライラ・不安、手の震え、眼球突出などの症状が現れます。治療としては、薬物療法(抗甲状腺薬)、アイソトープ治療、手術を行います。

甲状腺ホルモンが不足する疾患(甲状腺機能低下症)の代表が橋本病です。倦怠感、体重増加、便秘、寒がり、皮膚乾燥などの症状が現れます。治療は薬物療法(甲状腺ホルモン製剤の服薬)です。

  • 甲状腺炎のイメージ
  • 甲状腺ホルモンを作る細胞の破壊(甲状腺炎)が起こると一時的に甲状腺ホルモンが過剰になり、バセドウ病と同様の症状が起きます。甲状腺ホルモンの過剰によって起きる病態をまとめて甲状腺中毒症と言うこともあります。細胞の破壊の程度が大きいと、後になって甲状腺ホルモンが不足することもあります。治療としては、炎症が軽い場合は経過観察で良いのですが、炎症が強い場合は非ステロイド性抗炎症薬や副腎皮質ステロイドを用います。

また、甲状腺中毒症に対してはβ遮断薬を使います。炎症が収まった後に甲状腺ホルモンが不足した場合は甲状腺ホルモン製剤で補充します。

  • 甲状腺腫瘍のイメージ
  • 甲状腺腫瘍は良性のことが多く、その場合は経過観察で腫瘍の大きさが変わらないことを確認します。良性の甲状腺腫瘍の頻度はかなり高く、頭部や胸部の画像検査を行った際に偶然に見つかることも多いです。しかし、甲状腺腫瘍は稀に悪性のこともあり、疑われる場合は穿刺吸入細胞診で病理検査を行い、手術切除も検討します。