掲載日:2025年2月4日
下肢静脈瘤とは
多くの方は下肢静脈瘤という病気のことを聞いたことがあると思います。下肢静脈瘤は下肢の静脈がボコボコと拡張し、成人の4人に1人は罹患していると言われているポピュラーな病気です。妊娠出産後や立ち仕事が多い方に起こりやすく、若いころから見た目を気にされる方もおりますが、子育てがひと段落した中高齢になってから受診される方も多いです。しかし、誤ったイメージを持たれて、病院を受診される患者様は少なくありません。
今回は誤解されることも多い下肢静脈瘤についてお話したいと思います。
よくある下肢静脈瘤の誤解
これらは静脈瘤を心配されて血管外科外来を受診される患者様からの多く受ける質問ですが、誤解されていることが多い内容です。
① 静脈瘤があると血栓ができて脳梗塞になる
脳梗塞には様々な要因がありますが、静脈瘤が原因で脳梗塞になることは一般的ではありません。下肢静脈瘤に似た疾患で深部静脈血栓症がありますが、これはエコノミークラス症候群(肺塞栓症)の原因となることがあります。一方で表在静脈が変性するために起こる下肢静脈瘤が、深部静脈血栓症の直接的な原因となることはほぼありません。
② 静脈瘤を放置すると足が壊死して切断が必要になる
下肢動脈疾患が悪化すると足壊疽に至ることがありますが、下肢静脈瘤とは別の疾患です。また、下肢静脈瘤の重症型として皮膚の欠損を伴う、うっ滞性潰瘍という状態があります。しかし、下肢静脈瘤が潰瘍まで進展する頻度は低く、また、うっ滞性潰瘍が原因で下肢切断となることは稀です。
③ 静脈瘤の唯一の治療は手術であり、静脈瘤になったら全員が手術しなくてはいけない
写真①
蜘蛛の巣状静脈瘤-
一般的に無症状の方や、蜘蛛の巣状静脈瘤(写真①)などは手術の対象とはなりません。特に、このタイプの静脈瘤を「出血してしまった」と思われる方もいらっしゃいますが、表在の静脈が皮膚を通して見えている状態であり、心配ありません。また、手術以外に圧迫療法という有効な治療法も存在します。
④ 簡単な手術で完治し、一度手術を受けたら生涯心配しなくてよい
下肢静脈瘤の根治手術を受けても、一定数の患者さんは数年後に再発することがあります。再発の原因は分からないことも多いですが、静脈再生によるものや、静脈瘤には遺伝性があることから、静脈瘤になりやすい体質を持った方がなりやすい可能性が高いと考えられています。
下肢静脈瘤の症状
無症候性
写真②
大伏在静脈型-
下肢にボコボコとした静脈瘤(写真②)が確認されますが、静脈瘤に特有の症状(うっ滞症状)がない状態では、積極的な手術が必要ないことが多いです。
軽症
足のむくみ(浮腫)、重だるさ、かゆみ、痛み、足のつりなどは静脈うっ滞症状として知られています。これらの症状がある方は圧迫療法に加え、手術の対象となります。
中等症
写真③
うっ滞性皮膚炎うっ滞性皮膚炎(脛(すね)の赤み・ただれ)(写真③)や、色素沈着を認める方はうっ滞症状が強いため、圧迫療法と共に積極的な手術を検討する必要があります。
重症
写真④
うっ滞性潰瘍皮膚が欠損してしまう、うっ滞性潰瘍に至った場合(写真④)には感染を伴うことも多く、無治療で経過をみていると悪化することもあるため積極的な治療が必要です。圧迫療法、手術を組み合わせて治療を検討する必要があります。また糖尿病や心不全などの併存疾患の評価も必要です。
原因
下肢静脈瘤には色々な原因がありますが、積極的に手術を検討する必要があるのは、皮下にある太い静脈である伏在静脈に逆流がある場合になります。一方で伏在静脈に逆流がない場合には、蜘蛛の巣状静脈瘤や網目状静脈瘤、深部静脈不全症などがありますが、手術による治療効果が見込めない場合もあります。また、伏在静脈に逆流がない場合でも、静脈瘤からの出血を伴う場合には硬化療法が有効なことがあります。
下肢浮腫は下肢静脈瘤の主要な症状の一つですが、特に両側の下肢浮腫を伴う場合には下肢静脈瘤ではなく全身の要因(低アルブミンを伴う栄養障害、心不全、腎不全、カルシウムブロッカーなどによる薬剤性、運動不足による廃用性浮腫など)のことが多く、原疾患を治療する必要があります。
当院受診をされた際の流れ
初診外来
- 当科では火曜日、木曜日の午前が静脈瘤専門外来となっております。
- 当日受診の場合は混雑することが多いため、事前予約をお願いいたします。
- 外来では問診、身体診察、エコー検査を行い、治療が必要な下肢静脈瘤かどうかを確認します。
- 深部静脈血栓症などの疾患が疑われた場合には造影CT検査等を追加することがあります。
- 治療が必要な下肢静脈瘤と判断された場合には、どのような治療が必要かをご説明させていただきます。
治療法

当科では、有症状の下肢静脈瘤の方に、圧迫療法や手術(レーザー焼灼術、ストリッピング、硬化療法、瘤切除術)を行っています。外来受診時に患者様の症状と、血管の状態に応じて適切な検査、治療法をご提案しております。手術は通常は1泊2日ですが、患者さんの状態や手術方法によっては日帰り手術も行っています。
瘤切除(Stab avulsion法)
硬化療法
- 血管外科のご案内
- 血管外科コラム「閉塞性動脈硬化症について~その足の症状は大丈夫?~」