ドクターコラム

炎症性腸疾患について

消化器内科 医長 鹿野島 健二

掲載日:2023年9月15日

  • 炎症性腸疾患
  • 炎症性腸疾患の患者さんが増えています。
    炎症性腸疾患とは原因不明の炎症が小腸や大腸に起きることで下痢や腹痛、時に発熱や血便を繰り返す病気です。

    免疫に何らかの異常をきたすことで自分の免疫細胞が自分の腸を攻撃し始めてしまう自己免疫疾患であること、原因は特定の何かではなくいくつかの因子(遺伝や環境など)が重なって発症することは分かっていますが、明確な原因はいまだ分かっていません。

関節の病気であるリウマチと似た性質があり、実際に同じ治療薬を使うことがあります。
また若い人の病気と考えられており、実際に20~30歳前後の患者さんが多い病気ですが、70代以降に発症することもあれば小児期に発症する人もいます。

代表的な病気に潰瘍性大腸炎クローン病があり、日本では潰瘍性大腸炎が22~25万人程度、クローン病が5万人程度罹患していると推定され年々その数は増えています。下痢や腹痛、血便が続くことで生活が障害されるだけに留まらず、腸に穴が開いてしまったり、大腸がんや肛門がんを発症して腸を切除したり、時に致命的になり若くして命を落とすこともある病気です。

潰瘍性大腸炎の医療受給者証および登録者証交付件数の推移
炎症性腸疾患の治療薬について

治療薬

治療薬は5-ASA製剤という腸の炎症を抑える飲み薬が基本薬となりますが、症状の重い方や5-ASA製剤の効果が不十分な人は副腎皮質ステロイド薬や免疫調整薬を使うことがあります。最近では治療が難しい患者さん向けに生物学的製剤(注射薬)やJAK阻害薬(内服薬)といった新規薬剤の処方が可能となっており10年前と比べれば患者さんの予後は大きく改善しています。

クローン病の医療受給者証および登録者証交付件数の推移

治療目標は日常生活を妨げられないようにするところまで症状をとることと、将来的な再燃の予防、発がんの予防になります。症状がなくなっても大腸カメラで炎症が残っていると再燃・発がんのリスクが高いといわれています。潰瘍性大腸炎から発病した大腸がんは内視鏡で見つけることが難しく進行も早いため定期的な大腸カメラ検査が重要です。

  • 潰瘍性大腸炎治療前潰瘍性大腸炎治療前
  • 潰瘍性大腸炎治療後潰瘍性大腸炎治療後

こんな時は消化器内科を受診してください

  1. 血便が少量ずつでも2週間以上続きとき
  2. 下痢が2週間以上続くとき
  3. 慢性的な腹痛があり、体重が減っていくとき

大腸がん検診も有用です

時に症状が少ないまま進行することが知られていますが、大腸がん検診の結果早期発見される患者さんもいます。ご家族や友人が炎症性腸疾患で自分は大丈夫か心配だけど大腸カメラはできれば受けたくない、という人は大腸がん検診(検便検査)の方が検査のハードルが低いです。病気を正確に見つける力はどうしても劣るため、はっきり症状がある人には内視鏡検査を強くお勧めします。

最後に

炎症性腸疾患は早期に発見し治療を行うことで多くの人は病気のない人と同じように生活が送れるようになる可能性が高くなります。忙しいから、あまり困っていないからと放置せず症状がある方は早めに医療機関へ相談してください。