ドクターコラム

もしかして「更年期障害」?と思ったら・・・

産婦人科 医長 奥野 さつき

掲載日:2023年8月16日

更年期障害とは

  • 更年期障害とは
  • 閉経前の5年間と閉経後の5年間を合わせた10年間を「更年期」と呼びます。閉経は12ヶ月以上月経が来ないことで判定されます。(子宮摘出後はホルモン値で判定)

    この時期には卵巣から分泌されるエストロゲンが急激に変動しながら低下していき、そこに加齢に伴う身体的変化や精神・心理的な要因、環境因子が複合的に影響することによってさまざまな症状が現れます。

主な症状は?

主な症状として、血管運動神経症状(ホットフラッシュ)、不眠、頭痛、認知機能低下、不安、抑うつ、そのほか肩こり、倦怠感、息切れ、関節痛、めまい、腟乾燥、頻尿などの身体症状があります。日常生活に支障を来す場合を「更年期障害」と呼び、治療の対象となります。

更年期障害の診断

更年期障害に対する標準的な診断基準は存在しません。更年期の症状、障害と考えて矛盾しないかどうかが判断基準です。そのため、重要なことは以下の2つです。

  1. 同じような症状を生じる他の病気を除外できているか(甲状腺疾患、糖尿病、精神疾患など)
  2. 症状発現と更年期の時期が一致しているか
    (エストロゲン低下の特徴的な症状であるホットフラッシュがあるか)

症状が多彩で個人差も大きいために判断が難しく、指標や質問票での評価が必要です。
当院では簡略更年期指数(SMI)を参考にしています。

更年期障害の治療

更年期障害は、症状やその重症度に応じて治療を選択します。

  1. カウンセリング・心理療法
  2. 生活習慣の改善(食事療法、運動療法)
  3. 薬物治療(ホルモン療法、漢方療法、向精神薬)

婦人科では主にホルモン療法や対症的な漢方薬などの処方を行いますが、ここではホルモン補充療法についてお話します。

ホルモン補充療法

  • ホルモン補充療法
  • 低下したエストロゲンを補充するため、エストロゲン製剤を使用します。子宮がある場合には、エストロゲンの作用による内膜増殖症や子宮体癌の発生を予防するためにプロゲステロン製剤を併用します。

    エストロゲン製剤にはホルモンの種類、投与経路(経口、経皮)、投与方法(周期投与、持続投与)などバリエーションがあり、それぞれに特徴があるので、最適な組み合わせを選択します。

エストロゲンを補充することで、エストロゲン低下と密接に関連する血管運動神経症状、抑うつ気分、抑うつ症状は改善します。また性機能障害、不眠、腟乾燥感、記憶力低下、頻尿、関節痛などの症状の改善も報告されています。すべての症状が劇的に改善するわけではありませんが、治療により前向きになる方も多くいらっしゃいます。

また症状の改善に加え、骨粗鬆症や動脈硬化の予防、悪玉コレステロールの低下、認知症リスクの低下、皮膚の厚み・コラーゲン量の増加、胃がん大腸がん・食道がん・肺がんのリスク低下も報告されています。

一方、有害事象もあります。エストロゲンに関連するがんの発生には注意が必要です。特に乳がんは様々な報告がありますが、研究が重ねられる中で、ホルモン療法の乳がんリスクへの影響は他のリスク因子に比べ小さいと現在は考えられています。

心筋梗塞、虚血性脳卒中、静脈血栓塞栓症などの重大な有害事象も挙げられますが、開始時期、投与期間、投与方法を選択することでリスクを増加させない可能性があります。

合併症によりホルモン補充療法ができない方や慎重に投与しなければならない方もいらっしゃるので、リスクの評価は厳重に行っています。有害事象を過度に恐れることなく、リスク・ベネフィットを十分考えた上で、必要な時に正しく使用することが大切です。

もしかして「更年期障害」?と思ったら・・・

本当に更年期障害なのか、他の病気は隠れていないか、ご自身の体を見直すチャンスと思って健康診断を受けられるのもよいかと思います。生活習慣の見直しも大切です。
セルフケアだけではよくならない症状に悩まれたら、一度婦人科受診を考えてみてください。
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