ドクターコラム

がんと高精度放射線治療について

高精度放射線治療センター センター長 森 美雅

掲載日:2023年1月31日

新百合ヶ丘総合病院高精度放射線治療センターでは、2012年の開院当初から、ピンポイント放射線治療に優れたコンピューター制御ロボットのサイバーナイフ治療(図1)を行ってきました。

さらに2017年からはIMRT(強度変調放射線治療)が正確に行える最新最高峰の汎用リニアック型治療機のバリアン・トゥルービーム(エグザクトラック位置合わせ装置付き、図2)を稼働して、がん治療の三本柱の一つの放射線治療(他は手術治療と薬物治療)を2台体制で行っております。

  • サイバーナイフ(図1)サイバーナイフ
  • トゥルービーム(図2)トゥルービーム

私自身は2018年から当施設に赴任して高精度放射線治療に携わっておりますが、今後も世界最先端の放射線治療を行っていきたいと思っております。以前の勤務地での経験も合わせると、1991年からガンマナイフ、サイバーナイフ、トモセラピー(ラディザクト)、ノバリス、バリアントゥルービームなど、種々の高精度放射線治療機器による脳・全身の治療に携わっております。また当院が所属している南東北(みなみとうほく)グループの関連施設では、南東北がん陽子線治療センターに陽子線治療(図3)、南東北BNCT研究センターにBNCT治療(Boron neutron capture therapy=ホウ素中性子捕捉療法、図4)が稼働しております。

  • 陽子線治療(図3)陽子線治療
  • BNCT治療(図4)BNCT治療

いろいろな高精度放射線治療機器

このように、各施設にいろいろな機器がありますので、自分の病気にはどの機器が合っているのか患者さんは迷われてしまうかもしれません(図5)。どの機器も進化して、いろんな照射ができるようになってきているので、たいていの場合はどの機器でも似たような治療ができることが多いです。しかし専門的には、腫瘍の広がり具合、どのくらい限局した照射にするか、中心部に線量を上乗せした照射とするかなどによって適した機器が決まってくる場合もあります。

ガンマナイフ
アイコン
サイバーナイフ ザップ
ガンマナイフアイコン サイバーナイフ ザップ
シナジー トゥルービーム ラディザクト
トモセラピー
シナジー トゥルービーム ラディザクトトモセラピー
(図5)いろいろな高精度放射線治療機器

当院のサイバーナイフトゥルービームの2台体制はバランスがよく、患者さんのあらゆる状況に広く対処できる組み合わせです。また、がんの種類によっては必要に応じて、前述の当グループ関連施設の陽子線治療、BNCT治療を勧めることもできます。各々の機器の特性をふまえて、患者さんの状況に最適な低侵襲高効果の放射線治療を提供していきたいと考えております。

高精度放射線治療とは

  1. 定位放射線治療(SRS/SRT=stereotactic radiosurgery / stereotactic radiotherapy)
  2. 強度変調放射線治療(IMRT=intensity-modulated radiotherapy)
  3. 画像誘導放射線治療(IGRT=image-guided radiotherapy)

高精度放射線治療に関しては、表題のSRS/SRT、IMRT、IGRTなど、いろいろな用語があり、これもわかりにくいこととなっていると思います。定位放射線治療(SRS/SRT)とは、病巣をねらってピンポイントで治療する治療方法で、強度変調放射線治療(IMRT)は、照射するときに各々の照射野内の線量自体に濃淡を付けて、なるべく当てたい腫瘍のところに線量が集中するようにする治療方法です(当院では、よりよい線量分布が行える回転照射のIMRTであるVMAT [ヴイマット] =volumetric-modulated arc therapyを行っております)。画像誘導放射線治療(IGRT)とは、実際の照射治療の際に治療台に乗られた患者さんの画像を、その都度撮影し身体の内部構造の位置合わせを元にして照射治療する治療方法です。

実際の治療では、SRS/SRT、IMRT、IGRTが技術的に重なって行われることがあり、これらを区別する意味があまりありません。たとえば、IMRTの技術を使って放射線治療計画してIGRT技術を使ってSRT照射を行ったりします。常に、これらの最新の技術を組み合わせて、効果が高く副作用の少ない治療を行っております。また、従来の放射線治療を組み合わせた治療を行うこともあります。

高精度放射線治療例

  • 肺転移のサイバーナイフ治療例(図6)肺転移のサイバーナイフ治療例
  • 頭頸部がんの放射線治療例(図7)頭頸部がんの放射線治療例

放射線治療はがん治療の柱の一つ

手術ができないので放射線治療、というのは過去の話で、放射線治療はがん治療の強力な武器です。初期がんではピンポイントの放射線治療が標準治療となる場合があります。がんが少し広がってきていても、手術・放射線の局所療法と、薬物治療の全体治療をうまく組み合わせて治療できる場合があります。進行したがんでも放射線治療をうまく使って進行を遅らせたり、症状を軽くしたりできる場合もあります。外科医師と内科医師と放射線治療医師の連携が大切であると考えて日々の治療を行っております。

これまで放射線治療を行う考え方として、根治[こんち]治療(がんが初期で広がっていない場合に病巣だけ、または病巣一帯を照射してがんを治してしまう目的の治療)と緩和[かんわ]治療(がんが広がってしまっているので治す目標はない、症状を和らげるのが目的)という両極の考え方しかありませんでした。
しかし近年の高精度放射線治療の急速な進歩により、以前は照射適応外であった症例に対しても放射線治療を適応しようという考え方が広まってきております。これらは、以前の根治治療と緩和治療の間に位置するような考え方となります。全身療法として化学療法や分子標的療法の効果を期待しつつ、それらでは制御できずに画像上明らかな病巣に対して、局所療法として放射線治療を積極的に追加して行う場合があります。

定位放射線治療の新たな保険治療適応

  1. オリゴメタスターシス(オリゴ転移)
  2. オリゴプログレッション(オリゴ進行)
  3. オリゴリカーレンス(オリゴ再発)

全身的にみて、がんの転移箇所が少なければオリゴメタスタシス、薬物治療などで散らばった他の小さい転移が治まっていればオリゴプログレッション、再発しても少ない箇所に限局していればオリゴリカーレンスといって、可能ならピンポイント照射を組み合わせて治療することが検討されるようになってきました。こういったことが保険治療でできるようになっております。

以前は、がんの全体を治療できる見込みがない場合は局所的な放射線治療は行わないといった考え方(治療方針)が主流でした。しかし近年、一部の癌だけでも放射線照射治療することも意義があるのでは、ということがいわれております。

アブスコパル効果

アブスコパル効果といって、一部のがん病巣を放射線治療したところ、がん細胞に対する免疫が活性化されて、離れた他の治療していないがん病巣も縮小することがあるといわれております。私自身の治療患者さんでも、アブスコパル効果と思われる症例を経験しております。

免疫治療を行いながら脳転移(2カ所)をガンマナイフ定位放射線治療したら脳転移だけでなく肺がん自体と、もう1カ所の離れた対側の肺内転移も著明に縮小した80歳代男性例(図8-1・図8-2)、化学療法を継続していた卵巣がん手術後の方で3カ所の肺転移が生じ、まず2カ所をサイバーナイフ照射治療した数ヶ月後に、もう1カ所の肺転移も縮小した50歳代女性例を経験しております。

  • アブスコパル効果がうかがわれた症例(図8-1)アブスコパル効果がうかがわれた症例
    (脳転移を放射線治療したところ)
  • アブスコパル効果がうかがわれた症例(小さい肺転移も著明に縮小)(図8-2)アブスコパル効果がうかがわれた症例
    (小さい肺転移も著明に縮小)

今後、免疫療法、免疫チェックポイント阻害剤治療が進歩すると、アブスコパル効果を狙った腫瘍の部分的な放射線治療の役割が高まっていくと思われます。

さいごに

国民の3人に1人ががんで亡くなるといわれております。外科医師や内科医師と放射線治療医師の連携が大切であると考えて日々の治療を行っております。当施設では、当院主科医師からだけでなく他施設医師からの放射線治療紹介症例を多数受け入れております。

がんが見つかってしまった場合は、その臓器の担当医の先生とよく御相談いただき、治療に放射線を組み込んだ方がよい可能性があれば、ご紹介していただき治療相談しております。紹介元の主治医の先生方と連携して、患者さんの状況に合わせて低侵襲(体にやさしい)で効果の高い高精度な治療を行っております。