ドクターコラム

乳幼児突然死症候群 ~エビデンスに基づく予防のポイント~

小児科 髙橋 哲朗

2022/10/10掲載

乳幼児突然死症候群とは

今回のコラムでは、育児をされているお母さん、お父さんにぜひ知って頂きたい「乳幼児突然死症候群」について説明いたします。

【目次】

乳幼児突然死症候群の発生原因

乳幼児突然死症候群(Sudden Infant Death Syndrome)は、それまで健康だった乳幼児に起こる原因不明の突然死のことを言います。英語の頭文字をとってSIDS(シッズ)とも呼ばれます。睡眠中に発生します。

赤ちゃんが突然亡くなることは、生まれつきの病気や感染症、窒息事故などによっても起こることがあります。しかしSIDSはそれらと異なり、予兆なく突然起こり、詳しく調べても原因が見つからないものを指します。

2019年の日本の統計では乳児の死亡原因の第4位となっており、生後2〜6か月に多いです(参考文献1)。

仰向け寝キャンペーン

赤ちゃんのうつ伏せ寝は良くないということをご存知の方は多いかと思います。うつ伏せ寝がSIDSのリスクになることが様々な研究結果によって明らかになり、うつ伏せ寝を避けて、仰向け寝を推奨する「Back to sleep」キャンペーンが全世界的に行われるようになりました。日本でも1998年(平成10年)に呼びかけが始まりました。

※政府広報オンラインより乳幼児突然死症候群死亡者数の推移(参考文献2:政府広報オンライン)
図1:乳幼児突然死症候群死亡者数の推移

これによって日本でもSIDSはこのグラフのように大きく減少しました(図1)。しかし、2005年(平成17年)頃から減少が緩やかになっており、近年もまだ年間約60〜70人がSIDSで命を落としているのが現状です。

SIDSのトリプルリスクモデル

SIDSのトリプルリスクモデル 図2:SIDSのトリプルリスクモデル

SIDSは原因は不明ですが、様々なリスク因子が重なると発症するのではないかと考えられています。生後12か月までのリスクが高い発達時期であること、早産児や妊娠期の飲酒・喫煙などの内的要因うつ伏せ寝や柔らかい寝具などの外的要因、これら3つのリスク因子が重なるとSIDSが発症するのではないかという説が提唱されており、これをトリプルリスクモデルと言います(図2)。

このようにうつ伏せ寝だけではなく、様々な睡眠環境の工夫によってSIDSを予防していくべきだという考えに変わっていき、2012年にアメリカでback to sleepキャンペーンは「Safe to sleep」キャンペーンに生まれ変わりました。

SIDS予防の10個のポイント

アメリカ小児科学会は睡眠中の乳児の突然死を予防するための推奨を発表しており、2022年には最新の研究結果に基づいてアップデートされています(参考文献4)。SIDSだけでなく、窒息のように原因がはっきりしている突然死の予防策も含んでおり、実践的な内容となっています。今回はこの推奨をもとにSIDSの予防のために特に重要なpointを10個まとめてみましたので、順番に詳しく説明していきたいと思います。

① 平らな場所に仰向けで寝かせる

  • Safe to sleep campaignホームページよりSafe to sleep campaign
    ホームページより
  • 平らな場所に仰向けに寝かせることは、前述の通りSIDSの予防の基本になります。1歳までは仰向け寝で寝かせるようにしましょう。横向き寝も同様にリスクがあり、他の医学的な理由で医師から指導されていない限りは避けるべきです。

    寝返りができるようになって、もし寝ている間に寝返りした場合はどうすればいいでしょうか。「寝返り返り」つまり、うつ伏せになったあと仰向けにまた戻ることができる赤ちゃんであれば、そのままでも良いとされています。もしまだ一方向の寝返りしかできない場合は、気づいたら仰向けに戻してあげることが良い、とsafe to sleepキャンペーンのホームページには記載されています(参考文献4)。しかし、寝返りしないかをずっと監視することは現実的でないですし、そもそも寝返りできる時期はSIDSのリスクは比較的低いと言われていますので、後でお話しする他の対策を気をつけていれば神経質になる必要はなく、可能な範囲で対応してもらえれば良いと思います。

② 固いマットレスを使う

赤ちゃんの頭の形に合わせて凹むようなマットレスはSIDSや窒息のリスクがあります。またシーツはシワのつかないしっかりとフィットしたものを使用しましょう。

柵にぶつかって怪我をしないように取り付けるクッション性のあるベッドバンパー、ベッドガードは、赤ちゃんの窒息の危険性を高めることが指摘されており、学会はその使用を控えるよう推奨しています。

③ 柔らかい寝具は置かない

クッション、ぬいぐるみ等の柔らかいものは、赤ちゃんの口を塞いでしまう恐れがあり、置いてはいけません。枕も赤ちゃんには不要ですし置くべきではありません。

毛布やブランケットについても同様な理由で、置かないほうが良いと推奨されています。それでは赤ちゃんが冷えてしまうのではないかと思われる方も多いと思いますが、アメリカ小児科学会はブランケットではなく、スリーパーを使用するよう推奨しています。スリーパーはパジャマの上から着る上着のことで、毛布やブランケットの役割を果たすことができます。安全な睡眠のためにはこのスリーパーの使用をお勧めします。

④ 親と同じ部屋で、違う寝床で寝る

  • back to sleepキャンペーン Safe to sleep campaign
    ホームページより
  • 写真のように、親の目の届く同じ部屋で、違うベッドや布団で寝ることも重要です。リスクの高い生後1歳まで、最低でも半年までは行うべきとされています。

    添い寝は、親が覆い被さったり、親の使っている布団などによって、窒息してしまうリスクがあり、 SIDSや窒息のリスクを高めることが分かっています。寝かしつけや授乳のため同じベッドに過ごすことはあると思いますが、寝付いたら赤ちゃんの寝床に移してあげるのが望ましいです。

とは言っても、大変な育児ですから、授乳しながらお母さんが寝落ちしまうことは良くあることだと思います。そういう時のために、柔らかいものを周りに置かないなどの他の対策を行っておき、リスクを下げておくことが重要です。寝落ちした場合は、親が目を覚ましたタイミングで赤ちゃんを別の寝床に戻してあげるべきと推奨されています。

⑤ なるべく母乳育児を行う

理由ははっきりと分かっていませんが、母乳育児はSIDSのリスクを下げることが分かっています。トリプルリスクモデルという説があったようにSIDSは様々な要因が重なり合って起きると言われています。母乳栄養はあくまでSIDSリスクを下げる一因子に過ぎません。その他の予防策でリスクを下げることができるため、母乳栄養が困難な事情がある方が思い悩む必要はないと考えます。

⑥ 赤ちゃんをあたため過ぎない

様々な研究により赤ちゃんをあたためすぎることはSIDSのリスクになることが分かっています。胸を触って熱いと感じる場合、汗をかいている場合は、あたため過ぎと考えた方が良いです。室温は何度が良いのかについて、はっきりとした推奨基準はありません。目安としては大人が心地良いと感じる室温で、大人が着ている枚数以上に厚着はさせない方が良いとされています。

⑦ タバコを吸わない

妊娠中、出生後の喫煙はSIDSのリスクを上げることが分かっています。妊婦自身はもちろん、妊婦や赤ちゃんの近くでの喫煙もやめるべきです。またアルコールについても妊娠中やSIDSリスクのある時期は避けるべきです。

⑧ 家庭用の心肺モニターは推奨されない

赤ちゃんが呼吸をしているかどうかを監視するためのモニターは、色々なものが市販されていますが、これは推奨されていません。市販のモニターを使用しても、SIDSの予防にならないことが複数の研究から明らかになっています。むしろ装着することで過度に安心し、他の対策を怠るリスクを指摘されています。なお、SIDS以外の疾患のために酸素モニターなど使用が必要な場合はありますので、その際は主治医に指導を受けていただければと思います。

⑨ 寝かしつけの時におしゃぶりを使う

こちらも理由は不明ですが、寝かしつける時におしゃぶりを使用するとSIDSのリスクが下がることが知られています。

なお、母乳栄養の場合は哺乳が十分に確立してから行うべきとされています。窒息の恐れのあるような、紐やぬいぐるみの付いたものは使用しない方が良いです。

⑩ うつ伏せで遊ぶ時間を作る

  • back to sleepキャンペーン Safe to sleep campaign
    ホームページより
  • 寝ている時のうつ伏せは避けるべきなのですが、写真のように起きている時に監視下でうつ伏せで遊ばせる時間を作ることは、SIDSのリスクを下げることが分かっています。2022年の最新の推奨ではgradeAというもっとも高い推奨度に上がっています。うつ伏せ遊びの時間を英語でtummy timeといい、初めは数分間からはじめて、徐々に増やし、1日15〜30分以上できると良いと言われています。無理のない範囲でぜひ、tummy timeを作ってみてください。

最後に

以上、SIDSの予防のための10個のpointを解説しました。ただ、乳児期の子育てはただでさえ大変です。今回お話ししたことが一つできないと、危険だと考える必要はありません。SIDSは様々な要因が絡み合って起こるものですので、全てを完璧にできなくても大丈夫です。できる範囲で赤ちゃんの睡眠について見直してみていたただければと思います。

【参考文献】
1) 厚生労働省:乳幼児突然死症候群について
2) 政府広報オンライン:赤ちゃんの原因不明の突然死 「SIDS」の発症リスクを低くする3つのポイント
3) Pediatrics. 2012 Apr; 129(4): 630–638.
4) Pediatrics . 2022 Jul 1; 150(1):e2022057990.
5) Safe to sleep campaign, NIH