ドクターコラム

若年性認知症

脳神経内科 矢﨑 俊二

掲載日:2020年3月12日

若年性認知症とは

  • 若年性認知症とは
  • 認知症とは、一度正常に発達した認知機能が後天的な脳の障害によって持続的に低下し、日常生活や社会生活に支障を来すようになった状態を言い、それが意識障害のないときにみられるものです。

認知症の中では、アルツハイマー病(脳細胞へのβアミロイド蛋白やリン酸化タウ蛋白蓄積などによる脳萎縮で生じる脳の変性疾患)によるアルツハイマー型認知症が患者の過半数以上を占めています。その中で、18歳以上65歳未満で発症する認知症を若年性認知症と呼び、発症はまれです。行政レベルでも、65歳未満発症者を若年性認知症と表記します。

厚生労働省の2009年3月の調査結果では、日本の18-64歳人口における人口10万人当たり若年性認知症者数は、47.6人であり、全国の患者数は約37,800人でした(約8割は50歳以上)。推定発症年齢は約51歳です。男性が女性より少し多いとされています。

当院の脳神経内科の「物忘れ専門外来」で、2019年度に新たに認知症と診断された234人のなかで若年性認知症患者は4人(1.7 %)でした。

若年性認知症の基礎疾患

基礎疾患としては、厚生労働省の2009年3月の調査結果では、脳血管性認知症(脳梗塞、脳出血、慢性硬膜下血腫などにより生じる認知症:39.8%)、アルツハイマー病(25.4%)、頭部外傷後遺症(交通事故、ケガなど:7.7%)、前頭側頭葉変性症(大脳の前頭葉と側頭葉を中心とする神経細胞の変性・脱落が生じるもの:3.7%)、アルコール性認知症(大量飲酒・慢性アルコール症に伴う認知症3.5%)、レビー小体型認知症(大脳皮質に広範なレビー小体が出現して生じる認知症:3.0%)の順です。

なお、65歳未満で発症する年性アルツハイマー病のなかには遺伝的背景をもつ者もあり、家族性アルツハイマー病(FAD)と呼ばれますが、FADはアルツハイマー病患者全体のなかで約1 %以下です。

若年性認知症の症状

  • 若年性認知症とは
  • 介護する家族が気づく若年性認知症の初期症状は、厚生労働省の2009年3月の調査結果では、もの忘れ(50.0%)、行動の変化(28.0%)、性格の変化(12.0%)、言語障害(10.0%)です。記憶障害のほかに意欲も低下してきます。若年性認知症の人は、認知機能が低下しても身体能力が高い人が多い一方、症状の進行が速く、重症化しやすいとされています。

若年性認知症をめぐる問題点

若年性認知症が発症した場合の問題点は、本人が家計や育児の中心的担い手であり、介護する家族の負担、人間関係の悪化、仕事の継続困難、世帯の経済的困難、子の養育、親の介護などの生活課題が存在することです。厚生労働省が2014年に行った調査では、若年性認知症の人で就労経験がある1,411人のうち、定年前に自ら退職したのは996人、解雇されたのは119人、全体で79%でした。また、家族介護者の約6割が抑うつ状態にあると判断されています。

行政による若年性認知症支援と実情

厚生労働省によると、若年性認知症者の支援には行政や事業者その他の各団体などが、相互に若年性認知症対策に関する理解を深め、有機的な連携のもとで、1人ひとりの状態に応じた多様なサービスが総合的に提供されるよう積極的に務めること、とされています。

厚生労働省は、高齢化に伴う認知症患者の増加への対策として2017年7月に改定した新オレンジプラン(認知症施策推進総合戦略)により、様々な認知症施策を実行しています。この新オレンジプランの7つの柱の第3番目として、若年性認知症施策の強化を打ち出しています。

国・都道府県の事業として、若年性認知症の手引きの作成、自立支援医療(精神通院医療費)による健康保険の自己負担軽減等の医療的な支援、障害基礎年金等による経済的な支援、ケアホーム等の居住等障害福祉サービスによる支援、職業リハビリテーションサービス等障害者雇用施策による支援、都道府県等に若年性認知症自立支援ネットワークを構築、若年性認知症コールセンターの設置などが実施されています

自立支援医療制度による精神障害者保健福祉手帳交付により、さまざまな税金控除、交通機関の運賃割引、携帯電話料金割引、公営住宅優先入居などのサービスが受けられます。なお、前頭側頭葉変性症の中の頭葉側頭型認知症と意味性認知症は、要件を満たせば一定の医療補助があります。

若年性認知症の早期対応

  • 若年性認知症とは
  • 症状には個人差がありますが、早期に適切な治療を始めれば、進行を遅らせることができる場合もあるとされています。また、診断がつけば上記の行政サービスを受けたり、労働時間の短縮や配置転換などにより働き続けることができる可能性もあります。上記の症状に家族や周囲の人が気づいたら、早い時期に認知症の専門外来を受診することをお勧めします。

参考資料
・日本神経学会監修: 若年性認知症 認知症疾患診療ガイドライン2017、医学書院:2017:192-198
・栗田主一ほか監修:認知症トータルケア 日本医師会雑誌, 2019:147巻特別号(2):S44-S45
・厚生労働省ホームページ