胃がん|外科・消化器外科

胃がんとは

胃がんは、胃の壁の最も内側にある粘膜内の細胞が、何らかの原因でがん細胞になって無秩序に増殖を繰り返すがんです。胃がん検診などで見つけられる大きさになるまでには、何年もかかるといわれていて、大きくなるに従ってがん細胞は胃の壁の中に入り込み、外側にある漿膜やさらにその外側まで広がり、近くにある 大腸や膵臓にも浸潤していきます。

  • 大腸がんの発生率
  • がん細胞は、転移(リンパ液や血液の流れに乗って他の場所に移動し、そこで増殖する)することがあります。最も多い胃がんの転移は「リンパ節転移」で、リンパ液の流れの関所のような「リンパ節」で増殖し、これは、早期がんでも起こることがあります。また、進行がんの一部では、おなかの中の腹膜や肝臓にも転移がみられることがあります。

    特殊な胃がんとして、胃壁の中で広がって粘膜の表面にはあらわれない「スキルス胃がん」があります。早期の段階での発見が難しいため、進行した状態で発見されることが多く、治療が難しい胃がんの種類の 1つですが、診断や治療の進歩により、胃がんは治りやすいがんの 1 つといわれています。治療方針は、胃がんの大きさや広がりなどによって細かく決められていますが、進行した状況で発見された場合、治療が難しいこともあります。

2010年 2010年

胃がんの罹患率は40歳代後半以降に高くなります。日本全国では、胃がんに罹る人の数は高齢化のために全体数は横ばいですが、以前に比べると、男女とも大きく減ってきています。

胃のしくみ

  • 大腸のしくみ
  • 胃の本体は筋肉でつくられており、内側は円柱上皮という丸い柱のような形の細胞でできた粘膜でおおわれており、この粘膜の中に胃液の分泌腺があります。胃の外側は、漿膜(しょうまく)という結合組織でできた丈夫な膜でおおわれています。  なお、食道とつながっている胃の入り口の部分を噴門(ふんもん)、十二指腸とつながっている出口の部分を幽門(ゆうもん)と呼びます。

    胃は、食道から送られてきた食物を一時ためておき、食物が入っていないときは収縮した状態ですが、ゴムのように伸び縮みでき、食物が入ってくると広がります。 胃の位置は、食物が入っていないときはお臍より上、食物が入ると胃の下部が伸びてお臍より下にきます。 また、 蠕動運動(ぜんどううんどう-うねるような運動)と攪拌運動(かくはんうんどう-かきまぜる運動)によって食物をよくこね、混ぜることと、胃液と消化酵素のペプシンを分泌して食物を消化することです。この働きで、食物は細切れにされて胃液とまぜ合わされ、かゆ状(胃液とまざった水っぽい液)になって十二指腸に送られます。なお、水分、塩分、アルコールのほとんどは小腸で吸収され、胃では一部しか吸収されません。

胃がんの原因と症状

胃がん発生の原因は、いくつかのリスク要因が指摘され、喫煙や食生活などの生活習慣や、ヘリコバクターピロリ菌の持続感染などが原因となりうると言われています。

食生活については、塩分の多い食品の摂取や、野菜、果物の摂取不足が指摘され、ヘリコバクターピロリ菌については、日本人の中高年の感染率は非常に高く、若年層では低下していますが、感染した人の全てが胃がんになるわけではありません。 感染の有無にかかわらず、禁煙する、塩や高塩分食品のとり過ぎに注意する、野菜、果物が不足しないようにするなどの配慮が重要となります。

早い段階での自覚症状が出ることは少なく、かなり進行していても無症状の場合があります。代表的な症状は、胃の痛み・不快感・違和感、胸焼け、吐き気、食欲不振などがありますが、これらは胃がん特有の症状ではなく、胃炎や胃潰瘍の場合でも起こります。

  • 大腸がんの初期症状として
  • 検査をしないと確定診断はできないので、薬を飲んで様子をみるよりも、まず病院で受診し、検査を受けることが重要となります。胃炎や胃潰瘍の症状の場合でも、内視鏡検査などで偶然に、早期胃がんが発見されることもあり、貧血や黒色便が発見のきっかけになる場合もあります。また、食事が喉に通らない、つかえる、体重が減る、といった症状は、進行胃がんの可能性もあるため、早めに病院で受診する必要があります。

胃がんの検査

胃がんの検査としては、胃X線検査や内視鏡検査を行います。胃がんが他の臓器まで広がっているかどうかを調べる検査としては、胸部X線検査、腹部超音波(エコー)検査、CT 検査、MRI 検査、PET 検査、注腸検査などがあります。

検査項目 内  容
胃 X 線検査
(バリウム検査)
バリウムを飲んで、X 線で胃の形や粘膜の状態をみます。手術前に胃がんの状態を詳しく診断する方法として、内視鏡検査が中心になってきており、特に内視鏡治療を行う場合は、胃X線検査をしないことがあります。
内視鏡検査 胃カメラ検査(口、あるいは鼻からファイバースコープで胃の内部を直接みる)で、がんが疑われる場所の病変の範囲や深さを調べる検査をします。また、がんが疑われる場所の組織の一部を採取して、病理検査もします。
CT検査、MRI検査 治療前に病変の広がりや転移の有無を調べるために行う検査です。CT検査はX線を、MRI検査は磁気を使って体の内部を撮ります。
※CT検査や MRI検査で造影剤を使用する場合、アレルギーが起こることがありますので、アレルギーだとわかっている人は、医師に申告してください。
PET検査 ブドウ糖に似た物質に放射性のフッ素を含む薬剤を注射し、その取り込みの分布を撮影することで全身のがん細胞を検出するのがPET検査です。他の検査で転移・再発の診断が確定できない場合に行うことがあります。
注腸検査 お尻からバリウムと空気を注入し、大腸の形をX線写真で確認する検査です。胃のすぐ近くを通っている大腸にがんが転移していないか、腹膜転移が生じていないかなどを診断します。

胃がんの治療

胃壁の構造と胃がんの深達度

がんの深さが粘膜下層までのものを「早期胃がん」、深さが粘膜下層を越えて固有筋層より深くに及ぶものを「進行胃がん」といいます。 がんが胃の壁の内側から外側に向かって深く進むに従い、転移することが多くなります。治療前の検査によって病期が診断され治療方針が決まりますが、開腹手術のときに転移などがはじめて見つかることもあります。

外科治療(手術)

外科治療(手術)

胃がんの標準的な治療は、手術が最も有効です。胃の切除と決まった範囲の周辺のリンパ節を取り除きます(リンパ節郭清)。胃の切除の範囲は、がんのある場所や、病期の両面から診断します。また、胃の切除範囲などに応じて、消化管再建(食べ物の通り道)を行います。リンパ節に転移している可能性がほとんどない場合は、手術ではなく、内視鏡治療(内視鏡による切除)が行われることもあります。

腹腔鏡下胃切除

内視鏡治療

がん細胞の中で、病変が浅く、リンパ節に転移している可能性が極めて小さいときには、内視鏡を用いて胃がんを切除する内視鏡的粘膜切除術(EMR)や、内視鏡的粘膜下層?離術(ESD)などの手術方法があります。

これらの治療後には、内視鏡による切除が十分かどうかを病理検査で確認し、病変が見つかった場合は胃を切除する手術が追加で必要になります。内視鏡治療をご希望のかたは、可能かどうかについての適応の有無を医師にご相談ください。

内視鏡治療

化学療法

胃がんの化学療法には、補助化学療法(手術と組み合わせて行われる)と、手術による治癒が難しい状況で延命や症状コントロール目的で行われる化学療法があります。 術後補助化学療法(再発予防のために手術後、目に見えない微小ながんに対して行われる)の対象はステージ II期/ III 期です。

化学療法の内容

①フルオロピリミジン系薬剤(フルオロウラシル[5-FU]、S-1、カペシタビンなど)
②プラチナ系薬剤(シスプラチン、オキサリプラチン)
③タキサン系薬剤(パクリタキセル、ドセタキセル)
④塩酸イリノテカン

などの抗がん剤が単独または組み合わせて用いられます。 また、胃がんの 10~20%では、「HER2(ハーツー)」と呼ばれるタンパク質が増殖に関与しているため、HER2 検査が陽性の場合は、分子標的薬のトラスツズマブを併用した化学療法が行われます。化学療法の副作用は人によって程度に差があるため、効果と副作用をよくみながら行います。臨床試験に参加して治療を行う選択肢もあります。

末期の胃がんに対する治療

末期の胃がんは、遠隔転移を伴っており、がんをすべて取り除く手術は難しいと考えられます。よって、化学療法(抗がん剤治療)が中心となり、病状によって遠隔転移があっても、胃がんだけを切除する手術(減量手術)を行い、また、がんからの出血や狭窄のために食事が十分にとれない状況のときには、病変がある胃を切除したり、食道をつくるバイパス手術が行われる場合もあります。