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2018年4月号

睡眠について(後編)
~良質な睡眠を得るために~

消化器内科/予防医学センター 袴田 拓

時計遺伝子の3つのスイッチ

安定した良質な睡眠を得るために、毎朝できるだけ決まった時刻(6時から7時頃)に起きて朝陽を浴びましょう。曇りでも構いません。雨であれば窓際に数分たたずむだけでも親時計はリセットされます。すると親時計からの目覚めシグナルは自律神経を介して全身の子時計へ送られ時間合わせが行われ、血圧や体温、代謝などのコントロールが開始されます。

しかし、地球と人間との時差を正確に調節するためには、このファーストシグナルだけでは不十分であることが判っています。二番目のスイッチとなるのは食事です。起床後1時間以内には朝食を摂りましょう。消化活動が腸の子時計を直接リセットします。できれば睡眠ホルモンであるメラトニンの原料となるトリプトファン(必須アミノ酸の一つ)を多く含む乳製品、卵、納豆、鶏肉といった食材を摂りましょう。朝食を抜いたりすると起床後約15時間で分泌の高まるメラトニン産生が乱れ睡眠の質が下がる可能性があります。

そして3番目のスイッチは運動です。体を動かすと、骨格筋の「PGC1」というタンパクが増加し、子時計のスイッチを押します。大げさな運動である必要はなく、顔を洗う、歯を磨く、ごみ捨てに行くといった日常的な動作で子時計は微調整されます。

もし仮に朝6時に起床し朝陽を浴びて、適切に朝食を摂り活発に活動して十分に全身の子時計をリセットさせれば、約15時間後の夜9時ころからメラトニンの分泌が始まり10時~11時ころには眠気を催してくるはずです。ここで素直に眠ってしまえばよいのですが、現代人はこの時間帯を忙しく過ごす人が多くせっかく備わっている安眠メカニズムを活かし切れていません。メラトニンは睡眠を促し免疫力アップに働くだけでなく、成長ホルモンと並ぶアンチエイジングホルモンとして体内に発生する活性酸素を除去(抗酸化作用)し、老化や病気を未然に防いでくれます。これらの作用を十分活かすため、夜間注意すべきことがいくつかありますのでまとめます。

良質な睡眠のために気を付けるべき3つのこと

① 睡眠時間

まず朝6~7時に起床するならば、夜10時から12時くらいまでには就寝につくライフスタイルを目指しましょう。仕事が忙しかったり、興味深いテレビ番組があったりしますが健康第一と考えるならば根本的に見直しましょう。そしてアメリカで100万人を対象にした睡眠時間と寿命についての調査によると、睡眠時間が7時間の人たちに比べて、3時間半~4時間半の人たちと、8時間半の人たちはともに死亡率が15%も高かったという結果がありますのでおよそ7時間の睡眠時間を目標としてください。

② 光の調整

次に就寝の準備時間になったら光に注意しましょう。部屋の灯りはオレンジなどの暖色系の間接照明などにして眠気を妨げないようにしましょう。スマホのブルーライトはメラトニン分泌を抑制するほどの強い光ですし、その電磁波はメラトニンを破壊するとも言われています。夜10時以降のスマホ使用はできるだけ控えましょう。

③ 入浴

スムーズな眠りのためには入浴の仕方にも気を使いましょう。時間は就寝の1~2時間前が理想的です。ぬるめのお風呂にゆっくり浸かり、体温を上昇させます。体の興奮は鎮まり、毛細血管への血流がアップします。お風呂から上がると体表の毛細血管より熱の放出がスタートし、体温はスッと下がり始め次第に眠気が訪れやすくなります。風呂場の灯りが明るすぎたり湯が熱すぎると体が興奮し逆に寝つきが悪くなりますので注意しましょう。

不眠でお悩みの方も、安易に睡眠薬に頼らず睡眠の基本メカニズムを理解し自然な睡眠習慣を取り戻すところから始めてみてください。

【参考文献】

櫻井武「睡眠の科学・改訂新版 なぜ眠るのか なぜ目覚めるのか」講談社ブルーバックス、2017年
西野精治「スタンフォード式 最高の睡眠」サンマーク出版、2017年
根来秀行「見た目とカラダとココロがまいにち若返る人の習慣」日本文芸社、2017年
根来秀行「老けない、太らない、病気にならない24時間の過ごし方」幻冬舎、2013年