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2018年3月号

睡眠について(前編)
~睡眠の役割~

消化器内科/予防医学センター 袴田 拓

イタリアの芸術家レオナルド・ダ・ヴィンチはこう言いました。「おお寝坊ものよ、眠りとは何であるか?眠りは死に似たものである。」一方でイギリスの劇作家シェークスピアは「快い眠りこそは自然が人間に与えてくれるやさしい、なつかしい看護婦だ。」との一節を残しています。眠りのメカニズムはまだ十分に解明されていませんが、現代科学においては後者の説を支持する知見が次々と明らかにされています。

睡眠の目的とは?

そもそも人はなぜ眠るのでしょうか?いくつかの目的が考えられています。


脳の休養、メンテナンス

単に受動的に休養するだけでなく、より積極的な保守作業を行っています。例えば、脳の老廃物でありアルツハイマー病の原因でもあるアミロイドβ(ベータ)というタンパクは主に睡眠中に脳脊髄液中へと洗い流されています。

記憶の整理・定着

前日嫌な思いをしたけれども、一晩寝たら何となくすっきりしたという経験はないでしょうか。これは睡眠中に嫌な記憶が整理され、必要に応じて消去されているからです。また学習した記憶が睡眠によって定着・保持されるだけでなく、むしろ向上・強化されることも複数の研究によって示されています。

ホルモンバランスの調整

昔から「寝る子は育つ」と言いますが、これは寝入りばなの数時間で成長ホルモンがたくさん分泌され子供の骨や筋肉の成長を促すためです。しかし成長ホルモンの役割はそれだけにとどまりません。アンチエイジング(抗加齢)ホルモンの代表格とされ、肌や筋肉、骨、内臓の傷んだ細胞を修復し新陳代謝をサポートし、免疫力や脳、視力の働きを強化するほか、コレステロール値の低下作用もあります。また睡眠不足になると脂肪細胞から分泌される食欲を抑制するレプチンというホルモンが減少し、胃から分泌される食欲を増すグレリンが増え、生活習慣病を発症する可能性が高まります。

免疫力向上

「風邪はよく寝れば治る」と言いますが、これにも根拠があります。睡眠前から睡眠期前半にかけて多く分泌されるメラトニンというホルモンは胸腺という臓器に働きかけて、免疫の主要な働きを担うTリンパ球をたくさん作らせ感染症を治癒に向かわせます。またインフルエンザなどの予防接種の効果は睡眠の足り具合によって差があることも報告されています。

良質な睡眠の鍵

では良質な睡眠への入り口とはいったいどこにあるのでしょうか?実はその日の朝にあります。

2017年アメリカの3人の科学者が動物の「体内時計」とそれをコントロールする「時計遺伝子」のメカニズムを明らかにしノーベル医学・生理学賞を受賞しました。人体には地球とともに何十億年かけて獲得したサーカディアンリズム(概日リズム)というものがあります。このおかげで人間は朝目が覚め、夜眠くなります。約24時間周期のサーカディアンリズムを生み出しているのが「時計遺伝子」です。脳の眉間のあたり(脳の視交叉上核)にある親時計がタクトを振り、全身の約60億個の細胞にある子時計がそれに従います。

ところがこの体内時計の周期は24時間11分と言われており、地球の自転とは約11分間のずれがあります。これを日々修正しないと体の調子は乱れる一方になります。そこでこのズレを修正する役割が必要になります。それが太陽の光です。朝起きて陽を浴びると親時計がそれを認識し時計遺伝子のスイッチがリセットされます。そしてそれから約15時間後に眠気を促すメラトニンというホルモンの分泌が始まるよう遺伝子に書き込まれているのです。

このような規則正しく安定した睡眠サイクルを持続させるために私たちはどのようなことを心掛けたらいいのでしょうか。(後編へ続く)

【参考文献】

櫻井武「睡眠の科学・改訂新版 なぜ眠るのか なぜ目覚めるのか」講談社ブルーバックス、2017年
西野精治「スタンフォード式 最高の睡眠」サンマーク出版、2017年
根来秀行「見た目とカラダとココロがまいにち若返る人の習慣」日本文芸社、2017年
根来秀行「老けない、太らない、病気にならない24時間の過ごし方」幻冬舎、2013年