広報紙 vol.90しんゆりニュースレター

2025/12/1掲載

脳血管内治療センター特集

脳血管内治療センター特集|広報紙

切らずに治す。低侵襲の脳血管内治療を地域で

  • 新百合ヶ丘総合病院
    脳神経外科(脳血管内治療部門)部長
    地域医療連携室長
    てらにし こうすけ
    寺西 功輔 医師
  • 【プロフィール】
    2002年順天堂大学医学部卒業。順天堂医院、順天堂大学医学部附属病院(浦安、静岡)、東京都立多摩南部地域病院、東京都立広尾病院勤務を経て、2022年より順天堂大学医学部脳神経外科准教授。2024年4月より現職。
    日本脳神経外科学会専門医・指導医/日本脳卒中学会専門医・指導医/日本脳神経血管内治療学会専門医・指導医/医学博士
  • 2024年4月より新百合ヶ丘総合病院に着任し、脳神経外科(脳血管内治療部門)の部長を務めております寺西功輔と申します。これまで順天堂大学医学部附属病院(本院・浦安・静岡)や東京都立広尾病院などで脳血管内治療に携わり、2022年からは同大学脳神経外科准教授として臨床・教育・研究に従事してまいりました。これまでの経験を活かし、当院でも地域の患者さんに最先端かつ安全な脳血管内治療を提供できるよう努めています。

    脳血管内治療は、頭を開けることなく血管の中からアプローチする低侵襲な治療法で、脳動脈瘤や脳梗塞、頸動脈狭窄症などの血管障害に対して広く行われています。近年は、脳動脈瘤に対して用いられるフローダイバーターやフローディスラプターといった新しい医療機器の登場により、より安全で再発の少ない治療が可能となりました。

  • 当院では、手首の血管(橈骨動脈骨動脈)からカテーテルを挿入する方法を積極的に導入し、術後すぐに歩行できるなど、患者さんの身体的負担を軽減し、入院期間の短縮にもつなげています。

    また、地域医療連携室長として、近隣のクリニックや病院との情報共有を進め、地域の患者さんが安心して検査や相談を受けられる環境づくりにも力を入れています。地域の先生方と協力し、発症予防や早期発見につなげていくことが重要だと考えています。さらに、当院でどのような治療が受けられるかを知っていただくため、公開講座やセミナーなどを通して情報発信も行っています。

    これからも、「地域に根ざした信頼される医療」と「高度で低侵襲な脳血管治療」の両立を目指し、川崎北部を基盤に、国内各地の医療機関とも連携しながら、患者さんが安心して受診できる医療体制の構築に取り組んでまいります。

【目次】

脳血管内治療センターの紹介・特徴

脳神経外科で扱う疾患は多岐にわたりますが、当院では特に脳血管障害の診療に力を入れています。血管の中からカテーテルを用いて行う脳血管内治療は、脳動脈瘤、脳梗塞、頸動脈狭窄症、脳動静脈奇形、硬膜動静脈ろうなどに対する低侵襲治療であり、頭を開けずに治療が行えるため、患者さんの身体的負担を最小限に抑えることができます。

  • 脳血管造影室写真
    脳血管造影室
  • 当センターでは、2024年に導入した最新鋭の血管撮影装置(SIEMENS社 ARTIS icono D-Spin)を活用し、安全で精密な治療を提供しています。日本脳神経血管内治療学会の専門医研修施設として認定されており、現在、指導医3名を含む7名の専門医が在籍。予定治療から救急搬送まで、24時間365日体制で対応し、川崎北部地域における中核的な脳卒中センターとしての役割を担っています。

2024年度の治療実績

2024年4月〜2025年3月までの1年間で、当院では152件の脳血管内治療を実施しました。

  • 手術イメージ
    1. 脳動脈瘤:84例(未破裂71例、破裂13例)
      1. フローダイバーター留置 43例
      2. フローディスラプター(W-EB: Woven EndoBridge)留置 11例
      3. コイル塞栓術 16例
    2. 頸動脈狭窄症(CAS):17例
    3. 血栓回収療法:33例
    4. 脳動静脈奇形・硬膜動静脈ろう:12例
    5. その他(腫瘍塞栓術、慢性硬膜下血腫塞栓術など):6例

川崎市北部や近隣地域からの患者さんに加え、難易度の高い症例については都内や埼玉・千葉など他県からの紹介も多く、全国各地の医療機関からご相談をいただく体制が整っています。

低侵襲治療と早期回復への取り組み

当院では、治療のさらなる低侵襲化を目指し、「手首の血管(橈骨(とうこつ)動脈)」からカテーテルを挿入する経橈骨動脈アプローチを積極的に採用しています。従来の鼠径部(大腿動脈)からのアプローチに比べて術後すぐに歩行が可能で、早期離床・短期入院が実現します。特にご高齢の方や早期社会復帰を希望される方にとって、身体への負担が少ない治療法として注目されています。

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経橈骨動脈アプローチ

さらに、脳動脈瘤のタイプに合わせて選択されるフローダイバーターフローディスラプターといった新しいデバイスの導入により、治療後の再発リスクを抑えるだけでなく、治療時に一定期間必要となる「抗血小板薬」の内服期間短縮も期待できるようになりました。さらに、治療前後には放射線技師と連携しながら多角的な画像評価を行い、デバイスの特性に応じて最も安全で確実な方法を選択することで、より精度の高い治療を実現しています。

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フローダイバーター
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フローディスラプター

また、患者さんが安心して治療を受けられるよう、医師・看護師・薬剤師・放射線技師・リハビリスタッフなど多職種が連携し、情報を共有しながら診療にあたっています。退院後の生活に不安がある方やサポートを必要とされる方には、ソーシャルワーカーを中心としたサポートチームが継続的に相談対応を行う体制を整えています。

地域とともに歩む医療へ

当院は地域医療支援病院として、近隣のクリニックや病院との連携を重視しています。MRI検査や治療相談などを通じて、地域の医療機関からのご紹介を円滑に受け入れる体制を整えるとともに、医療従事者を対象とした勉強会や症例検討会、情報共有の場も定期的に開催しています。

  • 小腸バルーン内視鏡写真
  • また、脳卒中や未破裂脳動脈瘤に関する公開講座・セミナーなどを通じて、一般の方々への啓発活動にも力を入れています。こうした活動を通じて、地域の医療機関との信頼関係を深め、患者さんにとって最適な医療を提供できる環境づくりを進めています。

今後も、「地域に根ざした信頼される医療」と「高度で低侵襲な脳血管治療」の両立を目指し、川崎北部を基盤に、国内各地の医療機関とも連携しながら、安心して受診できる医療体制の構築に取り組んでまいります。

脳血管内治療センター 医師紹介

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①専門分野/得意な領域 ②卒業大学 ③専門医・指導医・資格等
  1. 大石 英則 (脳血管内治療センター センター長)
    ①脳血管内治療、脳血管障害、脳神経外科一般 ②順天堂大学医学部  ③日本脳神経外科学会専門医・指導医/日本脳神経血管内治療学会専門医・指導医/日本脳卒中学会専門医・指導医/医学博士
  2. 藤本 道生 (脳血管内治療センター 副センター長/脳神経外科統括部長)
    ①脳血管内治療 ②昭和大学医学部  ③日本脳神経外科学会専門医・指導医/日本脳卒中学会認定脳卒中専門医・指導医/日本脳神経血管内治療学会専門医・指導医/宇宙航空医学認定医/医学博士
  3. 寺西 功輔 (脳血管内治療センター 副センター長/脳神経外科(脳血管内 治療部門)部長/地域医療連携室長)
    ①脳血管障害全般、脳血管内治療 ②順天堂大学医学部 ③日本脳神経外科学会専門医・指導医/日本脳卒中学会専門医・指導医/日本脳神経血管内治療学会専門医・指導医/医学博士
  4. 柘植 雄一郎 (脳神経外科(脳血管障害部門)部長)
    ①脳神経外科一般、機能的脳神経外科 ②札幌医科大学医学部  ③日本脳神経外科学会専門医/日本脳卒中学会認定脳卒中専門医・指導医/日本脳神経血管内治療学会専門医
  5. 岡本 紀善 (脳神経外科科長)
    ①脳神経外科一般 ②昭和大学医学部  ③日本脳神経外科学会専門医・指導医/日本脳卒中学会認定脳卒中専門医・指導医/日本脳神経血管内治療学会専門医/日本リハビリテーション医学会認定臨床医
  6. 小此木 信一 (脳神経外科医長)
    ①脳血管障害 ②東邦大学医学部 ③日本脳神経外科学会専門医・指導医/日本脳卒中学会認定脳卒中専門医/日本脳神経血管内治療学会専門医/日本脳卒中の外科学会技術認定医/医学博士
  7. 清平 美和 (脳神経外科医長)
    ①頭部外傷、脳卒中 ②山口大学医学部 ③日本専門医機構認定脳神経外科専門医/日本神経内視鏡学会技術認定医/日本脳神経外傷学会認定専門医・指導医/日本脳卒中学会認定脳卒中専門医/日本脳神経血管内治療学会専門医/医学博士
  8. 眞上 俊亮 (脳神経外科非常勤医師)
    ①虚血性脳血管障害、脳血管内治療 ②順天堂大学医学部  ③日本脳神経外科学会専門医/日本脳神経血管内治療学会専門医・指導医/日本脳卒中学会専門医/医学博士