広報紙 vol.85しんゆりニュースレター
2025/7/1掲載
脊椎脊髄末梢神経外科特集|広報紙
脳神経外科医による脊椎脊髄診療のさらなる発展を目指して
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新百合ヶ丘総合病院
脊椎脊髄末梢神経外科 部長 -
【プロフィール】
1997年山梨医科大学卒業。2007年山梨大学助教。2011年山梨大学学部内講師。2021年山梨大学病院准教授。2025年4月現職。
日本脳神経外科学会指導医/日本脳卒中学会専門医・指導医/日本脊髄外科学会指導医/日本専門医機構認定脳神経外科専門医/日本専門医機構認定脊椎脊髄外科専門医/日本神経内視鏡学会技術認定医/医学博士
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このたび、令和7年4月より脊椎脊髄末梢神経外科に部長として着任いたしました八木 貴と申します。私は1997年に山梨医科大学を卒業後、大学およびその関連施設にて脳神経外科医として研鑽を積んでまいりました。
特に直近14年間は脊椎変性疾患、脊髄腫瘍、脊髄血管奇形、絞扼性(こうやくせい)末梢神経障害、脊髄の先天奇形など、多岐にわたる脊椎脊髄疾患の診療と手術に注力してまいりました。これまでの経験を活かし、当院でも患者さん一人ひとりに寄り添った、丁寧で的確な診療を心がけてまいります。
当科では、頚椎症や腰部脊柱管狭窄症、椎間板ヘルニア、脊髄腫瘍といった脊椎・脊髄疾患に加え、手根管症候群や肘部管症候群といった絞扼性末梢神経障害まで幅広く診療しています。高齢化に伴いますます増加している脊椎変性疾患から、まれな脊髄病変に至るまで、専門的な知識と高度な技術をもって、質の高い診療を提供しています。
当科の大きな特徴は、「脳神経外科医の視点」で脳から脊髄、さらには末梢神経に至るまで、神経系全体を包括的に診療できる点にあります。
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神経症状の背景には、しばしば複数の部位にまたがる病変が背景にあるため、正確な診断と最適な治療には、広い視野と高い専門性が求められます。私たちは神経診察と画像所見を総合的に評価し、症状の本質を見極めたうえで治療方針を立てています。
また、日本脊髄外科学会指導医および脊椎脊髄専門医が複数在籍しており、関東圏でも有数の専門的診療体制を整えています。低侵襲脊髄手術センター長の水野先生が掲げる「早期の生活、社会復帰を見据えた身体にやさしい手術」というコンセプトのもと、チーム一丸となって日々の診療に取り組んでいます。
近年では、特に腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症に対する内視鏡手術を数多く実施しており、低侵襲かつ早期の社会復帰を可能とする治療法として高い成果をあげています。こうした実績や新たな知見を積極的に発信するとともに、国内外からの脊髄フェローの受け入れを通じて後進の育成にも力を注ぎ、脳神経外科医による脊椎脊髄診療のさらなる発展と地域社会への一層の貢献を目指してまいります。
頚椎変性疾患
脊椎脊髄末梢神経外科部長 八木 貴
頚椎変性疾患とは、首の骨(頚椎)やその周囲の構造に生じる病気の総称で、主に加齢や外傷、体質的な要因が関与します。代表的な疾患には、頚椎症、頚椎椎間板ヘルニア、後縦靱帯骨化症(OPLL)などがあります。頚椎症は、加齢による椎間板や骨の変性により、神経の圧迫や血流障害が起こる病気で、首や肩のこり、手足のしびれ、細かい動作がしにくい、歩行が不安定になるなどの症状を引き起こします。頚椎椎間板ヘルニアは、椎間板の一部が飛び出して神経を圧迫し、首や腕の痛み・しびれ、筋力低下などが生じます。比較的若い方にも見られます。後縦靱帯骨化症(OPLL)は、脊髄の前方にある靱帯が骨に変化し、脊髄を慢性的に圧迫する病気で、歩行障害や排尿障害を引き起こすこともあります。
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頚椎後縦靱帯骨化症 -
頚椎椎間板ヘルニア
当院では、これらの疾患に対し、症状の程度や画像所見をもとに、保存的治療(薬物療法・リハビリ)から手術療法まで適切に選択しています。手術が必要な場合には、病態に応じて頚部前方または後方からのアプローチを選び、可能な限り低侵襲な方法で治療を行っています。
上記のような症状があり、日常生活に支障をきたしている場合は、外来でご相談ください。
頚椎顕微鏡手術(マイクロサージャリー)
低侵襲脊髄手術センター上級顧問 水野 順一
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手術用顕微鏡 -
頚椎(首の骨)は頭と体を連結する大切な部位で、6kgある頭をいつも支えているうえに、様々な方向への動きを担っています。頚椎も年を重ねるにつれて様々な変化がでてきて、頚椎症、頚椎椎間板ヘルニア、頚椎後縦靭帯骨化症などの重要な病気につながっていきます。
これらの頚椎の病気にかかると、首の痛み、手足の痛みやしびれ、手が使いにくい、歩きにくいなど様々な症状に悩まされます。生命に直結する病気ではありませんが、お薬では治りにくく手術が必要になることも少なくありません。頚椎手術にはまだ内視鏡が十分な安全性や有効性が確認できていないため、顕微鏡手術(マイクロサージャリー)が推奨されます。手術用顕微鏡という特殊な顕微鏡を使用して、安全にかつ効果的な手術を目指します。
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顕微鏡を使用した椎弓形成術 -
この手術では多くの場合、手術翌日からリハビリテーションが開始され、1週間もすれば退院して日常に戻ることが可能となります。大切な首の神経を保護して病変を取り除ける顕微鏡手術は半世紀近く行われており、その方法も確立されています。頚椎治療でお困りの方や手術について悩んでいる方は、ぜひ一度ご相談ください。
腰椎変性疾患
脊椎脊髄末梢神経外科部長 八木 貴
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腰部脊柱管狭窄症の術前後MRI
術後減圧されている -
腰椎変性疾患は、腰の骨(腰椎)や椎間板、神経の通り道である脊柱管に起こる病気の総称で、加齢や姿勢、過度な運動、体質などが影響します。代表的な疾患としては、腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症があります。腰椎椎間板ヘルニアは、椎間板の中にある髄核が外に飛び出し、神経を圧迫することで、腰の痛みや足のしびれ、痛み、場合によっては筋力低下を引き起こします。比較的若い年代に多いのが特徴です。腰部脊柱管狭窄症は、加齢によって脊柱管が狭くなり、神経が慢性的に圧迫されることで、歩行時の足のしびれや痛み、長い距離が歩けない(間欠性跛行)などの症状を呈します。
当院ではこれらの疾患に対して、まず保存療法(薬物・リハビリ)を基本とし、症状や経過に応じて手術治療も適切に選択しています。手術が必要な場合でも、低侵襲な内視鏡手術や、脊柱管狭窄症に対する固定術を伴わない制動術など、患者さんの病態やライフスタイルに応じた最適な治療法を提案し、実施しています。身体への負担を最小限にしつつ、症状の改善と早期回復を目指した治療を心がけています。
脊椎内視鏡手術
脊椎脊髄末梢神経外科科長 芝本 和則
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脊椎内視鏡手術の様子 -
脊椎脊髄の手術でも一部ではありますが内視鏡で手術できる病気があります。とくに腰椎椎間板ヘルニア、腰椎椎間孔狭窄は内視鏡が得意とする病気であり、当院では両疾患の約9割で内視鏡手術を行っています。また腰部脊柱管狭窄症で狭窄が1カ所のもの、頸椎症性神経根症で圧迫部位が小範囲なものなども内視鏡で治療できる症例があります。
当院で行っている内視鏡手術は全内視鏡下脊椎手術(Full Endoscopic Spinal Surgery; FESS)と呼ばれる方法です。いろいろな呼び名があり、経皮的内視鏡下腰椎椎間板ヘルニアPELD(Percutaneous endoscopic lumbar discectomy)といったり、PEDということもありますが、同じ方法を意味します。内視鏡手術の特徴は皮膚および筋肉の切開が小さいので、体の負担が小さく、術後の回復が早いことです。内視鏡は直径8mmで、皮膚切開は1cm程度となります。入院期間は平均4日間前後です。
症例によっては内視鏡ではなく、従来からの顕微鏡を用いた低侵襲手術のほうが良い場合もあります。内視鏡はその小さなサイズがゆえ、使える道具に限りがあるからです。変形が高度であったり多椎間に及ぶ腰部脊柱管狭窄症、脊髄除圧が必要な頸椎症などに対しては、顕微鏡手術の方が安全かつ確実な治療効果を期待できます。
内視鏡は患者さんの立場では負担が小さく済む手術ではありますが、安全かつ十分に治療できるかの判断が重要となります。
脊椎脊髄末梢神経外科医師紹介
①卒業大学 ②専門分野/得意な領域 ③専門医・指導医・資格等- 水野 順一
(理事長特別補佐監兼常勤顧問/低侵襲脊髄手術センター長兼上級顧問/脊椎脊髄末梢神経外科)
①脊椎脊髄末梢神経外科 ②愛知医科大学医学部 ③日本専門医機構認定脳神経外科専門医/日本脊髄外科学会名誉会員・指導医/日本脊髄外科学会脊髄内視鏡下手術技術認定医/第29回日本脊髄外科学会会長/日本低侵襲・内視鏡脊髄神経外科学会初代理事長/藤田医科大学脳神経外科客員教授/ウダヤナ大学脳神経外科教授/医学博士 - 谷 諭
(脊椎脊髄末梢神経外科/低侵襲脊髄手術センター顧問)
①脊椎・脊髄外科 ②東京慈恵会医科大学医学部 ③日本脊髄外科学会名誉指導医/日本専門医機構認定脳神経外科専門医/日本専門医機構認定脊椎脊髄外科専門医/東京慈恵会医科大学脳神経外科客員教授/医学博士 - 八木 貴
(脊椎脊髄末梢神経外科部長)
①脊椎脊髄末梢神経外科 ②山梨医科大学医学部 ③日本脳神経外科学会指導医/日本脳卒中学会専門医・指導医/日本脊髄外科学会指導医/日本専門医機構認定脳神経外科専門医/日本専門医機構認定脊椎脊髄外科専門医/日本神経内視鏡学会技術認定医/医学博士 - 岡﨑 敏之
(脊椎脊髄末梢神経外科科長)
①脊椎・脊髄外科 ②徳島大学医学部 ③日本脊髄外科学会指導医/日本脳神経外科学会指導医/日本専門医機構認定脊椎脊髄外科専門医/日本脳卒中学会認定脳卒中指導医/医学博士 - 芝本 和則
(脊椎脊髄末梢神経外科科長)
①脊椎・脊髄外科 ②佐賀医科大学医学部 ③日本脊髄外科学会指導医/日本脳卒中学会指導医/日本専門医機構認定脳神経外科専門医/日本脊髄外科学会脊髄内視鏡下手術技術認定医/日本神経内視鏡学会技術認定医 - 土井 一真
(脊椎脊髄末梢神経外科医長)
①脊椎脊髄末梢神経外科 ②防衛医科大学校 ③日本専門医機構認定脳神経外科専門医/日本専門医機構認定脊椎脊髄外科専門医/日本脳神経外傷学会認定専門医/日本脊髄外科学会認定医/Balloon Kyphoplasty faculty認定医/難病指定医