広報紙 vol.84しんゆりニュースレター
2025/6/1掲載
脳神経内科特集|広報紙
正確な診断と適切な治療で、多岐にわたる疾患に立ち向かう療の追求
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新百合ヶ丘総合病院
脳神経内科 部長 -
【プロフィール】
聖マリアンナ医科大学卒業。聖マリアンナ医科大学大学院医学研究科博士課程修了。聖マリアンナ医科大学脳神経内科助教。聖マリアンナ医科大学講師。2020年より現職。
日本神経学会神経内科専門医・指導医/日本内科学会総合内科専門医・指導医/日本脳卒中学会専門医・指導医/日本老年医学会老年科専門医/医学博士
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脳神経内科では今年度から新しいメンバーが加わり、常勤医師7人となりました。また、非常勤医師と協力しながら、日々診療を行っています。脳神経内科という分野は医学生の頃を思い返すと、試験も厳しく、苦戦することも多い科とされていました。しかし、実際に高齢化社会においては重要な役割を担う科の1つとして、貢献、活躍していこうと選択する若手医師が増えてきています。
脳神経内科は、脳と神経系に関連する多様な疾患を取り扱います。症状としては、うまく力が入らない、話しにくい、歩きにくい、しびれやめまい、ふらつく、ものが二重に見える、頭が痛いなどたくさんあります。まず、その症状が神経系のどの部位の異常から起きているのかを見極めます。その中で何が原因であるかを特定し、診断していきます。
例えば、脳血管障害:脳梗塞、脳出血など、血管の異常が原因で脳に損傷を引き起こす疾患があります。神経変性疾患としては、パーキンソン病、アルツハイマー病、ALS(筋萎縮性側索硬化症)、運動ニューロン疾患など、神経細胞の変性が原因のものがあります。
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神経筋疾患:重症筋無力症、筋ジストロフィーなど、神経と筋肉に影響する疾患があります。そして、てんかんなどの発作性疾患や髄膜炎、脳炎など、神経組織に影響を及ぼす感染症があります。
これらの疾患に対する治療法には様々なアプローチがあります。例えば、脳梗塞の場合は発症4.5時間以内であれば投与できる、血栓を溶かす作用のあるrt-PAが使用され、パーキンソン病には皮下持続注射などの新しい治療法が出てきました。認知症には新しい点滴治療も可能になりました。さらに、振戦(ふるえ)には集束超音波療法(FUS)などの方法も選択が可能になりました。
疾患や症状に悩む場合は、一度ご相談いただき、正確な診断を受け、適切な治療法を見つけることが重要です。脳神経内科の分野において、多岐にわたる疾患に立ち向かい、少しでも患者さんの症状が改善できるように、近隣の先生方とも連携をとりながら、地域医療へ貢献していきたいと思っております。
【目次】
脳卒中
脳卒中センター長 長谷川 泰弘
脳卒中は、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血の3つの病気の総称で、寝たきりの原因の第1位です。後遺症を最小限にするためには、1分でも早く治療を開始することが重要です。たとえ軽い発作であっても、大きな脳梗塞の「前触れ」である可能性もあり、脳卒中はどんなに軽い症状でも緊急受診すべき疾患です。ごく軽い脳卒中の場合、緊急受診すべきか悩ましいこともありますが、脳卒中かな?と思ったら、顔腕言葉の3つの検査を行って、1つでも異常があれば脳卒中と考えて、緊急受診行動をとることが重要です。
顔:前歯を見せるように口をイーッとすると片側の顔がゆがむ
腕:手の平を上に向けて前にならえの姿勢をとると麻痺側の腕が下がる
言葉:何かしゃべる、話しかけてみて、うまく話せない

アルツハイマー型認知症
脳神経内科部長 眞木 二葉
アルツハイマー型認知症の新しい点滴薬(レカネマブ、ドナネマブ)が登場しました。これらの薬は、特に初期段階に投与することが大切です。進行後では効果が期待できず、適応がありません。
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アルツハイマー型認知症はアミロイドβタンパク質が蓄積し、神経細胞に障害を与える病気です。それらの蓄積を抑制することで、認知症の進行を遅らせる効果が期待されます。そのため、早期に受診し、適応かどうかを調べる必要があります。その中で、脳の中にアミロイド蛋白が蓄積しているかどうかをアミロイドPETや髄液検査を行うことで確認し、アミロイド病理のある方が適応の候補になります。
しかし、副作用についての理解も必要です。なかでも注目されるのがARIA(Amyloid-Related Imaging Abnormalities)です。これは、画像の異常ですが、脳MRI検査を定期的に受けることが必要です。私たちは患者さんとともに治療とリスクのバランスを慎重に考慮する必要があると考えています。
パーキンソン病
脳神経内科部長 眞木 二葉
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パーキンソン病は、進行性の神経変性疾患であり、その特徴的な症状は歩行などの運動障害によって主に表れます。この病気は、脳の黒質という部位でのドーパミンをつくる機能が減少することで起きます。ドーパミンは、運動の調節に不可欠な神経伝達物質であり、それが減少することで、身体の運動制御がうまくいかなくなります。
パーキンソン病の典型的な症状には、次のようなものがあります。
- 静止時振戦(ふるえ):特に安静時に手や指、足がリズミカルにふるえます。
- 筋固縮:筋肉が硬直し、こわばります。
- 寡動・無動:日常生活での動作が遅くなり、手足の動きが緩慢になります。
- 姿勢反射障害:立位や歩行中に不安定感やバランスが悪くなるなどが生じることがあります。
これらの症状は、日常生活における患者さんの機能や生活の質に大きな影響を与えることがあります。また、パーキンソン病は運動機能の症状以外にも認知機能の低下、うつ症状、睡眠障害などの非運動症状も問題になることがあります。
パーキンソン病の原因についてはまだ完全に分かっていませんが、遺伝的要因、環境的要因(例えば、農薬や重金属の曝露)、神経毒性物質などの影響が関与していると考えられています。診断は、主に症状に基づいて行われますが、脳の様々な検査が行われることもあります。これには、DATスキャン、MIBG心筋シンチグラフィーなどの画像診断法が含まれます。これらの検査は、パーキンソン病の診断を確定し、他の神経変性疾患との鑑別に役立ちます。治療の基本は脳の中で減少している、ドーパミンを補充する方法を主軸として、外科的治療やリハビリテーションとの組み合わせが重要になってきています。
振戦(ふるえ)の治療
脳神経内科部長 眞木 二葉
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集束超音波療法(FUS)イメージ -
集束超音波療法(FUS)は、振戦治療の画期的なアプローチであり、非侵襲的な治療法として注目されています。この治療法は、超音波を使用して脳内の特定の領域に焦点を当て、その領域を焼灼することでその部位からの異常な神経信号が減少し、振戦を改善できる可能性があります。
FUS治療は、外科手術や薬物療法に比べて副作用が少ないことが特徴です。患者さんは通常、全身麻酔や局所麻酔を必要とせずに治療を受けることができ、手術室に入る必要もありません。治療は一般的に頭部MRIのガイド下で行われ、患者さんは意識を保ったままで手術を受けることができます。この治療法は、薬物療法で効果が不十分である患者さんや、手術リスクを避けたい場合に有用です。また、治療後の回復期間が比較的短いこともFUS治療の利点の一つです。
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FUS治療の効果を確認する医師 -
FUS治療はまだ新しい技術であり、その有効性や安全性についてさらなる研究が必要ですが、当院では270例を越える患者さんたちに行っており、全国でも経験が多い施設の一つです。
脳神経内科医師紹介
①卒業大学 ②専門分野/得意な領域 ③専門医・指導医・資格等- 長谷川 泰弘
(脳卒中センター センター長)
①脳神経内科学、脳血管障害 ②鹿児島大学医学部 ③日本神経学会神経内科専門医・指導医/日本脳卒中学会専門医・指導医/医学博士 - 眞木 二葉
(脳神経内科 部長)
①パーキンソン病、DBS、FUS ②聖マリアンナ医科大学医学部 ③日本神経学会神経内科専門医・指導医/日本内科学会総合内科専門医・指導医/日本脳卒中学会専門医・指導医/日本老年医学会老年科専門医/医学博士 - 菊池 崇之
(脳神経内科 医長)
①脳神経内科領域 ②聖マリアンナ医科大学医学部 ③日本内科学会内科専門医/日本神経学会神経内科専門医/医学博士 - 髙 梨世子
(脳神経内科 医長)
①脳神経内科 ②聖マリアンナ医科大学医学部 ③日本内科学会内科専門医/医学博士 - 深澤 美樹
(脳神経内科 医長)
①脳神経内科 ②日本大学医学部 ③日本内科学会内科専門医 - 加藤 高志郎
(脳神経内科 医員)
①脳神経内科(脳卒中) ②愛知医科大学医学部 ③なし - 大熊 優梨花
(脳神経内科 医員)
①脳神経内科 ②北里大学医学部 ③なし
[非常勤医師]
大澤 美貴雄/矢﨑 俊二/高石 智/鈴木 祐/武井 悠香子/中上 徹/白石 眞/澤田 和貴/山野 嘉久