広報紙 vol.80しんゆりニュースレター
2025/2/1掲載
産婦人科特集|広報紙
内視鏡治療・不妊治療・周産期医療の充実した体制
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新百合ヶ丘総合病院
産婦人科 部長/リプロダクションセンター 部長 -
【プロフィール】
1997年慶應義塾大学医学部卒業。2001年同生殖遺伝研究室所属。04年日本初の着床前遺伝子診断の承認および実施に従事。07年着床前遺伝子診断(PGT-M)に関する研究で医学博士。埼玉社会保険病院産婦人科医長・免疫研究室長(体外受精責任者)を経て、12年新百合ヶ丘総合病院オープニングスタッフ。19年より現職。
日本産科婦人科学会産婦人科専門医・指導医/日本生殖医学会生殖医療専門医/日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医/日本産科婦人科内視鏡学会認定腹腔鏡技術認定医/日本産科婦人科内視鏡学会子宮鏡技術認定医
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産婦人科には良性・悪性腫瘍の治療、体外受精を中心とした不妊治療、妊婦健診を中心とした周産期医療の3本の大きな柱があります。2012年の開院当初から一貫して地域の婦人科医療の充実、分娩体制の改善、挙児希望に幅広く応える総合病院として求められる体制を整備してきました。
特に腹腔鏡下手術に関しては国内では最も症例数が多い施設となり、年間約2,000件の手術を施行しています。子宮筋腫や卵巣嚢腫などの良性疾患から子宮頸がんや体がんといった悪性腫瘍まで、広範囲の疾患に対応しており、腫瘍サイズの大きいものや高度な癒着が想定される病態など他院で開腹手術となるケースでも、多くの場合当院では腹腔鏡での対応が可能となっています。また悪性疾患の手術では、リンパ節切除に伴う下腿のリンパ浮腫(重症例ではリンパ管炎や蜂窩織炎を繰り返すこともあります)が問題となりますが、当院ではセンチネルリンパ節生検という手技を先進的に取り入れております。これは必要最小限のリンパ節だけを切除し、浮腫の発生を減少させうる画期的な方法です。
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現在、当院には日本産科婦人科内視鏡学会の腹腔鏡技術認定医が15人在籍しており、常に最新の情報・技術の共有を図っています。最近の話題としては、腹部に創部ができず術後疼痛が少なく、より早い回復が見込めるvNOTESという経腟的に行う腹腔鏡下手術をいち早く取り入れて良好な成績を得ております。
不妊治療は開院当初より力を入れて取り組んでおり、2023年までに4,911件の体外受精と4,031件の胚移植を行ってきました。2022年度からは保険適応となって、さらに治療が受けやすい状況になっています。不妊原因となりやすい子宮筋腫や子宮内膜症に対する内視鏡手術後の安静期間に体外受精を行い、ご妊娠に至った患者さんにはそのまま円滑に妊婦健診に移行していただくという一貫した管理ができるのが総合病院の強みであり、また出産までフォローアップすることが不妊治療を行う責任と考えています。分娩件数は年間約500件と多くはありませんが、複数の周産期専門医・超音波専門医が在籍し、他科とも連携を取って地域の妊婦さんに適切な妊婦健診・出産を提供する努力を続けております。
主な腹腔鏡下手術
■卵巣嚢腫切除術

卵巣に血液や水・脂などが貯まった嚢腫ができることがあります。下腹痛や腹部膨満感などが自覚症状ですが、かなり大きくなるまで症状がないことも多く、捻転や破裂で救急手術となる場合もあります。若い方では将来の妊娠のため極力正常卵巣部分を残すよう慎重に嚢腫を除去します。子宮内膜症で卵巣機能低下が深刻な場合には、ある程度の再発を覚悟で一部生検し内腔焼灼に留める術式とします。
■子宮筋腫核出術

子宮筋腫は子宮にできるコブで、3~4人に1人の女性に認められるありふれた疾患ですが、場所や大きさによっては過多月経や腹部膨満感や排尿障害、不妊が生じ手術が必要となります。かなり大きな筋腫でも腹腔鏡で対応が可能ですが、状態によっては小切開を併用することがあります。
■子宮内膜症病巣除去術

子宮内膜症という月経困難症を引き起こす病気が重症になると、骨盤内の子宮・卵巣・直腸が全て強固に癒着し合ってしまい、慢性の下腹痛・腰痛、性交痛、排便痛、不妊が生じることがあります。癒着した子宮と直腸の剥離開放、深部内膜症病巣の除去で症状が大幅に改善することがあります。内膜症には良い薬物療法もありますので、月経が重い方は一度超音波検査などでのチェックをお勧めいたします。
■子宮全摘術
子宮を摘出する適応には、子宮筋腫・腺筋症・子宮頸がん・子宮体がんなど多数の疾患があります。良性腫瘍の場合は月経がなくなるため月経困難症、骨盤痛の根本的な解決となります。悪性腫瘍の場合、病状によっては少し広い範囲の切除が必要となったり、リンパ節の切除を要することがあります。

~ センチネルリンパ節生検 ~
早期の子宮頸がん・体がんにおいて、蛍光色素などでリンパ流を評価することで最初に転移が起こるリンパ節を同定・切除し、術中の迅速病理検査でそこに転移を認めなかった場合にはそれ以上のリンパ節の切除を省略する手法です。従来術後長期的に合併症として問題となったリンパ浮腫を予防することが可能となる画期的な手法です。センチネルリンパ節生検について
■仙骨腟固定術

膀胱・子宮・直腸・腟などが腟口から脱出する状態を骨盤臓器脱と呼びます。出産・加齢などにより骨盤底の筋肉(骨盤底筋)が緩むことが原因で、手術方法としては強固に臓器を補強する材料としてメッシュを用いて下垂した臓器を上方に牽引します。
■腹腔鏡下手術件数

■vNOTES:経腟的に行う腹腔鏡下手術

腹部に創部ができない経腟的に全ての操作を行う新しい術式です。腹腔内にさほどの癒着が想定されず、腫瘍サイズが大き過ぎず経腟操作に支障がない場合に選択肢となります。子宮全摘や卵巣嚢腫などを中心に適応が拡大しており、症例数も増えてきております。
腹部創部の比較
産科医療への取り組み
当院では妊婦さんを色々な面からサポートして不安を解消し、温かい雰囲気の中で出産に臨めるよう産科診療体制を整えてきました。妊婦健診では定期的な胎児超音波検査を、3人在籍している超音波専門医・周産期専門医を中心に行い、3D/4Dエコーでの胎児撮影もサービスの一環として行っています。
助産師外来ではお一人お一人に寄り添った指導を行い、入院では陣痛から出産、回復までを1つの部屋でお過ごしいただける機能的なLDR室を3室備え、快適な全室個室、栄養士監修による食事などを取り入れています。さらにオプションとして麻酔科医が硬膜外麻酔を直接管理する無痛分娩、育児や授乳などの支援として産後ステイのサービスも行っています。

不妊治療・体外受精への取り組み
ご妊娠を希望される方に対しては、最も妊娠への近道となる、いわゆるTime to pregnancyを最優先とした診療を行っています。多くの治療の選択肢を揃えておりますが、やはり2022年度から保険適応となった体外受精がその中心となっています。
当院は厳格に品質管理された胚培養室を運営しており、胚移植あたりの臨床妊娠率は40代まで全て含んだ成績で30~40%を維持しています。また、反復してご妊娠に至らない場合の切り札として受精卵の着床前遺伝子診断(PGT-A)を自費で行ってきましたが、現在進めているリプロ部門改革案の一つとして今後大幅な減額を行う予定です。お一人でも多くの方に一日でも早くご妊娠いただけるよう、日々改善を続けてまいりたいと思います。
リプロダクションセンターで行っている先進的な治療内容

体外受精セミナーのご案内
不妊治療・体外受精に関心を持たれている方を対象に、毎月一回開催しています。お気軽にご参加ください。これまで大変多くのご夫婦にお越しいただき、ご好評をいただいております。
日時:毎月第4土曜日(変更の場合がありますのでHPでご確認ください)
15:00~16:00
会場:新百合ヶ丘総合病院3階 研修室
講師:田島 博人 医師(産婦人科部長)、原 周一郎 医師(産婦人科医長)、リプロダクションセンター医師
内容:不妊治療の基礎知識/体外受精の実際~高い妊娠率を得るために~/手続きと費用
参加費:無料(お茶菓子付き)
※ご夫婦揃っての参加をお勧めしますが、お一人でもご参加いただけます。
※要予約・先着20組
体外受精セミナーのご案内