呼吸器外科特集|広報紙 vol.77しんゆりニュースレター
2024/11/1掲載
呼吸器外科特集|広報紙
手術による患者さんの負担を極力下げることに注力
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新百合ヶ丘総合病院
呼吸器外科 部長 -
【プロフィール】
1996年防衛医科大学校医学科卒業。防衛医科大学校病院初期研修。98年国立療養所晴嵐荘病院部外研修。2000年米陸軍病院(BANC, San Antonio, TX)留学。防衛医科大学校第2外科専修医。03年防衛医科大学校医学研究科。06年米国セントルイス大学。07年陸上自衛隊第一混成団医務官。09年川崎市立井田病院呼吸器外科医長。10年帝京大学医学部外科学講座講師。15年帝京大学医学部外科学講座准教授。18年帝京大学医学部附属溝口病院外科教授。24年より現職。
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当院の呼吸器外科では、胸部における心臓大血管と食道を除く、肺、気管、気管支、縦隔、胸膜、胸壁といった臓器を対象に、肺がんを中心として縦隔腫瘍や気胸などの手術を行っています。患者さんにベストな治療を行うため、呼吸器内科、放射線診断科、放射線治療科、病理診断科、リハビリテーション科、薬剤科、看護部と連携した体制を整えています。
2016年に呼吸器センター長、呼吸器外科統括部長として小田誠医師が赴任しました。小田誠医師はロボット手術のパイオニアであり、豊富な経験と知識が評価され内視鏡手術支援ロボット「da Vinci(ダビンチ)Xiシステム」メンターに指定されています。ロボット手術のメリットを最大限に発揮し、適応疾患はロボット手術で行う方針となっています。
2024年4月に呼吸器外科部長として、私、松谷哲行が帝京大学から赴任しました。防衛医科大学校を卒業してからほとんどが大学病院での勤務で、研究・教育・診療の3本柱に長らく従事してきました。当院では診療に専念し、小田医師と最先端呼吸器外科診療に携わっています。
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当院の呼吸器外科の特徴は、ERAS(術後回復力強化プログラム)を行っていることです。その主たるものは、①内視鏡手術支援ロボット「da Vinci」を用いた低侵襲手術、②術後1時間30分の早期離床/飲食開始、③手術翌日に自宅退院する早期退院です。肺がんで手術を受ける患者さんの0.5%(1,000人に5人)ほどの方が肺炎などの術後合併症により病院で亡くなっていると全国統計で報告されています。それを防ぐために、術後早期に通常の生活に戻ることが重要であり、そのためには手術の侵襲(ストレス、負担)が少ないことが必須となります。ロボット手術は、胸部に1cmほどの孔を5つ(1カ所は切除した肺を取り出す際に切開を延長)あけるだけで安全に手術を行うことが可能であり、手術時間もほとんどが2時間以内に完遂し、患者さんの負担を極力下げることが可能となりました。
当院には、かかりつけのクリニックから検診などで胸部に異常陰影を指摘され紹介となる患者さんがほとんどです。精査し手術が必要となれば、患者さんの都合に合わせて日程を調整し、手術の前日に入院、手術の翌日には自宅退院します。術後1カ月までは当方で経過観察し、その後はかかりつけの先生と連携して経過観察していきます。
肺がんの手術
藤原道長の肖像画とインスリン結晶をモチーフにした記念切手
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肺の手術は、肋骨と肋骨の間(肋間)から胸の中の操作を行います。従来の開胸手術では側胸部を10~20㎝切開し筋肉を切断し、肋骨を切断していました。胸腔鏡手術の導入により肋間にポートと呼ばれる円筒を留置することで肺の手術が可能となり、皮膚切開創が短くなり、筋肉や肋骨の切断が不要となり、患者さんの負担はとても小さくなりました。低侵襲になったとはいえ、肋間神経の障害があり胸部の手術は外科領域でも一番痛い手術の一つとされています。
当院での肺切除術のアプローチ方法は
- 肺葉切除 → ロボット手術
- 肺区域切除 → ロボット手術
- 肺部分切除 → 肋骨弓下経横隔膜手術
となっており、極力、肋間神経の障害を起こさないようにしています。
ERAS:術後回復力強化プログラムの取り組み
全国で1番在院日数が少ない!約80%が手術翌日に退院!
ERASは、enhanced recovery after surgeryの頭文字をとった周術期管理プログラムであり、もともとは1999年に大腸手術に対する術後管理方法として考案されました。現在では、各種術式に応用されてガイドラインも作成されており、肺手術においては2018年にガイドラインが記載されました。
手術患者が退院できない主な要因は、「動けない」「食べられない」ことであり、これをいかに早く解消するかが基本的な考えとなります。手術侵襲を軽減し、徹底した疼痛管理で早期離床をはかり、経口摂取を制限しないことで、「合併症を起こすことなく早く回復し、早く退院」できるようになります。
当院では、手術が決まってから「1日1万歩の歩行」を目標に術前リハビリテーションを行います。手術前日に入院し、手術の2時間前まで飲水可とします(食事は前日の24時まで可)。術後は徐々にベッドアップし座位をとり1時間30分後にスタッフと病棟を1周歩行し、飲食を再開し点滴を抜去します。
- 硬膜外麻酔は行いません(→創部局所麻酔、肋間神経ブロック)
- 尿道カテーテルは入れません
- 動脈カテーテルは入れません
- 飲食の制限はありません(退院したら飲酒もOK)
- 手術翌日からシャワー浴開始
ERASの取り組みにより、廃用症候群(筋力低下・認知機能低下など)を予防することが可能となり、手術翌日退院が可能となりました。早期退院により、早期社会復帰が可能となり、入院費用も軽減されます。当院の肺がん手術の平均在院日数は4.13日(全国平均10.06日)であり、全国で一番在院日数が少ない結果でした。
肺がんに対し肺葉切除を行った144例のまとめでは、55.5%が手術当日、93.8%が手術翌日までに胸腔ドレーンが抜去され、79.2%が手術翌日に退院しています。

(診療科別患者数上位5位まで)
病院指標 令和4(2022)年度

(診療科別患者数上位5位まで)
病院指標 令和4(2022)年度
肺がん肺葉切除術
術後在院日数
(144例、2019年12月~2022年7月)肺がん肺葉切除術
術後胸腔ドレーン留置期間
(144例、2019年12月~2022年7月)
内視鏡手術支援ロボット「ダビンチXi」を用いたロボット手術
ダビンチXiによるロボット手術
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当院では、肺がん(肺葉切除、区域切除)、縦隔腫瘍、重症筋無力症に対して、体に優しい低侵襲のロボット(ダビンチXi)手術が保険適用となっております。肺がん手術でのポート数は5個(8mm×4個、12mm×1個)と多いのですが、肋骨に力が加わらないように(てこの支点作用が肋骨に働かないように)ロボットのポートは動きますので、通常の多孔式胸腔鏡手術よりも痛みは少ない印象があります。
肋骨弓下経横隔膜手術
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肋間操作による肋間神経障害に起因する疼痛を最小限に抑えるために、肋間には最小径のポートを設けた経横隔膜下アプローチを開発して、100人以上の患者さんに施行してきました。この方法では、肺部分切除では3mmの創を2カ所肋間にあける手術を行っております。肋間以外にもう一つ、1.5㎝程度の創を肋骨のないところにあけます。主に肺部分切除術で行っています。

肺葉切除のダビンチ手術の症例見学施設(メンターサイト)に認定
全国17施設の1つです
当院は2021年11月に、内視鏡手術支援ロボット「da Vinci(ダビンチ)Xiシステム」を用いた肺葉切除手術について、製造元であるインテュイティブサージカル社より、“ダビンチ手術の豊富な経験と高い技術を持つ指導者が従事する施設である”との評価を受け、「症例見学施設(メンターサイト)」に認定されました。
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ダビンチを用いた手術を行うためには、関連学会のガイドラインに定められた一連のトレーニングを受けることが義務付けられており、このトレーニングのひとつに、メンターサイトにおいて手術症例見学を行うことが定められています。
この度の認定は、当科のダビンチを用いた肺葉切除手術の技術やこれまでの実績が評価されたものです。
呼吸器外科医師紹介
①専門分野/得意な領域 ②卒業大学 ③専門医・指導医・資格・公職等- 小田 誠(呼吸器センター長、呼吸器外科統括部長)
①呼吸器外科全般、肺がん、縦隔腫瘍、胸壁腫瘍、気胸、胸腔鏡手術、ロボット手術
②金沢大学医学部
③医学博士/日本外科学会専門医・指導医/日本呼吸器外科学会呼吸器外科専門医・指導医/日本胸部外科学会指導医/日本呼吸器学会専門医/日本呼吸器内視鏡学会気管支鏡専門医・指導医/がん治療認定医/胸腔鏡安全技術認定制度認定医/肺がんCT検診認定医/日本内視鏡外科学会評議員/日本呼吸器内視鏡学会評議員/日本呼吸器外科学会特別会員/日本肺癌学会名誉会員/ダヴィンチコンソールサージャン・プロクター・メンター/昭和大学医学部客員教授/中華人民共和国衛生部中日友好病院客員教授/フィリピン低侵襲胸部外科学会名誉フェロー -
松谷 哲行(呼吸器外科部長)
①拡大手術、低侵襲手術
②防衛医科大学校医学科
③医学博士/日本外科学会専門医・指導医/日本呼吸器外科学会呼吸器外科専門医/日本呼吸器内視鏡学会気管支鏡専門医・指導医/日本呼吸器外科学会ロボット支援手術プロクター/日本胸部外科学会認定医/帝京大学医学部附属溝口病院外科教授