広報紙 vol.68しんゆりニュースレター

2023/12/1掲載

血管外科特集

血管外科特集|広報紙

血管病を総合的に治療する血管外科

  • 新百合ヶ丘総合病院
    血管外科 部長
    かねこ けんじろう
    金子 健二郎 医師
  • 【プロフィール】
    2002年東京慈恵会医科大学卒業。同大学病院研修。04年西埼玉中央病院外科。05年川口市立医療センター救急部。06年町田市民病院外科。07年東京慈恵会医科大学附属病院血管外科。13年より現職。
  • 血管外科は頭部と心臓以外の血管に特化した診療科です。当科は全身の血管病に対して、外科的治療、血管内治療、内科的治療(薬物療法、運動療法)などを用いて包括的治療を行っています。血管は全身すべての臓器に存在しており、血管病診療においては体の局所だけでなく全身の状態に鑑みて治療方針を考えなくてはいけません。一人ひとりのニーズを考慮し、各治療法の長所、短所を見極めてより良い治療法を選択できるように心がけています。

    大動脈治療に対する低侵襲手術である「ステントグラフト内挿術」は、鼠径部(股のつけね)の動脈から、小さく折りたたんだステント付きの人工血管を大動脈内に挿入し、レントゲン透視下で治療を行う術式です。高齢の方や従来手術不能とされていた患者さんに対しても治療が可能であり、標準化手術となりつつあります。かつ、局所麻酔のみで治療を行うことが可能となり、重度合併症を有した症例にも、低侵襲な手術として行えるようになってまいりました。

    当院では大動脈瘤や慢性大動脈解離に対して、このステントグラフト治療を行ってまいりましたが、現在は、急性大動脈解離についてもその晩期動脈瘤化を予防するためのステントグラフト治療を積極的に行っております。

  • 現在、使用可能なステントグラフトは、胸部で5機種、腹部で7機種存在し(2023年9月現在)、各々その特性に違いがあり、適切な症例選択が必要となります。当院では、その全ての機種の指導医資格をもった医師が常勤しており、それぞれに適したデバイスを選択し、治療にあたっております。また、ステントグラフト治療の問題点であるエンドリーク(内側の漏れ)を防ぐ治療も併用しているため、良好な術後成績を示しています。さらに、他施設への指導や国内外の施設からの施設見学の受け入れも積極的に行っています。

    しかし全身状態が良好な患者さんには、胸部にも腹部にも万能な人工血管置換術を行います。現在はご高齢の患者さんが多いため低侵襲で早く社会復帰のできる治療法を選ぶことがほとんどですが、外科的治療と低侵襲な血管内治療、どちらでも患者さんに最適な治療を選択して提供できるのが当院の強みです。

    今後も常に知見を広げ、新しい手術方法を模索していきます。そして地域の開業医の先生との関係を大切にして、地域ぐるみで患者さんを診ていきたいと考えています。

【目次】

大動脈瘤について

人口の増加・高齢化、食生活の欧米化に伴い、我が国でも血管病を有する患者さんが増加しています。当院の血管外科は、頭部と心臓を除く、体中すべての血管に特化し、より専門的で高度な医療を行っております。右記のように、血管病に対する治療は、内科的治療(薬の内服)、外科的治療(バイパス術等)、血管内治療(カテーテル治療等)、さらに外科的治療と血管内治療を組み合わせたハイブリッド治療があります。

当院の血管外科の一番の特徴は、これら全ての術式の中から、それぞれの患者さんに合わせた術式を選択し、治療を行えることです。患者さん一人一人に最も適した治療を提供することをモットーとして日々の診療にあたっております。

大動脈瘤について

※1… 枝付ステントグラフト(自作)のような特殊な治療も行っております。
※2… レーザー治療は保険適用の機器を用い、原則、1泊入院で治療を行っております。

腹部大動脈瘤・胸部大動脈瘤と、その治療について

  • 腹部大動脈瘤腹部大動脈瘤
  • 腹部や胸部などの大動脈が瘤(こぶ)のように拡張した状態を動脈瘤(どうみゃくりゅう)とよびます。主に生活習慣病による動脈硬化が原因で動脈瘤は発症します。瘤ができる場所により名称は異なりますが、なかでも頻度として最も多いのが腹部の大動脈瘤です。通常、正常血管の約1.5倍以上拡張したものが動脈瘤と呼ばれ、腹部であれば3.5~4.0cm以上、胸部であれば約4.5~5.0cm以上で動脈瘤と診断されます。

  • 胸部大動脈瘤胸部大動脈瘤
  • 動脈瘤は一旦破裂すると約9割の方は救命できない、致死率の高い厄介な病気です。破裂時以外は症状がないことが多く、他の病気の検査を行っている際や健診にて偶然発見されることがほとんどです。腹部の治療適応に関しては、男性で直径5.0cm、女性で4.5cm、胸部に関しては、男性で直径5.5cm、女性で5.0cmが目安となり、破裂する前に治療を行うことが大切です。

◆血管内治療 《ステントグラフト内挿術》

  • 腹部大動脈瘤治療用のステントグラフト(7機種)腹部大動脈瘤治療用のステントグラフト
    (7機種)
    胸部大動脈瘤治療用のステントグラフト(5機種)胸部大動脈瘤治療用のステントグラフト
    (5機種)
  • 腹部は2007年4月、胸部は2008年7月に本邦において初めて保険適用となった手術方法です。 その低い侵襲(負担)性・安全性にて急速に普及し、大動脈瘤に対する治療は劇的な変化を遂げ、これまで治療が困難だった患者さんの多くが治療可能となりました。

    ステントグラフト内挿術は、折りたたんだステントグラフト(人工血管に金属のステントを縫いつけたもの)を用いて治療を行います。両側の足の付け根に約3cmの切開を置き(胸部では片側)、露出した動脈からステントグラフトを瘤まで挿入します。瘤をまたぐような形でステントグラフトを留置し、瘤の破裂を予防する手術方法です。この治療法は傷も小さく体への負担も少ないため、手術後、約4~6日で退院可能です。

大動脈瘤についてFlat panel X線透過装置。血管内治療用の手術室を備えております。

◆外科的治療 《人工血管置換術》

  • 腹部大動脈瘤(矢印)を露出した状態腹部大動脈瘤(矢印)を露出した状態
  • 腹部・胸部に切開を加え、瘤を露出して人工血管に置き換える手術方法です。以前はほぼ全例この術式で治療が行われていました。手術による侵襲度がやや高いため、高齢の患者さんや、心疾患・呼吸器疾患などの併存疾患にてリスクが高いなどの理由で、手術が困難であった方も多数いらっしゃいました。

  • 瘤を開放し、人工血管(矢印)に置き換えた状態瘤を開放し、人工血管(矢印)に置き換えた状態
  • しかし長期成績が確立している術式であり、全身状態が良好な患者さんは今でも第一選択となります。

    ※当院では、外科的治療、血管内治療それぞれに対応できる設備、環境が整っております。患者さんそれぞれの瘤や合併症などの全身状態を総合的に判断し、治療を検討します。

下肢動脈疾患について

糖尿病、高血圧、脂質異常症(高脂血症)、肥満、喫煙、血液透析を要する腎不全などは、動脈硬化の要因とされており、全身の血管の狭窄や閉塞を引き起こすことが知られています。下肢への血流を供給する、下肢動脈が狭窄・閉塞した状態を下肢動脈疾患と呼びます。

下肢動脈疾患の初期症状は、足先が冷たい(冷感)、歩くとふくらはぎが痛くなるが休むと改善する(間欠性跛行:かんけつせいはこう)などが出てきます。また、病状が進行すると、歩かなくてもずっと足が痛い(安静時痛)、皮膚が欠損した潰瘍(かいよう)や、壊疽(えそ)を来たし、最終的には下肢切断が必要となることもある危険な疾患です。下肢動脈疾患が疑われた場合には、上下肢の血圧差を測定するABI検査、超音波や造影CT検査などを行います。下肢動脈疾患が軽度な場合には、内服薬を中心とした薬物療法や、運動療法が適応となります。症状が中等度以上の場合には、カテーテルを用いた血管内治療や、バイパスをはじめとした外科的血行再建が挙げられます。

◆血管内治療 《カテーテル治療》

  • 血管内治療 《カテーテル治療》
  • 血管内治療は多くの場合、局所麻酔下に施行可能であり、小さな創部で体への侵襲が少ない方法になります。以前は風船様のデバイス(バルーンカテーテル)や、形状記憶金属を用いて血管を拡張させるステントを中心とした治療でしたが、近年では様々なデバイスが使用可能となりました。

カテーテル治療後の再狭窄の要因となる内膜肥厚を予防するための人工血管が巻き付けてあるカバードステント、内膜肥厚を抑制する薬剤(パクリタキセルなど)が塗布してある薬剤溶出性ステント、薬剤塗布性バルーンカテーテルなどが使用可能です。また、2023年からは病変部の拡張不良の要因となる、石灰化病変を切削することができるアテレクトミーデバイスが使用可能となったため、バルーンカテーテルなどの効果を高めることが期待されています。血管内治療デバイスは日進月歩で進化しています。当科では日々変化する血管内治療について、最新の治療を提供できるように体制を整えています。

◆外科的血行再建 《バイパス、血管移植、血栓内膜摘除など》

血管内治療だけではすべての下肢動脈疾患が治療できるわけではありません。例えば足の付け根にある総大腿動脈病変や、膝関節にかかる膝窩動脈病変はステント破損の原因となるため血管内治療に不向きであることが知られています。このように血管内治療が適さない患者さんに対しては、神経ブロック麻酔や、全身麻酔下でのバイパス手術、血管移植、血栓内膜摘除術などの外科的血行再建が必要となります。

大動脈瘤について

血管病をもつ患者さんは1カ所の病変だけでなく、複数個所の病変を患っていることも少なくありません。当科では血管内治療、外科的血行再建の両方が施行可能です。また両方の治療の良いとこ取りができるメリットをいかして、同時に両方の治療を行うハイブリット治療を行うこともできます。各患者さんにとって、最適な治療を提供していきたいと考えています。

血管外科 医師紹介

血管外科 医師紹介ページ

①専門分野/得意な領域 ②卒業大学 ③専門医・指導医・資格・公職等
  1. 金子 健二郎 (血管外科部長)
    ①血管外科全般 ②東京慈恵会医科大学医学部 ③日本血管外科学会評議員/日本外科学会認定専門医/日本脈管学会認定専門医/日本心臓血管外科学会専門医/日本ステントグラフト実施基準管理委員会認定胸部ステントグラフト指導医・腹部ステントグラフト指導医/浅大腿動脈ステントグラフト実施医/下肢静脈瘤レーザー焼灼術指導医/日本血管外科学会認定血管内治療医
  2. 伊藤 栄作(血管外科医長)
    ①大動脈瘤/解離、末梢動脈疾患、lgG4関連疾患、下肢静脈瘤、サルコペニア・フレイル、腸内細菌、医学教育 ②東京慈恵会医科大学医学部 ③日本外科学会認定専門医/日本脈管学会認定専門医/日本心臓血管外科学会専門医/日本ステントグラフト実施基準管理委員会認定胸部ステントグラフト指導医・腹部ステントグラフト指導医/浅大腿動脈ステントグラフト実施医/下肢静脈瘤レーザー焼灼術指導医/日本血管外科学会認定血管内治療医/弾性ストッキング・圧迫療法コンダクター/サルコペニア・フレイル指導士/医学博士
  3. 平山 茂樹【非常勤医師】
     ①血管外科全般 ②東京慈恵会医科大学医学部 ③日本外科学会認定専門医