広報紙 vol.61しんゆりニュースレター

2023/3/1掲載

精神科(心療内科)特集

精神科(心療内科)特集|広報紙

  • 新百合ヶ丘総合病院
    精神科(心療内科) 部長
    とべ ゆきこ
    戸部 有希子 医師
  • 【プロフィール】
    2004年杏林大学医学部卒業。公立阿伎留医療センター初期臨床研修。06年杏林大学医学部付属病院精神神経科。08年岩尾会東京海道病院精神科。14年杏林大学医学部付属病院精神神経科。16年より現職。
    日本精神神経学会認定専門医・指導医/精神保健指定医/日本総合病院精神医学会一般病院連携精神医学専門医・指導医
  • 当院精神科は、開院時「心療内科」としてスタートし、2016年春からは「精神科(心療内科)」として活動しています。精神科(心療内科)外来では、主にうつ病や不安症、不眠症の方のご相談をお受けします。また、その他の精神疾患を他院で治療中であり、当院にご入院し手術などお身体の治療を受ける場合の、精神科治療のフォローをいたします。

    精神的苦難は、生活環境やライフステージにより様々に異なります。例えば、幼少~小児期は環境、発達などの悩みがあるかもしれません。思春期~青年期に入ると、親子や友人などの人間関係や、進路などの社会的な悩みがあります。さらに家庭を持ったり、仕事で責任を持ったりすると、自分の能力と現実社会からの要求とのギャップに苦しんだり、労務問題、夫婦問題、子育て、経済問題などで悩みます。中年期~初老期には、身体の衰えや病などによる様々な喪失を体験していきます。そして老年期には、脳の機能低下、認知症や介護の悩みがあります。

  • これまで私は、大学病院精神神経科、精神科単科病院、精神科クリニック、学校保健、高齢者施設、身体障害者施設、知的障害者施設、そして当院でのリエゾン活動や緩和ケアチーム活動、産業医活動など、多様な現場での臨床経験を積み重ねてまいりました。このことは、当院にご入院されるあらゆる年代、様々な状況の患者さんたちのお気持ちのトラブルに対処するための大きな糧になっていると感じています。

    我が国の精神保健の重大な課題として、自殺予防があります。自分の命の決断を「個人の自由」と考えることは、とても危険です。なぜならば、背景にどんな理由があろうとも、自死は悲しみと苦しみの連鎖を大きくしてしまうものに他ならないからです。そのため、自殺を防ぐための努力はとても大切なのです。とてもつらい問題を抱えている方も、誰かの助けを得ることで、必ずその困難な状況を乗り越えることができます。ご自分を危険に晒してしまう前に、周囲に助けを求めていただきたいと、心から願っています。

    心の健康のトラブルは、早期の介入がとても大切です。どうぞ当科に、お気軽にご相談ください。

【目次】

メンタルヘルスの不調とは

  • メンタルヘルスの不調とは
  • 「精神科」と聞くと、少し「敷居が高い」と感じられるかもしれません。精神科も普通の診療科と同じく、病気による困った症状の治療をしています。メンタルヘルスの不調は、心理的、身体的、環境的なストレス状況が積み重なることにより、脳の不調が起きている状態です。

総合病院でよく遭遇するケースとして、①病気の診断を受けたことや治療が長引くことによる心理的な苦痛と、体調の変化、生活の変化などが重なり、どんどんと不安が大きくなって気分が落ち込む、意欲が出ないなどのうつ状態になる ②肺炎や尿路感染、脳炎などの感染症や、腎不全、肝不全、呼吸不全などにより身体が深刻な状態に陥ったことで、脳機能が低下し、軽度の意識障害である「せん妄状態」となって、頭がぼんやりとする、幻覚が見える、気持ちが混乱するなどの症状が現れることがあります。その他にも、集中治療室のような不安や緊張が高まる環境でも、せん妄が誘発されてしまうことがわかっています。これらの状態は、本人の心の持ちようとか、心の強さといったことでは、必ずしも完全に回避することはできません。

精神科では、このように様々なストレスによりバランスを失った脳機能を助けるため、適切に投薬を行ったり、心理的にストレスを軽減したり、環境を調整したりすることにより、症状を軽減し、身体の治療を安全に行なうことを助けています。

せん妄って何?

感染症や心臓や肺の病気、骨折やがんをはじめ様々な病気でお身体に異常が生じたときに、突然以下のような症状が出現してびっくりしてしまうかもしれません。

  1. 突然、話が通じなくなり落ち着きがなくなる(錯乱)
  2. ないものが見える(幻覚)
  3. 場所と時間の感覚がなくなる(見当識障害)
  4. 忘れっぽくなる(健忘、記銘力障害)
  5. 集中力がなくなる(注意障害)
  6. ぼんやりとして元気がなくなる(低活動性せん妄)
  7. 不安や心配ごとが増えて落ち着かないなどの症状が現れることがある

総合病院でよく遭遇するケースとして、①病気の診断を受けたことや治療が長引くことによる心理的な苦痛と、体調の変化、生活の変化などが重なり、どんどんと不安が大きくなって気分が落ち込む、意欲が出ないなどのうつ状態になる ②肺炎や尿路感染、脳炎などの感染症や、腎不全、肝不全、呼吸不全などにより身体が深刻な状態に陥ったことで、脳機能が低下し、軽度の意識障害である「せん妄状態」となって、頭がぼんやりとする、幻覚が見える、気持ちが混乱するなどの症状が現れることがあります。その他にも、集中治療室のような不安や緊張が高まる環境でも、せん妄が誘発されてしまうことがわかっています。これらの状態は、本人の心の持ちようとか、心の強さといったことでは、必ずしも完全に回避することはできません。

このような状態になることを総称して「せん妄」といいます。特に高齢者で多く見られますが、病気によっては年齢・性別を問わず、誰でも起こることがあります。せん妄の発症のメカニズムとしては、認知症などの基礎的な脳の機能低下がある方に、感染症、脱水、電解質異常、呼吸不全、脳の病気などの身体の病気、それらの治療のための薬剤投与、手術や入院環境などによる負担がかかることで、脳が機能不全状態となり、はっきりとした意識が保てず、「夢うつつ」のような状態になっていると考えられています。

せん妄はご本人にとって苦痛のある症状であるとともに、それを目の当たりにされるご家族も大変心配されることでしょう。せん妄は身体の正常な回復とともに自然と改善することが多いのですが、一方でせん妄のために安全な身体的治療をすることができなくなってしまい、身体の回復が遅れることもあります。

せん妄は適切な環境の調整や薬物療法を行うことで、改善が早まることがあります。入院時のせん妄を防ぐために患者さん自身ができることは、習慣的に飲酒しない、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬を常用しない、などが挙げられます。

不眠の正しい対処法を学びましょう

対処法 ケース①

「眠れないのだから眠れる薬をくれればいいです」
→睡眠治療薬は依存性がありますので、薬を飲めば良いというほど単純ではありません。

対処法 ケース②

「眠れませんが、お薬は怖いので飲みたくありません」
→睡眠不足は健康を損ないますので、必要な時には安全な薬を効果的に使いましょう。

対処法 ケース③

「お酒を飲めば眠れるので大丈夫です」
→寝酒はアルコール依存の危険性をとても高めるとともに、さらに不眠を悪化させうつ病や認知症へのリスクとなります。

対処法 ケース④

「寝たい時にスッと眠りたいんです」
→夜眠るための準備は朝起きる瞬間から始まります。

  • 気持ちの良い睡眠のための5つのコツ
  • 不眠は身体、精神の様々な不調のサインです。しかし残念ながら、一般の方だけでなく、医療従事者であっても睡眠について正しい理解ができている人はほとんどいません。不眠の状態を放置することは、高血圧や糖尿病、脂質代謝異常、うつ病、認知症などの発症リスクを上昇させ、死亡率が上昇してしまうことがわかっています。

また、間違った自己流の不眠治療に走ってしまうと、睡眠薬依存やアルコール依存、うつ病や認知症の発症リスクを上げてしまうことがあり、大変危険です。不眠症治療の第一ステップは、何よりも睡眠に関係する生活習慣の見直しが大切です。たかが不眠と侮ることなく、ぜひ専門医にご相談ください。

気持ちの良い睡眠のための5つのコツ

  1. 毎日同じ時間に起きて、太陽の光を浴びる
  2. 規則正しい生活を心がける
  3. アルコールやカフェインは夕食後には摂取しない
  4. 眠りやすい寝具や寝室を工夫する
  5. 時計にとらわれすぎない

心の健康を保つ

心の健康と身体の健康は密接に関係しています。まずは健康な体を維持するために適度な運動と睡眠、バランスの取れた食生活についてしっかりとケアをしましょう。

身体が不調になった時に心の健康を保つためには、さらなる工夫が必要となります。趣味などの小さな日常の楽しみ、自分が癒やされると感じるもの、気楽に話せる友人など、自分の心のエネルギー源となりうる存在を、身体が健康なうちから、できるだけたくさん用意しておきましょう。それらの存在が、お身体が不調となって、自由が少なくなってしまった状態でのあなたを守り、支えてくれるものになります。

精神科リエゾンチームとリエゾン活動

当院には、精神科医、精神看護専門看護師、作業療法士、薬剤師、社会福祉士で構成されている精神科リエゾンチームがあります。「リエゾン」とはフランス語で「連携」を意味する言葉です。精神科リエゾンチームでは、身体疾患のためにご入院されている患者さんの、せん妄、抑うつ、不眠などの様々なメンタルヘルスの不調への対処や、精神疾患を患っている方の精神科治療の継続のため、身体の治療を担当する科および病棟と連携をしながら、安全にお身体の治療が進むよう、多職種による多角的な視点から、患者さんの精神面のサポートをいたします。

リエゾンチームのメンバーは緩和ケアチームの一員として、がん患者さんの様々な気持ちのつらさに対する心理的サポートについても活躍しています。がんと診断された時のつらさや、がんとともに生きる辛さにお悩みの時は、緩和ケア外来にお問い合わせください。

精神科(心療内科)外来

当院で身体の治療のために通院中の方を中心に、主に、うつ病や不安症、不眠症の患者さんを診療しています。症状が安定しましたら、近隣の診療所などにご紹介いたします。なお、当院は精神科病床を有しないため、精神科での入院はできません。

・強い希死念慮がある ・危険な行動をしてしまう恐れがある ・生活が破綻している ・定期的な通院ができない ・待合室で待つことができない など、精神科での入院治療を要する病態の患者さんについては、近隣の信頼できる精神科病院へご紹介いたします。

【診察日】 毎週水曜・金曜 8:30~12:00 / 14:00~17:00
外来診療予約専用TEL(通話料無料) 0800-800-6456【予約制】
※あらかじめ外来診療担当表をご確認の上、ご予約をお取りいただいてからご来院ください。