広報紙 vol.58しんゆりニュースレター

2022/12/1掲載

FUS(集束超音波治療)特集

FUS(集束超音波治療)特集|広報紙

  • 新百合ヶ丘総合病院
    脳神経内科 部長
    まき ふたば
    眞木 二葉 医師
  • 【プロフィール】
    聖マリアンナ医科大学卒業。聖マリアンナ医科大学大学院医学研究科博士課程修了。聖マリアンナ医科大学脳神経内科助教。聖マリアンナ医科大学講師。2020年より現職。
    日本神経学会神経内科専門医・指導医/日本内科学会総合内科専門医・指導医/日本脳卒中学会専門医・指導医/日本老年医学会老年科専門医/日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士/医学博士
  • 2020年に当院に着任いたしました、脳神経内科の眞木二葉です。脳神経内科は脳梗塞や脳出血をはじめとする脳卒中、パーキンソン病などの変性疾患、多発性硬化症などの免疫疾患、髄膜炎・脳炎などの炎症性疾患、本態性振戦、てんかん、頭痛などの機能性疾患を扱っています。多岐にわたる分野を担当していますが、診断にも治療にも高い専門性が要求され、日々精進しております。

    当院は脳卒中センターを有しており、センターでは脳神経外科医、看護師、リハビリテーションスタッフ、薬剤師、ソーシャルワーカーと協力しながら、一次脳卒中センターのコア施設として地域の脳卒中医療も担っております。1分1秒を争う疾患でもありますので、迷うことなく救急車を呼んでいただきたいと思います。

    私はパーキンソン病、振戦を専門としておりますが、診断も治療もたいへん難しい病気です。しかし近年、治療方法も増え、可能性が広がった分野だとも感じています。

  • 例えば、集束超音波治療(FUS)はふるえ(振戦)に対する新しい治療法です。パーキンソン病のふるえ、本態性振戦のふるえに対して保険適用があります。この治療によって、不自由なく日常生活や仕事ができるようになるお手伝いができれば嬉しく思います。また、薬での治療にも可能な限りチャレンジし、患者さんと一緒に病気に向き合っていきたいと思っています。

    私が医師として働きはじめたときに恩師から『大事なことは患者さんが教えてくれる』と言われたことが、今も私の根幹にあります。神経疾患は診断をする上で問診が非常に大切です。教科書には載っていないけれど、多くの患者さんが同じように訴えられることがあることもよく経験します。患者さんの症状やお困りのことにしっかりと耳を傾け、問題点を整理して診療にあたるように心がけております。

    脳神経内科では新しいメンバーも増え、常勤医師7名と非常勤医師8名で診療に携わっています。神経疾患にお困りの患者さんや、なかなか診断がつかなくてお困りの患者さんがいましたら、当科にご相談いただけたらと思います。

【目次】

手のふるえについて

  • 手のふるえについて手のふるえについて
  • 手のふるえに悩んでいる人は全国に300万人いるといわれています。ふるえには色々な病気があり、きちんと診断することが重要です。ふるえの中でも最も多いのが『本態性振戦』です。お箸でつかむ、コップで飲む、字を書くなどの生活にも不自由することも多い病気ですが、実際に治療されている方ばかりではありませんので、まず受診して医師と相談することが大切です。

本態性振戦

本態性振戦とは、『原因不明のふるえ』という意味で、何かの動作をするときにふるえが起きます。脳の中で異常な信号が発生し、その情報が手まで伝わり、自分の意志とは関係なく細かく動いてしまうと考えられています。症状は左右ともに出ますが、特に利き手のふるえを不自由と感じることが多いです。受付での記帳、役所の書類の記入といった人前で字を書く時など、緊張が加わる際には一層症状が強くなります。高齢者で多く認められますが、20代で発症するケースもあります。

本態性振戦の診断は、まず、問診を行います。どのような時にふるえが起きるのか、どちらの手がふるえるのか、家族、親戚で手のふるえる人がいるかなどを聞きます。文字を書いたり、コップを持つなどをしていただき、実際のふるえを確認します。頭部CT検査、頭部MRI検査、血液検査など行い、異常がないことも確認します。本態性振戦は検査では明らかな異常が出ないことも特徴です。

パーキンソン病

手のふるえを起こす別の病気には、『パーキンソン病』があります。70歳以上の100人に1人と、比較的頻度の高い病気です。その中でも7割程度の人がふるえから発症します。本態性振戦と異なり、安静時、すなわち何もしていないときにふるえが見られるのが特徴です。また、体の動きがにぶくなったり、表情が乏しくなるなど、ふるえ以外の症状も認めることが多い病気です。診察のほかに頭部MRIやDATスキャン、MIBG心筋シンチグラフィーなどを用いて総合的に診断します。パーキンソン病は脳の中の『ドーパミン』という神経伝達物質が減少することが原因といわれています。

DATスキャンの検査結果

  • 手のふるえについて正常
  • 手のふるえについてパーキンソン病

バセドウ病

また、手のふるえが血液検査でわかる病気もあります。バセドウ病は免疫の異常で、甲状腺ホルモンを過剰に産生する病気です。動悸や倦怠感なども同時に出ることもあり、甲状腺のホルモンを血液から測定することで判明します。

その他

他には、小脳の病気でもふるえが出ることがあります。細かいふるえではなく、何かを取ろうとしたときに、手がまっすぐいかず、ゆれるような軌跡となることがあります。突然に起きた場合は脳卒中の可能性もあり、命に係わる危険性もあるので、迷わず救急車を呼びましょう。

一部の抗精神病薬や抗てんかん薬、胃腸薬、気管支喘息の薬などでふるえが起きることもありますが、ふるえが出たからといって勝手に薬をやめるといけませんので、主治医に報告して相談してください。

FUS(集束超音波治療)について

  • MRIMRI
  • 本態性振戦、パーキンソン病の手のふるえには『集束超音波治療』という新しい治療方法があります。2019年に保険適用となった新しい手術療法です。頭の周りから1,000本程度の超音波を視床という部分に集中させて、熱凝固するものです。視床はふるえの回路に関与していると考えられており、そこを熱凝固すると、回路が断ち切られて、ふるえが軽くなると考えられています。

  • 約1000本の超音波のビームを一点に集中させます約1000本の超音波のビームを一点に集中させます
  • MRIの装置に超音波治療器を組み合わせた機械で治療を行います。1回の超音波照射は20秒程度ですが、それを8~10回ほど行い、徐々に温度をあげていきます。治療の間には、医師が声かけをして、副作用がないか、治療効果の判定を行いながら、手術が進みます。

  • FUSチームFUSチーム
  • 現在では、片手のみ保険適用となっていますので、事前に医師と相談しながら、どちらの手の治療を行うかを決めます。手術が難しい人は頭蓋骨の密度にばらつきがある人、脳の他の病気がある人、認知症などがあります。皮膚を切ったり、頭蓋骨をあけたり、脳に電極を刺入することなどがありませんので、比較的、患者さんにとってストレスが少ない手術です。入院期間も5日前後のため、早期の仕事復帰も期待できます。治療成績はふるえの評価点で平均70%以上の効果を認めています。

  • 超音波照射後は毎回、患者さんのふるえの状態を確認します超音波照射後は毎回、患者さんのふるえの状態を確認します
  • FUS治療の流れ治療後ただちにふるえが改善し、図のように滑らかに線が書けるようになっています
  • FUS治療100症例達成2022年2月にFUS100症例を達成しました!
  • 手のふるえで困っており、病院に相談したことがない方、『このふるえはどうにもならない』といわれたことがある方は、適切な診断を行い、飲み薬の治療、FUS治療を一緒に相談してまいりましょう。ぜひ、一度ご相談ください。


FUS治療の流れ

FUS治療の流れ

FUS(集束超音波治療)センター医師紹介

①専門分野/得意な領域 ②卒業大学 ③専門医・指導医・資格・公職等
【脳神経内科】
  • 眞木 二葉(脳神経内科部長)

    ①パーキンソン病、DBS、FUS ②聖マリアンナ医科大学医学部 ③日本神経学会神経内科専門医・指導医/日本内科学会総合内科専門医・指導医/日本脳卒中学会専門医・指導医/日本老年医学会老年科専門医/日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士/医学博士

  • 大内 崇弘(脳神経内科医長)

    ①神経内科一般 ②日本医科大学医学部 ③日本神経学会専門医/日本内科学会認定医/日本認知症学会専門医・指導医

【脳神経外科】
  • 仲野 雅幸(脳神経外科(機能外科部門)部長)

    ①脳神経外科一般、機能的脳神経外科 ②福島県立医科大学医学部 ③日本脳神経外科学会専門医・指導医/日本脳卒中学会専門医/日本定位・機能神経外科学会技術認定医

【麻酔科】
  • 髙崎 正人(麻酔科)

    ①麻酔科全般 ②帝京大学医学部 ③日本麻酔科学会専門医・指導医

【放射線診断科】
  • 山口 敏雄(放射線診断科非常勤医師)

    ①FUS、放射線診断全般 ②広島大学医学部 ③日本医学放射線学会放射線診断専門医/日本IVR学会IVR専門医/日本医学放射線学会研修指導医

【他院の医師】
  • 岩室 宏一(順天堂大学医学部附属順天堂医院脳神経外科准教授)

    ①機能的脳神経外科・脊髄疾患 ②東京大学医学部 ③日本脳神経外科学会専門医・指導医/日本定位・機能神経外科学会技術認定医/日本脊髄外科学会認定医/医学博士