ドクターコラム

失神・・・実は心臓の病気が原因のことも

循環器内科 医長  田仲 明史

掲載日:2025年3月10日

失神とは

失神とは、一時的に意識を失ってしまう状態、いわゆる気絶ですが、その間の意識は全く残っていないものの、数十秒間、長くても数分間で意識は完全に戻るのが特徴です。

  • 失神してる人のイラスト
  • 朝の朝礼で長時間立っていて気を失ってしまった。注射の時に気絶したというのも失神のひとつです。

上の二つの例のような失神は神経調節性失神とよばれ、血圧が一時的に下がってしまい脳への酸素が不足して失神してしまう病態で、頻度は最も多く、一般的には良性の失神で特別な治療は必要がないことがほとんどです。

一方で何らかの病気があってその症状として失神してしまうという場合も比較的まれではなく存在しています。

心原性失神は命に係わる病気が潜んでいるかも!

危険な失神の代表が心原性失神といって、何らかの心疾患が原因で失神をきたします。命の危機、突然死につながる病気が隠れていることがあります。心原性失神はほかの原因による失神と比べて生命予後が悪いといわれており、心原性失神が疑われる場合はしっかりと検査を行い治療につなげる必要があります。

グラフ失神と生存率の関係(**)

心原性失神の原因は?

心原性失神の代表には、不整脈があります。とくに徐脈性不整脈といって心拍数が遅くなってしまい、脳の血流が低下して失神してしまいます。徐脈性不整脈は加齢からきたすことが多いですが、心筋梗塞などほかの心臓病が原因で起こることもあります。徐脈性不整脈の治療は主にペースメーカー治療になります。また、心拍数が速くなる不整脈のうち致死性不整脈(心室細動など)による失神の場合には、植込み型除細動器(ICD)という電気ショックが可能なペースメーカーのような機器での治療のこともあります。

ほかにも弁膜症(とくに大動脈弁狭窄症)という心臓の構造の異常が原因の場合や、心筋症(心臓の筋肉の病気)、大動脈疾患なども心原性失神の原因となります。

どんな検査をするの?

失神の場合、意識が回復した後は普段通りであることが多く、病院を受診した時点では異常がないことが多くあります。そのため最も大事なのは問診で、倒れた時の状況や症状から心臓が原因なのか、脳神経などほかの原因なのかをある程度予測できます。倒れた際に誰かが一緒にいた場合は一緒に診察を受けるといいでしょう。

心原性失神を疑う際は、心電図検査や、1日から1週間装着型のホルター心電図検査をおこなったり心臓超音波検査を行い原因を探していきます。

  • 植込み型心臓モニター(ICM)Medtronic社ホームページより引用
  • いろいろ検査を行っても原因が不明だけど、心臓が原因の可能性が疑わしい場合や、繰り返し失神をしているような場合には、植込み型心臓モニター(ICM)という器械を胸の皮下に植え込む手術をおこなうこともあります。局所麻酔で小切開を必要としますが、約3年間心電図を記録することが可能でその間に異常があれば診断・治療につながります。

おわりに

一般人口における失神の発生率は、1年あたり0.6%、積算発生率は10年間で6%程度、救急部門受診者における失神の頻度は、本邦で3.5%と報告(*)されており少なくはありません。救急外来で大丈夫と言われてそのままのことも多くありますが、心配な場合や繰り返し失神しているような場合は一度診察を受けてみてください。

【参考文献】
・ESC GUIDELINES. European Heart Journal (2009) 30, 2631–267.(*)
・Soteriades ES et al. N Engl J Med 347:878︲885, 2002.(**)