ドクターコラム

形成外科で行う治療
~皮膚、皮下腫瘍の手術数ランキング~

形成外科

掲載日:2021年12月6日

形成外科で行う外科的治療~皮膚腫瘍外科とは~

形成外科では、皮膚や軟部組織(皮下脂肪や筋肉などの深部組織)の腫瘍を外科的に治療します。つまり手術でしこりを取り除くという事です。皮膚や皮下脂肪の中のものでは「皮膚科」皮下脂肪から筋肉・骨などのものでは「整形外科」でも同様の治療を行っています。これらの病気は、この3つの診療科でオーバーラップしている領域のため、各病院によって紹介される診療科が違う場合があります。

形成外科では、皮膚や軟部組織の腫瘍を取り扱う専門家の育成にも力を入れています。日本形成外科学会では、形成外科専門医を取得後に、この分野のより高度な知識の取得や治療技術を修練した医師に対して「皮膚腫瘍外科分野指導医」を認定しています。当院の医師もこの専門医を取得しています。

日帰り手術について

当院では2020年に約700件の手術を行いましたが、その内、約500件が皮膚軟部腫瘍に関連した手術でした。またその500件の手術のうち、約450件が日帰りの局所麻酔手術であり、これらの手術は形成外科の中でも最も多い手術となります。

そこで、当院で2020年の1年間に行った皮膚軟部腫瘍の手術をその種類ごとに集計し、件数の多い順にランキング順で解説します。

皮膚軟部腫瘍の手術件数ランキング

【第1位】粉瘤(ふんりゅう)

皮膚のうち表皮(角質のある層)からできる腫瘍で、皮膚から皮下脂肪までの範囲でできる袋状のシコリで、数ヶ月から数年かけて増大してきます。シコリとして指で触れることができますが、痛みなどの症状が特に無いことが特徴です。シコリの中央付近の皮膚に入り口(黒っぽい粒)があり、そこから臭い匂いがすることがあります。ときどき細菌感染を起こす事があり、化膿したニキビの様に数日で急速に赤く腫れ上がって痛みを伴うようになります。

まだ感染していない場合は、袋の入り口の皮膚を含めて切除・摘出して、皺の線に合わせてきれいに縫合閉鎖します。近年「くり抜き法」を行っているクリニックがYouTubeなどで脚光を浴びていますが、当院ではこの方法は推奨していません。感染してしまった場合には、局所麻酔で切開して膿を排出し(処置)、感染が治まってから切除を行います(日帰り手術)。可能であれば、感染する前に切除をした方がキズアトも小さくきれいですし、再発のリスクも低減できます。

  • 粉瘤左前額部の粉瘤
  • 粉瘤背中の感染した粉瘤

【第2位】色素性母斑(しきそせいぼはん)・母斑細胞母斑(ぼはんさいぼうぼはん)

母斑とは、いわゆる「ホクロ」と同じ意味と考えて大きな間違いではありません。茶色~黒色のものは、皮膚の比較的浅いところ、つまり表皮から真皮の浅い層にできる母斑細胞の増殖や色素の沈着で、平坦なものや盛り上がっているものなど、形は多彩です。

ちなみに、青い母斑(青あざ)は、もう少し深い真皮にできる母斑には、「蒙古斑」「太田母斑」「青色母斑」などがあります。赤いアザの多くは「血管腫」です。

色素性母斑の場合は、「皮膚がん」との鑑別が重要です。病歴聴取や視診(見た目の診断)などでも判別できることが多いですが、ダーモスコピーという検査機器で拡大して見ることで診断の精度が高くなります。最終的には病理診断(切除した組織を顕微鏡で見て診断する方法)を行います。

色素性母斑の治療は、皮膚がんとの鑑別を兼ねて切除することを勧めています。レーザー治療では取り切れない場合があることや、レーザーで母斑細胞が蒸発してしまうので病理診断ができないというデメリットがあります。当院では、切除した色素性母斑を病理検査に提出するとともに、縫合閉鎖することで皺の方向に沿ったきれいなキズになるように丁寧に縫合処置を行っています。2~3mm程度までの小さな色素性母斑の場合には、メスで「くり抜き術」を行う場合もあります。

  • 先天性の母斑先天性の母斑
  • 粉瘤切除後1年の瘢痕(キズアト)

【第3位】脂肪腫(しぼうしゅ)

主に皮下脂肪の中にできる柔らかい脂肪の塊で、数~数十cmと大きさは様々。数年かけてゆっくり大きくなってきます。表面の皮膚は正常で、丘の様に盛り上がっていてシコリを触れます。まれに筋肉の中の脂肪からできる場合もあります。超音波、CT、MRIなどで画像診断し、大きさや形状、局在や悪性の鑑別などを行います。

鶏卵大くらいまででしたら日帰り手術で摘出が可能ですが、握りこぶしよりの大きくなった脂肪腫や、筋肉の内部にあるような場合は入院・全身麻酔が必要になります。まれに、脂肪肉腫と言われる悪性度の高い癌のことがありますので、早めに診断をしたほうが良いでしょう。

  • 背中の脂肪腫(点線部)背中の脂肪腫(点線部)
  • 摘出した脂肪腫摘出した脂肪腫

【第4位】脂漏性角化症(しろうせいかくかしょう)

別名、老人性疣贅(ろうじんせいゆうぜい)と言われ、加齢とともに顔や首などの日光が良く当たっていた場所にできる茶~黒色の盛り上がったイボです。色や形が多彩で、他の皮膚腫瘍や皮膚癌との鑑別が必要です。液体窒素治療や表面の病変を削皮する方法、切除術などで治療します。しかし、レーザー治療を選択された場合には、自費診療になります。

  • 鼻の脂漏性角化症鼻の脂漏性角化症
  • 術後6ヶ月のキズアト術後6ヶ月のキズアト

【第5位】基底細胞上皮癌(きていさいぼうじょうひがん)

皮膚癌の中で最も多い癌のうちの1つです。表皮の基底層というところから発生する皮膚癌で、黒いイボやシミのような形から数ヶ月から数年かけて大きくなってきます。ホクロや脂漏性角化症などの他の皮膚腫瘍との鑑別が重要で、外来診察ではダーモスコープという特殊な拡大鏡で診断をします。また局所麻酔で生検(細胞の一部を採取)し、病理診断を行うことで確定診断が得られます。命に関わる癌転移などは非常にまれですが、顔にできやすいため、大きくなると切除した際に変形をきたすことがあります。癌を大きく切除した際に変形を限りなく小さくおさめる技術は、形成外科医の得意とする手技です。

  • 鼻の基底細胞上皮癌鼻の基底細胞上皮癌
    (点線は切除範囲)
  • 切除術と皮弁による再建術後切除術と皮弁による再建術後

【第6位】血管腫、動・静脈奇形

先天性のイチゴ状血管腫や単純性血管腫は、レーザー治療の保険適応となっています。莓状血管腫では、内服治療でも早期の消退が期待できます。

その他に動静脈からできるシコリとしては、末梢血管の動脈瘤・静脈瘤、口唇にできる静脈湖など様々なものがあります。当院ではレーザーは未導入のため、切除により改善が期待できるものについて手術的に治療を行っています。

  • 乳児のイチゴ状血管腫乳児のイチゴ状血管腫
  • 下口唇の静脈湖下口唇の静脈湖

【第7位】肥厚性瘢痕・ケロイド

ケガや手術によってキズアトがミミズ腫れの様に膨らんでしまう病気で、痛みやかゆみ、場合によっては拘縮(ひきつれ)を伴うことがあります。ケロイド体質が原因のことが多いですが、複雑なケガや細菌感染、不適切な縫合術によっても発生します。耳たぶ(耳垂)、胸部、肩、恥骨部など、ケロイド体質の人でなくても発生しやすい場所もあります。

 最近は、ピアス後の耳垂のケロイドが増加しています。内服、外用(塗り薬や貼り薬)、ステロイド注射、手術、放射線治療などを組み合わせて治療を行います。

  • 手術後の胸部ケロイド手術後の胸部ケロイド
  • ピアス後の耳垂ケロイドピアス後の耳垂ケロイド

【第8位】皮膚線維腫(ひふせんいしゅ)

赤黒くてやや硬い皮膚のシコリで、虫さされの所が赤く膨らんだような形をしています。太ももなどの下肢にできやすい良性の皮膚腫瘍ですが、特に症状は出ません。徐々に増大するものの中には、皮膚線維肉腫(癌)であることがありますので、切除して病理診断を行う方が良いでしょう。

  • 前腕の皮膚線維腫前腕の皮膚線維腫

【第9位】有棘細胞癌(ゆうきょくさいぼうがん)

基底細胞上皮癌と同じく皮膚癌のなかで非常に多い悪性腫瘍の1つです。表皮の有棘層(ゆうきょくそう)からできる皮膚癌で、露出部(顔や手など日光に当たる場所)にできやすく、紫外線やヒト乳頭腫ウィルスなどが関連しています。またやけどやケガのキズアト、床ずれや放射線治療後の皮膚炎などに発生することがあります。転移する場合もあるため、しっかり検査を行ってから手術で拡大切除して欠損部を再建します。場合によっては化学療法や放射線治療も必要になります。

  • 左腰の有棘細胞癌左腰の有棘細胞癌
  • 右耳前部の有棘細胞癌右耳前部の有棘細胞癌

【第10位】石灰化上皮腫(せっかいかじょうひしゅ)

皮膚の一部が石灰化したシコリで、毛母細胞が原因と考えられています。特に症状はありませんが、比較的若い人の顔、首、腕などに好発します。感染すると赤く腫れることがあります。切除治療が基本となります。

  • 肘付近の石灰化上皮腫肘付近の石灰化上皮腫
  • レントゲン撮影での石灰化像レントゲン撮影での石灰化像

他にもたくさんの皮膚腫瘍の手術が行われていますが、11位以下の病気は以下のとおりです。

  1. 【11位】尋常性疣贅(ウィルス性のイボ、液体窒素治療で取れなければ切除します)
  2. 【12位】血管拡張性肉芽腫・化膿性肉芽腫(赤い隆起、血管腫に似ている、出血しやすい)
  3. 【13位】ガングリオン(手足にできる粘液を出すしこり)
  4. 【14位】脂腺母斑(頭部にできるやや黄色い母斑、生まれつき)
  5. 【15位】ボーエン病(皮膚癌の一種)
  6. 【16位】軟線維腫(ポリープ状に突出した柔らかい皮膚の出っ張り)
  7. 【17位】眼瞼黄色腫(上まぶたの内側にできる黄色く平たい隆起)
  8. 【18位】神経鞘腫(神経からできるシコリ、触ると痛い)
  9. 【19位】ケラトアカントーマ(見た目が皮膚癌に似ているが良性のシコリ)
  10. 【20位】皮様嚢腫(眉毛の外側によくできる皮膚の下のしこり、生まれつきのことが多い)

皮膚・軟部組織腫瘍は、まず良性か悪性かの診断をつけることが大切です。

自分で判断せずに、早めに専門の医師の診察を受けてください。良性腫瘍のほとんどは日帰り手術(局所麻酔)で治療が可能です。悪性腫瘍の場合は、転移や再発を減らすために腫瘍周辺を大きく切除する必要があり、その場合には欠損した組織を補充する(再建)が必要になります。

形成外科では、確実な切除とともにキズアトや欠損部の修復後の外観を可能な限り美しく保つための技術を持っています。お気軽にご相談ください。

当院形成外科での日帰り手術の流れ

※初診から抜糸まで通院回数は3回程度

  1. 初診(診察・診断、血液検査、手術説明と日程調整)
    (画像検査などが必要な場合には、当日あるいは別日程で検査通院が必要です)
  2. 手術日(月・水・木・金曜日13:30~17:00)
    手術後は、医師の指示に従って自宅でご自身によるキズの処置(異常を感じた場合のみ再診)
  3. 約7~10日後に再診していただき、抜糸と病理検査の結果説明
    キズアトの注意点についてお話し、ご自身で経過を見ていただきます(異常を感じた場合のみ再診)。
    ※ご心配な方や医師が必要と考える場合には、術後のキズアトの経過観察通院が必要となる場合があります。