2019年11月号 ドクターコラム

眼瞼下垂症について

形成外科

掲載日:2019年11月

「まばたき」

ヒトは1日に約2万回もまばたきをします。1年で約700万回、生涯で6億回もまばたきをする計算になります。歳を取ると足腰が弱くなるのと同じように、まぶた(眼瞼:がんけん)の機能も衰えていきます。

まぶたの衰えは、ある日突然に訪れるものではなく、ゆっくりと進むので非常に気づきにくいものです。まぶたが下がってきて見えにくくなる前に様々な症状が出ますが、それが眼瞼下垂の症状かもしれないと疑わないと、自分が病気と気づくことはできません。

まぶた(眼瞼)の機能

  • まばたき

    図1

  • まぶたを上げる(目を開ける)のに重要なのは、「挙筋(きょきん)」という筋肉です。この「挙筋」は、まぶたの先に行くに従って「腱膜(けんまく)」という腱となって、まぶたの先端で「瞼板(けんばん)」という軟骨にくっついています(図1の左)。脳からの命令で「挙筋」が収縮すると、「腱膜」を介して「瞼板」が後方に引っ張り上げられて、まぶたが上がります。まぶたを下げる(目を閉じる)ときは、「眼輪筋(がんりんきん)」という筋肉が収縮します。「眼輪筋」は顔を正面から見るとバームクーヘンの様に、まぶた(瞼)を囲む形で広がっています。

加齢とともに腱が緩んでしまう・・・

年齢を重ねるとお肌がたるんでしまう様に、筋肉は柔らかくなり、腱は弱くなってきます。「腱膜」と「瞼板」とがしっかりとつながっていれば、「挙筋」の力は100%「瞼板」に伝わって、まぶたは簡単に上がります。しかし、加齢によって徐々に「腱膜」と「瞼板」の結合がゆるんだり、「挙筋腱膜」自体が弱くなったりした場合には、力がうまく伝わらなくなります。最終的に結合が外れてしまうと、「挙筋」の力ではまぶた(瞼)は上がらなくなってしまいます。このような眼瞼下垂を「腱膜性(けんまくせい)」といいます(図1の右)。左右同時に症状が出る方も、片側だけ症状が強く出る方もいます。

「頭痛」や「肩こり」が出ることも・・・

「腱膜性の眼瞼下垂」が始まるとそれは、まぶたに力が伝わりにくいので、他の手段で目を開けるのを助けるようになります。おでこにある「前頭筋(ぜんとうきん)」という筋肉で、眉毛と一緒にまぶたの皮膚全体を上に持ち上げて視野を保とうとします。このように、おでこや頭、首などの筋肉の緊張が続くと、「頭痛」や「肩こり」などが起こることが知られています。視野が狭くなることは眼瞼下垂症の直接的な症状ですが、頭痛や肩こりのような副産物のような症状のことを「随伴症状(ずいはん・しょうじょう)」といいます。

いろいろな「随伴症状」

まぶた(瞼)にある筋肉の中には、いくつかの神経受容体(周囲の変化を脳に伝えるセンサー)があります。腱膜が緩むことでこれらの神経受容体が刺激されて脳や中枢神経にそのシグナルが伝わると、周辺のほかの神経が刺激されて体のあちこちの神経のバランスが崩れることがあります。代表的な随伴症状としては、「めまい」「不眠症・入眠障害」「不安障害」「自律神経失調症」「眼瞼や表情筋の痙攣」などがあります。

高齢の方はほとんどが眼瞼下垂

2017年の計算では、平均寿命は男性が81歳、女性が87歳とされています。「腱膜性眼瞼下垂症」は、主に加齢による変化ですので、長生きをすれば誰しもがいつかは眼瞼下垂症になります。加齢によるまぶたの変化は、「腱膜」の緩みによる腱膜性眼瞼下垂の他に、まぶたの皮膚のたるみや凹みなどとしても現れます。たるみが強い人では、眼瞼下垂の症状は小さくても視野は狭くなります。つまり、まぶたの「皮膚弛緩(ひふ・しかん)」です。

眼瞼下垂は「老け顔」を作る

  • まばたき

    図2

  • まぶたが下がってくると視野が狭くなることの他に、見た目にも変化が現れます。眠そうな目となり、眉毛を上げるのでおでこにシワができます。眼瞼下垂の随伴症状と気づかずに何年も眉毛を上げて見る癖がついてしまうと、おでこのシワもますます深くなってしまいます。皮膚の弛緩によって目尻にも深いシワ(カラスの足跡)ができ始め、加齢によって皮膚が余るとぱっちり二重だった人も、奥二重になったり三重(みえ)や四重(よえ)になり、眼の脂肪の萎縮で眼も凹みます。特に女性にとって眼瞼下垂は美の天敵です(図2)。

若い人でも注意が必要

主に加齢が原因である「腱膜性」の眼瞼下垂の他に、若い人でも起こる眼瞼下垂があります。 生まれつきに「挙筋」の発達が悪かったり、「挙筋」への神経の伝達が悪かったりする場合には、「先天性」の眼瞼下垂となります。

また、まぶたは比較的薄いため、外からの力の影響を受けやすい組織です。そのため、花粉症で目をこする人、コンタクトレンズを使っている人、水泳のゴーグルを付ける人などでは、「腱膜性」の眼瞼下垂の出現が早まります。20代からでも起こる場合があります。

眼瞼下垂の治療は「手術」しかありません

ご自身で眼瞼下垂を疑って、形成外科あるいは眼科を受診され、「眼瞼下垂症」と診断された場合には、手術による治療が必要になります。局所麻酔の短期入院あるいは日帰りの手術で行っている施設が多いと思います。二重瞼のラインに沿って切開して、「腱膜」と「瞼板」を糸で止め直して修復する方法を取ります。

皮膚が弛緩している場合には、皮膚も一部切除します。視野が広くなると同時に見た目も若返ります。あまり印象を変えないように手術することも可能です。つまり機能的で整容的な改善ができます。

先天性のお子さんの場合には、局所麻酔では耐えられないと判断される年齢では全身麻酔での手術で入院が必要となります。先天性の場合や、高齢で「挙筋」の機能が著しく低下している場合には、ふとももの筋肉の膜(筋膜)や特殊な糸やシートを移植して前頭筋でまぶたを吊り上げる方法をとります。どのような手術法でも、術後にまぶたが腫れるのが最大の難点です。全く腫れない手術法はありませんので、過大な広告には騙されないように注意してください。

「随伴症状」も改善する

「随伴症状」が眼瞼下垂の原因の場合には、眼瞼下垂の治療を行うとその症状も改善します。「頭痛」や「肩こり」の随伴症状がある場合には、程度の差はありますがほとんどの方は症状が和らいだとおっしゃいます。中には全く症状の無くなる方もいますが、全く効果が見られない方もいます。

「頭痛」や「肩こり」の原因のすべてが「眼瞼下垂」のはずは無いので当たり前といえばそれまでですが、随伴症状が改善するのは眼瞼下垂症治療の「嬉しい副産物」です。まぶたをクリップやテープで固定して目を開けやすくした状態(擬似的に眼瞼下垂を治療した状態)で15~30分程度安静にしていただき、もしあなたの「頭痛」や「肩こり」が改善する場合には、眼瞼下垂治療による随伴症状の改善が大いに期待できます。

ご自分でチェックしてみましょう。

  • 60歳以上である。
  • コンタクトレンズを長期間使っている・使っていた。
  • 花粉症である。
  • 眠そうな目だと言われる・思う。
  • 何となく目が開けにくい(まぶたが重だるい)。
  • 目を開けるときに引っかかりを感じる(指で上げないと目が開かないことがある)。
  • 眉毛が上がっている(いつもおでこにシワが寄っている)。
  • あごを前に突き出している。
  • 頭痛持ちである。
  • 肩こりがする。

上記のチェックリストで3項目以上が当てはまる場合には「眼瞼下垂」かもしれません。形成外科あるいは眼科でご相談してみてください。