腹部大動脈瘤・胸部大動脈瘤|主な治療法|血管外科

腹部大動脈瘤・胸部大動脈瘤とは

腹部や胸部などの大動脈が「瘤(こぶ)」のように拡張した状態を動脈瘤(どうみゃくりゅう)とよびます。主に生活習慣病による動脈硬化が原因で動脈瘤は発症します。

瘤ができる場所により名称はことなりますが、中でも頻度として最も多いのが腹部大動脈瘤です。

通常、正常血管の約1.5倍以上に拡張したものが動脈瘤と呼ばれ、腹部であれば3.5~4.0cm以上、胸部であれば4.5~5.0cm以上で動脈瘤と診断されます。 動脈瘤は、一旦破裂すると8割以上が救命できない、致死率の高い厄介な病気です。

破裂時以外では症状がないことが多く、他の病気の検査や、健診で偶然に発見されることがほとんどです。

大動脈瘤を患っている可能性が高いのは、65歳以上、または、大動脈瘤の家族を有する方とされており、このような方には腹部超音波検査やCT検査によるスクリーニングが推奨されております。

  • 瘤のように拡張した状態<腹部> 図1) 腹部大動脈瘤の3DCT画像
  • 瘤のように拡張した状態<胸部>図2)胸部大動脈瘤の3DCT画像

動脈瘤の治療方法は?

大動脈瘤が手術適応となるのは、男性で直径55mm、女性で50mm以上が目安となりますが、瘤の形や、拡大のスピード、家族歴などを総合的に判断し手術を検討しています。

大動脈瘤が手術適応となる大きさになるまでは内科的治療が中心となります。

大動脈瘤破裂と関係の深いものとして、女性、喫煙、高血圧、肺気腫、大動脈瘤の家族を有する方があり、外来でのフォローアップの際には、禁煙指導と、血圧管理、生活習慣病の管理を行うとともに、それぞれの瘤径に応じて定期的にCT検査を行い、適切な時期に手術ができるように治療していきます。

手術の方法は、開腹人工血管置換術とステントグラフト内挿術があります。年齢や、瘤の位置、基礎疾患などを総合的に判断し、それぞれの患者さんに適した手術方法を選択しております。

人工血管置換術

人工血管置換術は、従来から行われている術式です。
腹部、もしくは胸部を切開して、瘤を直接露出、切開して、人工血管に置き換える方法です(図3)。

人工血管置換術(図3) 人工血管置換術の実際

以前はほぼ全例でこの術式が行われていました。
手術による侵襲がやや高いので、高齢、腹部・胸部の手術歴がある、心臓や呼吸器に疾患がある場合は、合併症のリスクが高くなり、この手術が受けられない患者さんもおります。

しかし長期成績が確立している術式であり、全身状態が良好な患者さんは今でも第一選択となります。

ステントグラフト内挿術

ステントグラフト内挿術(Endovascular Aneurysm Repair : EVAR)

腹部では2007年4月、胸部では2008年7月に本邦において初めて保険適応となった手術方法です。低侵襲性と安全性から大動脈瘤に対する治療は劇的な変化を遂げ、これまで外科的手術が困難であった患者さんの多くが、この術式で救命できるようになりました。

  • 露出した動脈からステントグラフトを瘤まで挿入図4) 右の足の付け根を3cm程度切開して、動脈を露出し、ステントグラフトが収納されたシースを挿入します。
    治療後は血管、皮膚を縫い閉じて終了です。
  • ステントグラフト内挿術は、お腹や胸を切らずに、足の付け根を3cm程度切開して、足の動脈からカテーテルを挿入して治療する方法です(図4)。

ステントグラフトは人工血管に金属のステントを縫いつけたもの(図5, 6)で、これを折り畳んで収納された細い鞘(シース)を、血管の中に挿入していきます。動脈瘤の位置で、ステントグラフトを展開すると、折り畳み傘を開く様に血管に密着していき、瘤の前後の正常な血管を橋渡しする形で固定されます。これにより瘤内に血液が流れなくなるため、破裂を予防できる術式です。

腹部用のステントグラフト図5) 腹部用のステントグラフト
胸部用のステントグラフト図6) 胸部用のステントグラフト

手術は透視装置を有したハイブリッド手術室で行います。血管の中に造影剤を注入し、透視画面で瘤の位置を確認しながらステントグラフトを適切な位置に留置していきます(図7,8)。

ステントグラフト内挿術は、傷も小さく、体への負担も少ないため、手術リスクの高い患者さんでも比較的安全に行うことができ、手術後は約4~6日で退院が可能です。

腹部大動脈瘤治療用のステントグラフト治療の実際 図7 ) 腹部大動脈瘤治療用のステントグラフト治療の実際
胸部大動脈瘤のステントグラフト治療の実際 図8 ) 胸部大動脈瘤のステントグラフト治療の実際

特殊治療:枝付きステントグラフト

対象疾患

  • 腎動脈や上腸間膜動脈を巻き込む形で瘤を形成する、傍腎動脈型腹部大動脈瘤や胸腹部大動脈瘤(図9)
  • 頭部への血管を書き込む形で瘤を形成する弓部大動脈瘤 (図10)

通常のステントグラフトに枝を付けることで、重要血管への血流を確保しながら瘤を空置します。特殊な治療でありますが、従来の外科的手術が困難な患者さんに対して積極的に治療を行っております。

図9) 右腎動脈の部位に自作開窓したステントグラフト内挿術(fenestrated EVAR)図9) 右腎動脈の部位に自作開窓したステントグラフト内挿術(fenestrated EVAR)
図10) 頸部分枝に小口径のステントグラフトを留置し血流を確保した枝付きステントグラフト内挿術(RIBS TEVAR)図10) 頸部分枝に小口径のステントグラフトを留置し血流を確保した枝付きステントグラフト内挿術(RIBS TEVAR)

※当院では、外科的治療、血管内治療それぞれに対応できる設備、環境が整っております。患者さんそれぞれの瘤や合併症等の全身状態を総合的に判断し、治療を検討していきたいと考えおります。