ドクターコラム

物忘れと認知症は異なる現象です

脳神経内科 部長  眞木 二葉

掲載日:2024年4月5日

物忘れ(もの忘れ)と認知症の違い

  • 物忘れと認知症の違い
  • 物忘れと認知症は異なる現象です。物忘れは特定のエピソードの一部を忘れることを指し、認知症ではエピソードそのものが失われます。例えば、食べた『もの』を忘れてしまった、と食べた『こと』を忘れてしまった、というような違いです。認知症になると、単に記憶の障害では済まないこともあります。

行動・心理症状の変化(BPSD: Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)も現れることがあり、これは患者だけでなく家族や介護者にも負担を与えます。一般的なBPSDの症状には不安や怒り、自分を責める、落ち込み、幻覚、妄想、暴言、暴力、徘徊、意欲の低下などがあります。BPSDへの対応はとても難しいですが、まずは、何がその方にとってのBPSDの引き金になっているのか理解しようと寄り添うことです。薬剤の調整、環境調整、体調管理が必要なことは言うまでもありませんが、介護をする方たちのためにも社会資源の活用など勧められます。

アルツハイマー型認知症の新しい薬「レカネマブ」

そのような中、2023年12月にアルツハイマー型認知症の新しい点滴薬(レカネマブ)が登場しました。この薬は、特に初期段階に投与することが大切です。進行後では効果が期待できず、適応がありません。

アルツハイマー型認知症はアミロイドβタンパクが蓄積し、神経細胞に障害を与える病気です。レカネマブはそれらの蓄積を抑制することで、認知症の進行を遅らせる効果が期待されます。そのため、早期に受診し、適応かどうかを調べる必要があります。

検査方法

MMSE(Mini-Mental State Examination)は、一般的に使用される認知機能のスクリーニングテストです。このテストは、30点満点ですが、治療の適応になるのは22点以上の方です。その中で、脳の中にアミロイド蛋白が蓄積しているかどうか、すなわちアミロイド病理があるかをアミロイドPETや髄液検査を行うことで確認し、アミロイド病理のある方が適応の候補になります。

副作用

副作用についての理解も必要です。なかでも注目されるのが「アミロイド関連画像異常(ARIA)」(Amyloid-Related Imaging Abnormalities)です。これは、副作用によって生じた画像異常で、脳MRI検査を定期的に受けることが必要です。

※当院では、アルツハイマー病の新薬である「レカネマブ(製品名レケンビ®)」の治療につきまして、現在(2024年4月現在)は準備段階のため治療の開始時期は決定しておりません。
治療開始の日程や外来受診についての情報が決まり次第、ホームページにてご案内いたします。

さいごに

私たちは患者さんとともに効果とリスクのバランスを慎重に考慮する必要があると思っています。また、新しい薬が使えなくても、既存の薬が利用可能です。さらに、地域のサービスを活用したり、かかりつけ医と相談したりすることも有益です。まずは、物忘れなのか認知症の初期なのかを見極めて、少しでも進行しないように多面的なアプローチが必要です。ご自身の症状で迷われたことがあれば、かかりつけの先生や当院の脳神経内科にご相談ください。