ドクターコラム

手のふるえについて
~本態性振戦の診断と治療~

脳神経外科(機能外科部門) 部長 仲野 雅幸

掲載日:2020年6月17日(更新:2021年10月23日)

手のふるえで困っていませんか?

字を書こうとするとふるえてうまく書けない、箸が使いにくい、コップで水を飲もうとするとふるえてこぼしてしまう、携帯電話やATMの操作がうまくいかない、などで困ったことはありませんか?

寒けや緊張などで、一時的に手のふるえが出ることはありますが、常に出現している場合には病気の可能性があります。

今回は、手のふるえについてお話したいと思います。

手のふるえについて

震えの種類

手のふるえは、その出方によって大きく2つに分けることができます。
何もしていない時や安静時に出現する「静止時振戦」と、手の動作に伴って生じる「動作時振戦」です。

動作時振戦は、動かしている際に生じる「運動時振戦」、重力に抗してある一定の姿勢をとり続ける際に出現する「姿勢時振戦」、一定の力に抗する力を入れ続ける際(例えば腕相撲)に生じる「等尺性運動時振戦」に分けられます。

静止時振戦と動作時振戦

静止時振戦は、何もしていない時、筋肉が緩んだ時に出る振戦で、手を動かすとふるえ自体は止まるというふるえです。このタイプのふるえを生じる代表的な病気はパーキンソン病です。パーキンソン病は、脳内のドーパミンというホルモンが減少していくために、静止時振戦や動作緩慢、バランスの障害などを生じてしまう病気です。また、薬剤の副作用でも静止時振戦を生じることもあり、その際は薬剤性パーキンソニズムと診断されます。

動作時振戦の中でも姿勢時振戦は、特に神経系の病気がなくても日常生活の中で目立つこともあります。このタイプの振戦は生理的振戦と呼ばれます。生理的振戦は、例えば寒い時、緊張した時、ストレス時などに出現します。また、甲状腺機能亢進症では、この生理的振戦が増強されることがあります。前述のような明らかな誘因がないにもかかわらず生じる振戦が本態性振戦と呼ばれます。

運動時振戦は、単純な動作時に出現するのは本態性振戦であることが多いのですが、小脳に病気があると動作が目標に近づくに連れて振れが大きくなる「企図振戦」、特定の動作(書字の際、楽器を演奏する際など)に伴って出現する「動作(タスク)特異的な振戦」などもあります。

本態性振戦とは

本態性振戦の症状

本態性振戦は、手のふるえを生じる代表的な病気です。高齢になると有病率が高くなるので、かつては病院を受診しても、歳だからそのふるえは仕方がない、治らないなどと言われてそれでおしまい、ということもよくあったと聞きます。

本態性振戦は、人口の2.5~10%、65歳以上では5~14%との報告が有り、高齢になると多く見られますが、若い人でも発症することがあり、20代と60代に発症のピークがあると言われています。また、家族に本態性振戦の方がいる人は、発症しやすいとも言われています。また、本態性振戦の方は、パーキンソン病を発症しやすいとも言われています。原因は確定されていませんが、元々の起源は小脳にあるのではないかと推定されています。

症状の特徴は、動作時の振戦です。具体例を挙げてみますと、ふるえて文字が書けない、特に枠内に収めて書くのが困難、コップで飲む際にふるえる、コーヒーカップの取っ手を持つとふるえる、携帯電話やATMのボタンを正確に押せない、マイクを持つとふるえる、箸がふるえる、などの症状が代表的です。渦巻きを描こうとすると、ふるえて渦巻きが揺れてしまったり、直線を描こうとしたりすると波打ってしまいます。

本態性振戦の診断と治療

上述した本態性振戦は、軽微なものなら誰にでもあるものですが、ふるえが大きくなって日常生活や仕事に支障生じるレベルなら、病院を受診して、診察、検査と治療を受けられるのが良いと思います。

受診して相談する科としては、脳神経内科(神経内科)が最も適切です。本態性振戦の症状として間違いがないかの診察が行われ、必要に応じて脳のMRIや血液検査などが行われます。近くに脳神経内科がない場合には、脳神経外科を受診されると良いでしょう。

治療の最初の一歩は、薬物治療です。用いられる薬剤は、交感神経をブロックするβブロッカー、抗てんかん薬、いわゆる精神安定剤などが用いられます。βブロッカーは、副作用として血圧の低下、徐脈(脈拍が遅くなり、重度になると失神を生じる)があります。また、気管支喘息の方の場合は、喘息が誘発されることもありますので、内服することは避けなければいけません。抗てんかん薬は、本態性振戦そのものに対する保険適応はありませんが、外国では標準治療薬として用いられています。精神安定剤とともに、副作用として眠気が出やすいので、この点に注意が必要です。

本態性振戦の外科治療

難治性の本態性振戦に対する外科治療は、本邦ではすでに約50年前から行われていました。それは、脳の中心部にある視床というところに正確な手法で細い電極を刺入し、その部分に電気を流して焼灼凝固する方法です。①定位脳手術、高周波凝固術、視床破壊術などと呼ばれています。局所麻酔で頭部を小切開し、穿頭(頭蓋骨に小孔を開けます)します。その部分から、治療する部位に直径2mm弱の電極を正確に刺入して先端を到達させ、電気を流して熱凝固して破壊し、治療効果を得ます。卵の白身が熱で固まるようなイメージです。

次いで行われるようになった方法は、②脳深部刺激療法(Deep Brain Stimulation : DBS)です。①の凝固用電極の代わりに刺激用の電極を植え込み固定し、皮下に心臓ペースメーカーに似たような刺激装置を植え込み、リード線を接続して常に脳の深部を刺激するという方法です。左右同時に手術できるという利点があり、また、刺激の条件を変更することで症状の変化に対応していくことができます。このDBSは、本邦では2000年に保険適応となっています。

現在は主として、パーキンソン病の方がこの手術を受けています。以上の2つの方法は、メスで皮膚を切開、穿頭し、脳に電極を刺入するという手順を取りますので、出血のリスクがあり、脳の萎縮の強い高齢の方には行い難いという現実があります。3番目の方法として、③ガンマナイフを用いた定位的放射線治療が行われました。強い放射線を視床に当てるという方法です。この治療は、効果が出るのに半年以上かかり、正確に照射されたかどうかを直接的に確認する方法がありません。また、保険適応もなく、放射線誘発がんのリスクがありますので、若い方にはお勧めできません。

新しい治療法「MRガイド下集束超音波治療」(FUS)

  • FUS(集束超音波治療)
  • もう一つの外科治療として最近注目を集めているのが、④MRガイド下集束超音波治療(Focused Ultrasound Surgery : FUS )です。この治療法は、原理としては視床を正確に熱凝固するので、定位脳手術(視床破壊術)に似ているのですが、約1000本の超音波のビームを一点に集中させて温度を上昇させるので、皮膚切開、穿頭、脳に電極を刺入することなどが一切不要で、患者さんにとってストレスが少ない手術です。ただし、欠点としては、超音波が通りやすくするために全剃髪が必要で、頭蓋骨の条件が良くないと十分な治療効果が得られない、ということが挙げられます。

この方法は、2019年6月から保険適応となり、2020年4月からは脳神経外科の手術(集束超音波を用いた機能的定位脳手術)として扱われるようになりました。FUSの保険適応は、現時点では、本態性振戦に対してのみ認められています。頭を切らなくても済む治療法として、希望される方が増えつつあり、今後の発展が期待される治療法です。
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