2019年10月号 ドクターコラム

亜鉛欠乏症状について

消化器内科 科長
予防医学センター 消化器内科部門 部長 袴田 拓

亜鉛欠乏症状とは

  • 尿路結石症とは
  • 亜鉛は人体にとって重要な微量ミネラルであり、骨、筋肉、肝臓、腎臓など全身に分布し生体内の300以上の酵素反応に関与していますので、亜鉛不足による症状は実に多彩です。

    近年①偏食の増加・ファーストフードや加工食品の普及で亜鉛摂取不足②慢性肝疾患の亜鉛吸収障害③アルコール過飲や多剤内服による亜鉛過剰消費、等が増えておりその臨床像が注目されています。

亜鉛欠乏症の診療指針に示された臨床症状

日本臨床栄養学会が2018年に作成した亜鉛欠乏症の診療指針に示された臨床症状には「皮膚炎、口内炎、脱毛症、褥瘡(難治性)、食欲低下、発育障害(小児で体重増加不良、低身長)、性腺機能不全、易感染性、味覚障害、貧血、不妊症」が挙げられています。細胞分裂の際にDNAが複製されますがこの時ジンクフィンガーと呼ばれる亜鉛を含んだタンパク質が働きます。したがって亜鉛が不足すると基本的に細胞分裂が盛んな組織、すなわち骨、皮膚、粘膜、味蕾、性腺組織などにトラブルが生じます。皮膚炎や傷が治るためにはコラーゲンというタンパク増生が必要ですが、亜鉛が不足するとコラーゲン合成が進まず傷の治りが遅れます。蚊に刺された跡がいつまでも残ったり、化膿しやすい時は亜鉛不足を疑う必要があります。また男性不妊、流産増加の原因としても亜鉛不足は要チェックです。貧血は赤血球の増殖不良や膜の脆弱化によって溶血しやすくなることが原因ですが、鉄欠乏に合併していることも多く、鉄剤投与で治りにくい貧血は亜鉛不足も疑う必要があります。また鉄と亜鉛の吸収経路は共通であるため鉄剤長期服用が亜鉛吸収を妨げてしまうこともあります。鉄欠乏性貧血を治したのにどこかすっきりしない人は他の亜鉛不足症状に転じた可能性を考えた方がよいでしょう。易感染性はウイルスを退治するTリンパ球の機能低下が原因ですので、やけに風邪をひきやすい場合は一度亜鉛不足をチェックするとよいでしょう。食欲低下に加えて慢性下痢もよく見られる症状です。腸管粘膜の状態維持に亜鉛は働いていますので潰瘍性大腸炎や過敏性腸症候群といった

診療指針に示された以外の亜鉛不足症状

診療指針に示された以外の亜鉛不足症状としては血糖値悪化があります。血糖値を下げるインスリンホルモンの合成・分泌にも亜鉛は関与します。また脳の働きにも重要な役割を果たしており、記憶を司る脳の海馬には亜鉛が多く存在するので亜鉛不足は記憶低下につながります。また「やる気ホルモン」と呼ばれる脳内ドーパミンの合成が減るためうつの原因にもなります。さらに体のあちこちに慢性疼痛を訴え色々検査しても原因のはっきりしない方の気付かれにくい要因として亜鉛不足による神経障害性疼痛があります。

診療指針に示された検査所見として「血清アルカリフォスファターゼ(ALP)低値」が挙げられています。人間ドック等でも採血項目に入っていますが、施設間でばらつきはあるものの基準値は概ね100~320U/l近辺でしょう。この範囲を下回らなくても、諸症状がありかつ200U/l未満程度ならば積極的に血清亜鉛値を測定した方がよい印象があります。

亜鉛不足に陥らないために

  • 亜鉛不足に陥らないために
  • 亜鉛欠乏症の診断が付いたらその補充ですが、食材では牡蠣、牛肉、豚肉のレバー、卵等が推奨されます。高齢者は対照的なさっぱりした食材を食べたがる傾向がありますので、亜鉛不足に陥らぬよう十分な注意が必要です。そのほか亜鉛サプリメントや酢酸亜鉛、ポラプレジンクといった処方薬が使われているのが現状です。

亜鉛欠乏症の一般的認知度はまだ低く、その臨床像も様々であるがゆえにチェックが行き届かないケースも多いと考えられます。また長期的な薬物療法が行われるいくつかの慢性疾患がたった数か月の亜鉛補充ですっかり改善するケースもありますので、医療費節減の観点からも大いに見直されるべき疾患と言えます。

【参考資料】
日本臨床栄養学会ホームページ「亜鉛欠乏症の診療指針2018」
小野靜一『マンガでわかる亜鉛の基礎と臨床』金芳堂、2018年
溝口徹『最強の栄養療法「オーソモレキュラー」入門』光文社新書、2018年
川島由紀子・監修『カラー図解 栄養学の基本がわかる事典<第2版>』西東社、2019年