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2019年2月号-2 ドクターコラム

鉄欠乏症状について

消化器内科 科長 /  予防医学センター 消化器内科部門 部長 袴田 拓

鉄欠乏症状について

鉄欠乏症状について

人間は鉄が無くては生きていけません。なぜなら鉄は体内の酸素の運搬や貯蓄に強く関わる栄養素だからです。ですから欧米では小麦粉などの日常食材に鉄分を添加したり、鉄不足の女性に妊娠を控えるよう勧める国もあるのに対し、日本はこれといった鉄不足対策は行われていません。特に55歳以下の有経女性の大半は鉄不足となっているのが現状です。

鉄不足でまず思い浮かぶ症状は貧血(男性:ヘモグロビン[Hb]値<13g/dl、女性:Hb値<12g/dl)でしょう。血液検査で貧血と判定されるほどの鉄不足はすでに重症レベルと考えなくてはなりません。「フェリチン」という体内の鉄貯蔵量を反映するタンパク質を測定してみると、ほぼ底を付いているケースがほとんどです。

鉄不足が引き起こす様々な症状

鉄不足は貧血のほかにも次のような様々な症状を惹き起こします。

① 骨・皮膚・粘膜の障害(あざ、コラーゲン低下による骨・肌異常、爪・毛髪・舌異常)
② 知能・情動への影響(不眠・集中力低下・学習障害・うつ・パニック障害)
③ ホルモンへの影響(甲状腺ホルモンの成熟障害、不妊症)
④ 白血球・免疫への影響(抵抗力の減少)
⑤ 消化系に及ぼす影響(嚥下障害、食欲不振、下痢、便秘、氷を好んで食べる)
⑥ いわゆる不定愁訴:頭痛、イライラ、耳鳴り、肩こり、寝坊癖、疲労、むずむず脚など

これらの症状が鉄不足からくることに気付いてない方が大勢いますので要注意です。

健康診断などの血液検査で貧血ではないから鉄不足は無いだろうと考えてしまいがちですが、貧血でなくとも潜在的鉄欠乏の方は相当数います。血液検査項目の赤血球数、Hb値などに続いて「MCV(平均赤血球容積)」という項目があれば注意してみてください。
<異常なし>とされていてもMCVが95(fl)を下回り、かつ上記のような症状でお悩みの方は鉄不足を疑って診療を受けてみてください。

例えば貧血治療経験のある45歳の有経女性が特にわけもなく気が滅入ってきたとします。更年期の始まりかな、などと軽く済まさず鉄欠乏再発を疑ってください。なぜ鉄が不足するとメンタルが不安定になるかというと、やる気を高めるノルアドレナリン・ドーパミン、興奮と抑制のバランスを調整するセロトニンといった脳内神経伝達物質が、タンパク質を原料として造られる際に鉄が必要だからです。

女性が出産後、時に情緒不安定に陥るのも鉄不足の悪化が一因と考えられています。そもそも妊婦さんが鉄不足だと胎児も鉄不足となり早産や低出生体重児の原因となるため、妊婦さんの鉄不足はあらかじめ十分に改善しておく必要があります。

もし鉄欠乏になったら・・・

もし鉄欠乏になったら・・・

ではもし鉄欠乏が明らかとなった場合どう対応するべきでしょうか?

まず、鉄分豊富な食材を意識的に摂ります。牛・豚・まぐろなどの赤身肉やレバーに含まれる動物由来「ヘム鉄」、小松菜、海苔、パセリといった植物系食材に含まれる「非ヘム鉄」、吸収がよいのは前者ですが、両方一緒に摂るのが効果的です。病院からは鉄剤の飲み薬が処方されますが、むかつきや便秘といった副作用で苦手な方もいます。そういう場合は上記の食材に加えて「ヘム鉄」サプリメントの服用も有効です。
鉄が充足されれば吸収しなくなるだけですので鉄過剰に陥ることはありません。出来れば血液検査でフェリチン値(貯蔵鉄)が60~100ng/ml以上になるまで補充したいところです。



【参考文献】
Journal of Nutrition (2005)135(2):267-72
European Journal of Clinical Nutrition (2007) 61:532-535
山本佳奈『貧血大国・日本 放置されてきた国民病の原因と対策』光文社新書、2016年
藤川徳美『うつ・パニックは「鉄」不足が原因だった』光文社新書、2017年
溝口徹『最強の栄養療法「オーソモレキュラー」入門』光文社新書、2018年