広報紙 vol.87しんゆりニュースレター

2025/9/1掲載

消化器外科特集

消化器外科特集|広報紙

消化器がんのより良い治療と、患者さんの早期社会復帰を目指して

  • 新百合ヶ丘総合病院
    消化器外科 科長
    かない ひでき
    金井 秀樹 医師
  • 【プロフィール】
    1996年東京慈恵会医科大学卒業。2001年東京慈恵会医科大学附属病院肝胆膵外科。09年厚木市立病院上席医長。14年町田市民病院外科肝胆膵部長。18年より現職。
    日本外科学会専門医/臨床研修指導医/医学博士
  • 当院の消化器外科は東京慈恵会医科大学から派遣されたスタッフ4人と専攻医2人で担っています。良性悪性を問わず、全ての消化管疾患、肝胆膵疾患、鼠径ヘルニアや痔核など幅広い疾患に対応しています。

    当院は地域がん診療連携拠点病院に指定されており、胃がん、大腸がん、肝臓がん、膵臓がん、胆道がんなどの消化器がんに対する手術だけでなく、各種消化器がんに対する抗がん剤治療や、心と身体の苦痛を和らげる緩和ケアも行なっています。また救急告示医療機関でもあり、救急センターと連携して24時間体制で緊急手術にも対応しています。

    毎週、スタッフ間での術前カンファレンスや消化器内科との合同カンファレンスを行い、手術を受けられる患者さん個々の疾患や全身状態に合わせて手術術式を決定しています。

  • 近年、消化器外科領域における腹腔鏡下手術が広く普及してきています。腹腔鏡下手術は従来の手術と比較して傷が小さく、痛みも少ないため、患者さんの早い社会復帰が期待できます。

    当院でも腹腔鏡下手術を積極的に取り入れ、その手術件数は年々増加傾向にあります。また、2023年からは直腸がんに対するロボット支援下手術を導入しています。しかしながら、安全な手術、なおかつがんの根治を目指した手術を心がけていることから、開腹手術を選択する場合もあります。

    国立研究開発法人国立がん研究センターが発表した2020年の統計によると、日本人の2人に1人が一生のうちにがんと診断され、その中でも消化器がんは多くを占めています。

    がんの治療における早期発見と早期治療は病気の根治にとても重要です。近隣医療施設の先生方のご指導を仰ぎながら、引き続き地域住民の皆様の健康維持に貢献できるよう、スタッフ一同一丸となって精進してまいります。今後ともよろしくお願い申し上げます。

【目次】

膵臓がん

副院長/外科部長/地域連携推進センター長 田辺 義明

膵臓がんの罹患数は、国立がん研究センターがん情報サービスの統計情報によると、男性女性ともに年間2万例を越え年々増加傾向にあり、罹患数と死亡数との差は少なく、また5年相対生存率は10%に満たず予後不良で部位別では最低となっています。しかし最近は早期発見診断と手術、化学療法、放射線治療を組み合わせた集学的治療の進歩により予後の改善が見られてきています。

  • 消化器官のイラスト
  • 症状としては腹痛、腹部膨満感、腰痛、黄疸、体重減少などがありますが、症状出現時には進行していることが多いということも予後の悪い原因の一つになっています。また糖尿病の悪化や血糖値が急に高くなった時にも膵臓がんを念頭に置く必要があります。リスク因子として膵がんの家族歴、膵疾患(慢性膵炎、膵管内乳頭粘液性腫瘍、膵嚢胞、膵管拡張)、糖尿病、喫煙、大量飲酒、肥満などが挙げられています。

診断方法として膵酵素、腫瘍マーカー(CEA、CA19-9、DUPAN-2、SPan-1)を含めた血液検査、画像検査として腹部超音波検査、造影CT、造影MRI検査、超音波内視鏡検査(EUS)、FDG-PETがあり、EUS下で組織診断を行います。

治療として膵癌診療ガイドラインの治療アルゴリズムにあるようにcStage0は手術治療となりますが、cStageI,IIでは切除可能な場合でも化学療法を先行し、その後手術を施行します。cStageII,IIIの切除可能境界では化学療法後再評価し手術適応を決めていきます。手術は腫瘍が膵頭部に位置していれば膵頭十二指腸切除術、膵体尾部にあれば膵体尾部切除術を行います。消化器外科手術の中でも時間を要し、身体に負担を伴う手術となりますので周術期のリハビリテーションや栄養管理も重要となります。

胆嚢結石の外科治療

消化器外科 科長 金井 秀樹

  • 胆嚢結石の手術
    胆嚢結石の手術
  • 腹痛の原因となる疾患の一つに、胆石症があります。胆石症は胆汁の流路に結石が作られる病気で、これにより黄疸や感染、炎症を引き起こすことが少なくありません。日本人の15%〜20%が胆石を有するといわれており、年々増加傾向にあります。その中でも、胆嚢の中に結石ができる胆嚢結石が約80%を占めています。胆嚢結石の治療は内服薬による溶解療法と手術による胆嚢摘出が主な治療です。無症状の胆嚢結石は治療の必要がありませんが、胆石発作と呼ばれる腹痛を起こす場合や、胆嚢炎を併発する場合には治療が必要となります。

溶解療法の適応は、胆嚢機能が保たれており、なおかつ結石の大きさが1cm以下で石灰化がない場合に限られます。治療期間の長さと奏功率の低さ、再発率の高さから多くの場合は溶解療法が選ばれず、手術治療が勧められます。手術は腹腔鏡を用いて胆嚢を摘出する腹腔鏡下胆嚢摘出術が一般的となっています。この手術方法が適応にならない場合もありますが、傷が小さいため手術後の痛みが少なく、入院期間が短いことが特徴であり、退院後はすぐに日常生活に戻ることも可能です。当院では重篤な基礎疾患がなければ、手術前日から3泊の入院期間を基本としています。腹痛を自覚されて胆嚢結石症と診断されたことがある方は受診をご検討ください。

大腸がん

消化器外科 部長 小林 徹也

  • 典型的進行大腸がん
    典型的進行大腸がん
  • 大腸がんは、盲腸から直腸までの大腸に発生するがんで、近年増加傾向にあります。初期段階では自覚症状がほとんどないため、早期発見には検診が非常に重要です。主な症状としては、血便、便秘と下痢の繰り返し、便が細くなる、お腹の張り、腹痛、貧血、体重減少などがあります。

しかし、これらの症状は痔や過敏性腸症候群など、他のがん以外の病気でも見られるため、症状だけで自己判断せず、専門医の診察を受けることが大切です。大腸がんのリスクを高める要因としては、食生活(高脂肪・低食物繊維)、肥満、喫煙、過度の飲酒、家族歴、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)などが挙げられます。

早期発見のためには、自治体や職場の健康診断で行われる便潜血検査が有効です。便潜血検査で陽性となった場合は、大腸内視鏡検査による精密検査が必要です。内視鏡検査では、がんの有無だけでなく、将来がんになる可能性のあるポリープ(腺腫)も切除できるため、予防にもつながります。

治療法は、がんの進行度合いによって異なりますが、手術、化学療法、放射線治療などがあります。近年では、体に負担の少ない腹腔鏡手術や、分子標的薬・免疫チェックポイント阻害剤などの新しい治療法も登場しています。大腸がんは、早期に発見し適切な治療を行えば、治癒率の高いがんです。日頃からバランスの取れた食事や適度な運動を心がけ、定期的な検診を受けることで、予防と早期発見に努めましょう。

当科では手術の約9割を腹腔鏡下で行っており、最近では直腸がんに対してより体に負担の少ないロボット手術を導入いたしました。また、転移再発症例に対しては最新の抗がん剤治療から緩和医療まで行っております。上記症状がある方、身近に大腸がんになった人がいる方、心配なことがありましたらお気軽にご相談ください。

ロボット支援下手術

消化器外科 医長 菅野 宏

  • ロボット支援下手術
    ロボット支援下手術
  • 2000年以降、ロボット支援下手術は欧米を中心に急速に普及しており、日本においても2012年に前立腺悪性腫瘍に対する手術が保険適用となったことを契機に導入が進みました。2018年には食道・胃・直腸を含む消化器外科領域にも保険が適用され、その後も肝胆膵外科、婦人科、呼吸器外科、耳鼻科などへと適用が拡大し、全国的に普及が加速しています。

ロボット支援下手術の利点としては、高解像度の3D画像と拡大視による優れた視認性、手ぶれを防ぐ安定した操作性、モーションスケーリングによる繊細な動作、多関節の器具による高い自由度と操作性が挙げられます。大腸がん領域においては、2018年に直腸がんに対するロボット手術が保険収載され、さらに2022年には結腸にも適用が拡大され、現在では全ての大腸がんが対象となっています。

特に直腸がん手術では、骨盤腔内に位置する直腸を神経を損傷せずに剝離・授動することが求められ、ロボットの高い操作性がその点で有用とされます。狭骨盤や下部直腸などの困難症例でも有効であり、排尿障害や性機能障害の軽減効果も報告されています。当科では2023年より直腸がんに対してロボット支援下手術を導入しており、今後は結腸がんにも適応を広げていく予定です。

消化器外科医師紹介

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①専門分野/得意な領域 ②卒業大学 ③専門医・指導医・資格等
  1. 田辺 義明 (副院長、外科部長、地域連携推進センター長)
    ①外科・消化器外科/肝胆膵、外科栄養代謝、緩和治療 ②東京慈恵会医科大学 ③日本外科学会専門医・指導医/日本消化器外科学会専門医・指導医/日本消化器外科学会消化器がん外科治療認定医/日本消化器病学会専門医・指導医/日本消化器内視鏡学会専門医・指導医/日本栄養治療学会認定医/日本医師会認定産業医/日本移植学会移植認定医/日本胆道学会認定指導医/日本がん治療認定医機構がん治療認定医/日本緩和医療学会緩和医療認定医/医学博士
  2. 小林 徹也 (消化器外科部長)
    ①外科・消化器外科 ②東京慈恵会医科大学 ③日本外科学会専門医/日本消化器外科学会専門医・指導医/日本消化器病学会専門医・指導医/日本消化器内視鏡学会専門医/日本大腸肛門病学会専門医・指導医/日本消化器外科学会消化器がん外科治療認定医/医学博士
  3. 金井 秀樹 (消化器外科科長)
    ①外科・消化器外科/肝胆膵 ②東京慈恵会医科大学 ③日本外科学会専門医/臨床研修指導医/医学博士
  4. 菅野 宏 (消化器外科医長)
    ①外科・消化器外科 ②東京慈恵会医科大学 ③日本外科学会専門医/日本消化器外科学会専門医/日本大腸肛門病学会専門医/日本消化器病学会専門医/日本消化器内視鏡学会専門医/日本内視鏡外科学会技術認定医(大腸)/日本消化器外科学会消化器がん外科治療認定医/医学博士
  5. 川元 良祐 (消化器外科医員)
    ①消化器外科 ②東京慈恵会医科大学 ③なし
  6. 大越 匠 (消化器外科医員)
    ①消化器外科 ②東京慈恵会医科大学 ③なし