広報紙 vol.79しんゆりニュースレター
2025/1/1掲載
スポーツ整形外科特集|広報紙
スポーツを愛する患者さんに多様な治療選択肢を
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新百合ヶ丘総合病院
スポーツ整形外科部長/整形外科部長 -
【プロフィール】
2005年滋賀医科大学医学部卒業。20年横浜市立大学附属病院整形外科スポーツクリニック・上肢クリニックチーフ。24年より現職。
日本整形外科学会専門医/日本整形外科学会認定スポーツ医/医学博士
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スポーツに伴って発症する外傷・障害を中心に扱うのがスポーツ整形外科です。トップアスリートから学生スポーツ選手、スポーツ愛好家まで、スポーツをされる患者さんのための診療科です。私は現在、プロサッカーJリーグ「FC町田ゼルビア」や、プロフットサルFリーグ「ペスカドーラ町田」のチーフドクターを務めております。
スポーツ整形外科診療では、主にスポーツ傷害を扱います。スポーツ傷害には一回の外力で組織が損傷されることによるスポーツ「外傷」と、繰り返される運動負荷により生じるスポーツ「障害」があり、分けて考える必要があります。
スポーツ外傷は衝突、転倒など急激に大きな外力がかかることにより組織が損傷されることであり、いわゆる「怪我(ケガ)」です。相手との衝突や接触などにより生じる接触性の外傷と、ジャンプの着地や切り返しなどにバランスを崩したりすることにより生じる非接触性の外傷があります。外傷に至った外力の加わり方やその外傷の背景について理解することが診断や治療に大切で脱臼や筋挫傷(肉離れ)などです。一方でスポーツ障害は一回の外力で生じるスポーツ外傷とは違い、繰り返される運動負荷によるoveruseや過負荷(overload)によって生じる組織の障害です。
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主なスポーツ障害としては疲労骨折や腱症・腱炎、骨端症などです。
スポーツ整形外科診療においては、診察、各種画像検査および関節鏡を用いた低侵襲手術、リハビリテーションによる運動療法を行います。動態をリアルタイムにとらえられる超音波検査装置(運動器エコー)を積極的に活用し、診療および治療を行っております。また近年スポーツ診療を中心に有効性が報告されているPRP(多血小板血漿)治療や、集束型体外衝撃波治療などの自費診療に関しても開始し、スポーツを愛する患者さんに多様な治療選択肢を提供しています。
スポーツをされる患者さんでお困りのことがあれば、ぜひ当科にご相談いただければと思います。よろしくお願いいたします。
【主なスポーツ外傷】
骨折・捻挫・靭帯損傷・脱臼・筋挫傷・肉離れなど【主なスポーツ障害】
疲労骨折・腱症・腱炎・骨端症など
鏡視下手術(関節鏡を用いた関節内への低侵襲手術)
■前十字靭帯損傷
膝の前十字靭帯とは、後十字靭帯とともに膝の中央(顆間部)でそれぞれの靭帯がお互いに十字になるよう交差しており、膝の安定性をもたらしています。
主にスポーツにおける膝の怪我でよく見られるのが、この前十字靭帯損傷や内側側副靭帯損傷、半月板損傷です。受傷は急激な減速動作や方向転換、ジャンプ着地などや、タックルなどにより膝を外反(膝が内側に入る)して捻ることで発生します。受傷時には断裂音(Pop音)や脱臼感(膝がずれる、ぬけるような感覚)を感じるという患者さんが多いです。最初は膝が腫れて痛みも強く歩くことも難しいこともありますが、徐々に腫脹や疼痛も改善していき、そのままでも日常生活は可能です。しかし膝くずれ(膝がガクッとずれる)を繰り返し、徐々に関節の軟骨や半月板などの正常組織が損傷する恐れがありますので、膝の不安定感や膝くずれを自覚する人やスポーツに復帰したい人には手術が必要です。
前十字靭帯損傷の治療
手術は関節鏡による自家腱(半腱様筋腱・薄筋腱・大腿四頭筋腱・膝蓋腱など)を用いた靭帯再建術を行います。再建靭帯を採取して、脛骨(すねの骨)および大腿骨(太ももの骨)の靭帯付着部に骨孔(骨のトンネル)をあけ、そこに再建靭帯を通して大腿骨、脛骨で固定して靭帯を再建します。再建術後に再びスポーツ復帰ができるまで8~9カ月程度の長期の治療が必要です。
■膝半月板損傷
膝半月板は膝関節の脛骨と大腿骨の間にある軟骨様の組織で、内側と外側にあります。半月板は関節の荷重分散(関節にかかる体重を分散させるクッションとしての機能)と関節を安定化させる役割などがあります。
外傷などで半月板が損傷すると、膝の曲げ伸ばしなどで引っかかり感や痛みを感じるようになります。そして歩行時や運動時に痛みを伴ったり、膝に水がたまったりします。
半月板損傷は、若い人では急激な方向転換など膝に体重がかかった状態で、膝を捻ったりすることで起こります。また半月板は加齢とともに変性して損傷しやすくなることから、中年以降でははっきりした外傷もなく、日常生活動作(階段昇降や小走りなど)の軽微なことで損傷することがあります。そのような変性半月板の損傷は基本的には保存治療ですが、症状が続く場合には膝の形態や年齢を考慮し、骨切り術を併用した手術をお勧めしています。
膝半月板損傷の治療
症状や断裂が軽微の場合は保存治療を行います。膝の機能低下を防ぐための筋力トレーニングや、可動域訓練などのリハビリテーションが中心になります。保存治療を行っても症状が改善しない場合は手術治療を行います。手術治療は大きく分けて2種類あり、断裂した部分を切り取ってしまう切除術と、断裂した部分を糸で縫う縫合術があります。
半月板自体には血行が少ないため、一度損傷すると治りにくいといわれています。切除により半月板の機能が失われてしまうと、将来的に関節の軟骨が損傷し変形性関節症に進行する可能性があり、近年はできるだけ半月板を温存する縫合術が推奨されています。断裂の形態や縫合方法により異なりますが、おおむね再びスポーツ復帰ができるまでには縫合術では5~6カ月程度かかります。
当科で主に扱っている対象疾患(主に膝・肩・足関節)
- 膝靭帯損傷 [膝前十字靱帯(ACL)損傷、膝後十字靭帯(PCL)損傷、膝内側側副靭帯(MCL)損傷]
- 半月板損傷
- 反復性膝蓋骨脱臼
- 膝蓋腱症(ジャンパー膝)
- オスグッド病(Osgood-Schlatter病)
- 肉離れ
- アキレス腱断裂
- 足関節捻挫
- 足関節インピンジメント症候群
- 第5中足骨疲労骨折(Jones骨折)など疲労骨折
- 反復性肩関節脱臼
- 肩腱板損傷
- 腱板断裂性肩関節症
- 凍結肩(五十肩) など
自費診療について
●集束型体外衝撃波治療(ESWT)
体外衝撃波治療とは患部に高エネルギーの衝撃波を照射し、それによる組織の修復および再生を促進します。
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体外衝撃波には大きく分けて“集束型”と“拡散型”があります。当院で導入している集束型は高いエネルギーを一点に集中させる治療法で、拡散型と比較して集束型体外衝撃波は全国的にもまだ導入している医療機関は少ないです。現時点で日本国内では難治性足底腱膜炎にのみ保険適応となっており、その他の疾患は保険が適応されず自費診療となります。
◆保険診療 … 難治性足底腱膜炎(6カ月以上の保存療法の治療を行っても痛みが改善しない方)
◆保険外(自費)診療 … ・慢性的な腱症 ・アキレス腱症 ・膝蓋腱症(ジャンパー膝) ・骨疾患 ・上腕骨外上顆炎(テニス肘) ・石灰沈着性腱炎 ・疲労骨折 ・骨折遷延治癒や偽関節
●PRP(多血小板血漿)治療
【PRP(多血小板血漿)とは】
転んで膝から出血しても血はかさぶたになって自然に止まり、いずれ傷も治ります。この自然治癒は、血小板という血液成分が傷のある部分に集まり、成長因子を放出することで起こります。成長因子は組織の修復を促し、痛みの原因である炎症を抑える働きをします。PRPは患者さんの血液を加工して抽出した血小板や、その他の有効成分の複合的な働きにより自己治癒力を高め、痛みや炎症の改善を後押しする治療法です。
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【当院の再生医療(PRP療法)の内容】
PRPは使用する医療機器や調整方法により、含有される成分の構成が変化します。当院では、3つの治療方法を提供しています。患者さんの状態に応じて、ご提案させていただきます。
- ACP-PRP療法
少量(15ml)の血液から短時間で純度の高いPRPを精製します。
外来での日帰り治療が可能です。 - カスタムメイドPRP療法(Angel)
患者さんの状態毎に最適と考えられるPRPの濃度や成分の割合を調整します。外来での日帰り治療が可能です。 - PFC-FD™療法
採取した患者さん自身の血液を一旦セルソース株式会社で加工し、血小板由来成長因子濃縮液を凍結乾燥保存し数週間後に投与します。
【PRPの主な適応疾患】
・靭帯損傷・半月板損傷・肉離れ・変形性関節症(特に膝)・アキレス腱症・膝蓋腱症(ジャンパー膝)・上腕骨外上顆炎(テニス肘)など