広報紙 vol.75しんゆりニュースレター
2024/8/1掲載
膠原病リウマチ内科特集|広報紙
患者さんそれぞれの病状や生活環境などを考慮した治療を
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新百合ヶ丘総合病院
膠原病リウマチ内科 部長 -
【プロフィール】
2001年大阪大学大学院医学研究科博士課程修了。05年神戸大学医学部医学科卒業。07年青梅市立総合病院腎臓内科。09年横浜第一病院内科。11年立川相互病院腎臓内科。13年国立病院機構相模原病院リウマチ科レジデント。14年同病院リウマチ科医員。16年同病院リウマチ科医長。22年同病院腎臓内科部長。24年4月より現職。
医学博士(免疫担当細胞の分化に関する基礎研究)/日本内科学会総合内科専門医/日本リウマチ学会リウマチ専門医/日本アレルギー学会アレルギー専門医/日本腎臓学会腎臓専門医/日本透析医学会透析専門医
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新百合ヶ丘総合病院の膠原病リウマチ内科は、2024年4月に開設されました。当院の内科系の診療科としては、これまで標榜されていなかった最後の診療科なのではないかと思います。
現在は、常勤医師1名と小規模な体制ですが、関節リウマチを中心に、膠原病や血管炎の診療にあたっています。リウマチ膠原病は、身体のほとんど全ての組織・臓器に合併症をきたすことがあります。そのため、リウマチ膠原病内科医には、総合診療的な診療能力、呼吸器内科や腎臓内科をはじめとする他内科疾患への理解が必要なのはもちろん、他科専門医との円滑な連携も非常に重要になってきます。その点、当院はすべての診療科に専門医が在籍している総合病院であり、大抵の合併症は、当院内での連携で完結できるものと思っております。
関節リウマチを始めとする膠原病診療は、多くの場合、リウマチ専門医の診断、治療を受けることになりますが、一部の都心を除き、リウマチ専門医は足りていない現状があります。そのため、この地域の膠原病リウマチ科は、どこも患者数が増える一方で、予約が取りづらい、外来の待ち時間が長いなど、診療に支障が出ています。
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このような状況から、この地域でリウマチ膠原病の診療にあたることで、少しでも地域医療に貢献していきたいと考えております。また、円滑な診療を達成するためには、病状の安定した患者さんには、安心して“かかりつけ医”で診療を継続していただけるよう、地域の医療施設の先生方と密接な連携を築き上げることが不可欠であり、その点にも尽力していきたいと考えています。
実際の診療では、初診は20~30分をかけております。リウマチ膠原病診療は検査のみで診断することはできず、これまでの詳細な経過の聴取、全身の診察(手の診察から始まり、頭皮、口腔内、アキレス腱といったところまで)が非常に重要になるためです。また、治療目標を患者さんごと個別に相談して決定します。そして、その目標を共有し、一緒に寛解を目指していきます。リウマチ膠原病は、同じ疾患でも、患者さんごとに症状や重症度が全く異なることもしばしばで、画一的な診療計画では対応しきれません。患者さんそれぞれの病状や生活環境などを考慮して、治療法を吟味していく必要があります。
膠原病とは何か?
膠原病の「膠原」とは、結合組織のコラーゲンなどの細胞外マトリックスといわれるものを意味します。結合組織とは、神経でも筋肉でも上皮(皮膚や粘膜)でもない組織をまとめた呼称です。膠原病について、まだよく解明されていない頃に付けられた名称で、英語ではコラーゲン病(collagen disease)といわれていました。現在、欧米ではそのような名称では呼ばれていません。海外ではリウマチ病(Rheumatology) やリウマチ性疾患(Rheumatic disease)といった言い方が一般的です。ただ、日本でリウマチというと、あまりにイメージが関節リウマチという一つの疾患に限定されすぎてしまうので、日本では膠原病内科とか、膠原病リウマチ内科と呼ばれているように思います。
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いずれにせよ、膠原病の本質は、免疫系の制御が破綻して、本来、体に侵入してきた異物を、攻撃、除去するはずの免疫系が、自分自身の身体を異物ととらえてしまって攻撃する全身性自己免疫疾患になります。攻撃する組織や臓器によって病名や症状が変わってくるという認識で大きな間違いはないと思います。
著しい治療の進歩を遂げる膠原病診療
かつて膠原病は、ステロイドや解熱鎮痛薬を使って、現状を維持する、苦痛を緩和する、というのが、その治療内容でした。しかし、分子標的薬といわれる組み換え蛋白質が次々に開発され、その治療は一変しました。現在では、膠原病の治療目標は、現状維持や苦痛緩和ではなく、寛解やドラッグフリー(薬を使わないで寛解状態を維持すること)となっています。TNFαやIL-6と呼ばれる炎症を惹起(じゃっき)する物質(炎症性サイトカインといいます)を特異的に阻害する組み換え蛋白質、リンパ球の抗体産生を補助するシグナルを特異的に阻害する組み換え蛋白質はその代表です(これらの組み換え蛋白質とは、生物学的製剤、あるいはバイオ製剤ともいわれ、蛋白質の設計図である遺伝子を大腸菌などのホスト(宿主)に移入することで、ホストに特定の蛋白質を産生させ、それを精製した蛋白質のことです)。
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また、JAK阻害薬は、さらに膠原病治療を進歩させています。JAKとは炎症性サイトカインなどの信号(シグナル)を細胞表面から核内にまで伝達する分子群(シグナル伝達分子)の一つです。通常、組み換え蛋白質(バイオ製剤)は、内服すると胃酸で分解され、効果がありません。ですので、注射による投与が原則になります。また、蛋白質をホスト生物に産生させ、精製するので手間、時間、お金がかかります。
しかし、JAK阻害薬は、JAKの立体構造を解析し、その機能を阻害するようにデザインされた、人工的に合成した薬剤であり、内服でも効果を発揮します。JAK阻害薬は膠原病だけでなく、アトピー性皮膚炎、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病)、乾癬、コロナウイルスによる重症肺炎にも使われています。今後も、さらに多くの疾患で使用されることになると思われます。
なぜ関節リウマチは早期発見、早期治療が大切なのか?
関節リウマチは、研究が進むにつれ、これまでの常識が悉く覆されてしまいました。まず、以前は、関節リウマチは、発症して時間が経つほど、関節が破壊、変形していくものと考えられていましたが、現在では、発症後のある一定の期間に、関節破壊は最も進行すると考えられています。発症時にX線検査で異常を認めることはありません。しかし、適切な治療が行われなければ、発症2年以内に患者さんの70~90%において、X線検査で骨びらん(関節の骨の表面の破壊)が認められます。
さらに早期の骨びらんを同定するMRI検査では、発症後4カ月で、すでに45%に骨びらんが確認されたという報告もあります。そして、発症早期は一番薬が良く効く期間ともいわれており、この時期の治療開始は、今後の関節破壊や変形という不可逆的な変化を大きく抑制します。この発症早期の治療によって高率に寛解が期待できる期間を、Windows of opportunityといいます。日本語には訳しにくいですが、あえて訳すと「治療開始の好機」というような訳になるかと思います。窓が開いているうちに入れ、機能障害が可逆的なうちに治療を開始せよ、という意味です。このことは、豊富な治療経験のあるリウマチ科医なら、誰もが日頃の診療で実感しているのではないかと思います。
関節リウマチは早期診断、早期治療が大事!というのには、そういった背景があるのです。
関節リウマチの治療 ~目指すは3つの寛解~
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新百合ヶ丘総合病院の膠原病リウマチ内科では、メトトレキサート、各種生物学的製剤(バイオ製剤)、JAK阻害薬を中心に以下のような診療を実践しています(注1)。患者さんごとに、個別に治療目標を相談の上、共有し、一緒に寛解を目指していきます。
目標とする寛解は
- 関節の炎症(腫れや痛み)を抑える・・・臨床的寛解
- 関節破壊や変形を抑える・・・構造的寛解
- 機能的障害なく普通の生活が送れる・・・機能的寛解
という3つの寛解です。もちろん、既に関節破壊、関節変形が進んでいる場合は、機能的寛解の達成は困難です。しかし、臨床的寛解を目指すことは可能です。患者さんそれぞれに応じて、個別に目標を設定するというのは、こういった事情も考慮してのものです。この目的のためには、関節リウマチの治療は、患者さんの病状や日頃の生活状況に応じて、柔軟に検討されるべきであり、画一的に進めていくことはできません。
当院の膠原病リウマチ内科では、関節リウマチのみではなく、様々な膠原病、血管炎の診療を行っておりますが、治療の基本方針はいずれの疾患でもおおよそ一緒です。すなわち、面談の上で治療目標を設定・共有し、患者さんと医療スタッフで治療目標の達成を目指す、というものです。
(注1)妊娠している方、そして、これから妊娠を計画している方には、メトトレキサートやJAK阻害薬の使用はできないため、これらの薬剤を使わない治療で寛解を目指します。また、悪性腫瘍や感染症のある患者さんに対しては、これらの薬剤を中心に治療をするより、個別に検討して適切な治療を提案していく必要があります。
膠原病リウマチ内科の外来診察について
※曜日・時間などは、ホームページの外来診察担当表にてご確認ください。
- 毎週火曜日 午前 8:30~12:00
- 毎週水曜日 午前 8:30~12:00/ 午後2:30~ 5:00(再診のみ)
- 毎週木曜日 午後 2:30~ 5:00
【 初 診 】
- 初診の方は予め受診予約をお取りください。
外来診療予約専用TEL(通話料無料): 0800-800-6456(午前9:00~午後5:00※日・祝日除く) - 他院に通院中の方は紹介状をお持ちください。
(※紹介状がないと予約できないということではございません) - 診察日は外来診療担当表をご覧ください。
【 再 診 】
原則、すべての方に診察前に血液検査をしていただいております。病状によっては、さらに尿検査も診察前に行います。また特別な理由がない限りは、採血後1時間程度で検査結果が出てから診察をしております。このため、受診予約時間の1時間前には採血を済ませていただくことで診察が円滑になります。ご理解のほどよろしくお願いいたします。